10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在日ミグランス人

第16話 ハングリィ計劃(脚本)

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〇青(ダーク)
マスター・マザー「子育て、毎日ご苦労様」
マスター・マザー「頑張っていますね」
マスター・マザー「でも、もう少し肩のチカラを抜いても良いのですよ・・・・・・」
マスター・マザー「え? 大丈夫?」
マスター・マザー「子供の笑顔がすべてを癒やしてくれる?」
マスター・マザー「そうですね」
マスター・マザー「まるで天使の笑顔」
マスター・マザー「現実を忘れさせてくれる」
マスター・マザー「どんなに辛い事があっても」
マスター・マザー「この子がいれば、生きていける」
マスター・マザー「そう思わせる不思議なチカラがある・・・・・・」
マスター・マザー「そう、例え・・・・・・」
マスター・マザー「例え世界が崩壊したとしても・・・・・・」
  幼児退行の被害は更に拡大していた。
  混乱していたけれども、世界は不思議な幸福感に包まれていた。
  まるで辛い現実から目を逸らす様に・・・・・・

〇ヨーロッパの空港
ムルア「うわ!」
ムルア「凄い情報量だな」
ムルア「ARが一斉に・・・・・・」
アメタ「都会じゃ良く見る景色だよ」
アメタ「特にヨーロッパは政府の数が凄いからね」
アメタ「言語の数も幾つあるのやら」
ウリコ「文明のるつぼだね」
ムルア「難しい言葉知ってるなぁ・・・・・・」

〇綺麗な港町
  ここからは少々別行動だ。
  ウリコはホテルで留守番。
  ムルアは透析の必要があった為、病院へ。
ムルア「何で私だけ・・・・・・」
アメタ「人工血液は腎臓への負担が大きい」
アメタ「仕方がないんだ」
ウリコ「じゃあ私が看病してあげるね」
ムルア「えぇ〜・・・・・・」
アメタ「良し、ウリコ。ムルアは任せた」
ウリコ「りょ〜かい」
  という訳で、僕は一人、FAOの本部へと向かった。

〇大企業のエントランス

〇近未来の会議室
アメタ「お疲れ様です」
ケレス「アメタ壱級監察官?」
ケレス「急な戻りだな」
ケレス「調査の方はどうなっている?」
アメタ「はい。報告致します」
アメタ(さて、どこから話したもんか・・・・・・)
アメタ「先ずは確認です」
アメタ「幼児退行現象は飢渇主義者に多く見られます」
アメタ「特に熱心なハングリストに」
ケレス「だがすべての飢渇主義者に症状が現れている訳ではない」
ケレス「またハングリスト以外にも幼児退行を起こしている者もいる」
アメタ「その通りです」
アメタ「次に疑ったのは、政府から支給されている人工肉です」
ケレス「しかしそれは・・・・・・」
アメタ「飢渇主義者は、その教義に反して裏では食事を摂っています」
ケレス「まさか人工肉を、かね?」
アメタ「はい。しかし母と友人の二名のみで確認しただけで、入手経路は不明です」
アメタ「が、恐らく確実な情報かと思われます」
  ケレスは僕の母親が飢渇至上主義の狂信者だと知っている。
  納得させるには充分な筈だ。
ケレス「・・・・・・驚いたな」
ケレス「しかし人工肉が幼児退行の原因だとすると・・・・・・」
ケレス「症状が現れるのは一部の人間に限られるのではないかね?」
アメタ「そうでもない様です」
アメタ「アラムスタンの調査では、一般的なPMSCsでさえ大量に入手していました」
アメタ「恐らく裏ではかなりの数が出回っていると推察されます」
ケレス「成程」
ケレス「ではそうなると、食糧監察官も幼児退行を起こしていないと辻褄が合わなくなる」
アメタ「ええ」
アメタ「ですから人工肉+α」
アメタ「別の要因が関わっていると推理しました」
ケレス「というと?」
  さて、ここからだ。
アメタ「政府が支給している食糧には、精神安定剤や鎮静剤が添加されています」
アメタ「ご存知でしたか?」
ケレス「いや。初耳だ」
  支給品は違法でもない限りFAOの監査を受けない。
  恐らく本当に知らないのだろう。
アメタ「ではLLPAWMは?」
ケレス「LLP・・・・・・ 何だね?」
アメタ「生存限界数人口調整監視分子郡の略」
アメタ「VMAT2という遺伝子をレセプターに感染するナノマシンです」
ケレス「VMAT2?」
アメタ「通称、神の遺伝子。または幸福の遺伝子」
アメタ「人の信仰心を司るとか」
アメタ「誰もが保持しているそうですよ」
ケレス「そのナノマシンが幼児退行の原因なのかね?」
アメタ「まだわかりませんが・・・・・・」
  段々面倒になってきた。
  というか僕の話術で都合良く必要な情報だけを引き出すなんて無理だ。
  単刀直入でいこう。
アメタ「ケレス代表は、ウェスタ、という秘密結社をご存知ですか?」
ケレス「ウェスタ・・・・・・ ギリシャ神話でいうところのヘスティアだね」
アメタ「かまどの番人・・・・・・」
アメタ「食糧危機を逸早く察知した政府の有力者、食糧関係者のトップ、一部の科学者からなる秘密結社」
アメタ「彼らはLLPAWMを使って、人口を把握、コントロールしているそうです」
ケレス「ではウェスタが今回の幼児退行化現象の首謀者だと?」
アメタ「ケレス代表はその上級メンバーだと伺いました」
ケレス「どこからの情報だ?」
ケレス「・・・・・・いや。聞くまでもないな」
ケレス「LLPAWMの事まで知っているという事はハイヌヴェレだな」
アメタ「はい」
ケレス「わかった・・・・・・」
ケレス「すべてを話そう・・・・・・」

