ついに話す時が来た(脚本)
〇明るいリビング
アンミツフーズ株式会社が出した新商品、餡蜜ジャムが、女子高生の口コミから広がり、異例の大ヒットを記録した。
テレビでも取り上げられたり、芸能人達も食べ始めた事から、その人気は更に大爆発した。
パン派の朝ごはんのお供の定番商品となった。
テレビをつけた。
「ジャムといえば、当然餡蜜ジャムですよ」
「ごはんにはふりかけ。パンには餡蜜ジャムですね」
「餡蜜ジャムなしじゃ、もう生きていけない」
市山雄一郎「・・・・・・」
食べ物を作っている会社ならそれなりに安定企業だろう。そんな安直な考えで買った餡蜜フーズ株式会社の株が爆上がりした。
株を売り、得た金は、税金を引いても12億残る。
市山雄一郎「俺、金持ちになっちゃった・・・・・・。もう働かなくていいんだ」
市山雄一郎「やった!!やったぞぉおおお!!!!」
1998年5月15日
〇明るいリビング
市山雄一郎「あれからすぐ仕事を辞め、金を使いまくった。欲しかった物を買いまくったが・・・」
市山雄一郎「・・・・・・」
市山雄一郎「満たされない。俺は全てを手に入れたはずなのに」
市山雄一郎「この気持ちは、何なんだ・・・」
テレビをつけた。
「愛ですよ。愛。愛があればお金なんていらないんです」
「いやいや、お金が全てですよ。愛はお金で買えます」
市山雄一郎「愛か・・・。俺は愛に飢えているのかもな」
市山雄一郎「誰かを愛したい。愛する人が欲しい」
市山雄一郎「・・・俺、独り身だしな。結婚したいな」
市山雄一郎「よし、いっちょやってやるか」
1999年5月23日
〇明るいリビング
市山雄一郎「はぁ~・・・だめだ。1年くらい婚活したけど全然相手が見つからない」
市山雄一郎「金持ちであることを隠して付き合ってくれる女性を探しみたが、全く相手にされない」
市山雄一郎「かといって金があることをアピールすれば、利用されるだけ利用されて捨てられるに決まっている」
雑誌を見た。
仲良さそうな、父、母と子供が写っていた。
市山雄一郎「子供、欲しいな。可愛いだろうな」
市山雄一郎「・・・ん?」
市山雄一郎「そうだ!!子供!!子供だ!!子供を引き取ろう。養子を取ろう」
2001年4月20日
〇児童養護施設
養護施設職員「それでは、陽向君をよろしくお願いします」
市山雄一郎「はい。お世話になりました。ありがとうございます」
〇明るいリビング
市山雄一郎「ふう。二年かかったが、無事に養子を迎え入れることができた」
市山雄一郎「俺も今日からパパだ。よろしくな、陽向」
陽向「きゃっきゃっ」
市山雄一郎「ああ!!なんて可愛いんだ!!陽向、お前は天使だな。これから一緒に暮らしていこうな」
市山雄一郎「大丈夫。金はある。何不自由なく育ててやる」
市山雄一郎「あ、でもあれか。金はあるなんて育て方したら、教育上良くないか」
市山雄一郎「なら俺は、在宅ワーカーという事にしよう」
市山雄一郎「本当の両親のことは、この子が成人を迎えた時に話そう」
市山雄一郎「母親のことを聞かれたら、病気で亡くなった事にしよう」
市山雄一郎「この子には色々な嘘を吐き続けることになるが、それも成人するまでだ。成人したら全て正直に話そう」
2022年1月11日
〇明るいリビング
市山雄一郎「陽向、今日は成人式だな」
市山陽向「ああ」
市山雄一郎「晩飯はどうするんだ?」
市山陽向「久しぶりに中学の連れと会えるんだ。酒飲んでくるよ」
市山雄一郎「フッ、そうか。まあ楽しんで来い。ウイルスの感染対策には気をつけろよ」
市山陽向「ああ」
市山雄一郎「それじゃ、気を付けて行けよ」
市山陽向「ああ、わかってる。それじゃ、行ってくる」
市山雄一郎「今日で陽向も成人か」
市山雄一郎「結局、誕生日に話そうと思っていたが、言いそびれてしまった」
市山雄一郎「あいつが帰ってきたら、ちゃんと真実を話そう」
市山雄一郎「きちんと向かい合わなくては、ならない」
数時間後
〇明るいリビング
市山雄一郎「陽向」
市山陽向「ん?」
市山雄一郎「お前に大事な話があるんだ」
市山陽向「なんだよ、話って」
市山雄一郎「ここに座れ」
市山陽向「ん?ああ・・・」
市山雄一郎「さて・・・。何から話したらいいものか」
市山陽向「だからなんだよ」
市山雄一郎「1997年のことだ」
市山陽向「なんだよ、それ。俺が生まれる前の話じゃないか」
市山雄一郎「まあ聞け。アンミツフーズが新商品を出した。餡蜜ジャムだ」
市山陽向「ああ、よくある定番のパンに塗るあれか。それがどうしたんだ?」
市山雄一郎「どこにでもいる平凡なある男がアンミツフーズの株を買って大儲けした」
市山雄一郎「そして男は、金を思いつくままに使いまくった」
市山陽向「うらやましいねえ。それで?」
