アポトーシス(脚本)
〇研究機関の会議室
千寿千穂呂(20代)「知世さん、新しいのって、あれ?」
江野知世「もう!あれって言わないの! なかなか優秀なんですから」
千寿千穂呂(20代)「ふーん‥」
江野知世「さあ、いらっしゃい、瑠璃沢くん」
瑠璃沢(20代)「あっ‥はい、どうも」
江野知世「私は知ってるわよね?江野知世」
瑠璃沢(20代)「はい‥」
江野知世「で、千穂呂ちゃん、彼が瑠璃沢至純くん」
千寿千穂呂(20代)「はーい、初めましてー」
江野知世「瑠璃沢くん、こちらが千寿千穂呂さんよ」
瑠璃沢(20代)「はっ、初めまして‥」
千寿千穂呂(20代)「至純?何かすごい名前ねー」
江野知世「ふふ、そうね、至純って「この上の無い純粋」って意味でしょ?そんなお名前をつけるなんて、ご両親の願いが素晴らしいわ」
瑠璃沢(20代)「あっ、はい‥」
江野知世「千穂呂ちゃん、仲良くしてあげてね」
千寿千穂呂(20代)「はーい、よろしくね、瑠璃沢くん」
瑠璃沢(20代)「あっ、よろしくお願いします」
江野知世「ふふふふ」
〇黒背景
瑠璃沢(るりさわ)「どうして‥なぜ、今あんな昔の事を思い出すんだ‥」
〇古いアパートの一室
若宮はづき「‥‥」
〇黒背景
〇アパートの玄関前
配達員「まいどー、トランクでーす!」
若宮はづき「はい‥ありがとう これ、昨日のです」
配達員「はい、回収します ‥あのー、何かありました?」
若宮はづき「何かって‥?」
配達員「いやー、何かずいぶん暗い顔してるから 大丈夫ですか?」
若宮はづき「‥‥」
配達員「まー、余計な詮索はしないんで‥ ‥そいじゃ、また明日」
若宮はづき「‥はい」
〇古いアパートの一室
若宮はづき「‥中身は、何だろ‥」
若宮はづき「写真‥誰だろ、この3人‥ 誰かに似てる‥ あっ、メモは‥」
若宮はづき「反町西町公園、15時、男性‥ 細かくは書いてないのか‥」
〇川に架かる橋
若宮はづき「たぶん、この先‥」
〇広い公園
若宮はづき「ここか‥あれ?ここは‥」
〇公園のベンチ
若宮はづき「そうだ、やっぱり! この公園は‥」
若宮はづき「瑠璃沢さんと、初めて会った公園だ!」
「若宮さん」
若宮はづき「えっ!?」
瑠璃沢(るりさわ)「こんにちは、若宮さん」
若宮はづき「どうして‥瑠璃沢さんが‥」
〇おしゃれな食堂
瑠璃沢(20代)「あの‥知世さん」
江野知世「うん?なあに?」
瑠璃沢(20代)「この世界って、本当に‥」
江野知世「あー、ふふふ、そのこと」
瑠璃沢(20代)「はい‥何だか信じられなくて」
江野知世「そうね‥そうよねー、だって私も実は信じられないもの」
瑠璃沢(20代)「知世さんも?」
江野知世「そりゃそうよー、変な話じゃない?人が滅びていくなんて」
瑠璃沢(20代)「はい‥」
江野知世「でも、私が信じてないのは内緒よ‥だって怒られちゃうから」
瑠璃沢(20代)「‥あっ、はい」
江野知世「ふふふ」
千寿千穂呂(20代)「あー、何?内緒話?」
江野知世「そうよー‥でも、千穂呂ちゃんなら教えてあげてもいいかな? ねぇ、瑠璃沢くん?」
瑠璃沢(20代)「あっ、はい、はい」
千寿千穂呂(20代)「ちょっと何なの瑠璃沢! その気持ちの入ってない返事は!」
瑠璃沢(20代)「いや、そんなことないよ!」
千寿千穂呂(20代)「ふーん、でもなーんか瑠璃沢って、知世さんの前だと心ここにあらずって感じになるからなぁ」
瑠璃沢(20代)「えっ?どういうこと?」
千寿千穂呂(20代)「どういうことって、何? 自覚ないの?」
瑠璃沢(20代)「なっ、何が!」
千寿千穂呂(20代)「知世さんの前だと顔が赤い! テンションが高い! ずばり!惚れてんじゃ‥」
瑠璃沢(20代)「なっ、何てこと言うんだよ!ちがっ」
千寿千穂呂(20代)「違うの?」
瑠璃沢(20代)「ちがっ‥だっ、から、それは‥」
千寿千穂呂(20代)「ほーら、ほーら!」
江野知世「もー、千穂呂ちゃん、あんまりいじめないの」
千寿千穂呂(20代)「はーい」
江野知世「ふふふふ」
〇公園のベンチ
若宮はづき「どうして何です!どうして瑠璃沢さんがここにいるんですか!?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥‥」
若宮はづき「だって、だって‥ここにいるって事は‥」
瑠璃沢(るりさわ)「トランクの中身を渡してください」
若宮はづき「‥‥はい‥これです」
瑠璃沢(るりさわ)「ありがとう‥懐かしいですね‥」
若宮はづき「懐かしい?」
瑠璃沢(るりさわ)「この写真、誰だかわかりますか?」
