第二話「相互理解はシャンプーの香り」(脚本)
〇兵器の倉庫
・・・・・・・・・
地を焼き、空を焦がし、数え切れぬ命を硝煙の向こうへと消した第三次世界大戦。
それを生き延びた人々に待っていたのは、平和な世界などではなかった。
「遺物」。その、グリモワールより生まれし超兵器群が悪意を持った者の手に渡り、新たな脅威になるまで時間はかからなかった。
大戦によりほぼ無政府状態となった各国に、それに対抗する手段はなかった。
故に、国連が動く事になった。
復興政策として対遺物用の部隊───────戦後処理用の軍事組織を、新たに結成したのである。
名を、NEST(ネスト)。
Negligence,Efface,Saturation,Task force.
意味は、過失処理のための軍事機動部隊。
過失、つまり第三次世界大戦により世界中にばら撒かれた超兵器群──「遺物」を処理するための組織。それがNESTだ。
国連軍の独立部隊であり、その主力となるのは戦後に新造された機神・・・
・・・生まれが戦後なだけで、実質彼らも遺物の力を振るっているのである。
なおTask forceには臨時部隊の意味もあり、早いところこの組織が不要になるようにという願いが込められている。
だが世界の混乱を見るに、彼等の役割がなくなる・・・
世界が元に戻る日は、今後永遠に来ないように思える。
国連の怠慢、世界の腐敗、そして遺物処理という”戦争の残飯のあとしまつ”を押し付けられた事からか・・・
彼等は自らの部隊に自嘲を込めて、屍肉喰らい(スカベンジャー)の名前をつけた。
第七部隊「ハイエナ」。
第一部隊「バルチャー」。
第六部隊「コックローチ」。
そして・・・
・・・・・・第三部隊「レイヴン」。
〇黒
第二話
「相互理解はシャンプーの香り」
〇城の会議室
────ボーゲン公国・王宮
ボーゲン公王「遠路はるばるよく来てくれた・・・私が公王のデカルト・ボーゲン13世です」
ボーゲン公王「こんな小国のためにわざわざ来てくれて、感謝しかありませぬ・・・」
ボーゲン公王「・・・うっ、げほっ!!げほっ!!」
リサ・パトリケエヴナ「公王様!?」
ボーゲン公王「な、なあに、心配いりませぬ、何も・・・」
王は荘厳でありつつ、どこかやせ細っているようにも見えた。
リサは風のうわさで、ボーゲン公王が流行りの病にやられて先が長くないと言っていたのを思い出す。
リサ・パトリケエヴナ(小国・・・実際は金の鉱山を有する経済大国なんだがな)
リサ・パトリケエヴナ(謙遜か? そうでなければ遠回しの皮肉か・・・)
リサ・パトリケエヴナ(まあ人口はそんなにだし、小国と言えば小国か・・・)
リサ・パトリケエヴナ(・・・そして、目下問題はそんな事ではなく・・・)
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・・・・・・・ふんっ」
外方を向く二人の少年少女。まるで古き良き少女漫画である。
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・・・・・・・ふん」
しかし、現実の雇用主と自軍のパイロットであれば話は別である。
リサ・パトリケエヴナ(形式上の雇い主との関係はあれはまずいだろう・・・・・・)
リサ・パトリケエヴナ(早急にどうにかせねば・・・)
ボーゲン公王「部屋は用意しておいたので・・・今夜はそこでゆっくり過ごしてくだされ・・・」
ボーゲン公王「・・・君、彼等を案内してやってくれぬか」
近衛兵「はっ!!」
ディーンショ大臣「・・・・・・・・・・・・」
〇貴族の部屋
カゲロウ・パトリケエヴナ「こんないい部屋が来客用だなんて、王様も気前がいいですね」
カゲロウ・パトリケエヴナ「僕達以外もこういう部屋なんでしょ?それも全員!!」
リサ・パトリケエヴナ「そりゃ、ボーゲン公国の代表そのものだからな。わざわざ粗末な部屋に泊めて恥を晒すような事はせんだろう」
リサ・パトリケエヴナ「・・・それで、なんだがな、カゲロウ」
カゲロウ・パトリケエヴナ「何です?」
リサ・パトリケエヴナ「・・・・・・・・・」
リサ・パトリケエヴナ「・・・・・あの姫様の事、どう思う?」
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・・・・」
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・・・・初対面でビンタするようなヤツの事、よく思うと思いますか?」
リサ・パトリケエヴナ「まあ・・・・そうだろうな」
カゲロウ・パトリケエヴナ「安心してください、文句は言いませんよ。仕事ですから」
リサ・パトリケエヴナ「それは安心した」
リサ・パトリケエヴナ「・・・・・・だがな、カゲロウ」
