リクガメのみそしる

こへへい

心当たり無きありがとう(side Q)(脚本)

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〇教室の教壇
  凪カイトには、友達がいる。名を浅田星(あさだほし)という。
  彼は旅が大好きで、アルバイトでお金がある程度たまったら、土日の休みですぐに一泊二日の旅に出てしまうほどの旅好きである。
  そして月曜日に、そんな星からのエピソードを昼休みをいっぱい使って聞くのが、日常となっている
浅田星「この前アドベンチャーアイランド行ってきてよ、黒浜のあれ!」
凪カイト「ああ、あの動物園と水族館が合体したような場所な」
浅田星「そそ!園に入った瞬間ペンギンが普通に道歩いてるんだぜ!?しかも近づいてくんだよ!」
凪カイト「確か南極のペンギンには、人間から近づいてはいけない、とかどうとか聞いたことがあるな」
凪カイト「南極条約ってのでルールづけられているらしい」
浅田星「マジか!俺触っちゃったんだけど!?」
凪カイト「ま、御用だろうな。自首すれば刑軽くなるんじゃないのか?」
浅田星「嫌だよ!つーか南極じゃないんだから適応外だろ流石に!」
凪カイト「ま、流石にな」
  とまぁ、そんな感じでこの自由人の旅の話を聞かされるわけだが、それにはある理由がある。
浅田星「あ、そのアドベンチャーアイランドに行くまでに、少し不思議な話があったんだよ」
凪カイト「不思議な話?」
凪カイト(星のエピソードはウミガメのスープのネタとして結構使えるからな、楽しみにしているぜ。ネットでのウケもいいし)
浅田星「俺がバスで座ってた時なんだがな、途中で降りる他の家族のお客さんに」
浅田星「「お陰で家族との時間を過ごせた、ありがとう」って言われたんだ」
浅田星「俺何かした覚えもなんだけど、何故かそう感謝されたんだ。何でだと思う?」
凪カイト「ほう、それは興味深いな」
凪カイト「Q1:その家族に、星は何か行動した覚えはあるか?」
浅田星「いやないな、だから意味分かんなくてさ」
凪カイト「Q2:その家族は、親子連れだったか?」
浅田星「だったな」
凪カイト「Q3:子のほうは、中学生くらいか?」
浅田星「確か中学生って言っていたな」
凪カイト(ふむ、家族はよく見る小さな子供連れ。そんな彼らに感謝された)
凪カイト(バスで感謝される状況とはなんだろう。席を譲ってもらうとか、何か落としたものを拾ってもらう、んー)
凪カイト(家族との時間を楽しめた。そこに鍵があるのかもしれない)
凪カイト「Q4:なあ、席譲ったのか?」
浅田星「いやそんなことした覚えはないな」
凪カイト(家族の時間を楽しむためには、一緒にいる必要がある。そう思っているのだが、それが的外れなのか?いやそれはないだろう)
凪カイト「Q5:その家族は、バスでは固まって座っていたのか?」
浅田星「固まって、というのはよくわからないけれど、一緒に喋れる距離ではあったか。だけどそれがどうかしたか?」
凪カイト「Q6:その家族は、バスの最後尾に座っていたのか?」
浅田星「いや座ってなかったよ」
凪カイト(ますます分からなくなってきた。家族は一緒に固まって座っていたけれど、最後尾には座っていない。ならどこに座っていた?)
凪カイト(家族の時間を過ごすことができた。その言葉の真意は言葉の通り。何かしらの皮肉が混じっているようなことはないだろう。多分)
凪カイト(その家族の時間を過ごすにおいて重要なのは、家族が物理的に一緒にいることであることは、想像に難くない)
凪カイト(それ以外の状況でいうと、あれか?)
凪カイト「Q7:そのバスにはコンセントはついていたか?スマホが充電できるような」
浅田星「いやなかったな、お陰で充電節約するためにあんまり景色撮れなくてよ」
凪カイト(となると、バス内で実家にいる家族と通話している線はない)
凪カイト(となれば、本当に物理的に近い場所にいることが、家族の時間を過ごすということなのだろう)
凪カイト(そして、星の無意識の行動が、その家族を物理的な距離を縮めたと考えるべきだ)
凪カイト「Q8:星の乗っていたバスは、結構混んでいたか?」
浅田星「あー、確かに混んでたような気がする。席に座るのに、どこが空いているのか探していたな」
浅田星「それで俺よりも少し後ろの人は、次のバスを待つ羽目になっていたな」
凪カイト(そこまで席が混んでいたのか。後ろに並んでいる人、か。また余計に情報を垂れ流す)
凪カイト(後ろの人が、か。んー)
凪カイト「Q9:その家族というのは、星がバスに乗ろうとしている段階で、すでに乗っていたのか?」
浅田星「いや、俺のすぐ後ろで並んでいたよ。その時に軽くお喋りしていて、その家族の子供が中学生って言っていたんだ」
凪カイト「そういうコミュ力尊敬するよ」
凪カイト(星の人となりを予め軽く知っていたからこそ、その家族が下りる直前で感謝の意を述べることができたのか)
凪カイト(普通一言も喋ったことがない人間に、第一声ありがとうとは言わないからな)
凪カイト(さて、バスが混んでいたならば、さらに星本人が自覚していないならば)
凪カイト(席関連で感謝されたと見ていいだろう。他に可能性が思いつかない)
凪カイト(そしてその席関連で感謝された内容が、「家族の時間を過ごせた」という。物理的に家族が近いってことも裏付けになっている)
凪カイト(席を譲ったとして、何故家族は星にそう思ったのかだな。星の無自覚な行動が、実は席を譲っていることになっていた。と見ていい)
凪カイト(混み合っている席ならば、座る席は限定される。そんな限られた選択肢で、星が選んだ選択が、結果席を譲る選択になった)
凪カイト(なら、どんな選択がそうなるのだ?)
凪カイト「Q10:星が座った席ってのは、出入口付近だったか?」
浅田星「確かそうだったな」
凪カイト「Q11:そこは窓際か?」
浅田星「窓際だったな、なのに景色撮れなかったからなぁ」
凪カイト「Q12:その家族の誰かは、非健常者用の席を利用していたか?」
浅田星「いや、皆見た感じ健康体だったよ。楽しみー!って言ってぴょんぴょん跳ねてたし」
凪カイト「元気があるのはいいことだな」
凪カイト「Q13:そういえば、ガラの悪い客がいて、そいつを撃退したとかはないか?」
浅田星「いや特になかったな。あの地域って動物にストレスをできるだけ与えないように、凄い山奥の穏やかな場所に位置しているんだよ」
浅田星「その雰囲気に負けず劣らずなのんびりな人間しかいなかった」
凪カイト(星なら無意識にチンピラを撃退するってことはありそうだけど。その線も無いと)
凪カイト(んー、バス内の席の種類っていえばこれくらいな気がするんだが、他に何かあっただろうか?)
凪カイト(よし、試しに僕自身が一人旅に行くことを想像してみよう)