若宮はづき「何だか、見覚えがあるんでけど‥」
瑠璃沢(るりさわ)「3人写っている左が私、そして右にいるのは千寿千穂呂です」
若宮はづき「瑠璃沢さんと千寿さん‥だから見覚えが‥でも、真ん中の方は?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥若宮さん、少し歩きませんか? 色々お話ししたい事もありますので」
若宮はづき「話? 話って‥」
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さんには必ずお話しすると、約束していましたから」
若宮はづき「でも、それは最後にって‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥私にとっては、今回が最後になりますから‥」
若宮はづき「‥どうして‥どうして‥」
瑠璃沢(るりさわ)「‥歩きましょう、若宮さん 今日はいい天気ですよ」
若宮はづき「でも‥」
瑠璃沢(るりさわ)「それに、そのほうが話しやすいですし」
若宮はづき「‥はい」
〇川に架かる橋
瑠璃沢(るりさわ)「そう言えば、お母さまには気の毒な事を‥」
若宮はづき「‥‥あの」
瑠璃沢(るりさわ)「はい?」
若宮はづき「‥なぜ、母が‥何で私なんですか‥ 私は‥何なんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥そうですね、順番に話したほうが宜しいかと」
若宮はづき「順番に?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥まずは一番の疑問かもしれない、 青い光についてから」
若宮はづき「‥はい」
〇中庭
瑠璃沢(20代)「役割?役割って何なんです?」
江野知世「役割は役割よ‥瑠璃沢くんや千穂呂ちゃんみたいな優秀な人を見つけて、私の役割を引き継いでもらうの」
瑠璃沢(20代)「引き継ぐ‥でも、そうしたら、知世さんはどうなんるんです?」
江野知世「私?私はそれで役割を終えるの 青い光と一緒にね‥」
瑠璃沢(20代)「そんな‥」
江野知世「それが私の役目だから」
瑠璃沢(20代)「でも、でも、知世さんがいなくなって、悲しむ人がいるんじゃ‥」
江野知世「悲しむ人ね‥どうかなー?そんな人いるのかしらね、ふふふ」
瑠璃沢(20代)「‥僕は、悲しいです‥」
江野知世「‥そう、ありがとう あなたが悲しんでくれるなら、消えて亡くなるのも悪くないわね」
瑠璃沢(20代)「ホントは‥もっと生きていて欲しいです‥もっと知世さんと、話がしたいです‥」
江野知世「そうね‥違う生き方があったら、そうなれてたかもしれないのにね‥」
〇中庭
千寿千穂呂(20代)「‥‥」
〇商店街
瑠璃沢(るりさわ)「ここまで来るとだいぶ賑やかですね」
若宮はづき「‥瑠璃沢さん、さっきの‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥お話しします、青い光について」
若宮はづき「はい」
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さんは『アポトーシス』と言う言葉をご存じですか?」
若宮はづき「アポトーシス?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、プログラムされた細胞の死という意味です」
若宮はづき「細胞の‥死?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、血行不良や怪我など、細胞の環境悪化による壊死と呼ばれる現象とは違い、あらかじめ細胞にプログラムされている死の事です」
若宮はづき「プログラムって、どういうことですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「例えば、オタマジャクシの尾が無くなるように、生物は成長するときに新しい細胞を作り出し、同時に不必要な細胞を消していきます」
若宮はづき「それが、アポトーシス‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、生物をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる細胞死、これが細胞には当初からプログラムされているんです」
