ウチに帰ると貧乏神がいます!

橋本伸々

ウチの貧乏神(脚本)

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橋本伸々

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〇住宅街の道
齋藤京介「お疲れ様でした。 お疲れ様でしたー」
齋藤京介「もう0時回ってるじゃねえか」
  バイト先の戸締りをして、先輩達に挨拶すると、京介はスマホで時間を確認した。
齋藤京介「はあ。帰ろ」
  タッタッタッ

〇綺麗な一戸建て
  ガチャ
  出来るだけ音を立てないように扉を開けて、カギをかける。
齋藤京介「ただいま」
  小さな声でも、言わないと気が済まないのは京介の性格だ。
貧乏神「ガサゴソ」
齋藤京介「ん?」
  煌々と明かりがついたリビングから物音が聞こえる
齋藤京介「まったく。 こんな夜中だっていうのにやっぱまだ起きてんのか、アイツ」
齋藤京介「毎日毎日よくやるぜ」
  ガチャ
貧乏神「おーっ おかえり〜」
  ソファーに寝転がったまま声をかけるのは、うちの貧乏神だ

〇明るいリビング
  貧乏神
  人はその言葉でどんな姿を思い浮かべるだろう
  きっとそれは白い髪のお爺さんで
  手には木でできた杖なんか持っていて
  ボロボロの布みたいな服をきている
  そんな姿じゃないだろうか?
  でもうちのは違う。
  その髪は白髪じゃなくド派手な茶髪で
  手には杖じゃなく、クリームたっぷりのスイーツを持っていて
  服はオレンジのフリフリパジャマを着た
  正真正銘女子高生の、
  うちの、妹だ。

〇明るいリビング
齋藤京介「ただいま」
齋藤明日菜「今日も遅かったねぇ〜」
齋藤京介「仕事なんだから仕方ないだろ」
齋藤明日菜「仕事って言っても高校生のアルバイトじゃん」
齋藤京介「お前なあ。俺がなんでこんなに働いてるか・・・」
齋藤明日菜「あーっ!」
齋藤明日菜「お土産もーらい!」
  そういうと明日菜は京介の手から紙袋をひったくる。
齋藤明日菜「今日はパン屋の日だったんだ〜」
齋藤明日菜「何があるかな〜」
齋藤明日菜「おっ。チョコクロあるじゃん! やった〜」
齋藤明日菜「ね? 京介は何食べる?」
  バイト先から貰ってきた売れ残りのパンをガサゴソと弄りながら能天気に尋ねる。
齋藤京介「んー。昼飯は抹茶デニッシュとホットドックにしようかな」
齋藤明日菜「えー。 抹茶デニッシュは私が食べる!」
齋藤京介「あーじゃあチョコチップのメロンパンで」
齋藤明日菜「ダメ! それも私が食べる!」
齋藤京介「いや、貰ってきたの俺なんだけど・・・」
齋藤明日菜「京介はコレとコレ!」
  そう言ってホットドックと塩バターパンを手渡すと、さっさと自分の部屋に帰っていく。
齋藤京介「全くもう」
齋藤京介「ワガママな奴め。 ま、いつものことか」
齋藤京介「とは言っても、母さんが居なくなってからさらに加速してる気がするな」
齋藤京介「はぁ」
  京介と明日菜の母親は、今海外で働いている。
  小さい頃に父親を亡くしてから、バリバリと働きながら女手一つで二人を育ててくれていた。
  そして京介が高校生になるタイミング、つまり今年の春に──
  その仕事ぶりが評価されて海外赴任を命じられたのだ。
  最初は2人を残して行くなんてと断ろうとしていたが──
  会社の必死の説得と京介の後押しもあって決めた形だ。
  だから今は、二階建てのだだっ広い一軒家に現在京介と明日菜の2人で暮らしている。
  母親から送られてくる生活費を、自分のバイト代と合わせてやりくりするのは京介の仕事だ。
齋藤京介「ん?」
  不意に違和感を感じて、リビングのタンスを見た。
齋藤京介「この引き出し、ちゃんと閉めていたような・・・」
  嫌な想像が頭を巡る。
  そこには仕送りの残金を入れておいたはず
  スーッ
齋藤京介「うわ! ない!」
齋藤京介「アイツ! またやりやがった!」
  今月の生活費として残しておいた現金が、綺麗さっぱり姿を消している。
齋藤京介「おい! 明日菜!」
  すぐさま部屋へと駆けて大きな声で叫ぶ。

〇女の子の一人部屋
齋藤明日菜「んー? なにー?」
  明日菜はホイップクリームをたっぷりと頬につけながら不思議そうに見つめる。
齋藤京介「なにー? じゃねえよ! 引き出しのお金全部無くなってるじゃねえか!」
齋藤京介「今月の生活費全部だぞ? あと何日残ってると思ってるんだよ!」
齋藤明日菜「んー、そんなこと言われてもさあー」
  頬についたクリームを指で拭き取って、ペロリと舐めながら返事をする。
齋藤明日菜「大体さ、なんで私がやったって決めつけるのよ?」
齋藤明日菜「ドロボーが入ってきて持って行っちゃったかもしれないよ?」
齋藤京介「う、それは・・・」
  確かに、いくら前科があるとは言え、すぐさま疑うのは良くない。
  京介にしたって明日菜はそんなことをしないと信じたかった。
齋藤京介「ん?」
  床に落とした視線があるものを捉える。
齋藤京介「おい、コレはなんだ?」
  床に広がっているのは、紙袋に入った何着もの服。
  それに高そうなスイーツの空箱や、見たことのないぬいぐるみも沢山ある。
齋藤明日菜「えーっとコレは〜」
齋藤京介「やっぱりお前じゃねえか!」
齋藤京介「一瞬でも信じた俺がバカだったよ」
齋藤明日菜「もー、何でそんなこと言うのさ〜」
齋藤明日菜「まあ私なんだけど」
齋藤明日菜「だってさ〜新作出てたんだよ? 夏物の洋服とスイーツとさ」
齋藤明日菜「そんなの買うしかないじゃん?」
齋藤京介「はぁ」
齋藤京介「お、お前なあ・・・」
  京介は大きくため息をつく。
  そうだ。
  コイツがいる限り、この妹がいる限り
  母親がどれだけ節約して仕送りをしてくれようとも
  京介がどれだけバイトに精を出して働き詰めようとも
  この家庭にお金の余裕は生まれない。
  そう、これは
  貧乏神と化した金遣いの荒い妹と
  それに抗うべく対抗する兄の物語。

次のエピソード:食べる貧乏神 1

コメント

  • 貧乏神の妹って、逃げられなくて困りますよね。
    というか、単に金遣いの荒い人だと思いますが!笑
    兄妹だからいいものの、夫婦だと女性に有責の離婚ものですよね。

  • これが可愛い妹じゃなくて、夫とか妻だったら最悪バイバイって離れることもできますが、妹、しかも未成年だとその選択はなさそうなので辛いですね〜

  • 彼にとっては目に入れても痛くないほど可愛い妹なんでしょうけど、だからこそ彼女の将来を見据えてビシッときつくしかった方がいいと思います。同じ環境に育っても人って違う成長をとげるんだなあと遠い目です!

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