空色の家(脚本)
〇岩山の崖
「ここから」
「飛びおりるだけ──」
ツムギ「痛いのは・・・一瞬・・・」
あかり「お姉さん」
ツムギ(子ども?)
あかり「お姉さん、手をとって」
ツムギ「うっ・・・」
ツムギ「うぅ・・・!!」
あかり「大丈夫だよ」
ツムギ「足が、ふるえて、動けないの」
あかり「もう、大丈夫」
あかり「抱きしめてあげる」
〇空
あかり「ここが、あかりの家だよ」
ツムギ(空に溶けるような、家)
〇西洋風の部屋
アオ「あかり、ちょうどよかった」
あかり「お父さん」
アオ「扉を開けて欲しい 彼女、東の扉へ行くって」
あかり「わかった」
アオ「君は? 新しい羊?」
ツムギ「ひつじ?」
あかり「お姉さん、東の扉でいいんだね」
女性「はい」
女性「みなさんを見ていると 残してきた家族のことを思い出して」
女性「もう一度、やり直したい それは悪いことじゃないって」
女性「自分をゆるせたの」
あかり「わかった じゃあ、開けるよ」
〇幻想空間
ハルト「あんまり、頑張りすぎないのよ」
女性「はい」
〇西洋風の部屋
ツムギ「今のは!? あの人はどこへ行ったの?」
ハルト「あら? 新しい子羊ちゃん?」
あかり「うん、ツムギさんだよ」
アオ「ツムギさん、簡潔に言いましょう」
アオ「君は、生と死の間にいます」
アオ「この家は生きるか、死ぬかを選べる場所です」
アオ「東の扉へ行けば、生きる世界へ 西の扉へ行けば、あの世へ」
アオ「君は、どうしたいですか?」
ツムギ「どうって・・・」
ツムギ(自殺しようとしたけれど 怖くて死ねなかった)
ツムギ(やっぱり、生きたい?)
ツムギ(東の扉へ行けば── 現実が・・・)
ツムギ「ダメ!!」
ツムギ「あの 選べないです」
ツムギ「選べません・・・」
ハルト「まあまあ とりあえず、お茶でも飲みましょう」
ハルト「あかりちゃん、お茶いれてくれる?」
あかり「うん、わかった」
〇西洋風の部屋
ハルト「コラ! レディーに、結論をせまらないの!!」
ハルト「そんなんだから、独身貴族なのよ」
アオ「結論を出すことと 独身でいることの因果関係はない」
ハルト「うるさい男ねぇ」
ツムギ「独身? あかりちゃんのお父さんじゃないんですか?」
アオ「生物学的にいう父親ではないが 今はあかりの父親で間違いない」
ツムギ「えーっと?」
ハルト「ちなみに、俺は母親だから」
ツムギ「えっ!?」
ハルト「恋愛対象は、男と女どっちも」
ハルト「ちなみに、今はアオに片想い中〜」
ツムギ「ええー!?」
ハルト「それと、あともう1人・・・」
〇部屋の扉
ハルト「あ、出てきた」
ハルト「行っちゃったわ」
ハルト「完全武装してきたわね」
ハルト「この子は、ヒナタよ」
ヒナタ「ぼく知ってる」
ヒナタ「あんた、ツムツムだろ?」
ハルト「ツムツムぅ?」
ヒナタ「これ」
〇幻想2
ツムツム「こんにちは〜」
ツムツム「ツムツムだよぉ〜♡」
〇西洋風の部屋
ツムギ「み、見ないでー!!」
ハルト「別人ね」
ヒナタ「ライブ配信中にフィルターが外れて 化けの皮がはがれた」
ヒナタ「そこから絶賛炎上中だ」
アオ「なるほど それで死のうとしたわけか」
ツムギ「バカにしてるでしょ 私のこと!!」
ツムギ「ブサイクで、詐欺師で こんなことで死のうとする」
ツムギ「イタイ女だって思ってるんでしょ!!」
あかり「思ってないよ」
あかり「ツムギさん、あのね あかりの家族はね 誰もバカにしないし、否定もしないよ」
あかり「それに」
あかり「あかりは、目の前にいる ツムギさんの方が好きだよ」
アオ「そういうことだ」
アオ「我々は死の理由や、どの扉を選ぶか その選択を 笑ったり、馬鹿にしたりしない」
アオ「先ほどは結論を急かしてすまなかった」
アオ「私たちも君と同じなんだ 選択する方を、ずっと考え続けている」
ツムギ「それって・・・」
ツムギ「その・・・ 死のうとしたの?」
アオ「そうだ」