若宮はづき「それは‥人間でも‥ですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、受精卵が母親の胎内で胎児となる過程でもアポトーシスは起こっています」
若宮はづき「母親‥」
瑠璃沢(るりさわ)「それ以外にウイルスに感染した細胞の除去や、優れた生殖細胞を選別するためにもアポトーシスは行われています」
若宮はづき「そうなんですね‥でも、何だか、難しくて‥」
瑠璃沢(るりさわ)「申し訳ない、少し堅苦しい言葉選びでしたね」
若宮はづき「いえ‥」
瑠璃沢(るりさわ)「要は私たちがよりよく生きていくために、細胞には初めから組み込まれた死と言う仕組みがあるという事です」
若宮はづき「それは‥寿命という事ですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「確かに近いものがありますが、寿命に関してはアポトーシスでは説明できない部分も多く、アポビオーシスと言われる事が多いです」
若宮はづき「アポビオーシス?」
瑠璃沢(るりさわ)「何と言いますか‥寿命死、生理的な死のような意味ですかね」
若宮はづき「でも、その‥アポトーシスと青い光と、何の関係があるんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「死には光があるんです」
若宮はづき「光?」
瑠璃沢(るりさわ)「数年前ですが、ある大学での研究で、生物が死にかけた状態の時、内部が青色に蛍光、つまり青い光を発していることを発見しました」
若宮はづき「青い光‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、その生物は線虫の一種なのですが、細胞が壊れていくにつれ光は強くなり、死の瞬間には最大の明るさを発したそうです」
若宮はづき「あの‥それはどういう意味でしょうか?」
瑠璃沢(るりさわ)「あの青い光は線虫の体内を伝わり、やがて死が訪れる‥これは死が起きる予告でもあるんです、そして‥」
若宮はづき「そして?」
瑠璃沢(るりさわ)「ある特定の人々はその光を見ることができる‥」
若宮はづき「特定の人々?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、青い光を発している人々の事です」
若宮はづき「光を発している人々って、それは‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、若宮さん‥あなたがトランクの中身を届けてきた人達の事です」
若宮はづき「‥そうだったんだ」
瑠璃沢(るりさわ)「私達は以前からこの現象に気づいていました、そして、その現象が人類全体に広がり始めていることにも‥」
若宮はづき「人類全体‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、生命に刻まれた、本来であれば有益な仕組みであるアポトーシスが、人々すべての終わりに向かって動き始めた‥」
若宮はづき「でも、プログラムされた死は寿命とは違うって‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、寿命でありません‥おそらくですが、何かのきっかけで人類全体が除去されるべきとプログラムが変更されたのかと」
若宮はづき「そんなこと‥何で‥」
瑠璃沢(るりさわ)「理由は、憶測でしかありませんが、総体としての生命の判断ではないかと」
若宮はづき「総体としての生命?」
瑠璃沢(るりさわ)「ありきたりの表現ですが、地球全体をひとつの命として考えたら、人類もその一部の、いわば細胞でしかありません」
若宮はづき「つまり、地球全体で人類を除去しようとしているって‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥これに確証はありませんが、おそらくそうではないかと‥」
若宮はづき「‥でも、そんな‥」
瑠璃沢(るりさわ)「総体が成長するための過程‥あるいは何かに感染し、汚染された細胞の除去、このどちらかではないかと」
若宮はづき「‥‥」
〇町の電気屋
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さん、最近ニュースをご覧になっていますか?」
若宮はづき「ニュース?いえ‥あんまり」
瑠璃沢(るりさわ)「以前は小さな扱いでしたが、最近はトップニュースに成る程に広がっている出来事があるんです」
若宮はづき「広がっている?」
〇電気屋
瑠璃沢(るりさわ)「ちょうど流れてますね、ちょっとテレビを見て下さい」
