トランクの人

銀次郎

縁との永別(脚本)

トランクの人

銀次郎

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〇黒背景
若宮はづき「何だろ‥暗い‥それに、何か苦しい‥」

〇SNSの画面
「クソがクソがクソがクソが」
「お前が死ね、消えろ、クズ!」
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」
「消えろ、消えろ、消えろ、消えろ、消えろ」
「So what?」
「You’re super annoying!」
「Fu●● you! Fu●● you! Fu●●you!」

〇血しぶき
若宮はづき「わぁーーーー」

〇流れる血
若宮はづき「もうやだ‥やだやだやだ‥」

〇荒廃した改札前
若宮はづき「こんなの‥‥」

〇荒廃した街
若宮はづき「どうしてこんな‥‥」

〇荒廃したセンター街
若宮はづき「何が起きてるのよ‥‥何なのよ」

〇手
若宮はづき「いやー、いやいやいや!」

〇骸骨
若宮はづき「キャーーーーー!」

〇古いアパートの一室
若宮はづき「はぁはぁはぁ‥」
若宮はづき「うわ‥何でこんな夢、今日も見るのよ‥ でも、何か生々しかったなぁ‥」
若宮はづき「あー気分わる、もうシャワー浴びよっと!」

〇黒背景
  ピンポーン♪
「まいどー、お届け物でーす!」

〇アパートの玄関前
配達員「はい、いつものトランクです」
若宮はづき「はい、ありがとうございます じゃあこれ、昨日の」
配達員「はい、回収しますねー、それじゃ」
若宮はづき「あっ、あのー」
配達員「はい?」
若宮はづき「あのー、お兄さんって、このトランク配達専門の方なんですか?」
配達員「は?」
若宮はづき「いやー‥、何かいつも不思議だなぁって思って」
配達員「あー、普段は普通の宅配してますよ これは単なる小遣い稼ぎ」
若宮はづき「小遣い稼ぎ?」
配達員「頼まれたんですよ、ここにトランク届けて、前のを回収すれば、1週間で10万だすって」
若宮はづき「10万‥」
配達員「ええ、割の良い稼ぎでしょ?だからね」
若宮はづき「でも‥何か怪しくないですか?」
配達員「そりゃ、ちょっとはそう思ったけど、犯罪じゃないって言うし、まあ、細かいことを詮索してもね‥金がもらえればいいんで」
若宮はづき「そうですか‥」
配達員「それより、そっちのが怪しくないですか?」
若宮はづき「そっち?私ですか?」
配達員「ええ、何でここにいるのかは知らないですけど、だってこのアパート、あなた以外誰も住んで無いんですよ」
若宮はづき「えっ?」
配達員「何度か来てますけど、誰にも会わないし、それに普段の宅配でも、ここに来た事ないんですよね」
若宮はづき「‥そうなんですか」
配達員「まあ、それぞれ事情があるから詳しく聞かないですけど、お姉さんも用が済んだら、早く出てった方がいいんじゃないですかね?」
若宮はづき「‥‥」
配達員「それじゃ、失礼しまーす」
若宮はづき「誰も住んで無い‥か」

〇古いアパートの一室
若宮はづき「‥まあ、いいや、とにかく中身だ!」
若宮はづき「CD?DVD?どっちだ? あっ、メモはと‥」
若宮はづき「海加茂総合病院 13時 高梨奏絵 女性 ちょっと遠い場所だな‥とりあえず、支度して向かおう」

〇海岸線の道路
若宮はづき「この坂の向こうか‥」

〇大学病院
若宮はづき「ここだ‥何かすごくいい場所にあるんだ、この病院」

〇海辺の街
若宮はづき「わー、すごーい!」
若宮はづき「あっ、見とれてる場合じゃないや! 行かなきゃ!」

〇病院の待合室
若宮はづき「あのー」
看護師「はい?」
若宮はづき「あの、高梨奏絵さんの病室はどちらでしょう?」
看護師「高梨さん?えーっと、高梨奏絵さんは411号室ですね、奥のエレベーターで上に上がれますよ」
若宮はづき「ありがとうございます」
看護師「‥‥」

