-殺陣-(脚本)
〇寂れた村
村の中心に立てられた看板には、
前日に起こった出来事が書かれている
今日の見出しには、
人体の一部が喪失した遺体が見つかり、
その遺体をつくった人物を
目撃した者の証言によれば、
"変わった身なりをしていた"
"二本角が頭に映えていて"
"顔はよく見えなかった"
"なぜなら、顔は一枚の紙みたいなもので
おおわれていたから"だと━━
唐紙「違う、オイラじゃない! !」
環「っ...」
環「嘘を、つくのか...?」
環「鬼は...っ」
環「嘘をつかないと言っていたではないか!」
環「しらを切るというのなら...」
環「ここで"貴様"を斬る!」
唐紙(お、お侍様...っ)
唐紙「"あんた"だって...嘘つきだろうが...」
唐紙「何があってもオイラを 信じるっつったじゃねえか! ! !」
環「くっ...」
環「そんなことっ」
環「信用なるかっ!」
環「はあああっっ! !」
唐紙「っ...キッ...!」
環「フッ!」
環「はあっっ! !」
唐紙「ア"ア"ッ! !」
唐紙「うぐっ...くそっ...っ!」
環は、殺陣の基礎も意識せず
ひたすら唐紙を標的とし、
縦横無尽に乱れた剣さばきは、時に
その先端が、唐紙を斬り付ける
唐紙「お侍様! !止めろ! !」
環「貴様の指図は受けん! !タアアアアッ!」
唐紙「...くっ」
唐紙(お侍様...)
唐紙(落ち着いてくれっ...っ頼むっっ! ! !)
「こらこらぁ~」
「なーにやってる」
上司「真っ昼間から仕事増やすな...」
上司「って、」
上司「えええっ! ? どゆこと? ? ?」
上司「おい!環!なんで唐紙殿と戦ってんだ!」
環「フッ、はあああっ! !」
上司「おい! ! ! 環! ! !」
唐紙(キッ...!)
唐紙は地面の砂を一掴みすると、
環めがけて砂を撒いた
環「っ...」
上司「おらっ...確保ぉ! ! !」
環「な...っ! ?」
環「離せっ・・・上司殿っ!」
環「わたしはっあやつを──」
貴人「静まれよ、環」
環「あ、主(ぬし)様...」
貴人「これ以上、村の者を失望させるな」
貴人「任務は、降りていい」
貴人「勿論、わしのこともな」
環「っ!」
環「お待ち下さい! !」
上司「環! !」
上司「頭冷やせ」
環「・・・」
〇木の上
環「・・・」
〇木の上
唐紙「うわわわっ! !」
唐紙「お侍様ぁ!たたた助けて~~! ! !」
環「何かあったのか?」
唐紙「そそそそこにっ」
唐紙「カエルがあぁぁぁぁっ!」
環「フフッ」
環「いま追い払ってやる」
環「もういいぞ」
唐紙「ううっ...怖かったよぉ」
〇木の上
環「・・・っ」
上司「お、雨降ってたのか」
上司「雨に打たれて、夜風も浴び、 だいぶ頭冷えきっただろ?」
環「はい...」
上司「唐紙殿と何があったんだ?」
環「昨夜の殺人事件、犯人の素性は 唐紙殿しか考えられない」
環「だが、ことごとく否定された...」
環「それに、腹が立って...」
上司「なるほどな」
上司「相当あの鬼と、仲睦まじいみてえだな...」
環「・・・?」
環「...上司殿」
環「なぜ、唐紙殿が"鬼"であると?」
上司「え、そっそそれは...っ」
上司「聞き間違いだろ~環ぃ~」
環「いや、確かに聞いたぞ」
環「私は唐紙殿の身なりに一致すると言ったが 唐紙殿が鬼であるとは言っていないぞ」
環「まさか上司殿...」
上司「・・・」
上司「あーあ、」
上司「っとに、よく人のことを見てるよなあ」
上司「そうだよ、気配で分かるんだ」
上司「なぜなら...」
僥杞「俺も鬼だからなあっ! ! !」
僥杞「ッハア! ! !」
鬼の鋭利な爪が、環に触れようとした瞬間
鞘から刀を抜き、攻撃を防御した
僥杞「はっ 鬼に歯向かってくる人間がいるなんてな」
僥杞「おめえは面白いな、環」
環「気安く呼ぶな!鬼め! !」
環「よくもっ、よくも唐紙殿にっ!」
環「濡れ衣を着せたな! ! ! ! !」
僥杞「ハハハハッ」
僥杞「忘れたのか?環」
僥杞「てめえの腕っぷしは、からっきしのはずだ」
僥杞「剣の腕は、俺自らが指南し、」
僥杞「鬼はおろか、人間すら斬れねえ 無意味な剣さばきを叩き込んでやったんだ」
僥杞「その刀を何百万と振るうったところで 傷ひとつ付けやしねえよ! ! !」
環(ぐぐっ...)
環(やはり、こやつの思惑にすぎなかったのか)
環(この刀は、飾りとでもいうのかっ...っ)
「そいつはどうかな」
僥杞「誰だ! !」
時々聴こえる、この低くて
暖かみのある声──
あの無邪気な唐紙ではなく、
鬼の唐紙の声だ・・・
唐紙「やっと尻尾みせやがったな」
唐紙「オイラの餌」
僥杞「んだと?」
唐紙「お侍様」
環「ん?」
唐紙は、自分の顔に
身に付けていた紙を剥がした
その落とした紙には、「そいつのもん」
と文字が書かれていた
やはり、目の前の鬼 僥杞(きょうき)が
唐紙になりすまして、悪事を働いたという
何よりの証拠品だった
本物の唐紙殿の一枚紙は、
顔に付いたままだ
唐紙「それと──」
唐紙「あんたの刀、結構効いたぜ...?」
唐紙は、肩から少しだけ着物を
はだけると、一曲線の刀傷が見えた
環が縦横無尽に、唐紙に向けた
刃(やいば)は、ちゃんと役割を
果たせていた
環(私の...刀傷...)
環「っ...」
環「鬼よ」
環「どうやら貴様の教えは、 私には不向きだったようだ」
環「我流で十分だ!」
環「はあああっ! ! !」
僥杞「う"あ"っ」
僥杞「っちきしょ...」
僥杞「なぜ、斬れるっ...」
環「貴様の教えなど、もう忘れた」
環「これが、私の殺陣だ!」
環「はあああっ!」
僥杞「イギッ...くっそ...」
僥杞「唐紙ぃぃぃぃぃい! ! ! !」
僥杞「てめえがいなけりゃぁ...! すべて隠し通せたのによお! ! !」
僥杞「っうがああ!」
唐紙「う"っ...」
唐紙「・・・ん?」
僥杞「イッヒヒヒヒ...」
僥杞「もう会うことはねえだろうなぁ」
僥杞「さいなら、唐紙」
唐紙(あやつ、さっきオイラに何かを...)
環「唐紙殿! ! !」
環「誠に御免! ! !」
環「唐紙殿に、私はっ...酷いことを...」
環(だめだ...言葉が、うまく浮かばない)
環「っ...ふっぐ...っっ...」
唐紙「・・・」
唐紙「・・・」
唐紙は頭をかいて、少し考えてから
環の頭に手を置いて、頭をぽんぽんした
環「あ...」
環(なぐさめているのか...)
環(フフフッ)