VS女神VS踊り子VS歌姫(5)(脚本)
〇魔界
INU「おのれ、人々を襲う悪い鬼どもめ!」
SARU「オラたちがこらしめてやっぞ!」
KIJI「けんけーん」
INU「ぐわーっ!」
SARU「オラ、やられたぞーっ!」
KIJI「けんけーん」
KING・ONI「ククク・・・たかがケダモノごときにこの鬼の頭領が敗れると思うてか」
KING・ONI「さあ、目を潰し舌を抜き爪を剥がし腸を引きずり出し耳の穴に灼熱の火箸を突き立て全身を串刺しにしてくれようぞ!」
INU「やい!ここに乗り込んで来たのが我らだけだと思ったか!」
SARU「オラたちの本気はこんなもんじゃねっぞ!」
KIJI「けんけーん」
INU「さあ、我らの主のお出ましだい!」
SARU「絶対見てくれよな!」
KIJI「けんけーん」
KING・ONI「き、貴様!何者だーーーーーーーッ!」
ヒナ「・・・」
「台詞」
や、やあやあわれこそわー
お、おんなーももたろうー、なりー
えっと、その、おにのーとうりょうのー
くびー!
じゃなくて、あれだ・・・
「御璽(みしるし)」
みしるしをーちょうだいーいたしてー
「御璽を頂戴致すべく見参した」
ちょうだいーいたすべくー
燕「はい、一回止めま~す」
〇川沿いの原っぱ
燕「とりあえず君へのダメ出しは後程」
燕「鬼!」
義孝「ええーっ?俺だと?」
義孝「他の連中に比べて圧倒的に完璧な演技だと思うが」
燕「今の台詞、もう一度言ってみてくれ」
義孝「さあ、目を潰し舌を抜き爪を剥がし腸を引きずり出し耳の穴に灼熱の火箸を突き立て」
燕「怖いんだよ!」
燕「恫喝がすぎる。僕の書いた台本を、勝手に変えないでくれ」
義孝「やれやれ、書生君は本物の脅しが分かってないと見える。あの程度のぬるい台詞では誰一人として秘密など吐かぬわ」
燕「桃太郎の何の秘密を吐かせたいんだ!君は憲兵じゃなく鬼なんだぞ!」
燕「老若男女が楽しめる、明るいお芝居をしたいんじゃないのか?」
義孝「はいはい」
燕「次、犬と猿」
「な、なんかマズかった?」
「アンタに言われた通り操り人形を作ったんだかね」
燕「僕の考えてた犬と猿の姿とは随分かけ離れたものが出来上がっている」
燕「あとさ、そっちのオジサンも妙なアドリブ入れないで」
燕「『絶対見てくれよな』とか」
「いや~。つい楽しくなっちゃってね~」
「オッス!オラ猿!いっちょやってみっか!」
燕「訛るな」
ケン「あっちでもっかい練習しよう。基本に忠実にね」
ゴザエモン「お、おう」
燕「で、ヒナ君」
ヒナ「さーせん。頑張って台詞入れやす」
燕「台詞はいいんだ。日々真面目に取り組めばいずれ覚えられる」
燕「君も、もう一度やって見せてくれ」
やあやあ我こそは女桃太郎なりー!