ハルト「現実はさ〜、つらいことがあっても 立ち止まれないじゃない?」
ハルト「時間は勝手に過ぎていくし お腹はすくし トイレにだって行きたくなるでしょ」
ハルト「けど、立ち止まることを許された場所が ここなのよ、きっと」
あかり「ツムギさんがよければ」
あかり「あかりの家族になってくれない?」
あかり「アオさんは、お父さん役で」
あかり「ハルトさんは、お母さん役」
あかり「ヒナタは」
ヒナタ「ぼくは、ペットだ」
ツムギ「ペット?」
ヒナタ「できれば、コウモリがいい」
ツムギ「なんで?」
ヒナタ「ぼくは」
ヒナタ「ぼくなんかが 人間になっちゃいけないんだ──」
ツムギ(闇が深そうね)
あかり「あかり、ツムギさんの部屋準備してくるね」
〇西洋風の部屋
ツムギ「つまり、どっちの扉を選ぶか決めるまで 家族ごっこをすればいいってこと?」
ヒナタ「家族ごっこって言うな!!」
ヒナタ「ぼくにとって 本当の家族は、ここにいるみんなだ!!」
ヒナタ「あんたから見たら変に見えるだろうけど ぼくたちは繋がってる!!」
ヒナタ「・・・」
ヒナタ「あかりの手伝いしてくる」
ツムギ「なによ、急に!!」
ハルト「ごめんねぇ、思春期なのよ」
ハルト「──あの子、暴力をうけてたんだって 家族から」
ハルト「言葉のね」
ツムギ「言葉の──」
〇空
男の子「ぼくのおかあさん、しらない?」
〇西洋風の部屋
ハルト「あら、迷えるとっても小さな子羊ちゃんだわ」
ツムギ「文字通り迷ってるみたいですけど?」
男の子「ぼくのママしらない?」
男の子「かみのけが、このくらいのながさで ニコニコしてて、やさしいママなの」
男の子「ママがいないの」
男の子「ママ、ママ!!」
アオ「少年、まずは落ち着くんだ 深呼吸をしろ」
アオ「息を7秒吸って、4秒で吐くんだ」
男の子「ママぁ〜」
ハルト「アオ! 子ども相手になに言ってんのよ!!」
ハルト「ぼく〜お名前は〜? 何歳〜?」
男の子「うええぇん!!」
アオ「余計に怖がっているぞ!」
ハルト「ツムツム!出番よ!」
ツムギ「わ、私?」
ツムギ「こ、こんにちは〜」
ツムギ「ツムツムだよ」
ツムギ「お姉さんが、ママを探してあげるね」
男の子「ほんと?」
「泣き止んだ!!」
ツムギ「お姉さんに教えてくれる?」
男の子「・・・うん」
ツムギ「まずは、お名前から」
しゅん「しゅんだよ」
ツムギ「しゅん君、ママと最後に一緒にいたのはいつ?」
しゅん「めがさめたら、となりにママがいなくて さがしにいったの」
しゅん「そうしたら、くさいにおいがした」
〇ファンシーな部屋
ヒナタ「ねえ、あかり」
あかり「なぁに?」
ヒナタ「もし、ぼくが」
あかり「うん」
ヒナタ「西の扉を開けてって言ったら」
ヒナタ「どうする?」
あかり「──・・・」
ヒナタ「──・・・」
あかり「とめないよ」
あかり「家族だから」
ヒナタ「──ありがとう」
〇西洋風の部屋
アオ「なるほど」
アオ「しゅん君、私は君のお母さんを知っている」
ツムギ「えっ、そうなんですか!?」
アオ「だから、案内しよう」
アオ「ツムツムさん、あかりを呼んできてくれないか?」
ツムギ「ツムギです」
〇ファンシーな部屋
ツムギ「あかりちゃん、いるー?」
ツムギ「わっ!!」
ツムギ「・・・」
ツムギ「あ、あかりちゃんは? アオさんが呼んでる」
あかり「お父さんが?」
あかり「今、行くね」
〇西洋風の部屋
あかり「お父さん」
あかり「この子は?」
アオ「しゅん君だよ お母さんとはぐれてしまったんだ」
あかり「そうだったの」
あかり「しゅん君、もう大丈夫だよ」
しゅん「うん はやく、ママにあいたい」
アオ「あかり、東の扉を開けてくれないか?」
あかり「わかった」
アオ「しゅん君、お母さんはついさっき この東の扉を通って行ったよ」
アオ「だから君もこの扉を真っ直ぐに歩いていけば お母さんに会える」
しゅん「よかった」
