3霊目 私の親切な天使さん(脚本)
〇桜の見える丘
澪(みお)「風が匂いを運んできた」
澪(みお)「懐かしい桜の匂い」
澪(みお)「きっと今この公園の桜は、満開でピンクの空みたいなんだろうな」
澪(みお)「でも」
澪(みお)「私にはもう、二度と見ることが出来ない景色」
澪(みお)「・・・」
澪(みお)「・・・」
澪(みお)「さよなら──私」
「待って!早まらないで!!」
澪(みお)「誰!?」
澪(みお)「私に関わらないで!!」
帳(とばり)「そ、そう言われても──」
帳(とばり)「まいったなあ。 クロの散歩に来ただけなのに」
帳(とばり)「目の前で飛び降りられたら、 気まずいんだよね!」
クロ(この娘、灯のように霊の声が聴けるようだな。霊能者か?)
クロ「ワン!」
澪(みお)「犬の散歩? 私も家でチワワを飼っているの・・・」
澪(みお)「私が死んだら・・・ママはアズキの散歩をしてくれるかな」
澪(みお)「・・・私、何やっているんだろう」
帳(とばり)「ペットのことを思い出して、少し落ち着いた?」
澪(みお)「ごめんなさい」
澪(みお)「私・・・交通事故でほとんど目が見えなくなって」
澪(みお)「好きな絵も描けなくなったのが辛くて、気づいたらココに居たんです」
澪(みお)「この世界を終わらせかったから」
帳(とばり)「でも、生きてるじゃん」
澪(みお)「エ?」
帳(とばり)「オイラからすると贅沢な悩みだよ、ソレ」
帳(とばり)「ご飯食べて味が分かるし、 音楽聴いて口ずさめるし、」
帳(とばり)「好きな人や家族と触れ合うこともできるよね?」
帳(とばり)「オイラなんて、全部出来ないよ! 死んでるから」
澪(みお)「エエッ!?」
澪(みお)「じゃあアナタって・・・」
澪「天使・・・さん?」
〇豪華なリビングダイニング
ママ「帳が天使ですって!?」
ママ「何だかカワイイ話ね!」
帳(とばり)「それで、今日もそのコと会う約束してるんだけど」
帳(とばり)「行ってもいいかな?」
ママ「モチロンよ!」
灯(あかり)「クロの散歩ついでに彼女作るなんて、 お・ま・せさん!」
帳(とばり)「そういう姉貴は彼氏作らないの? あ!ゴメン」
帳(とばり)「『作らない』じゃなくて『作れない』のか〜」
帳(とばり)「そのまな板胸に大根足じゃ、しょうがないよね!」
灯(あかり)「クソ餓鬼め!今すぐあの世に逝け!!」
ママ「灯、小学生相手にムキにならないで!」
パパ「コホン。 あ〜帳よ」
パパ「ちなみに澪ちゃんは・・・ カワイイのか?」
帳(とばり)「カワイイよ」
帳(とばり)「パパの好きなアイドルの『あいりん』に似てるよ!」
パパ「帰りに家に連れて来なさい! ケーキを用意しておくからな」
ママ「パパも今すぐに、あの世に逝きなさい!!」
パパ「ママもムキにならないでよ~」
〇桜の見える丘
澪(みお)「天使さん?」
帳(とばり)「おっ、おはよー!」
澪(みお)「ああ!」
澪(みお)「夢じゃなくて良かった・・・!」
澪(みお)「嬉しいです!」
帳(とばり)「それより今日は、オイラに手伝ってほしいんでしょ?」
澪(みお)「ハイ!宜しくお願い致します」
澪(みお)「私、この公園の桜が描きたいんです」
帳(とばり)「え?」
帳(とばり)「でも、目が見えないのにどうやって?」
澪(みお)「天使さんが、私の目になって下さい!」
澪(みお)「言う通りに描くので、桜の木の位置とか、絵の具の色を私に教えて下さい」
帳(とばり)「エエッ! オイラに上手くできるかな・・・」
澪(みお)「やってみましょう!」
澪(みお)「私一度死んだと思って、新しい人生を生きることに決めたんです」
澪(みお)「絵を描くのだって、出来ないと思い込んでチャレンジしなかったら勿体ないですから」
帳(とばり)「ヒェ〜、ポジティブ!」
澪(みお)「だって天使さんが私の人生をプレゼントしてくれたんですよ?」
澪(みお)「ちゃんと生きなきゃバチが当たるでしょ?」
帳(とばり)(地縛霊の俺が、このコの人生をプレゼント出来たのか)
帳(とばり)(なら、最後まで付きあってあげなきゃね!)