市山雄一郎「だが男は満たされなかった。いくら金があっても、欲しいものが手に入らなかったからだ」
市山陽向「贅沢な悩みだな。何が欲しかったんだよ」
市山雄一郎「愛だ。誰かを愛したいと考えた男は、婚活をした」
市山雄一郎「だが相手が見つからず、心が折れてしまった」
市山陽向「金あるのにモテないのか」
市山雄一郎「金があると利用されると思ったんだ」
市山雄一郎「それで男は、子供が欲しいと思い、養子を迎え入れることにしたんだ」
市山陽向「それで?」
市山雄一郎「養子を迎え入れたのは、2001年のことだ。当時0歳の男の子の赤ちゃんを引き取った」
市山陽向「俺と同い年だ」
市山雄一郎「0歳の男の子は、捨てられていたところを保護されたそうだ。父親、母親は分からない」
市山陽向「ひでえ親だな」
市山雄一郎「陽向」
市山陽向「ん?」
市山雄一郎「その捨てられていた赤ちゃんがお前だ」
市山陽向「えっ・・・」
市山陽向「ぷっ・・・はははっ・・・・はははっ・・・。親父、またいつもの冗談かよ」
市山雄一郎「違う。冗談ではない。本当の話だ」
市山雄一郎「お前が成人したら、真実を話そうと20年間、ずっと隠し通してきたんだ」
市山陽向「・・・ほんとなのか?」
市山雄一郎「ああ、嘘じゃない。本当だ」
市山陽向「でも母さんは、俺が生まれたと同時に死んだって親父言ってたよな」
市山雄一郎「あれは嘘だ」
市山陽向「マジかよ・・・」
市山雄一郎「ああ」
市山陽向「悪い。ちょっと現実を受け止められねえや」
市山雄一郎「ああ、当然だ。お前が成人したし、俺もけじめをつけたかったんだ」
市山陽向「そうか・・・」
市山陽向「親父、話してくれてありがとうな」
市山陽向「でもよ。俺、親父が親父でよかったって思ってるんだぜ」
市山雄一郎「陽向・・・」
市山陽向「親父、今まで育ててくれてありがとうな」
市山陽向「俺の親父は、親父だけだよ」
市山雄一郎「うっ・・・ううっ・・・ぐすっ・・・ううっ・・・」
市山陽向「な、なんだよ」
市山雄一郎「怖かった。お前に嫌われるんじゃないかと思った」
市山雄一郎「怖かったんだ・・・」
市山雄一郎「ぐすっ・・・ううっ・・・」
市山陽向「そ、そりゃショックだけどよ。親父と過ごした思い出がなくなるわけじゃないんだからよ」
市山雄一郎「ああ、そうだな」
市山陽向「今思えば二十年間、本当に色々な事あったよな」
市山雄一郎「そうだな」
市山陽向「なあ、親父。今晩さ、一緒に酒でも飲まねえか?」
市山雄一郎「ふふ、そうだな」
市山陽向「俺が覚えてない頃の小さい時の話とか、親父の昔話とか色々聞かせてくれよ」
市山雄一郎「つまんねえぞ。途中で寝るなよ」
市山陽向「面白おかしく話せよな」
市山雄一郎「ったく、注文の多い奴だな」
市山雄一郎「今夜は何食べたい?お前の好きなもの作ってやる」
市山陽向「待てよ、親父」
市山雄一郎「なんだ?」
市山陽向「実は金あるのか?」
市山雄一郎「ある」
市山陽向「どれだけあるんだ?」
市山雄一郎「俺の資産は、2億ほど使ったが、まだ10億ある」
市山陽向「マジか!!」
市山陽向「あのさ、親父」
市山雄一郎「ん?なんだ」
市山陽向「じゃあ今夜はさ、一番高い寿司食ってみたい」
市山雄一郎「まあたまには、いいだろう」
市山雄一郎「ならどうせ行くなら、最高級なのを食いに行こう」
市山陽向「やった!!」
市山雄一郎「だが酒は宅飲みだぞ?」
市山陽向「えー、マジかよ」
市山雄一郎「良い酒買って家でじっくり飲もう」
数時間後
〇明るいリビング
市山陽向「ふう。食った食ったー。めちゃくちゃ美味かった」
市山雄一郎「ああ、美味かったな」
市山陽向「良い酒もたくさん買ってきたし、飲もうぜ」
市山雄一郎「そうだな。明日からはまた節約だな」
市山陽向「親父、金は持ってるのに、使わないのかよ」
市山雄一郎「金は人生の保険だ。大切に使わなきゃならない」
市山雄一郎「明日からは、また節約だぞ」
市山陽向「親父、堅実だな」
市山雄一郎「まあ色々あったんだよ」
市山陽向「それで、どんな話を聞かせてくれるんだ?」
市山雄一郎「そうだな。お前を引き取ってすぐの話から始めるとするか」
養親がどれほど愛情深くとも、それとは別問題で養子が「一目でいいから実の親に会いたい」と言い出したり探し出そうとする問題は避けて通れないとか。陽向にそう言われた時に雄一郎がなんと答えるのか、どう対処するのか興味があります。
陽向くん、とっても真っ当に育ってますね。20年間の暮らしで、父子が互いに愛を注ぎ合ってきた証だと思ってしまいました。強い信念と節制のもと、望んだものを得られたのでしょうね。
私もそうですが、お金はほしいものです。
あるに越したことはありませんからね。
でもそれで大切なものを失うことは違いますよね。
大金を得ても、堅実さを貫けるのは凄いことだとは思います。