〇荒廃した改札前
アナウンサー男性「先日より、国内で広がり始めたSNSを発端とした暴動は、ついに公共交通機関に広がり始めています」
アナウンサー女性「こちらの映像は某駅の改札付近です つい先日までは日常的に使われていた駅ですが、今は映像の通り、廃墟のようになっており‥‥」
〇電気屋
若宮はづき「これは‥」
瑠璃沢(るりさわ)「いま、世界規模で広がり始めている小規模な暴動です」
若宮はづき「暴動?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥最初はSNS上での、小さな罵り合い程度だったのですが、今は小規模の暴動にまで発展しています」
若宮はづき「これが‥これでみんな滅びちゃうんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「これは、きっかけです」
若宮はづき「きっかけ?‥さっきの、何かのきっかけでって、もしかしてこれの事ですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥」
若宮はづき「そんな‥」
〇商店街
瑠璃沢(るりさわ)「今起きていること、理解していただけましたか?」
若宮はづき「でも、でも‥こんな事で、こんな小さなことで人が滅びなくちゃいけないなんて、そんなわけ」
瑠璃沢(るりさわ)「さっきも言いましたように、これはきっかけに過ぎません‥これからもっと多く、そして多様な形で人々の滅びは進んで行きます」
若宮はづき「‥何でなんです?この程度の事で、何で滅びるまで進んで行くんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥これも、おそらくですが‥皆、誰もが許せなくなっていきます」
若宮はづき「許せない?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、自分と違うもの、違う主張を、違う正義を、私は傷つけられた、私は正しいという名目で許せなくなっていきます」
若宮はづき「許せない‥」
瑠璃沢(るりさわ)「今まで聞こえなかった、とても小さな言葉まで聞き取る事が出来る世界では、自身のエゴは限りなく肥大し、そして先鋭化する‥」
瑠璃沢(るりさわ)「その先にあるのは己の正しさを信じて疑わない、そしてそれ以外は排除したいと言う、小さな戦争の始りです」
若宮はづき「でも‥そんなこと、ただの思い違いだったりするだけで、みんな冷静になれば‥」
瑠璃沢(るりさわ)「‥冷静に、なりたくないのでしょう」
若宮はづき「えっ?」
瑠璃沢(るりさわ)「その滅びの道筋にある人々は、きっと楽しんでいるんですよ」
若宮はづき「楽しんでいる‥?」
瑠璃沢(るりさわ)「興奮し、高揚し、日々の細々とした苦しみから目をそらすことが出来る‥そして‥」
若宮はづき「そして?」
瑠璃沢(るりさわ)「その苦しみ自体を破壊してしまう事ができるこの出来事、これは当人にとっての喜び以外の何物でもないでしょう‥」
若宮はづき「それじゃ‥進んで滅びに行くようなものじゃないですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥そうなんです、きっかけを与えられた人々は、気づかないうちに、喜んで滅びに向かっているんです」
〇郊外の道路
瑠璃沢(るりさわ)「このあたりまで来ると、だいぶ静かですね」
若宮はづき「あの‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、なんでしょう?」
若宮はづき「私が母にやった‥あれは」
瑠璃沢(るりさわ)「いざなむ手‥の事ですか?」
若宮はづき「はい‥あれは何なんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「青い光を抑え、人を癒す、それがいざなぐ手、それに対して青い光を強め、不快を与える、それがいざなむ手です」
若宮はづき「光を強める‥それって、じゃあ」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、青い光は死の瞬間がもっとも強く輝く‥いざなむ手は命を奪うことが出来るのです」
若宮はづき「‥やっぱり、そうなんですね」
瑠璃沢(るりさわ)「遠野井さんはいざなぐ手を、調整人の綴木はいざなむ手を行うことが出来ますが、若宮さん、あなたは両方が出来る稀有な存在です」
若宮はづき「‥‥」