リサ・パトリケエヴナ「人間というのは、自分の知らぬ価値観というものに酷く嫌悪感を示すものなのだ」
リサ・パトリケエヴナ「納得や筋以前に、それは人間として仕方のない事なんだ」
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・・住む世界が違う、ってヤツですね」
カゲロウのその表情は、その事を意外とすんなり受け入れてくれているように見えた。
おそらく、日本人の血というか、経験によるものだろう。
リサ・パトリケエヴナ「まあ・・・私もいずれ国家を率いる身が、あんな調子ではどうかと思うが」
リサ・パトリケエヴナ「それは彼女の問題であって、私達には関係ない話だ」
カゲロウ・パトリケエヴナ「”あっしにゃ関係ない事でございます”」
カゲロウ・パトリケエヴナ「大佐の人生を楽しくするライフハックでしたよね」
リサ・パトリケエヴナ「ああ、私の好きな言葉の一つだ」
リサ・パトリケエヴナ「・・・・・・・・・所で」
リサ・パトリケエヴナ「・・・いつまで”大佐”呼びのつもりだ?」
カゲロウ・パトリケエヴナ「あ・・・・・・♡」
リサ・パトリケエヴナ「うふふふ・・・♡ ”ご褒美”が欲しくて欲しくてたまらない、そんな表情♡♡」
リサ・パトリケエヴナ「ましてや戦闘の後だ♡本能が子孫を残そうと一番滾っている・・・♡」
カゲロウ・パトリケエヴナ「あっ・・・さ、さわるのだめ・・・♡」
リサ・パトリケエヴナ「何がダメなものか♡ ママに触られてうれしいくせに♡♡」
カゲロウ・パトリケエヴナ「ひあっ♡♡あっ・・・♡♡」
リサ・パトリケエヴナ「さあ、どうしてほしいんだ? ママ、ボクちゃんの口から聞きたいなぁ・・・♡♡」
カゲロウ・パトリケエヴナ「あっ♡あっ・・・♡♡」
カゲロウ・パトリケエヴナ「ま・・・ママっ、おっぱい・・・」
カゲロウ・パトリケエヴナ「おっぱいほちいよぉっ♡♡♡」
リサ・パトリケエヴナ「〜〜〜〜ッッッッッ♡♡♡♡♡♡」
〇洋館のバルコニー
ホーク将軍「・・・・・・・・・」
ホーク将軍「・・・・姫様」
ホーク将軍は無表情であるが、アルミリアにはわかる。
例えば幼い頃、悪戯をした自身を諌める時も、こんな感じだったと。
ホーク将軍「私が何を言いたいかはお解りですね?」
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・はい」
ホーク将軍「まずは、NESTのパイロットが言った通りです」
ホーク将軍「無益な殺生を阻止したいという心意気は評価できますが、機神同士の戦いというのは50mの鉄の巨人のぶつかり合い」
ホーク将軍「ましてや、一方は姫様の命を狙うテロリスト。もしレックスカノンがまだ動けたなら、どうなっていたか・・・」
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・軽率でした、申し訳ありません」
ホーク将軍「そしてもう一つは・・・」
ホーク将軍「・・・・・・その、NESTのパイロットにした事です」
ホーク将軍「彼等は姫様を守るためにわざわざやってきたのです、それをビンタするなど・・・」
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・」
ホーク将軍「・・・・・・まあ、ああいうやり方が許せないのはわかります」
アルミリア・ボーゲン「当たり前でしょう!!」
アルミリア・ボーゲン「お母様の事を、将軍は忘れていないでしょう・・・!?」
ホーク将軍「当たり前です、一時たりとも忘れてはいません」
ホーク将軍「今でも夢に見ますよ、お妃様がテロリストの放ったナパームの向こうに消える様も・・・・・」
ホーク将軍「・・・・・・何もできない自分も」
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・」
ホーク将軍「・・・申し訳ありません姫様、嫌な事を思い出させてしまいましたね」
ホーク将軍「ですが、許せない事を承知で聞いてほしいのです」
ホーク将軍「・・・認めなくともいい、ただ、あのパイロットを許してやって欲しい」
ホーク将軍「姫様があのような人種を嫌う事は知っています。しかし、あのようなやり方でしか生きて行けぬ者もいるのです」
ホーク将軍「・・・・かつての私がそうであったように」
〇荒廃した街
ホーク将軍「難民の中で生まれ、傭兵として育ち、自身のルーツはおろか本名すら解らない・・・」
ホーク将軍「そんな私に、ホーク・ランチャーという名前と、人としての人生をくれたのは他ならぬお妃様・・・」
ホーク将軍「・・・戦場しか知らぬ獣を受け入れ、人間に戻してくれたのは、あなたのお母様です」
〇洋館のバルコニー