〇研究機関の会議室
ケレス「飲むかね?」
アメタ「いえ。結構です」
ケレス「心配せんでも、毒など入っとりゃせんよ」
アメタ「・・・・・・」
  何だか拍子抜けだ。
  正体がバレた途端、豹変して襲ってくる事さえ想定していたのに。
  ケレスはあっけらかんとしている。
ケレス「ウェスタと言っても、私は右翼、保守派の人間だ」
ケレス「現状の維持する立場にある」
アメタ「ウェスタにも派閥争いがある?」
ケレス「今回の幼児退行現象を引き起こしたのは、恐らく改革派の連中だ」
アメタ「しかしどうやって・・・・・・」
ケレス「『ハングリィ計劃(プロジェクト)』と、それは呼ばれた・・・・・・」
ケレス「アメタ壱級捜査官、君は今の世界人口が幾らだと思うね?」
アメタ「え? 何です? 突然・・・・・・」
ケレス「いいから」
アメタ「約百億でしょう?」
ケレス「どうしてそう思う?」
アメタ「どうしてって・・・・・・ そんなの常識でしょう」
ケレス「では自分で数えたのかね?」
アメタ「まさか。人口を正確に把握するなんて不可能ですよ」
  そう不可能なのだ。
  今こうしている間にも、誰かが産まれ、誰かが亡くなっている。
  例えLLPAWMを使ったとしても黒孩子の様な漏れは確実に存在する。
ケレス「そう。それこそ旧約の神でもない限り不可能だ」
  マタイ伝10章30節。主はあなたがたの髪の毛さえ一本残らず数えられている。
アメタ「ああ、だからLLPAWMは神の遺伝子なんて仰々しいものをレセプターにしている?」
ケレス「誰もが保持しているから、人口を計測するには相応しい」
ケレス「ハングリィ計劃は世界人口を可能な限り正確に把握し、食糧危機に備えるものだった」
アメタ「成程。飢餓地図(ハンガーマップ)のデジタル版みたいなものですか」
ケレス「そう。WFPがFAOの統計に基づき作成した世界の飢餓を表す地図だ」
アメタ「ハイヌヴェレ博士が言っていたのですが、LLPAWMによって把握した人口の多い所に、」
アメタ「PMSCsを派遣して、戦争による人口調整をしているとか・・・・・・」
ケレス「それもハングリィ計劃の一部だ」
アメタ「保守派とは良く言ったもんですね」
ケレス「そう言うな」
ケレス「人工による人口の間引きをしなくては、この危機は乗り越えられん」
  不思議と嫌悪感はなかった。
  人為的に戦争を引き起こしている影の黒幕。一昔前なら完全に悪役だ。
  けれども僕は必要悪だと理解した。
ケレス「今の社会は膨大な犠牲の上に成り立っている」
ケレス「途上国では簡単に棄てられていく命がある一方で、」
ケレス「先進国では自殺と安楽死が頻発している」
ケレス「命の価値は釣り合っていないし、人は平等に出来ていない」
ケレス「胸糞の悪い事ではあるがな・・・・・・」
アメタ「それで、改革派の連中はどうやって幼児退行を引き起こしているんです?」
ケレス「詳しいプロセスまではわからない。しかし恐らく・・・・・・」
ケレス「レセプターであるVMAT2は、別名幸福の遺伝子」
ケレス「この遺伝子のON、OFFをコントロールする事で幼児退行を引き起こしている、と考えられる」
アメタ「不幸を感じる事で幼児退行する、と?」
ケレス「憶測だが、膨大なストレスがかかる事で、適応障害、PTSDなどと同じ症状が起こるのだと思う」
  思い込みやストレスを舐めてはいけない。
  病は気から。プラシーボ効果。ハロー効果。
  精神的な事に関して、人は思いの外脆い。
アメタ「という事は、ストレスを解消すれば幼児退行は止まる?」
ケレス「憶測だと言っただろう。正確な事は何もわからん」
アメタ「では改革派の連中は何処に?」
ケレス「派閥が分離したのは十年以上も前だ」
ケレス「行方はわからん」
  何てこった。ここへ来て手詰まりとは。
アメタ「何か手がかりは?」
ケレス「あったら話している」
ケレス「ここまで来たら隠す理由はないからな」
ケレス「何かわかり次第、連絡しよう」

次のエピソード:第17話 容疑

コメント

  • 元々は人口を数えるためだったのですね。それを悪用されたと。まだ二転三転しそうですが、黒幕の計画の全貌を知るのが楽しみです。
    ところで本編と関係ないのですが、サブタイで伊藤計劃先生を思い出しました。(読破した数少ないSF作品なので)

  • いつ終わるか分からない、ハッピーエンドに辿り着くかも分からない?…つまり、無限バッドルートの展開も……?
    有りですね😆

    初期のチョイ役が、後半に重要キャラとして再登場するって展開が好きで萌えました👍

  • 冒頭のマスターマザー、幼児退行する人の脳内(?)の描写なのか…笑顔が怖い! 反対に、同行できないことに不満気なムルアちゃんは可愛かったです。笑
    マイクロチップの体内埋込は既に現実化してますし、セキュリティ対策をしっかりしないと、本当にこういう事件は起こりそうだな、と本職がエンジニアなので技術的な視点でも楽しませてもらいました^^

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