-唐紙の食-(脚本)
〇寂れた村
━━侍
それは、一般市民の村人より地位が高い
"貴人"つまり、主(ぬし)に仕える者
環には主が居たが、唐紙との一戦により
信用と客の両方を失った
環「やってしまった...」
環「主が居なくなることだけは 防ぎたかったのだが...」
環「今日からどうするか...」
唐紙「あれ?」
唐紙「お侍...様だよね?」
環「ああ、私だ」
唐紙「おお ; 見間違いじゃのうてよかったぁ」
唐紙「見慣れた正装でないから、違う人かと」
唐紙「今日はその格好なんですかい?」
環「・・・っ」
環「まあ、な...」
環「仕事が無くなってしまってな...」
唐紙「すご~~い☆」
唐紙「仕事が一段落したってことでしょ? ? じゃあ今日はお休みなんじゃね!」
環「そうではない」
環「侍は、主に仕えることが重要なんだ」
環「任務を与えられ、全うすることで 駄賃をもらえる」
環「その主を失ってしまった今、 私は職を持たない者と同類だ」
唐紙「無職ってこと? !」
唐紙「それって..オイラのせい、だよね」
環「誰のせいでもない」
環「私自身の不甲斐なさだ」
唐紙「じゃあさ、仕事を見つけようぞ!」
環「言ってくれるな、そんなすぐ仕事なんて」
唐紙「っぐ! ! ! ! !」
唐紙は突然、矢で射抜かれたような激痛と
めまいが襲い、前のめりに倒れてしまった
環「っ?」
環「唐紙殿! !」
唐紙は苦しみながらも、なぜか姿を変えた
環「唐紙殿!どうしたのだ?」
町娘B「あの、だ、大丈夫ですか?」
環「分からない、至急寝床を用意しては くれないだろうか...」
唐紙「いいよ、お侍様っ...」
唐紙「う"う"っ...っ」
唐紙「カハッッッ」
唐紙は手で口をおおったが、
咳き込んだ拍子に吐血した
唐紙「寝れば時期に治る...ただの喘息だからな」
環「しかしっ...」
唐紙「すまねえが、肩、貸しておくれや...」
環「あっああ...」
唐紙の腕を肩に回した環は、そのまま
どこかへ歩き去ろうとした
町娘B「お待ちを!」
町娘B「そんなフラフラでどちらへ? 体力が持たんでしょ」
町娘B「わたしの家、そこだから喘息が落ち着く までは安静にしておくれよ」
環「悪いがそうさせてもらおう」
環「唐紙殿、良いな?」
唐紙「...チッ」
〇古風な和室
町娘B「狭いけど、ゆっくりしてって」
町娘B「念のため、薬を用意してきますね」
環「ありがとう」
環「・・・」
環は、苦しみもがく唐紙を
ただ黙って見守ることしかできなかった
唐紙「...オイラは大丈夫だ」
環「そんなわけ無いだろ!」
唐紙「嘘は付けねえな」
唐紙「この姿でないとっ毒が全身に回りそうでな」
唐紙「時間稼ぎにしかならねえと思うが...」
環「毒?」
環「おかしなものでも食べたか?」
唐紙「食う前に察しがつくよ...」
環「では、毒の原因は?」
その時、ふと今更なことを思った
環「出会ってから一度も、食べ物を口にしている所を見たことがないが、食べているか?」
唐紙「・・・っ」
唐紙「...お侍様の、」
唐紙「好物ってなんだ?」
環「いまはそんなことどうでもいいだろ」
唐紙「...オイラは、」
唐紙「鬼だ」
環「っ...鬼?」
唐紙「オイラはっ...鬼だけしか喰えねえんだ」
環「えっ」
唐紙「だからこの痛みは...一生治らねえ...」
環「まるで、治癒方法を知っている口振りだな」
環「知っているなら言ってくれ!準備する!」
唐紙「・・・・・・」
唐紙「いや、お侍様に言ったら、怒られるしっ...」
環「お、怒らないから言ってみろ」
唐紙「・・・」
唐紙「"人間"だ」
唐紙「これは毒針の外傷だ」
横たわる唐紙の首筋には、針で刺された
ように赤く小さい痕が付いていた
環「いつの間に」
唐紙「あやつが、去り際に放った置き土産だろ」
唐紙「だが、人間を食えば.......」
唐紙「あらゆる病や怪我を治癒することも可能だ」
唐紙「喰えば毒を消せるかもしれねえ けどっ...人間は...っ」
環「・・・人間なら」
環「私がいる」
唐紙「えぇ...っ」
環「私を喰え!唐紙殿!」
環「さすれば、毒は消えるのだろ」
唐紙「・・・」
唐紙「・・・っ」
環「私は家族もいないし、職も失った身」
環「誰も惜しむ者は居ない」
環「だから、喰って良い」
唐紙「っっ...!」
唐紙「・・・じゃあ」
唐紙「遠慮は...しない...」
環「っ!」
環の左腕をくいっと引っ張り、ドサッと
倒れた場所は、唐紙に覆い被さるような
状態となった
唐紙の口元には、環の左肩が来ていた
唐紙「いただきます...」
環「っ...! !」
唐紙「チュッ...」
環「なっ! ///」
唐紙「ッククク」
唐紙「お侍様、本気にしたか?」
環「こっっここ こらぁっ! ! / / /」
「あ、あのぉ~...」
「っ! !」
町娘B「薬を持ってきたんだけど...いらないかな」
町娘B「げっ元気みたいだし♪あははは」
環「いや待て!勘違いされては困る!; ;」
唐紙「ククッ」
環「何を笑っている! ? ?」
唐紙が倒れたことは、村の人たちにも
広まり、見ず知らずの唐紙に大勢の人々が
自身の持っていた薬を飲め飲めと訪れた
村人B「おいぃ、大丈夫か?若造」
村人B「これ、わしの腰痛用でな? 効くといいんじゃが...」
町娘B「おじさん!腰痛じゃなくて、喘息持ち の薬がほしいんだよ!」
村人B「薬はこれしかないんだ!効くだろ 薬ってことはおなじなんだし!」
町娘B「効くわけないでしょお!まったく...」
唐紙「ッハハハ」
唐紙「面白れぇなあ人間ってのは...っ」
環「見ず知らずの者に、人々はこうも自然と 手を差し伸べてくれる」
環「ここに来た者全員が、唐紙殿のためにな」
唐紙「フフ...」
唐紙「う"う"ぐっっ...」
環「唐紙殿っ!しっかりしろ!おい! !」