ホーク将軍「・・・もっとも、名前の由来が公王様の好きなゲームの悪役というのは、ちょっと引っかかりますがね」
アルミリア・ボーゲン「ふふ・・・」
ホーク将軍「・・・・・・姫様も知っての通り、先の大戦によって世界は荒れ果ててしまいました」
ホーク将軍「私のように戦場しか知らず、戦わなければ生きていけない。それが当たり前の人間も、多く生まれた事でしょう」
ホーク将軍「それは、このボーゲン公国も例外ではありません」
ホーク将軍「難しいことは百も承知ですが、そんな者達にも差別せず接する・・・私は姫様に、そうなって欲しい」
ホーク将軍「それが・・・お妃様の願いでもあります」
アルミリア・ボーゲン「お母様の・・・・・・」
ボーゲン軍兵「将軍、反政府勢力に動きがありました、ご確認を」
ホーク将軍「わかった、すぐ行く」
ホーク将軍「姫様、失礼します」
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「お母様の・・・願い・・・・・・」
アルミリアは、少年兵が故の野蛮さを持つカゲロウを、母親を理由にして無自覚に見下していた事に気づいた。
そして、自らも抱いていた差別心を自覚し、ひどく恥ずかしく感じた。
それは、彼女の持つ未熟さを脱ぎ捨てようとする、精神の成長痛と言えたであろう。
〇黒
こうして、それぞれの夜が更けようとしていた頃・・・・・・
〇要塞の廊下
NEST兵士「見回りしろって言われたけど、なんか怖いな・・・暗いし」
NEST兵士「それに・・・ここどこだよ」
ボーゲン軍兵「止まれ!!そこで何をしている!?」
NEST兵士「ひぃっ!?!?」
ボーゲン軍兵「・・・ってなんだ、NESTの人かぁ」
NEST兵士「っと、そういう貴方はボーゲン軍の・・・夜分遅くお疲れ様です」
ボーゲン軍兵「こちらこそ、驚かせてしまって申し訳ありません」
NEST兵士「すると・・・こちらの部屋が姫様の?」
ボーゲン軍兵「はい、アルミリア様の寝室。そして私はその見張り番でございます」
NEST兵士「すると結構遠くまで来ちゃったんだな俺・・・」
NEST兵士「すいません、このエリアに戻りたいんですがどうしたら・・・」
ボーゲン軍兵「はい、どれどれ・・・」
NEST兵士「?」
ボーゲン軍兵「どうかしました?」
NEST兵士「今窓の外に何か・・・」
ボーゲン軍兵「ありえませんよ!ここ地上五階ですよ?」
ボーゲン軍兵「幽霊とかじゃないかぎりはね」
NEST兵士「やっやめてくださいよぉ!!俺オバケとかダメなんですよ!?」
ボーゲン軍兵「ははは!!で、帰り道だけどね・・・」
〇宮殿の部屋
・・・その夜、アルミリアは妙な寝苦しさを感じていた。
胸さわぎのようなモノが、彼女を睡眠から遠ざけ、気がつけば彼女は机に向かっていた。
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・」
〇空港のロビー
アルミリア・ボーゲン「あなた・・・最低です!!」
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・は?」
〇宮殿の部屋
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「あのパイロット・・・・・カゲロウって人怒ってた・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「でも・・・それ以上に悔しがってた・・・」
アルミリア・ボーゲン「何も知らない・・・ ずっと楽な環境で生きてきた相手に・・・」
アルミリア・ボーゲン「・・・・私に、自分の全てを否定されて」
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「私・・・なんて酷い事を・・・」
???「・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「?」
アルミリア・ボーゲン(窓の外に何かいたような・・・)
アルミリア・ボーゲン「!!」
気のせいかと思った影は現実のものとなり、彼女の自室のガラスを破って現れる。
???「・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「だ、誰ですの!?あなた・・・!!」
襲撃者は、成人男性程度の背丈である。
だが今のアルミリアからは、立ち上がった野生の熊のように大きく、恐ろしく見えていた。
・・・それが、自分を殺しに来たと、察しがついたから。
???「・・・・・・」
アルミリア・ボーゲン「や、やめて・・・!!」
アルミリア・ボーゲン「こないで・・・あっちに行って・・・!!」
???「・・・!!」
アルミリア・ボーゲン(い、嫌よ・・・まだ死にたくない・・・!!)
