エピソード3(脚本)
〇野球場の座席
パチパチパチパチ
「・・・・・・」
藤原一茶「アカンわ、おもろい。 なんや、自分ら漫才コンビかなんかなん?」
紅音(くおん)たちの後ろに座っていた藤原一茶(ふじわらいっさ)が、拍手を送る。
若山柿之介「そんなに面白かっただか。 いやー、照れるべ」
真田紅音「僕はただエリートピアについて説明してあげてただけだ」
藤原一茶「あー、せやな」
藤原一茶「パンフかホームページ見ればすぐわかる、ありがたい説明やったわ」
真田紅音「!」
真田紅音「・・・あの、失礼でしょう。 急につっかかってきて」
藤原一茶「せやけど、あかんわ」
藤原一茶「さっきの説明やったら、なんでこんなぎょうさんの人がこの会社入りたい思うんか、説明になってへん」
真田紅音「だからそれは、エリートピア社で自分のやりたいことを——」
藤原一茶「金やろ」
真田紅音「・・・・・・」
若山柿之介「?」
藤原一茶「エリートピア社に入社するんは、例年十人」
藤原一茶「何十万のエントリーの中からたった十人や、どえらい倍率や・・・」
藤原一茶「けど、その特典も半端やない」
藤原一茶「給料は初年度から3000万、しかも祝い金ゆう形で内定者には一億円が支給される」
藤原一茶「ほんま、狂った会社やで」
若山柿之介「一億円、ってどんなもんべか」
若山柿之介「おらずっと山ん中で暮らしでたもんで、あんま金使ったことねえんだ」
藤原一茶「金使ったことないって・・・ほんま最高やな、自分!」
真田紅音「僕は金が目的じゃない」
藤原一茶「へえ」
真田紅音「別に君を否定するわけじゃないけど、金のためなんてさもしいと思うな、僕は」
藤原一茶「ふん、なんやええとこのボンボンかい」
真田紅音「・・・・・・」
〇シックなリビング
真田博史「まあ、どんなに努力してもできないやつはいるからな」
真田雅美「でも、まさか自分たちの息子に限って、あんな不出来なのができるなんて」
真田博史「僕らの才能も、上の二人が全部もっていってしまったな」
〇野球場の座席
真田紅音「・・・っ」
藤原一茶「環境めぐまれとる人間は違うわ」
真田紅音「家は関係ないだろ!」
紅音の声に、周囲の学生たちが振り向く。
真田紅音「・・・っ」
〇野球場
戸川仁「あー、そこの元気な君」
戸川仁「大丈夫、もうすぐお待ちかねのアレだよ。 少し大人しくして待っててくれたまえ」
〇野球場の座席
真田紅音「・・・・・・」
藤原一茶「・・・あー」
藤原一茶「すまんかったわ、俺も緊張しとってん。 勘弁してな」
若山柿之介「仲良ぐするのがいいべ、そのために梅干し食うべ」
柿之介、梅干しを一茶に差し出す。
藤原一茶「・・・・・・」
若山柿之介「食うべ?」
藤原一茶「・・・・・・」
仕方なく自分の口に放り込む柿之介。
若山柿之介「っん〜〜〜!」
若山柿之介「こんなにうめぇのにな」
藤原一茶「・・・なにせ、そろそろやからな」
真田紅音「・・・・・・」
藤原一茶「ここで落ちたないもんな」
真田紅音「ええ、お互い運が良ければ生き残りましょう」
藤原一茶「はっ」
藤原一茶「運が良ければて」
藤原一茶「せやな、運が良かったら生き残れるもんな」
真田紅音「え、今のどういう——」
パンパカパーン
「!」
〇野球場
戸川仁「さあさあ、みんなそろそろ痺れを切らしてる頃だと思ったよ」
戸川仁「ここにいる君たちにとって、こんな会社説明会は釈迦に説法みたいなもんだ」
戸川仁「うんうん、オッケー では、もうやっちゃおう!」
戸川仁「はい、ドン!」
〇野球場の座席
「!?」
藤原一茶「・・・ククッ」