事変の序曲(1)(脚本)
〇崩壊した噴水広場
伝八「お~う!戒厳少尉!」
最上「声が大きい」
最上「忘れるな。俺もアンタも未だ天粕の監視下にあるんだ」
伝八「だから近づけないように、だだっ広い所で会うんだろう?」
伝八「大体、男同士でボソボソ喋るほうが不自然じゃねーか」
伝八「ムードを出したいならチューでもするか?」
最上「えげつないことを言うな」
伝八「で、どうだ。作戦の方は」
最上「根室が動き出した。奴はちかく閣下を逮捕するよう仕向ける算段だ」
伝八「いよいよか」
最上「蓬莱街蜂起に閣下が邪魔なのは想定済みだからな。だからそれを逆手に取るまで」
最上「俺自身の手で閣下を逮捕すればその身の安全は守れる。少なくとも『獄中の不審死』くらいは」
最上「天粕の監視下に入るという事は奴の動きも把握できるという事でもあるからな」
伝八「来栖川をお前が、御堂組を俺が守りきった状態で蓬莱街を蜂起させる、と」
最上「鎮圧作戦となれば必ず天粕が出る。司令部の警備も手薄になる。まさにその時、閣下が立ち上がれば・・・」
最上「あと一歩だ」
伝八「問題は男爵殿の『人間力』がどこまで成長しているか?」
伝八「かつての『魔王』のままだったら目も当てられんぞ」
最上「俺はそれでもいい」
最上「軍部が一部の私欲に利用される事態を正すことができれば」
伝八「必要悪であってもヒーローになっちゃいけねえってか」
最上「ああ、刑事も軍人もだ。少なくとも閣下はそれを肝に銘じていた」
最上「いわんや政治介入など!」
伝八「声が大きい」
最上「あ、すまん」
最上「ところで・・・猪苗代女史の様子はどうだ?」
伝八「へっ、予想通り牢屋暮らしにへばるようなタマじゃなかったな」
伝八「無事御堂組と接触させた。蝶子に『全部』話してこっち側につくよう動かしてる」
伝八「さすが計画立案者。やる気が違うぜ」
最上「そうか。よかった」
伝八「さ~て。いい加減、尾行の連中に怪しまれねえように飲みに行くか。そろそろ傾城街も再開し始めたようだぜ」
最上「お、俺は別にそんな場所になど・・・」
伝八「つかれた時は吞んで吸って揉むに限らあ!わはははは!」
最上「声が大きい・・・」
〇レトロ喫茶
根室「いやいや。日頃のご助力感謝致します」
活動家「・・・これが最後になるかも知れませんよ」
根室「え?」
活動家「当り前でしょう」
活動家「新生美しき獣達。新たなる時代の創造者」
活動家「蓋を開けてみれば単なる貧民やチンピラの寄せ集めじゃありませんか?」
活動家「アラハタ、サカイといったレベルの人材が集わなければお話しになりません」
根室「・・・」
〇雑踏
『ただでさえ、大衆は復興への道で手一杯なんです』
『なんのキャリアもない小娘の言葉に耳を傾ける余裕などありませんよ』
〇レトロ喫茶
根室(同じ貴族同士のやっかみか。みっともない)
活動家「何か仰いまして?」
根室「ああ、いえいえ」
根室「我らが盟主は未だ若輩なれど、その才覚は目覚ましく、さながら綿が水を吸うがごとく日々学びを」
活動家「君の言葉遊びにはうんざりだ!」
活動家「誰の援助で活動が出来てると思ってるの?」
根室(ふん。貴様らの親の金だろう)
活動家「蓬莱街決起、早急に動きたまえ」
活動家「乞食でも世を騒がせる人柱たれば、大衆の心も動くだろう」
活動家「あなたの先導者としての名も、一気に知れ渡るわ」
活動家「あるいは扇動者か。ロベスピエール君」
根室「私は失敗などしませんよ」
根室「恐怖政治はどこぞの軍人にさせればいい」
根室「私も皆様と同じ新種の活動家ですからね」
根室「矢面に立つ愚など御免被る。ははははは」
〇荒廃したセンター街
『とは言ってみたものの・・・』
根室「確かにスポンサーの意見は正しい」
根室「桜子の真面目さはその身の華を阻害しすぎている」
根室「華か・・・」
〇赤いバラ
〇荒廃したセンター街
根室「・・・」
根室「ふん。誰があんな尻軽女の力など!」
根室「全く。桜子は堅物、彩子は軽薄、女というものはどうしてこう加減を知らぬ生きものなのだ」
根室「犬猫のほうがよほど頭がいい」
「根室・・・」
根室「・・・」
根室「君か・・・」
根室「戻って来てくれると思っていたよ」
根室「彩子と燕を蓬莱街で見かけた時からね」
「御堂組も黒蓮団も無くなった。私にはもう革命の道しか残されてないみたい」
根室「帝都を出ればいいじゃないか」
根室「片田舎で暮らすもよし。海を渡って故郷に帰るもよし」
「冗談じゃないわ。それじゃ、あまりに惨めすぎる」
「私は今を変えたいの」
ダリア「革命を・・・起こしたいの」
根室「いいだろう。丁度君に相応しい役目がある」
ダリア「私に相応しい役目?」
根室「すでに僕の手の者も動いているんだ」
ダリア「そう。何でも言って」
根室(蓬莱街決起・・・その前に、目障りなあの男を天粕に引き渡さねばな)
根室(来栖川義孝・・・!)
つづく