〇大きい病院の廊下
若宮はづき「この部屋だ‥すいません、失礼します」

〇田舎の病院の病室
若宮はづき「あっ‥」
若宮はづき「(青が‥すごく強い‥)」
若宮はづき「あの‥」
高梨奏絵「‥‥」
若宮はづき「あのー‥」
高梨奏絵「‥‥」
若宮はづき「あっ、えーっと‥」
高梨夏葉「なんでしょう?」
若宮はづき「えっ!はい?」
高梨夏葉「母に何か御用でしょうか?」
若宮はづき「‥母?えっ?娘さんですか?」
高梨夏葉「そうですけど‥何か御用ですか?」
若宮はづき「あのー、えっと、お届け物がありまして、高梨奏絵さんに」
高梨夏葉「届け物‥? えっ?宅配便か何かですか?」
若宮はづき「いやー、そういうわけじゃ無いんですけど‥そのー」
高梨夏葉「‥‥」
高梨充啓「夏葉、どうかしたのか? あれ、その方は?」
若宮はづき「あー‥そのー」
高梨夏葉「ママに届け物だって」
高梨充啓「届け物?宅配便ですか?」
若宮はづき「いやー‥」
高梨夏葉「何か‥怪しい」
若宮はづき「いや、あの‥怪しくは無いんですけど‥何と言ったらいいか‥」
高梨夏葉「パパ!看護師さん呼んでくる!」
若宮はづき「あー‥あっ、そうだ!あの、瑠璃沢さんってご存じですか?」
高梨充啓「瑠璃沢?」
若宮はづき「はい、その方から頼まれまして‥」
高梨充啓「瑠璃沢?‥瑠璃沢‥何か聞いた事あるな‥」
高梨夏葉「パパ、知ってるの?」
高梨充啓「‥あー、あの時の方だ!」
高梨夏葉「あの時?」
高梨充啓「ほら、ママが病気になって困ってた時、この病院を紹介してくれた人だよ!」
高梨夏葉「そうなの?」
高梨充啓「ああ、ママが脳腫瘍で前の病院に入院してた時、たまたまその方と知り合って、だったらいい病院がありますよって」
若宮はづき「(この病院を‥紹介した?)」
高梨充啓「その瑠璃沢さんですよね?」
若宮はづき「えっ?ええ、はい」
高梨充啓「違うんですか?」
若宮はづき「いや、そうだと思いますが、私は経緯など聞いていなかったものですから‥」
高梨充啓「そうですか、いやー感謝してるんですよ、瑠璃沢さんに」
若宮はづき「感謝?」
高梨充啓「はい、前の病院では持って1年と言われてましたが、ここに転院して来てから病状も安定していて、もう4年も経ってるんです」
若宮はづき「そうなんですか‥」
高梨充啓「正直、医療費の心配もしてたんですけど、何でも新しい治療法や新薬を治験的に使用しているからと、かなり費用も抑えてもらって」
高梨夏葉「ほらパパ、それにあの先生もすごいじゃない!」
高梨充啓「ああ、あの先生か」
若宮はづき「あの先生?」
高梨充啓「月に1回だけなんですが、別の病院から診察に来てくれる先生がいるんです 何でも脳に関するその道の権威なんだそうで」
高梨夏葉「凄いんですよ、その先生!ちょっとお話しして、ママに触るだけなのに、その時はママが急に良くなって」
高梨充啓「ああ、そうだな、その時だけは少し話も出来たりするんですよ」
若宮はづき「触るだけで‥急に‥」
高梨充啓「確か遠野か遠井か、そんな名前の先生だったかな?」
若宮はづき「(遠野井さんだ‥イザナギを使ったんだ)」
高梨夏葉「そう言えば、今月はまだ来てないね、先生」
高梨充啓「そうだなー、そろそろ来る頃なんだけど‥」
若宮はづき「‥‥」
高梨充啓「あのー、ところで‥」
若宮はづき「‥はい?」
高梨充啓「その、届けてくれた物って、何なんですか?」