アルミリア・ボーゲン(だって私・・・・・・まだお母様の願いを 叶えてないもの!!)
アルミリア・ボーゲン(それに・・・それに・・・!!)
〇空港のロビー
〇宮殿の部屋
アルミリア・ボーゲン「まだちゃんと・・・”ごめんなさい”が言えてないもの・・・!!」
アルミリア・ボーゲン「こんな所で・・・まだ死ねない!!」
???「・・・へえ、以外と逞しい所あるじゃないですか」
???「!?!?」
アルミリア・ボーゲン「!!」
カゲロウ・パトリケエヴナ「夜分遅くに窓から失礼します、姫様」
カゲロウ・パトリケエヴナ「なんせ、この通り賊が紛れていましたので」
アルミリア・ボーゲン「カゲロウさん!?どうして・・・」
カゲロウ・パトリケエヴナ「ママ・・・じゃなかった、大佐の命で見張っていたんですよ」
カゲロウ・パトリケエヴナ「今日は僕達レイヴンが来たから王宮が浮足立ってる」
カゲロウ・パトリケエヴナ「そして軍の司令官であるホーク将軍は、反政府勢力に動きがあるって聞いて城を離れてる」
カゲロウ・パトリケエヴナ「もし自分が敵将なら、相手側に潜入させてる伏兵を動かすなら今しかない・・・ってね」
〇荒野
ホーク将軍「何ッ!?姫様が襲われた!?」
ボーゲン軍兵「はい!!先程レイヴンの皆様方から連絡がありました!!」
ホーク将軍「どうりで何もいない、俺達はまんまとハメられたってワケか・・・!!」
ホーク将軍「急いで王宮に戻るぞ!!」
ボーゲン軍兵「はっ!!」
〇宮殿の部屋
カゲロウ・パトリケエヴナ「将軍にも連絡は行ってるハズ、直に戻ってくる」
カゲロウ・パトリケエヴナ「でも・・・・・・」
カゲロウ・パトリケエヴナ「大佐曰く、将軍が来るより早く片付けたら・・・」
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・カッコいいんじゃないかってね!!」
???「・・・!!」
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・ガキだからってナメんじゃないぞ」
カゲロウ・パトリケエヴナ「それなりに現場はこなしてるんだ!!」
???「!!!!」
カゲロウ・パトリケエヴナ「へえ・・・やるじゃん、寝込みを襲う卑怯者のわりには」
カゲロウ・パトリケエヴナ「でもこれ・・・一対一の決闘じゃないんだよね!!」
NEST兵士「カゲロウ!!」
ボーゲン軍兵「援護します!!」
???「・・・・・・!!」
アルミリア・ボーゲン「飛び降りた!?」
カゲロウ・パトリケエヴナ「いや・・・多分違う!!」
〇空
???「・・・!!」
謎の光・・・
大気中に、地中に、ホコリに紛れて王宮にばら撒かれた”金属”。それが、襲撃者に向けて集まり、形を成す────
〇ファンタジーの学園
〇宮殿の部屋
アルミリア・ボーゲン「く、蜘蛛の怪獣・・・!?」
カゲロウ・パトリケエヴナ「いえ、あれも機神です」
カゲロウ・パトリケエヴナ「・・・ちょっと特殊ですけどね」
〇ファンタジーの学園
ARK-13N・ストリンガー
コアとなるサイボーグ兵士を中心に、無数のナノマシンが集まる事でその巨体を構成する機神。
大戦中では敵地にサイボーグ兵士を潜入させての夜襲等、奇襲・暗殺等に用いられた。
ストリンガー「・・・・・・!!」
〇宮殿の部屋
アルミリア・ボーゲン「・・・・・・来る!!」
カゲロウ・パトリケエヴナ「!!」
カゲロウ・パトリケエヴナ(逃げてる時間はない・・・なら!!)
カゲロウ・パトリケエヴナ「ベーオウルフ、来い!!!!」
〇黒
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