瑠璃沢(るりさわ)「ましてや手を触れずにいざなむが出来るなど‥私どもの想像以上でした」
若宮はづき「なぜ、母を‥殺さなければならなかったんですか」
瑠璃沢(るりさわ)「‥覚醒を促す‥との事です‥ただ、私には‥それが正しい判断かどうかは‥」
若宮はづき「覚醒‥ですか」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥私達はかなり以前から、あなたの存在に気がついていました」
若宮はづき「やっぱり‥」
瑠璃沢(るりさわ)「いざなぐ手といざなむ手、その使い手を仲間とするために、私達は常に探していました」
瑠璃沢(るりさわ)「ましてやその両方を行える人物と出会えるなど‥僥倖に近いことです」
若宮はづき「‥‥」
瑠璃沢(るりさわ)「お母様が亡くなる事が必要な理由‥私なりの考えですが、今のままでは若宮さんの能力の開花に時間がかかると考えたのでしょう」
若宮はづき「時間が‥かかる?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、両方が使える人物、それは私達にとって、今後の重要な役割を担う方となります」
若宮はづき「重要な役割‥」
瑠璃沢(るりさわ)「人々の滅びが緩やかに始まり始めた今だからこそ、若宮さん、あなたの能力の出来る限り早い覚醒を求めたのだと思います」
若宮はづき「あの‥瑠璃沢さんは賛成ではなかったんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥と、言いますと?」
若宮はづき「さっき、それが正しい判断かどうかは、と言われていましたよね?瑠璃沢さんはどう思っているんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「私は‥」
若宮はづき「本当に母が死ぬ‥殺すことは正しい事だと‥」
瑠璃沢(るりさわ)「私は‥私には賛同出来ないこともありました‥それは今でも‥」
若宮はづき「‥そうですか」
瑠璃沢(るりさわ)「‥‥」
〇荒廃した教会
瑠璃沢(20代)「知世さん、知世さん‥どうして‥」
江野知世「前にも‥話したじゃない‥忘れ‥ちゃったの‥ふふふ‥ぐふぅ」
〇荒廃した教会
千寿千穂呂(20代)「知世さん!血が!」
江野知世「‥大丈夫‥大丈夫よ、千穂呂ちゃん‥」
瑠璃沢(20代)「知世さん‥嫌ですよ‥もっと、もっと話したいのに‥」
江野知世「‥ごめんね、瑠璃沢くん‥でも、あなた達を見つけられたから‥会えたから‥」
瑠璃沢(20代)「知世さん、知世さん‥」
江野知世「後はお願いね‥引き継いでいって‥」
千寿千穂呂(20代)「知世さん‥」
江野知世「でも‥もしね‥」
瑠璃沢(20代)「もし‥何です?」
江野知世「もしね‥違う生き方があるのなら‥」
瑠璃沢(20代)「違う生き方‥」
〇中庭
江野知世「そうね‥違う生き方があったら、そうなれてたかもしれないのにね‥」
〇荒廃した教会
江野知世「違う生き方があるのなら‥それも悪くないわね‥」
瑠璃沢(20代)「知世さん‥」
江野知世「この仕組みが正しい事なのか‥良い導きなのか‥私には最後までわからなかった‥ でも二人なら‥その答えがみつかるかもね‥」
瑠璃沢(20代)「‥‥」
江野知世「千穂呂ちゃん‥」
千寿千穂呂(20代)「はい‥知世さん」
江野知世「もし瑠璃沢くんが困ったら、千穂呂ちゃん‥助けてあげてね」
千寿千穂呂(20代)「‥うん」
江野知世「‥瑠璃沢くんって‥綺麗な目をしてる‥」
瑠璃沢(20代)「知世さん?」
江野知世「何だか‥希望が‥‥」
瑠璃沢(20代)「知世さん、知世さーん!」
千寿千穂呂(20代)「ううう‥‥」
瑠璃沢(20代)「‥‥」
千寿千穂呂(20代)「瑠璃沢‥私は許せない‥知世さんをこんなにしたあいつらを」
瑠璃沢(20代)「‥‥」
千寿千穂呂(20代)「この方法を許せない、滅びるなんて許せない、こんな風に受け入れるなんて‥私は許せない」
瑠璃沢(20代)「千寿‥」
千寿千穂呂(20代)「今は‥耐える‥ だけど、絶対に許せない‥もう少し力をつけて、仲間を増やして、そして‥」
瑠璃沢(20代)「‥‥」
千寿千穂呂(20代)「瑠璃沢‥あんたはどうする?」
瑠璃沢(20代)「‥僕は‥」
〇郊外の道路
若宮はづき「あの‥どうかしましたか」
瑠璃沢(るりさわ)「いえ‥若宮さん、ここからはタクシーに乗って移動しましょう」
若宮はづき「タクシー?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥あっ、ちょうど来ましたね」