若宮はづき「えっ?あっ、はい、これです」
高梨充啓「CDかDVDですかね?」
若宮はづき「いやー、私も細かい事は‥」
高梨夏葉「パパ、これ再生できる?」
高梨充啓「うーん、たぶんパパのパソコンで出来るかな?ちょっと待ってて」
高梨充啓「よし、これで大丈夫と‥これ、音源だね、入ってるの」
若宮はづき「そうなんですか」
高梨夏葉「ママに何でしょ、これ?」
若宮はづき「はい、そうです」
高梨夏葉「じゃあ、ママに聞かせてあげたらいいんじゃない?」
高梨充啓「そうか、そうだな! よし、そうしよう!」
若宮はづき「(瑠璃沢さんや遠野井さんが関わってる‥この女性は一体何者なの?)」
高梨充啓「じゃあ、行くよ、奏絵 よく聴いてね」
高梨夏葉「‥‥どう、パパ?」
高梨充啓「うーん、特に変わりはないかな‥」
高梨夏葉「‥そっか」
若宮はづき「(遠野井さんがイザナギを使っていたという事は‥この女性を生かしていたということか‥)」
高梨充啓「そういえばこの曲‥どこかで‥あっ!」
高梨夏葉「どうかしのた?パパ?」
高梨充啓「いや、何でも‥まあ、なかなかうまくはいかないよ」
高梨夏葉「うん‥」
高梨充啓「それに、前の病院にいた頃を思えば、すごく落ち着いているし」
若宮はづき「(持って1年が4年‥生かし続ける‥炭屋さんみたい‥そうか)」
高梨夏葉「うん‥そうだよね」
若宮はづき「(だとしたら、生かしている理由があるはず‥理由‥)」
若宮はづき「あっ、あのー!」
高梨充啓「はい、どうしました?」
若宮はづき「奥様の手を握っていいですか?」
高梨充啓「はっ?」
若宮はづき「いやー、その、何だかお話し聞いてたら、ご家族仲が良いんだなぁって思って、せっかくなんで、握手してお別れしようかなって‥」
高梨充啓「はぁ‥まあ、そう言うことでしたら、かまいませんよ」
若宮はづき「ありがとうございます‥じゃあ (高梨奏絵さん‥あなたは‥何者なの?)」
高梨奏絵「ふぅ・・・ああ」
高梨夏葉「あっ!」
高梨奏絵「ああ、ああ‥」
高梨充啓「すごい、意識が!」
若宮はづき「あの、パパさん、さっきの音楽かけられます?」
高梨充啓「えっ、あっ、ちょっと待って!」
高梨夏葉「ママ、ママ、聞こえる?わかる?」
高梨奏絵「‥ママ‥ママ」
高梨夏葉「夏葉よ!ママ、ママ!」
高梨奏絵「なつは‥なつ‥は」
高梨充啓「よし、音楽かけられるよ!」
若宮はづき「じゃあ、お願いします」
高梨奏絵「ああ‥これは‥」
高梨夏葉「すごい!あの先生が来てる時みたい!」
高梨奏絵「は‥は‥」
高梨夏葉「うん、ママ!夏葉だよ」
高梨奏絵「は‥はづき」
若宮はづき「(‥なんで私の名前を‥)」
高梨夏葉「ママ?どうしたの?」
高梨奏絵「はづ‥き‥ごめんね‥はづき‥」
若宮はづき「(‥‥この人は)」
高梨夏葉「ママ?ママ?」
高梨奏絵「はづ‥」
若宮はづき「(この人は‥‥私を捨てた‥母親だ‥)」
高梨奏絵「は‥あっ‥‥‥」
高梨充啓「どうかしましたか?急に離れて?」
若宮はづき「あっ、いえ‥‥あのー、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど‥奥様の件で」
高梨充啓「妻の事ですか?」
若宮はづき「はい、出来ましたら廊下で‥いいですか?」
高梨充啓「廊下?あー、わかりました 夏葉、ママを頼むよ」
高梨夏葉「うん‥」
高梨夏葉「何の話だろ‥」