帳(とばり)「うん!一緒にやってみよう!!」
〇桜の見える丘
〇桜の見える丘
〇桜の見える丘
澪(みお)「描けた・・・のかな?」
帳(とばり)「スゴく良い感じ!! 見えてないとは思えないよ」
澪(みお)「天使さんのおかげですね!」
???「澪!」
澪(みお)「その声は」
勇斗(はやと)「1人で出歩いたら、危ないじゃないか」
帳(とばり)「誰コイツ?」
澪(みお)「幼なじみの勇斗よ」
澪(みお)「私は絵を描きに来たのよ!」
勇斗(はやと)「絵なんて・・・もう描けないじゃないか」
澪(みお)「でも、親切な友達に手伝ってもらって、また描き始めたの!」
勇斗(はやと)「友達・・・?」
澪(みお)「ほら見て?ちゃんと桜に見えるかな!?」
勇斗(はやと)「そんなバカな!! 視えていても、こんな・・・」
勇斗(はやと)「あり得ないよ!」
勇斗(はやと)「その友達とやらに、騙されているんじゃないの?」
澪(みお)「ヒドイよ・・・勇斗は私のこと、分かってくれると思っていたのに」
勇斗(はやと)「分かっているからこそ、言わせてもらうけど」
勇斗(はやと)「君の目は外傷があるわけじゃない」
勇斗(はやと)「事故のショックによる一時的なものだって、お医者さんにも言われているだろう?」
勇斗(はやと)「絵を描くヒマがあったら、ちゃんと病院のリハビリに毎日通えよ!」
帳(とばり)(嫌なヤツだな!)
澪(みお)「・・・2年経ったわ」
澪(みお)「『一時的なもの』って、どれくらい待てば一時的なの?」
勇斗(はやと)「それは──」
澪(みお)「明日には見える?明後日には見える?」
澪(みお)「もう期待するのはウンザリなの」
澪(みお)「勇斗も私に期待するのはヤメて!」
勇斗(はやと)「澪・・・」
帳(とばり)(コノヤロー、澪を困らせやがって!)
帳(とばり)(ポルターガイスト!)
勇斗(はやと)「イテッ!?な、何だ?」
勇斗(はやと)「カラスにでも蹴られたのか?」
帳(とばり)(落ちついて考えたら)
帳(とばり)(澪の目が治る可能性があるかもしれないってことか?)
帳(とばり)(人間には無理でもアイツなら──)
〇豪華なリビングダイニング
吐鬼(とき)「目が見えないヒトを元に戻す方法〜?」
帳(とばり)「鬼のオジサンは、あの世では偉いオジサンなんだよね?」
吐鬼(とき)「オジサンってゆーな!」
帳(とばり)「オイラのヘソクリみんなあげるから、 手伝って!」
吐鬼(とき)「ヘソクリとは?」
帳(とばり)「ダンゴムシと、ヘビの抜け殻と、スズメバチの巣と・・・」
吐鬼(とき)「全部却下じゃ!」
帳(とばり)「お願いします!力を貸して下さい!!」
吐鬼(とき)「フウン。 恋は盲目とはよく言ったもんだ」
吐鬼(とき)「良かろうワッパよ」
吐鬼(とき)「オマエにコレを授けよう」
帳(とばり)「なにコレ。不味そう」
吐鬼(とき)「鬼の丸薬じゃ。見た目はアレだが」
吐鬼(とき)「一粒ヒトに飲ませれば、たちまち効果を発揮する」
吐鬼(とき)「が、代償として小さな不幸が・・・」
吐鬼(とき)「厶厶!」
吐鬼(とき)「みなまで説明を聞かずに行ってしまった。はてさて・・・」
〇美術室
澪(みお)「ホントに?」
澪(みお)「この薬を飲めば目が治るんですか?」
帳(とばり)「騙されたと思って飲んでみて!」
澪(みお)「天使さんが言うなら・・・」
澪(みお)「あのね、私、天使さんが実は悪魔で」
澪(みお)「この薬を飲んで魂を取られても構わないの」
澪(みお)「だって油絵の匂いや筆の感触、キャンバスにもう一度触るコトが出来て」
澪(みお)「何の悔いは無いから」
澪(みお)「欲を言えば彼氏が欲しかったかなあ・・・なんてね!」
帳(とばり)「彼氏なら・・・オイラがいつでも・・・ゴニョゴニョ」
澪(みお)「フゥ──それじゃ飲むね」
帳(とばり)(アレ、声が小さくて聞こえなかったかな?)