燕「どこから声出してるんだ。裏返るにも程があるだろう」
燕「人前で喋るのは慣れてるんじゃないの?」
ヒナ「自分で好きに喋んのと、人が考えたことを覚えて言うのは全然違うんだよ」
燕「そういうものかね~」
燕「まあ、一言半句に拘らず内容があってればいいさ。気楽にやってくれ」
義孝「貴様、俺には台本通りにやれと言いながら」
燕「黙れ素人!」
義孝「な、投げる為に灰皿を用意するな」
義孝「煙草も吸わんくせに・・・」
燕「うるさい!台本がえなど百年早い!」
燕「気楽と勝手は違うんだ!ごちゃごちゃ言い訳する暇があったら完成度を上げろ!役を下ろすぞ!」
燕「それとも辞めるか?いいんだぞ、お前が辞めても代わりなんていくらでもいるんだ!」
義孝「・・・すみません。ちょっと時間を下さい」
義孝「・・・ううっ」
ヒナ「アイツ、泣きにいったな」
燕「最後に・・・キジ」
未来子「はーい」
燕「何で真面目にやらない」
燕「大道芸がそんなにバカバカしいか」
燕「それとも根室がいないとやる気が出ないか」
ヒナ「まあ、そりゃあ仕方ないさ。天下の歌姫にとっちゃ河原者の舞台なんてお遊戯みたいなもんだしね」
ヒナ「やっぱ、役が足りてないんじゃねえかい?歌ってナンボの松音未来子だろ」
ヒナ「歌ってもらおうぜ。芸事は楽しくやんねえとね~」
未来子「別にキジで構いません」
未来子「脇を固めるのも立派な役目です。素人さんほど前に前に出たがるか、隅の方で固まりたがる」
未来子「広がる、という事が出来ない」
ヒナ「べ、勉強になりやす」
燕「ふん。台詞を無視するのが広がるって意味なのか?」
未来子「ここ数日バロン一座の姿勢を見させてもらいました。その姿勢に則って稽古をしているだけです。演出家先生」
「姿勢?」
未来子「楽しく。自由に。でしょ」
ヒナ「おう!そうだぜ!」
ヒナ「楽しくなるにゃあ自由がいる。自由に動くにゃ稽古がいる。その為の練習だ」
未来子「それで人の心が動かせると思って?」
ヒナ「え?」
未来子「自由の女神から観客を取り戻したいんじゃないの?来栖川桜子よりも自分に目を向けさせたいんじゃいの?」
未来子「革命よりも歌や踊りの方が人々を惹きつけられると思ってるんじゃないの?」
ヒナ「ああ、あたりめえだ」
未来子「だったら何よりもお客様の為に練習をすべきじゃないかしら?」
未来子「何が歌と踊りのミュージカル『女桃太郎』だか」
未来子「自由に楽しく歌って踊る?そんなものに、わざわざお客様をつき合わせる気?」
未来子「芸能も革命も闘いなのよ。踊り子ちゃん」
ヒナ「闘い・・・」
燕「じゃあ君なら・・・」
燕「君の歌声なら闘えるか?」
燕「根室の革命よりも僕の芸能の方が優れていると証明できるか?」
未来子「私が誰だか忘れたの?」
燕「・・・?」
未来子「貴方を救った、松音未来子よ」
未来子「貴方を待っていた、一条彩子よ」
燕「・・・」
未来子「ただの友達なんかじゃない」
未来子「同志」
燕「・・・同志」
未来子「友達よりも遥かに強い絆の、同志」
燕「同志・・・」
未来子「私は人の心を動かしたい。だから、役不足なの・・・」
未来子「根室清濁の妻なんて」
ダリア「みんなー。お昼よー」
ダリア「お姉さんが沢山作って・・・」
ダリア「・・・」
燕「・・・」
ダリア「・・・」
〇廃倉庫
ヒナ「よう」
ヒナ「悔し泣きにくれてたんじゃねえのか?」
義孝「はっはっはっ。俺は鬼の憲兵司令である。たかが演出家の人格否定ごとき」
ヒナ「だったらどいてくれ。次はオイラの番だ」
義孝「何を言われた」
ヒナ「別に・・・」
ヒナ「やっぱ一流の歌姫は親父とは違うな」
ヒナ「芸事も闘いだとさ」
ヒナ「そうだな。気合い入れて闘わねえと」
義孝「闘い・・・か」
義孝「左様なものは見飽きた。今さら、誰ぞに訳知り顔で教えられるべくもない」
ヒナ「・・・」
義孝「バロン一座はバロン一座でよいのではないか?」
義孝「バロン吉宗がバロン吉宗であったように、お前はお前の勝負の仕方をすればいい」
ヒナ「・・・」
ヒナ「あ。そうだ」
義孝「?」
ヒナ「これ。拾ったからよ」
ヒナ「高いんだろ」
義孝「言い方」
義孝「ミカドより賜った勲章である」
ヒナ「それチラつかせりゃ憲兵司令にも男爵閣下にも戻れるんじゃねーか?」
義孝「あるいはな」
義孝「だが真贋を見極める機会すら与えられぬであろう」
義孝「それに元の俺に戻ったところで桜子の心を動かせはしまい」
義孝「元より離れている部下や一族の心となればなおのことだ」
義孝「お前が持っていてくれ。俺自身がその勲章にふさわしい者たりえる時まで」
ヒナ「いいぜ!まかせとけ!」
義孝「売るなよ」
ヒナ(チッ!鋭えな・・・)
義孝「さて。稽古に戻るか」
義孝「やたら面倒臭くて鬱陶しいが、やりはじめると止まらなくなる」
義孝「不思議なものよな。芸事とは」
ヒナ「・・・」
ヒナ「偉そうに」
つづく