〇大きい病院の廊下
若宮はづき「すいません、廊下に出てもらって‥」
高梨充啓「いえ‥たぶん娘には聞かせたく無い話でしょうから」
若宮はづき「すいません‥」
高梨充啓「で、何ですか?聞きたいことって?」
若宮はづき「はい‥あれ?」
高梨充啓「どうかしましたか?」
若宮はづき「いや‥誰かが(誰かがこっちを見てた‥)」
高梨充啓「えっ?」
若宮はづき「あっ、いえ、何でもないです」
高梨充啓「はぁ‥」
若宮はづき「ところで、あの‥奥様とはどこで知り合ったんですか?」
高梨充啓「‥やっぱり、そうか」
若宮はづき「やっぱり?」
高梨充啓「いえ‥さっきの曲と「はづき」って名前、それで何となく」
若宮はづき「その‥何かご存じなんですか?その事について?」
高梨充啓「あのー‥もしかして、はづきさん?ですか?」
若宮はづき「えっ!あっ、いえいえ! あのー、誰なんです?「はづき」って?」
高梨充啓「違うならすいませんでした‥あなたを見て妻が「はづき」って言ったので、てっきり‥」
若宮はづき「あー、なるほど‥ほら!ちょうどあの曲と手を握った事がうまくいって、色々な言葉が出たのかもしれないですよ」
高梨充啓「確かに‥そういえば、毎月来ていて先生も必ず手を握っていました‥そうか、そういうこともあるのか」
若宮はづき「‥‥」
高梨充啓「妻は再婚なんです‥ただ、前の家族とはもう繋がりが無いみたいで‥」
若宮はづき「繋がりがない?」
高梨充啓「はい、詳しくは聞いていないのですが、前の家族‥娘さんがいたらしいんですが、酷いことをしたと」
若宮はづき「‥酷いこと?」
高梨充啓「暴力です」
若宮はづき「‥‥」
高梨充啓「前のご主人は娘さんが生まれるすぐ前に亡くなってしまって、彼女ひとりで娘さんを育てていたようなんですが‥それが」
若宮はづき「‥それが?」
高梨充啓「それが、かなりの負担だったようで、日々の不安やストレスで自分をうまくコントロール出来なかったみたいです」
若宮はづき「‥そうなんですか」
高梨充啓「ええ、このままではきっとこの子を殺してしまうと、そう思ったから子供を置いて逃げ出したと言っていました」
若宮はづき「‥‥」
高梨充啓「私と出会ったのはそれからしばらくして、彼女が病院に通っている頃でした」
若宮はづき「病院‥ですか」
高梨充啓「はい、娘さんに暴力をふるった事や、そこから逃げ出した事で自分を許せなくなり、心を病んでいたんです」
若宮はづき「そんなことが‥」
高梨充啓「それで病院に通っていて、そこでたまたま怪我で通院していた私と知り合ったんです」
若宮はづき「それでご結婚を?」
高梨充啓「彼女は結婚をとてもためらっていました きっとまた同じよう暴力をふるうと、我慢が出来なくなると‥でも、私が付いているからと」
若宮はづき「‥それで、その‥結婚の後は」
高梨充啓「娘が生まれて、最初は少し心配しましたが‥大丈夫でした‥本当に夏葉を愛してくれています」
若宮はづき「‥‥」
高梨充啓「でも、たまに言うんですよ‥「はづき」に申し訳ない、本当をあの子もこんな風に愛せたはずなのにって‥」
若宮はづき「その‥以前の娘さん、「はづき」さんは今どうしているんですか?」
高梨充啓「詳しくは知りませんが、妻の話では亡くなったご主人の祖母が引き取ったと」
若宮はづき「そうですか‥「はづき」さんは、元気なんでしょうかね」
高梨充啓「わかりません‥妻が「はづき」さんの話をすると、いつも少し不安定になるので、何もかも忘れるようにと名前まで変えたのに‥」
若宮はづき「名前を変えた?」
高梨充啓「ええ、彼女の名前「奏絵」は、元々は香に苗で「香苗」と書くんです」
若宮はづき「改名したんですか‥」
高梨充啓「はい‥本当はまったく違う名前にするつもりだったんですが、彼女がどうしても「かなえ」にこだわって」
若宮はづき「こだわった?」