〇タクシーの後部座席
若宮はづき「あの‥どこに?」
瑠璃沢(るりさわ)「国内で初めて暴動が起きた場所です」
若宮はづき「暴動‥」
〇荒廃した街
若宮はづき「ここが‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、ここが国内で最初の暴動があった場所です」
若宮はづき「最初‥ですか」
瑠璃沢(るりさわ)「海外で始まった小規模暴動が国内に飛び火し、この場所で初めて暴動が起きました‥死傷者も出たようです」
若宮はづき「死傷者って、亡くなった人もいるってことですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「そのようです‥これからも国内各地で同じような事が続いて行くでしょう、先程のニュースのように‥」
若宮はづき「そんな‥」
瑠璃沢(るりさわ)「ただ、この場所はもう終わった場所なので、もう安全だと言われていますが‥」
若宮はづき「‥‥」
瑠璃沢(るりさわ)「そうそう、私に届けて頂いたトランクの中身ですが」
若宮はづき「中身?あの写真の事ですが?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥あれは、私が加わったばかりの頃に撮った写真です、私はある方に進められて、この仕組みに加わりました」
若宮はづき「ある方って?」
瑠璃沢(るりさわ)「あの写真の中心にいた、江野知世と言う女性です‥私は彼女に見いだされました」
若宮はづき「見いだされた‥それって、もしかして‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、若宮さん、私があなたを見つけたようにです」
若宮はづき「‥そうだったんですね」
瑠璃沢(るりさわ)「私と千寿は彼女に見いだされ、仕組みに加わることになったんです」
若宮はづき「‥写真、もう一度見せてもらっていいですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、どうぞ」
若宮はづき「若いですね‥何だか、初々しい」
瑠璃沢(るりさわ)「ははは、そうですね、20代の頃ですから」
若宮はづき「この江野さんって人、とても優しそう」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、とても穏やかで優しく、聡明な方でした‥」
若宮はづき「この方、江野さんは今どうしてるんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥亡くなりました」
若宮はづき「えっ!」
瑠璃沢(るりさわ)「彼女が亡くなり、彼女の役目を私が引き継いだんです」
若宮はづき「そんな‥」
瑠璃沢(るりさわ)「本来は私と千寿の二人で担うはずだったのですが、彼女が亡くなりしばらくして、千寿は私達から離れて行きました」
若宮はづき「‥千寿さんが離れたのって、その江野さんが亡くなった事と何か関係があるんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥千寿は許せないと、そう言っていました」
若宮はづき「許せない?」
瑠璃沢(るりさわ)「私達のやり方が、世界の滅びを受け入れる事が、何より彼女が亡くなった事をです」
若宮はづき「‥あの、江野さんは‥何で亡くなったんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「それは‥引き継ぐ相手が出来たからです」
若宮はづき「引き継ぐ相手が出来た? ‥それってもしかして‥」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、彼女の役目を引き継ぐ私と千寿が現れたから、彼女は終わる事になったんです」
若宮はづき「それって‥それじゃあ‥」
瑠璃沢(るりさわ)「そうです、若宮さん‥ちょうど今の私と同じようにです」
若宮はづき「‥‥」
若宮はづき「瑠璃沢さん、この声‥」
瑠璃沢(るりさわ)「‥まだ終わって無かったんですね」
若宮はづき「終わってないって‥?」
瑠璃沢(るりさわ)「暴動です、この場所での」
若宮はづき「そんな‥」
若宮はづき「逃げましょう、瑠璃沢さん!」
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さん‥お母さまの事は本当に申し訳ありませんでした」
