読切(脚本)
〇黒
──ばあちゃんが死んだというのに、兄は、ばあちゃんの葬式に参列しなかった。
〇黒
うちは父の不倫が原因で離婚している。兄は父のことを嫌っていた。だから父方の祖母の葬儀には参列したくなかったのだろう。
〇男の子の一人部屋
どーせ来ないだろうと思っていたけれど、ばあちゃんが死んだということだけは、兄に報告することにした。
〇男の子の一人部屋
誠一「ばあちゃん亡くなったって」
兄「ああ、そう。あいつの親なんだから、ろくな人生は送ってこなかっただろうな。はい、ご苦労さんっと~」
誠一「葬式には出ないの?」
兄「ん? 逆に出るの? 俺のばあちゃんは1人しかいないし、そのばあちゃんはすでに亡くなっているんで・・・・・・」
兄は全然寂しそうではなかった。
兄は、両親の離婚後、父方の親族とは一切関わろうとしなかった。
兄は、父のことも嫌いだったが、父方の祖父母、父の兄の輝正叔父さんとその息子の高太郎のことも嫌いだった。
兄「輝正もくるんだろ? あいつの兄だけはある。人間が腐ってる。その息子の高太郎もな、生意気なんだよ」
兄の2人に対する表現は全く嘘というわけではない。正直、僕も輝正叔父さんは嫌いだ。
兄と違って露骨に態度に出したことはないけれど。
輝正叔父さんは、偉そうで人を馬鹿にしたような物の言い方をする。自分を王様か何かと勘違いしているのだろう。父もそうだけど
輝正叔父さんは、学生時代 バイクで事故を起こしたらしい。その時相手の人が怪我をしたというのにそのことを全く反省してない。
それどころか当時のことを武勇伝として語っている。
〇葬儀場
輝正叔父さん「おい、誠一はどうした?」
誠一「兄ちゃんは仕事だから来れないみたい・・・」
輝正叔父さん「ふん・・・やっぱりか。あいつはクズだな。ばあちゃんが死んでんだぞ? 普通来るだろ? ゴミクズだなやっぱりあいつは」
案の定 輝正叔父さんは横暴な口調で兄のことを馬鹿にする。
輝正叔父さん「それに対して、お前だけはしっかりしてるなー。お前のためなら俺は力を貸してやるからな!」
輝正叔父さん「そうだ、 お前の結婚式は壮大にしてやるからな! 23歳ってことはそろそろ考えてもいい頃だろ?」
この状況で、先週彼女と別れたとは言い出せなかった。
誠一「はははっ・・・そのうちね~」
テキトーに笑って誤魔化す。
輝正叔父さん「そういえば、お前は福山商事だったよな? まだ続いてんのか?」
誠一「うん、まあ一応ね・・・」
輝正叔父さん「優秀だなお前は。それに比べてあいつは? 誠一は今何してる? どーせろくな仕事に就いてないだろ?」
兄が今何をしているかを、輝正叔父さんに言うと兄に殺されそうだ。
兄が何をしてるかを輝正叔父さんが知ったら、どう動くかは予想できる。
おそらく手のひらを変えたように兄を褒め称え、お金をせびりにいくだろう。
〇葬儀場
だから、適当なことを言って誤魔化した。
誠一「小さな工場で働いているって。叔父さんはたぶん聞いたことのないような小さな会社」
輝正叔父さん「だろうな、やっぱりか、あいつはそのレベルだわな」
輝正叔父さん「あいつとお前ではお前の方が昔から優秀だったもんな。お前は大卒で、あいつは何だっけ? 専門学校を中退だったか?」
輝正叔父さん「どうせ、仕事もどれも長続きはしなかったろ?」
兄が来ていないことが気に入らないのか、兄が露骨に嫌いだという態度に出していたからか、兄のことを悪く言いたい放題。
輝正叔父さんの言った通り、勉強もスポーツも兄に比べたら僕の方が出来た。容姿も僕の方が整っていると言われることが多かった。
兄よりも僕の方が優れている部分が多いというのは事実ではあった。
兄が僕よりも優れていたことと言えば、「運」と「友だち」
兄はその「運」と「友だち」の力で大金持ちになった。
〇ライブハウスの控室
数字式の宝くじを信頼している友だち3人の誕生日で、買った所 見事1等を的中。
そのお金を使って信頼している友人と事業を起こして細々とやっている。
確かに昔は優秀だったかも知れないけれど、今は明らかに兄の方が優秀だ。
金はあるから必死で働く必要もないし、ワイワイ出来る友だちもいる。嫌なことは我慢せず、好きなことをして人生を楽しんでいる。
おそらく今の事業てやつも、趣味の延長上でやっているんだと思う。
〇個別オフィス
兄「ようやくだ。ようやくここまで来たか・・・」
兄「俺の復讐は、これから始まる。お前ら、ついてきてくれるよな?」
佐藤「ああ」
加山「もちろんだ」
「祖母の葬式に出ない孫」と言うと聞こえは悪いけど、両方の立場を聞いてみないと物事は判断できませんね。それにしても叔父さんは葬儀にもスエット上下だし、甥っ子の名前も兄と弟を取り違えるほどロクでも無いやつということでしょうか。そこに一番ゾッとしました。
人を馬鹿にする人ほど、自分の姿が見えていないものですよね。
私の周りでも似たように悪口ばかり言っている人がいます。
そういう人ほど、やっぱりよく思われないものですよね。
葬式や結婚式といった親族が集まる際にお目にかかる、典型的な面倒くさい親戚って感じですね、叔父さんは。誠一くんのリアクションのリアルさには納得です!