帳(とばり)「ど、どう?」
澪(みお)「白い──光の点?」
澪(みお)「だんだん明るくなって・・・」
澪(みお)「アアア!!」
澪(みお)「見えるわ!!」
帳(とばり)「ヤッたね! オイラものことも見えるの!?」
澪(みお)「天使さん、ありがとうございます!」
帳(とばり)「どういたしまして!」
澪(みお)「天使さん!?」
澪(みお)「居ない・・・?」
帳(とばり)「エ・・・」
帳(とばり)「澪、オイラはココだよ!」
澪(みお)「天使さ──ん!」
帳(とばり)「もしかして・・・オイラの声が聴こえなくなったの!?」
「天国に帰ってしまったのかしら」
勇斗(はやと)「澪!」
「勇斗!」
勇斗(はやと)「この前は無神経なコトを言って悪かった!」
勇斗(はやと)「反省してる。許してほしいんだ」
勇斗(はやと)「俺たち昔はよく、一緒に絵を描いていたよな?」
勇斗(はやと)「それなのに、俺の知らない誰かとあんなスゴい絵を描いていたなんて、」
勇斗(はやと)「嫉妬・・・したんだ」
澪(みお)「そう・・・なの?」
澪(みお)「あ、勇斗! 私、目が見えるようになったよ!!」
勇斗(はやと)「エッ、ホントに?」
澪(みお)「今まで心配かけてゴメンね」
澪(みお)「いつでも勇斗が側に居てくれて、 私のことを気にかけてくれていたのに」
澪(みお)「反発してばかりでキズつけていたよね」
勇斗(はやと)「俺こそゴメン!」
勇斗(はやと)「やり直せないかな、俺たち」
勇斗(はやと)「俺、まだ澪のこと忘れられないんだ」
澪(みお)「私も、勇斗とやり直したい!」
帳(とばり)「良かったね澪」
帳(とばり)「もともと2人は恋人同士だったんだね」
帳(とばり)「お幸せに・・・」
〇豪華なリビングダイニング
ママ「澪ちゃんは、元々霊感があったわけじゃなくて」
ママ「一時的に目が見えなくなった反動で、奇跡的に霊能力が備わっただけだったのね」
パパ「だから、目が回復したことで帳の声も聴こえなくなってしまったのか」
パパ「今、帳はどこに居るんだ?」
ママ「可哀想に。落ち込んで部屋に閉じ込もっているわ」
パパ「帳よ、悲しみを乗り越えてこそ男は強くなるんだぞ!」
パパ「女のコは星の数だけ居るんだからな!」
ママ「パパ、今はそれ言うの止めてね」
パパ「やっぱりダメ?」
〇一人部屋
灯「帳・・・大丈夫?」
帳(とばり)「姉貴」
帳(とばり)「オイラ、 澪の目が治ったのに、嬉しくない」
帳(とばり)「天使に・・・なれなかった」
灯「バカね」
〇部屋の前
灯(あかり)「帳は帳だよ」
灯(あかり)「天使なんかじゃない」
灯(あかり)「私のカワイイ弟だよ」
〇一人部屋
帳(とばり)「ウン」
帳(とばり)「姉貴、ありがとう」
〇豪華なリビングダイニング
帳(とばり)「あーあ!まーたお残ししてる〜! あきまへんなあ!!」
帳(とばり)「せっかく夜食で肥やしたワガママボディが可哀想〜!!」
灯(あかり)(ウッ!昨日のしおらしさがリセットされている・・・)
灯(あかり)(でもまあ、この方が帳らしくて良いわ!)
帳(とばり)「ウエスト・ウエスト何センチ〜? あーらヤバイね〇〇センチ!」
灯(あかり)「余計なことを・・・!」
灯(あかり)「ゼッタイ帳は天使なんかじゃない!!」
灯(あかり)「今すぐにあの世に逝け〜!!」
帳(とばり)「ヤ~だよ!!ベロベロベー!!」
〇桜の見える丘
澪(みお)「完成!」
勇斗(はやと)「あの桜の絵に、羽根を描き加えたんだね」
勇斗(はやと)「スゴくイイよ」
勇斗(はやと)「タイトルは卒業と旅立ちかな?」
澪(みお)「いいえ。 タイトルは」
澪(みお)「『私の親切な天使さん』よ」
とてもいいお話でした。
帳と会話ができる、生きる気力が戻る、治る、その代償としての別れ、最後の絵…ストーリーもすごくよかったです。家族全員で協力する話もいいですが、今回のような家族のうちの〇〇回みたいな話もいいですね。
ハートフルなお話。帳君の恋心にこうやって人は成長していくんだなと親心のように読ませていただきました。結果、小さな不幸が帷君に起こりましたが家族全員の思いやりによって復活する所が素敵でした。私もよく間違えるのですが彼氏さんのお名前セリフとキャラ名が…😅
ほっこりする良いストーリー👍
澪の目が治って良かったけど、近くにいる帳が視えなくなるのは切なかった。だけど最後の絵で救われた気分になりました🥹