食べる貧乏神 1(脚本)
〇教室
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
齋藤明日菜「やった〜! お昼だ〜!」
渡邉梨香「明日菜、今日も元気だね」
齋藤明日菜「えー、そんなことないよ〜」
齋藤明日菜「お腹ペッコペコで元気出ないの〜」
渡邉梨香「ふふっ。そっかそっか」
渡邉梨香「今日のお昼は何にしたの?」
齋藤明日菜「今日は京介のバイト先の残りものー」
齋藤明日菜「全く、成長期の子供に残りものだけなんてひどいよねー」
渡邉梨香「ふふっ」
渡邉梨香「相変わらず仲良いよね」
齋藤明日菜「そんなことないよ!」
齋藤明日菜「ほんと困っちゃうんだから!」
〇教室
齋藤京介「はぁ」
教室中に響き渡る明日菜の声を聞きながら、京介は大きくため息をついた。
齋藤京介「ほんと騒がしいやつだよ」
明日菜の席は廊下側から程遠いが、
授業の質問を終えて教室に帰って来たばかりの京介の耳に届くほどの大きな声だ。
京介にとっては騒がしくてワガママなだけの妹だが、京介と違って友達も多い。
今だって明日菜の席の周りには何人もの女子がワラワラと集まっていた。
2人が兄弟なのに同じ学年、同じ教室にいる理由は
再婚した両親の連れ子、なんて複雑な理由ではなく
高瀬麻里奈「ねえねえ! 京介君と明日菜ちゃんって双子なの?」
齋藤明日菜「そーだよー?」
齋藤明日菜「言わなかったっけ?」
高瀬麻里奈「聞いてないよー!」
高瀬麻里奈「でもあんまり似てないよね〜」
高瀬麻里奈「京介君って真面目、って感じだし!」
渡邉梨香「アハハ。確かに」
齋藤明日菜「アレだよ、私たち双子って言ってもアレだからねー」
齋藤明日菜「ニランセイウインナー!!」
高瀬麻里奈「ニ、ニランセイ、ウインナー?」
齋藤明日菜「アレ?違ったっけ?」
齋藤明日菜「ニランセイハンバーグ?」
渡邉梨香「二卵性双生児、でしょ」
齋藤明日菜「そう!それ!」
齋藤明日菜「二卵性ソーセージ!」
高瀬麻里奈「えー。絶対そういう覚え方してたじゃん・・・」
ワハハハッ
話を聞いていた、というか聞かされていた教室中が笑いに包まれる。
〇教室
そう。
残念ながらこのおバカな妹は──
今、教室中に知れ渡ったように──
京介と生まれた日も親も同じ二卵性双生児だ。
ただお腹から先にでてきたと言う理由だけで京介が兄と呼ばれている。
小さい頃は──
齋藤明日菜(子供)「なんで京介の方がお兄ちゃんなのよ!」
なんて文句を言っている時もあったが──
今となっては妹であることを全面的に活用しているようだ。
齋藤京介(ワガママ言いたい放題の困った妹だ)
齋藤明日菜「あ!」
突然何か思いついたように大きな声を出す。
渡邉梨香「どうしたの?」
齋藤明日菜「そういえばさ、駅前に新しいケーキ屋さんできたんだった!」
渡邉梨香「急に!?」
齋藤明日菜「そう! 思い出したの!」
渡邉梨香「そっかそっか」
齋藤明日菜「そこめっちゃ美味しそうなの!」
齋藤明日菜「今日の放課後行かない!?」
渡邉梨香「ええ? 今日?」
渡邉梨香「私はいいけど、京介に怒られない?」
齋藤明日菜「いいのいいの。京介なんてさ」
齋藤明日菜「あ、そうだ! 京介も一緒に連れていこっか!」
齋藤京介「はぁ?」
離れた所で聞いていても、思わず大きな声が漏れてしまった
齋藤明日菜「お、聞こえてるなら話が早いじゃん」
齋藤明日菜「今日の放課後どうせ空いてるでしょ?」
齋藤京介「空いてねーよ」
齋藤京介「俺は勉強で忙しいんだ」
齋藤明日菜「あー、そんなこと言って良いのかな〜」
齋藤明日菜「着いて来なかったら沢山無駄遣いしちゃいそうだなぁ〜」
齋藤京介「お、お前なあ!」
齋藤明日菜「ふふふ、どーだ来るしかないでしょ?」
齋藤京介「・・・」
齋藤京介「ほんとにお前ってヤツは」
齋藤明日菜「えへへ」
齋藤明日菜「そんな褒められると照れるなあ」
齋藤京介「誰がほめてるもんか」
齋藤明日菜「じゃ、放課後待ってて、ね!」
わざとらしく左目でウインクを決める
齋藤京介「はぁ」
そのウインクに反応するのもバカらしくなった京介は──
黙って自分の席へと戻っていった。
明日菜ちゃんみたいな双子の妹、明るく楽しい生活になりそうって思いそうになりますが、やはり金銭感覚の破綻というのは、、、京介くんに平穏な生活が訪れてほしいですね