高梨充啓「必ずいつか「はづき」に謝る時が来る、その時のため、「はづき」に気づいてもらうために「かなえ」だけは捨てたくないと言って‥」
若宮はづき「そうなんですね‥」
高梨充啓「‥彼女、いつまで苦しむんでしょうね」
若宮はづき「えっ?」
高梨充啓「夏葉が生まれてからも、ずっと後悔していました‥自分だけが幸せになっていいのかって、私は必ず罰せられるべきだって‥」
若宮はづき「‥‥」
高梨充啓「それに‥この病院に来てから、安定はしていますが、意識が戻る訳では無いし‥何と言うか、私たちのエゴで生かしているみたいで‥」
若宮はづき「そんなことは‥」
高梨充啓「前の病院だったら、きっともう亡くなって‥いや、嬉しいんです、私や夏葉は彼女が生きていてくれて嬉しいんですけど‥ただ‥」
若宮はづき「ただ?」
高梨充啓「本当は彼女の命はもう終わっているんじゃ‥彼女も終わらせたいんじゃないかと‥だってあれだけ苦しんで、やっと楽になれるのに‥」
若宮はづき「(もう終わっている命を‥生かしている‥やっぱり)」
若宮はづき「あの‥」
高梨充啓「はい?」
若宮はづき「きっと意味があるはずです‥彼女が生き続けている意味が」
高梨充啓「そうですね‥」
若宮はづき「あっ!そう言えば、さっき再生してもらったあの曲、何か聞き覚えがあるようでしたけど?」
高梨充啓「あー、あれは奏絵がその「はづき」さんと一緒に暮らしていた頃、よく聞いていた曲みたいなんですよ」
若宮はづき「一緒に暮らしていた頃?」
高梨充啓「ええ、まだ暴力をふるう前、短かったけどあの子と幸せだった頃によく聴いていたと、夏葉が生まれる前はよく口ずさんでいました」
若宮はづき「幸せだったころ‥ですか」
高梨夏葉「パパ、あのさ‥」
高梨充啓「うん?どうかしたか?」
高梨夏葉「ママが、また、いつもみたいに戻っちゃって‥」
高梨充啓「そうか‥」
高梨夏葉「うん‥」
高梨充啓「‥そうだ、さっきこの方にやってもらったみたいに、また曲をかけて、今度は夏葉がママの手を握ってあげてごらんよ」
高梨夏葉「‥うん」
高梨充啓「どうかした?」
高梨夏葉「‥やっぱりママは、ずっとこのままなのかな‥」
高梨充啓「夏葉‥」
高梨夏葉「何だかママ‥無理して生きてるみたいで‥」
高梨充啓「そんなわけないだろ、夏葉だってパパだって、ママに生きていて欲しいから‥」
高梨夏葉「でも、あの先生が来たときはちょっと元気になるけど、しばらくするとホントに何か‥生きてる気がしないの‥」
高梨充啓「‥‥」
高梨夏葉「ホントはママも‥もう生きてるの辛いんじゃないかな‥」
高梨充啓「夏葉!何てことを!」
高梨夏葉「‥‥ごめんなさい‥」
高梨充啓「‥いや、パパも大きい声を出して悪かった」
高梨夏葉「ううん‥‥パパ、私、ママの手を握ってみるよ」
高梨充啓「そうか‥ありがとうな」
高梨夏葉「いいの‥あっ、あのー‥」
若宮はづき「えっ?私ですか?」
高梨夏葉「お姉さん、お名前は何ていうんですか?」
若宮はづき「えっ?名前?あーっ、名前‥白崎‥です」
高梨夏葉「白崎さん?」
若宮はづき「はい‥白崎文月と言いま‥す」
高梨夏葉「あのー、白崎さん、今日はありがとうございました」
若宮はづき「あっ、いえ‥」
高梨夏葉「久しぶりにママに夏葉って呼んでもらえて‥すごく嬉しかったです もう、呼んでもらうことは無理かなって思ってたんで‥」
若宮はづき「そうですか‥」
高梨夏葉「ホントにありがとうございました じゃあ、パパ!ママの手、握ってみる」
高梨充啓「ああ」
高梨充啓「それじゃ、私も部屋にもどります 二人についていてあげたいので」
若宮はづき「はい」
高梨充啓「いろいろ、ありがとうございました では、失礼します」
若宮はづき「はい、失礼します」
若宮はづき「(瑠璃沢さん、遠野井さん、そして私の母、この3つが繋がっているって事は‥きっと自分に関係ある事だ‥)」
若宮はづき「でもいったい何の理由が‥あっ!」

