MAD・AGE

山本律磨

大回天、義挙!(2)(脚本)

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〇城下町
  蒼天の下、雪が積もっている。
  瓦版屋に町民が集う。
瓦版屋聞多郎「さあさ用心めされよ用心めされよ!城下の者は気をつけられよ!」
  木版刷の紙に格好いい高杉晋作の絵。
  『高杉晋作功山寺ニテ蜂起』
瓦版屋聞多郎「異人も魔王と恐れたる長州の狂児、高杉晋作が遂に馬関功山寺にて決起した!」
瓦版屋聞多郎「新たな時代を作る為、古き幕府を倒す為、いざこの萩へ攻め上ってくるぞ!」
  人だかりの中から現れるおうの、瓦版を買い求める。
おうの「一枚ちょうだい!」
おうの「あと保存用にもう一枚!」
長州藩士「やめんか!」
長州藩士「おぬし、この間の。さては倒幕の手先か!」
瓦版屋聞多郎「め、滅相もございません。ワシゃあただ、萩の平穏を願う者です」
長州藩士「まことか?」
瓦版屋聞多郎「さあ皆の衆、気をつけろ!高杉晋作が遂に蜂起したぞ!」
  落ちている瓦版を拾い騒ぐ子供達。
瓦版屋聞多郎「あな恐ろし!魔王高杉!狂児高杉!」
  子供達、意味も分からず騒ぐ。
  『まおうたかすぎきょうじたかすぎ!』
  と、毛利家の家紋、一文字三ツ星の旗が雪を踏み進む。
  毛利家と奇兵隊の旗を掲げ火縄銃を手に、武装し行進する奇兵隊士達。
  馬に跨り、先頭を闊歩する武人。
  瓦版屋、じっと奇兵隊の行列を見つめる。
瓦版屋聞多郎「・・・・・・」
長州藩士「皮肉なものだな。おのれらのかつての大将の首を取りにゆくつもりじゃ」
  侍達、奇兵隊を嘲笑う。
  『いや、それがしの聞いた話じゃと、高杉を説得するための出兵らしいぞ』
長州藩士「どの道、百姓ばらに何ができようか」
  瓦版屋の姿は既に無く、雪の上に高杉の絵が描かれた瓦版が数枚落ちている。
  武人の傍の狂介、立ち止まり瓦版を拾う。
  ふと、おうのと目が合う。
狂介「・・・・・・」
狂介「・・・・・・」
  狂介、瓦版を懐に入れると隊列に戻る。
  馬上の武人、腫れた瞼を開き、ただじっと前を見据えている。
  『まおうたかすぎきょうじたかすぎ!』
  まおうたかすぎきょうじたかすぎ!

〇森の中
  篝火が焚かれ、隊士達がせわしなく行き来している。
  火縄銃を運んでいる四郎。
  と、ずんずん歩いてくる善蔵ら上等兵士達とぶつかる。
四郎「うわっ!」
善蔵「どけや!どん百姓!」
四郎「す、すんません・・・」
  善蔵達、ふんと鼻をならして歩き去る。