アオ「一人で行けるな?」
しゅん「うん!!」
〇幻想空間
アオ「しゅん君 お母さんは少し疲れたと言っていた」
アオ「お母さんに会ったら伝えてくれないか 辛い時は、声をあげるんだって」
しゅん「うん、わかった」
あかり「しゅん君」
あかり「あのね、あかりたち まだ小さいから わからないことだらけだけれど」
あかり「これから、つらいこと、悲しいこと いっぱいあると思う」
あかり「けど、忘れないで」
あかり「そういうとき、必ず誰かが 大丈夫って、助けてくれるから」
あかり「ここの家族みたいに」
しゅん「おねえちゃん、ありがとう」
しゅん「ぼく、いくね」
〇西洋風の部屋
ハルト「あの子たち大丈夫かしら?」
アオ「選択次第で、やり直せるさ」
ツムギ「あのさ、ヒナタ」
ヒナタ「なに?」
ツムギ「私、ここでお姉さん役やる」
ヒナタ「へぇ、”家族ごっこ”がしたくなった訳?」
ツムギ「聞いて欲しいの」
ツムギ「私さ 素顔がバレて、炎上してるでしょ?」
ツムギ「たくさん言われたの」
ツムギ「キモいとか死ねとか」
ツムギ「目を、耳をふさぎたくなるような言葉をたくさん」
ヒナタ「だから?」
ツムギ「痛かったよね」
ツムギ「言葉って、痛いよね」
ツムギ「私、本当はまだ生きていたい!!」
ツムギ「けど、今戻っても私の居場所なんてない」
ヒナタ「・・・家族は?」
ツムギ「家出してるの、私・・・」
ツムギ「だから、決心がつくまで ここで誰かの役にたちたい」
ツムギ「それじゃ、だめかな?」
ツムギ「お姉さん役」
ヒナタ「・・・あかりに聞いて」
ヒナタ「ぼくは、ただのペットだから」
あかり「あかりは大賛成!!」
あかり「ツムギさん、いらっしゃいませ〜」
ツムギ「ありがとう」
アオ「ツムツム、私からも一言いいたい」
ツムギ「ツムギですってば」
アオ「ここは、死にたい人が行き着く家じゃない」
アオ「生きたい人が行き着く家なんだって」
ツムギ「生きたい人が」
アオ「あかりが、そう教えてくれた」
アオ「私は確実に死を選んだはずなのに この家にたどり着いた」
アオ「その理由が知りたいんだ」
ツムギ「あ、あの お父さん!」
アオ「なに?」
ツムギ「あかりちゃんは、不思議な子ですね」
ツムギ「あんなに小さいのに 大人っぽいというか」
アオ「あかりは、扉の鍵を託された」
アオ「この家の家主だ」
アオ「多くの人が、この家を過ぎ去って あかりは孤独を感じていた」
アオ「だから、迷う人を家族として居候させている」
アオ「確かにこれは、”家族ごっこ”だ」
アオ「それは、あかりも理解している」
アオ「けど」
アオ「家族って、一番身近な他人のことだ」
アオ「ぼくは、そう思う」
〇西洋風の部屋
ハルト「ちょっと なに話してんのよ〜」
ハルト「ツムツムの歓迎会するわよー!」
ハルト「あら?」
男性「あの、ここは・・・?」
ハルト「迷えるイケメン羊よ〜」
あかり「いらっしゃい」
あかり「もう、大丈夫だよ」
大きな決断を下す前のモラトリアムな空間や時間の大切さを実感しました。現実社会にも死を選ぶ前に駆け込む一時的なシェルターがあるといいのに。生と死の中間にいる、男と女の中間のハルトがムードメーカーでいい味出してましたね。
心温まる素敵なお話でした😊
一風変わった面子が、逆に場違いなんじゃないかというハードルを下げてくれる感じで癒されますね。
あかりの背景も気になります。
優しいドラマがたくさん生まれそうですね!
面白かったあ!
ツムギの心の再生物語でいいのでしょうか。
ハルトのぶっ飛びキャラとアオの天然っぷり
男の子(しゅん)が登場した時のドタバタが笑えます。BGMと効果音が絶妙でコミカルなところは軽快な、泣かせるシーンではふんわりとした、それぞれよい選曲がされていて、これはもう、1人でアニメ作ってるようですね。お疲れ様でございました。凄く面白かったです。もいっかい読みます。
何回読んでも面白い!