〇大きい病院の廊下
看護師「まずい‥」
若宮はづき「あの人!‥ちょっと待って下さい!」
看護師「ちぃっ!」
若宮はづき「ちょっと待って! あの、何でこっちを見てたんですか?」
看護師「別に見てたわけじゃないですよ、たまたまここに来ただけで‥」
若宮はづき「‥でも、さっきから見てましたよね?」
看護師「‥何のことだか」
若宮はづき「ちょっと待って!わけを教えて!」
看護師「何するの!やめて、手を放して‥あっ!あっ‥」
若宮はづき「教えて、知りたいの?どういうことか」
看護師「がっ!‥あっ‥やめ‥て‥ぐぁっ‥」
若宮はづき「彼女は‥高梨奏絵さんはどうしてこの病院に来たの?」
看護師「がっ‥それ‥は‥生かすため‥」
若宮はづき「生かす?何のために?」
看護師「うっ‥うわっ‥」
若宮はづき「何のために!」
看護師「あっ‥あなたに‥若宮はづきに合わせる‥ため‥に」
若宮はづき「私に?私に合わせてどうするの?」
看護師「合わせて‥ぐぅっ‥合わせて‥いざなむ‥ため」
若宮はづき「いざなむ?それって‥」
看護師「いま‥あなたがしている‥ぐはぁ! それよ‥ぐぁ‥」
若宮はづき「えっ!?」
召使い 鴫野「何て言うのかしら‥いざなむの気配もあるのね」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ほとんど意識しないでやったんでしょ?」
若宮はづき「いざなむ‥意識しないで‥これが‥」
看護師「ぐぅぅ‥いざなむは‥青を光らせ‥命を終わらせる‥それもあなたの‥ぐはぁ‥ちから」
若宮はづき「私が‥あの人を‥母を‥殺すって言うの?」
看護師「あっ‥どちらに‥しても‥ぐっ‥もう助からない‥から」
若宮はづき「だからって‥なぜ私が‥」
看護師「それが‥うわっ‥くっ‥きっかけに‥なる」
若宮はづき「きっかけ?」
看護師「‥そう‥目覚めの‥きっかけ‥」
若宮はづき「それは‥何なの?」
看護師「無理‥もう‥放し‥て‥おねが‥い‥」
若宮はづき「あっ!ごめんなさい!」
看護師「はぁはぁはぁ‥」
若宮はづき「教えて!目覚めって何の話?これは一体何をしてるの?」
看護師「はぁはぁ‥私にも‥はぁはぁ‥詳しいことは‥もう許して‥」
若宮はづき「彼女は?高梨奏絵さんはこれからどうなるの?」
看護師「はぁはぁ‥あなたが何もしないなら、どうにも‥」
若宮はづき「どういうこと?」
看護師「もうここにイザナギ手は、彼女の青を抑える人は来ない‥だから」
若宮はづき「だから?」
看護師「たぶん、意識がないまま時間が過ぎて、そして‥死ぬんだと思うわ」
若宮はづき「そう‥ (あの人は‥母は、巻き込まれたんだ、私に関係ある何かのために‥)」