〇戦線のテント
  狭い天幕の中、火鉢を囲んで床几に座っている武人、狂介、俊輔。
  天幕が開き善蔵と取り巻きの隊士達が入って来る。
善蔵「遅れてすんませんの。飯の指示やら、武器の管理やらに手間取りまして」
  断りもなく平然と火鉢に当たる善蔵。
狂介「明日奇兵隊は絵堂砦で正規軍撰鋒隊と一旦合流する」
善蔵「今更、侍どもの指示もないでしょう。俺らは御殿の御旗を預かっちょるんじゃ」
  善蔵に同意する隊士達。
  狂介、掲げてある毛利の旗を一瞥する。
狂介「・・・・・・」
善蔵「肚割って話して下さいよ、赤根さん」
武人「うん?」
善蔵「高杉様を討つと見せかけて回天義挙に加わる気でしょう?」
武人「回天義挙?」
善蔵「天を覆す決起ですいや。合流すると見せかけて絵堂砦を落とし、先鋒隊から武器弾薬を奪い、萩へ転じましょうや!」
狂介「馬鹿をいうな。絵堂の撰鋒隊は1000。奇兵隊の10倍じゃぞ」
善蔵「俺らは総督殿と話しちょるんじゃ」
善蔵「覇気を削ぐようなこと言わんでくれますかいの」
武人「善蔵君、口が過ぎる」
善蔵「・・・・・・すんません」
狂介「よいよい。その意気、頼もしい限りだぞ!」
善蔵「・・・・・・」
武人「此度の我ら奇兵隊の役目は高杉征伐ではない」
狂介「え?」
武人「また、その決起に同調するものでもない」
善蔵「はあ?」
武人「高杉の説得。和睦交渉だ」
狂介「それが御殿のご裁断か」
武人「そのための御旗だ」
狂介「ふむ・・・」
善蔵「チッ、面白うない・・・」
  いきりたつ隊士達。
  『不承知! 断じて不承知!』
  『お城の側について高杉様を説得できるとお思いか!』
  『世を変えるための奇兵隊でしょうが!』
  『ワシらは城の犬やない!異国から日本を守るために、江戸の言いなりになりとうないけ立ち上がったんじゃ!』
善蔵「ふん。松下村塾の教えもその程度ですか」
狂介「お前・・・今、なんちゅうた」
  狂介、立ち上がり善蔵の胸倉を掴む
武人「狂介、よせ」
狂介「・・・・・・」
  狂介、善蔵を突き放す。
武人「確かに不甲斐ない」
武人「だが僕の役目は奇兵隊を、諸君を守る事だ」
武人「新たな者が総督になったらその時に戦でも革命でもやればいい。和睦が成れば高杉も政に返り咲ける」
狂介「その為にお前一人がぶん殴られて血を流しとりゃ、世話ないわ」
俊輔「赤根総督。僕に先遣隊の任をお命じ下さい」
武人「先遣隊?」
俊輔「一足先に高杉さんに会うて和睦の席を整えます」
俊輔「確かに今、正義派と俗論党を結べるのは僕達奇兵隊しかおりませんけえ」
狂介「・・・・・・」
武人「伊藤君」
俊輔「長州人同士、血を流すのは良くないです」
武人「そうか。では頼む」
俊輔「力士隊を、30名程お与えください。馬関までの道中何があるか分からんので」
狂介「おい武人・・・」
武人「・・・分かった」
狂介「・・・・・・」
俊輔「ありがとうございます!」
俊輔「これより夜を徹して馬関へ早駆け致します!」
狂介「武人・・・」
武人「いいさ。まだお前が残っている」
善蔵「伊藤さんの穴は俺が埋めますけ。じゃあ、もう解散でええですかいの」
武人「分かってくれたか?善蔵君」
善蔵「どうせ高杉様が戻ってきたら、紛いものの志士は一掃されるでしょうけえの」
  善蔵達、イラつきながら天幕を出る。
  狂介、懐から瓦版を出して眺める。
武人「やれやれ、中間管理職はしんどいな」
  武人、火鉢で手を温める。
狂介「『正義』派と『俗論』党か」
武人「ああ、そう言ったな」
狂介「俊輔は晋作につくぞ。事実上の脱隊だ」
武人「好きにさせてやろう。彼は、高杉君の舎弟みたいなものだったからな」
武人「じゃが俺らは違う。奇兵隊を守るんじゃ。正義の暴挙からも、俗論の家老達からも」
狂介「守ってどうする」
武人「尊き無血革命。なんてどうだ?」
狂介「夢、まぼろしじゃの」
  武人、瓦版を引っ手繰り火鉢にくべる。
狂介「お、おい・・・」
武人「・・・・・・狂っちゃいけん」
武人「誰も狂っちゃいけんぞ」
狂介「おい、先生の教え全否定か?」
武人「それで生き残って新しい時代を見れるなら、おまえの分もあの世で謝っちゃる」
狂介「狂うな、か。ならこの名も変えんといけんの」
武人「いつか俺が新しい名前を考えちゃるわ」
狂介「そうか、じゃあひとつ、ええ名前つけてくれよ」
狂介「誰にも侮られん名前をな・・・」
  炎の中で燃える高杉を、狂介と武人は静かに見つめている。

次のエピソード:大回天、義挙!(3)

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