英雄<カルマ>は秤にかけられた

資源三世

ある英雄に花束を(脚本)

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〇荒廃した街
  この世は弱肉強食である
透「ここまでかな」
透(バイクはガス欠、食料も尽き、目の前にはゾンビ)
透(やるしかないか)
  私は覚悟を胸に、ゾンビへ一歩踏み出す
透「君のこと、ちょっと食べてもいい?」
  生きる為の捕食を誰が咎められるのか
透「いや、やっぱり人間は無理だ」
透「ゾンビ牛は美味しかったけど」
遊「ご無事ですか?」
透「キョンシー?」
  ゾンビを襲う私の前に現れたのは、おいし、もとい可愛い女の子だった

〇中華料理店
???「にゃー!」
遊「添い寝も耳の甘噛みも禁止っていったでしょ」
透「いやぁ、調査が続いて疲れたせいかな」
透「抱き枕の誘惑に勝てなかったんだよ」
遊「誰が抱き枕だー」
  ゾンビを襲っているところを救われた私は、対ゾンビ部隊『アンデッド』の兵舎に逗留することになった
  人の住む集落も隣にあるが、遊を気に入ってしまった私はこちらを選んだのだ
遊「次やったら、一人部屋行ってね」
透「じゃあ、次はいけるところまでいっとかないと」
遊「何するつもり?」
透「何しよっか?」
遊「スケさんが食べて落ち着けだって」
透「はーい」
遊「今日も炭鉱の調査にいくの?」
透「いや今日は集落かな。食料とガソリンを買わないと」
遊「それって、旅の──」
元締「失礼する」
遊「元締?」
元締「U号を取り押さえろ」
透「ちょっと待って、急に何?」
元締「見ない顔だな。あぁ、奇矯な旅人が兵舎にいると聞いたな」
透「私はただのゾンビ研究者だ」
元締「私はこの集落の元締だ」
透「遊に何の用」
元締「余所者に話す義理はないが、まあいいだろう」
元締「集落周辺の状況は聞いているか?」
透「近くの炭鉱に巣食っていた敵性ゾンビを殲滅して、ようやく復興に入り始めた」
元締「だが、疲弊した民衆は今は希望より、不満のはけ口を求めている」
透「まさか、スケープゴートで集落の統制をとるつもり?」
元締「理解が早いな。そうだ、皆の溜飲を下げ、前に進むには必要なことだ」
元締「戦いが終わり、必要のなくなったアンデッドは適任だろう」
元締「だが安心しろ。集落を守ってきた功績を鑑みて、人並に裁判は受けさせてやる」
遊「わかりました」
透「駄目だよ、遊」
遊「大丈夫、私達、今まで集落の為に頑張ってきたんだもん。悪いことにはならないよ」
透「なら私も遊と裁判に参加する。いいね、元締?」
元締「好きにしろ」

〇荒れた競技場
透(聴衆が私達へ向けるのは敵意に軽蔑、悪意。デマを飛ばして、仮想敵にされてるな)
透(とんだアウェイだね)
元締「貴様らの働きで近辺のゾンビは殲滅できた。これには感謝しよう」
元締「だが炭鉱殲滅戦完遂まで想定以上の被害が出ている。危機意識が低いんじゃないかね」
遊「む、無理です。敵性ゾンビは私達の何倍もいて──」
元締「そんなこと分かってただろう!」
透(恫喝)
遊「で、でも、作戦の立案は──」
元締「私だが、なんだ? 私のせいだと言いたいのか?」
透(被害者を装う)
遊「私達は──」
元締「なんだ? 仕事も出来ない癖に、守るべき我々には嚙みつくのか?」
透(罪悪感を抱かせ、反論を封じる)
元締「所詮、貴様らは死者の模造品。いなくなることが正しいと思わないのか?」
透(感情的で中身のない議論。だが聴衆を煽るのだけは上手い)
透「遊?」
遊「ねぇ、私達が頑張ってきたことは何だったの?」
遊「違うよ。こんな結末の為なんかじゃない。私達は──」
透「はむっ」
遊「にゃっ! み、耳?」
透「笑って、遊。可愛いお顔が台無しだよ」
遊「でも」
透「裁判が終わったら、一緒に旅をしようよ」
透「遊達が守り、私達が復興させる。新たに芽吹き始めた世界の美しさを見せたいんだ」
遊「透・・・」
透「その為にも」
透「この茶番は終わらせようか」

〇荒れた競技場
元締「まだ議論を続ける気か?」
透「そうだね。最後に幾つか質問させてよ」
元締「構わん」
透「作戦の立案をしてるんだ。ゾンビの生態には詳しいよね?」
元締「もちろん。住民の為、専門書を読みこんだものだ」
透「炭鉱作戦の決行も元締が決断した?」
元締「そうだ。ゾンビの巣だからな、早急に処置が必要だった」
透「大規模作戦である以上、当然、政府の指示を仰いだ」
元締「あ、あぁ」
透「念の為だけど、炭鉱戦後にEL散布はした?」
元締「え?」
透「まさか」
元締「あ、あぁ。やったとも」
透「ではAS保護は?」
元締「や、やってある」
透「UWQ値は基準値まで回復した?」
元締「あ、あぁ」
透「そう。じゃあ、最後の質問」
透「EL、ASって何? 今、適当に考えた言葉なんだけど」
元締「なっ!」
透「正しくはα2消毒、J式処置。UWQ判定は本物ね」
元締「騙したのか? こんなもの──」
透「こんなもの知っていて当然の知識だ。なのに訂正はおろか、疑問すら持たないのか」
元締「私は専門家じゃないんだ、間違いくらい──」
透「間違いで済むか。全てが住民の生命及び生活に関わるものだぞ」
元締「変人如きが」
透「作戦のことを聞いてから、炭鉱を調べたが、汚染度A+、進入禁止レベルだったよ」
透「炭鉱はもう使えない。復興の資源、集落の収益に相当の損失を与えたね」
元締「貴様に何が分かる! 状況は動き続けているんだ、政府を待って──」
透「大した知識もなく、結果に責任を持たないあなたが動いた結果が今だろう!」
透「私は野生動物ゾンビを食して、飢餓問題の解決にならないかと考えた。だから、実際に食べてみた。結構おいしかった」
透「アンデッドは人類を守るため、我が身を顧みず戦場に向かっている」
透「では、元締は我が身を捨てるほどの覚悟で何をした?」
元締「ぐっ」
透「では聴衆諸君に問おう」
透「我らを守ったアンデッドと保身の為政者! 君達の隣人はどちらだ?」
透「自らの頭で考えて選べ」
  結果は語るまでもなかった

〇街外れの荒地

〇荒野
透「遊はどこへ行きたい?」
遊「海! 本物見たいし、お魚食べたい!」
透「よし、海産物ゾンビを食べに行こう」
遊「え? ゾンビ?」
透「楽しい旅になりそうだ」

コメント

  • スケルトンのスケさんがいい味出してました。透が披露したディベートにおける相手の戦略分析と対抗策は参考になりますね。無邪気な遊と切れ者の透はいいコンビになりそう。

  • ハッピーエンドでとても面白かったです!
    また、キャラが可愛すぎる😍この少し先が気になる感じがまた終わりとしてよかったように思います。

  • とてもスカッとするお話でした!
    確かにこんな可愛い抱きまく…子が居たらついついもふもふしてしまいそうですよね笑
    好きな場所へたくさん行けるといいですね!

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