若宮はづき「瑠璃沢さん?どうしたんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「私は今まで、あなたを誘った事が、この判断が正しいと、良いものだと思っていました‥」
瑠璃沢(るりさわ)「ただお母さまへの件を見て、本当に正しいのかどうかがわからなくなって来たんです」
若宮はづき「瑠璃沢さん‥」
瑠璃沢(るりさわ)「彼女‥江野知世は、この仕組みが正しく、良い導きなのか、最後までわからなかったと言っていました‥それをやっと理解できました」
若宮はづき「‥‥」
瑠璃沢(るりさわ)「でも、若宮さん‥あなたを見ていると、もしかしたらその答えがわかるかもしれない」
〇荒廃した街
若宮はづき「それは‥どういうことですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「それは‥」
瑠璃沢(るりさわ)「ぐぅぅ!!」
若宮はづき「瑠璃沢さん!」
瑠璃沢(るりさわ)「ぐはぁ‥‥」
若宮はづき「瑠璃沢さん、瑠璃沢さん! 刺されてる、何で‥」
若宮はづき「瑠璃沢さん!いま救急車を!」
瑠璃沢(るりさわ)「いいんです、若宮さん‥これはわかっていたことですから‥」
若宮はづき「そんな、そんな‥」
瑠璃沢(るりさわ)「あなたを見ていると‥彼女を思い出すんです‥」
若宮はづき「瑠璃沢さん、しっかりして‥」
瑠璃沢(るりさわ)「ずっと惹かれていた彼女の事を‥その人はどこか‥若宮さん、あなたに似ています‥」
若宮はづき「瑠璃沢さん、わかりましたから、今はしゃべらないで!」
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さん‥あなたには資質が‥両方を使える人物には、この仕組みが求めている‥非常に優れた資質が‥」
若宮はづき「いいんです、しゃべらないで‥」
瑠璃沢(るりさわ)「とても優秀な‥独裁者になる資質が‥」
若宮はづき「独裁者‥」
瑠璃沢(るりさわ)「若宮はづ‥き‥さん‥どうか」
若宮はづき「瑠璃沢さん!」
瑠璃沢(るりさわ)「希望を‥‥」
若宮はづき「瑠璃沢さん!瑠璃沢さん!‥瑠璃沢‥さん‥なんでー!」
〇荒廃した街
若宮はづき「どうして‥どうして‥」
若宮はづき「もう‥どうなっても‥‥」
〇荒廃した街
「立て!若宮はづき!」
若宮はづき「‥‥えっ」
調整人・綴木(つづるぎ)「立て!ここから離れるぞ!」
若宮はづき「‥あなたは」
調整人・綴木(つづるぎ)「しっかりしろ!巻き込まれるぞ!早く立ち上がれ!」
若宮はづき「でも、でも、瑠璃沢さんが‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「わかってる‥だが、まずお前が生き残れ!」
若宮はづき「そんな、無理です、無理なんです‥もう、もう‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「瑠璃沢に頼まれたんだ!お前を助け出せとな!立て、若宮はづき!」
若宮はづき「‥瑠璃沢さん‥に?」
調整人・綴木(つづるぎ)「ああ‥こうなる事をわかっていたんだろう」
若宮はづき「瑠璃沢さん‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「ちぃっ!」
暴徒「ぐわぁ‥‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「お前に何かがあったら、瑠璃沢との約束を裏切った事になる!」
若宮はづき「瑠璃沢さん‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「頼む!ここから離れるんだ!」
若宮はづき「‥はい」
〇郊外の道路
調整人・綴木(つづるぎ)「ここまで来れば大丈夫だろう‥」
若宮はづき「‥瑠璃沢さん‥は‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「警察には連絡しておいた‥あの騒ぎだ、おそらく瑠璃沢以外にもけが人が出てるだろう」
若宮はづき「瑠璃沢さん‥何で‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「わかっていたはずだ、トランクの中身を渡すという事はどういうことかって事を」
若宮はづき「だけど‥だけど‥何で瑠璃沢さんが‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「詳しくは知らないが‥引き継ぐという事はそう言うことらしい」