〇黒背景
高梨充啓「本当は彼女の命はもう終わっているんじゃ‥彼女も終わらせたいんじゃないかと‥だってあれだけ苦しんで、やっと楽になれるのに‥」

〇大きい病院の廊下
若宮はづき「(私の何かのために生かされて‥)」

〇黒背景
高梨夏葉「ホントはママも‥もう生きてるの辛いんじゃないかな‥」

〇大きい病院の廊下
若宮はづき「(私が彼女の命を終わらせるよう‥仕向けられたんだ‥)」
若宮はづき「ふふ‥あなた達の目的で生かし、今度は私の意志で終わらせない‥生かす‥ふふふ」
看護師「‥‥何を?」
若宮はづき「(もう‥あの人を母とは呼べない‥子供の頃の恐怖も、孤独も、憎しみも消えないけど‥)」
看護師「何をするの?」
若宮はづき「(でも‥ここまで理不尽に生かされなくても‥巻き込まれなくても‥)」
看護師「何?何をしようとしてるの?」
若宮はづき「(母として‥許せるかどうかはわからない‥だけど‥)」
看護師「なっ!何なの!」
若宮はづき「(‥だけど‥もう、終わらせて‥あげる)」
看護師「えっ?‥何をしたの?」
若宮はづき「‥‥」

〇大きい病院の廊下
医師「ちょっとどいて!」
看護師「あの?いったい?」
医師「手が空いてるなら手伝って!高梨さんが、急に!」
看護師「急に?」
医師「いいから、どいて! 高梨さん!入りますよ!」
若宮はづき「‥‥」
看護師「あなた‥何をしたの?」
若宮はづき「‥‥」
看護師「イザナミ?でも、触れてもいないで‥こんなに離れてて‥そんなことって‥出来るわけが‥」
若宮はづき「‥あの」
看護師「‥いや!来ないで!」
若宮はづき「あっ‥」
看護師「いやっ、いやっ、いやーーーー!」
「ママ!ママ―!」
「奏絵―!」
若宮はづき「‥‥」

〇大学病院
若宮はづき「なんで‥」

〇海辺の街
若宮はづき「‥なんでこんなに悲しいのよ‥」

〇貴族の応接間
宇津木「との報告がありました‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そう‥」
宇津木「予想外といいますか‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そうね、見誤っていたわね」
宇津木「はい」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「せいぜい瑠璃沢の後釜程度って思ってたけど、これほどとはね 連中、どこまで気づいていたのかしらね?」
宇津木「千寿様、これからどうなさいますか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そうね‥これ以外にも色々起きてきたみたいだし、そろそろこちらからも動かないとね、ふふふふ」

〇荒廃した街
アナウンサー男性「先日よりお伝えしていました海外での暴動ですが、ついに国内でも複数発生していることが確認され、公共機関での厳戒態勢が‥‥」

〇古いアパートの一室
  プルルルルー📞
若宮はづき「はい‥」
瑠璃沢(るりさわ)「お疲れ様です、瑠璃沢です」
若宮はづき「はい‥」
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さん‥大丈夫ですか?」
若宮はづき「‥‥」
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さん?」
若宮はづき「‥瑠璃沢さん」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥」
若宮はづき「母が‥死んだみたいです」
瑠璃沢(るりさわ)「‥はい、伺っております」
若宮はづき「私が‥」
瑠璃沢(るりさわ)「‥‥」
若宮はづき「私は‥私は、いったい何なんでしょう‥」
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さん‥」
若宮はづき「‥2回」
瑠璃沢(るりさわ)「はい?」
若宮はづき「あと、2回」
瑠璃沢(るりさわ)「‥はい、確かに、あと2回です」
若宮はづき「‥また明日、宜しくお願いします」
瑠璃沢(るりさわ)「あっ、はい、若宮さん?」
若宮はづき「お疲れ様でした‥」

〇黒背景
瑠璃沢(るりさわ)「若宮さん‥」

〇古いアパートの一室
若宮はづき「‥‥」
若宮はづき「‥‥私は‥何なんだ」
  続く

次のエピソード:アポトーシス

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