若宮はづき「そんな、そんな‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「おい‥」
若宮はづき「みんな、みんな‥母も、瑠璃沢さんも‥みんな死んでしまって‥何で私が‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「しっかりしろ!若宮はづき!お前にはまだやることがあるだろ!」
若宮はづき「‥やる‥事‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「明日、最後のトランクが届く‥その中身を届けるんだ」
若宮はづき「最後の‥トランク‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「それで‥全てが終わるんだ」
若宮はづき「‥そうしたら‥そうしたら、どうなるんですか?」
調整人・綴木(つづるぎ)「それをお前が確かめろ‥」
若宮はづき「私が‥確かめる‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「お前は‥希望なんだそうだ」
若宮はづき「希望‥?」
調整人・綴木(つづるぎ)「ああ、瑠璃沢がそう言っていた」
若宮はづき「希望‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「じゃあ、俺は行く‥気をつけて帰れよ」
若宮はづき「‥ありがとうございました、綴木さん‥あの」
調整人・綴木(つづるぎ)「‥なんだ?」
若宮はづき「あなたは、大丈夫なんですか?」
調整人・綴木(つづるぎ)「大丈夫?どういう意味だ?」
若宮はづき「綴木さんは‥なんだか、あなたの仲間とは違う行動をしているような気がして‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「違う行動か‥落ち着くと頭が回るな‥ 気にするな、俺はそんなに弱くない じゃあな!」
若宮はづき「‥はい」
若宮はづき「瑠璃沢さん‥」
〇貴族の応接間
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そう‥」
宇津木「はい、先程連絡がありました」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「‥あの子は?」
宇津木「無事なようです」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そう‥‥宇津木」
宇津木「はい?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あの男に連絡を取って」
宇津木「あの男?と言いますと?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「この間あなたを苦しめた、あの男よ」
宇津木「彼を‥しかし、なぜ?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あの男にしか出来ない事をしてもらうわ」
宇津木「それはいったい‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「‥頼んだわよ」
宇津木「‥はい」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「それから‥しばらくひとりにしてもらえる」
宇津木「はい、かしこまりました」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「瑠璃沢‥」
〇荒廃した教会
江野知世「もし瑠璃沢くんが困ったら、千穂呂ちゃん‥助けてあげてね」
〇貴族の応接間
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「まったく‥助ける前に‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「‥‥」
〇古いアパートの一室
若宮はづき「鳴らない‥鳴るわけが‥無い‥」
若宮はづき「これは‥何なの‥何で‥」
若宮はづき「許せ‥ない‥」
若宮はづき「誰か来た‥こんな時間に? そんなことって‥」
〇アパートの玄関前
若宮はづき「誰‥ですか?」
「こんばんは、はづきちゃん」
若宮はづき「えっ!?」
白崎文月(しらさきふづき)「久しぶり!」
続く
ええ!
何で?