〇バスの中
凪カイト(僕が一人で旅行に行くとしよう)
凪カイト(バスに乗るときに、後ろには三人の家族がいる)
凪カイト(そしてバスに乗ると、その中は結構混んでいて、座る場所が少ないようだ)
凪カイト(僕は一人旅でバスに乗るので、一つ席が空いていれば、そこに収まることができる)
凪カイト(だが、後ろの三人家族は、そうはいかない。一番後ろの席は、星の言い分的に空いていないと思っていい)
凪カイト(ならば三人家族が一緒にいれる状況っていえば、二人席に座って、一人が立つとか)
凪カイト「Q14:その家族の中で、誰か立っている人はいたか?」
浅田星「いや、それは家族や他のお客さんも含めて立っている人間はいない」
浅田星「俺の順番のしばらく後ろの人が次のバスを待つ羽目になったのを見て、バス業者さんに聞いてみたんだ」
浅田星「すると、出入り口が各一つしかない上、そもそもバス内が狭いから、お客さんには座ってもらっているんだってさ」
凪カイト「なるほどな。それに山奥にあるアドベンチャーアイランドへ行くためのバスともなれば、バランスを崩せば急斜面に転がりかねない」
凪カイト「そのバランスが保てるような重量にするのも一つの理由なのかもしれないな」
凪カイト(だが立っていないとなれば、 二人席に二人、二人席に一人が座るか 一人席三つに三人、か)
凪カイト(僕が一人席に座るとして、それは当然の行動だろう。一人席がそこにあって、一人なのだから。それは当たり前で、言うまでもない)
凪カイト「・・・!!」
凪カイト(いや、だからこそ、か)

〇教室の教壇
凪カイト「Q15:なぁ、星、お前まさか、二人席に座ってなかったか?」
浅田星「え、そうだけど、言ったっけ?」
凪カイト「そういうことか。わかったぞ」
浅田星「マジか、俺まだ何にも分からないんだが?」
凪カイト「星が、二人席に座ったからなんだ」
浅田星「え、どういうこと?」
凪カイト「その家族は三人いたんだろ、そして、その家族は一人ずつ、一人席に座ったんじゃないか?」
浅田星「おお、確かにそうだったな」
凪カイト「星の座っていた二人席、三人家族の一人席三つだけが空いていたことを前提として考えて、」
凪カイト「星が三つの一人席のうちの一つに座ったら、その家族の座席はどうなる?」
浅田星「となると、 一人席二つに二人か、 二人席一つに二人。そして残った席に一人座ることになる」
浅田星「あ!そうか、俺が先に一人席に座ると、バスでの時間を一緒に過ごせない、家族の一人が距離的に離れてしまうのか!」
凪カイト「そう、本来一人旅に来ている星は一人席に座って当然だった。だがの星が二人席に座った」
凪カイト「多分そんな星を見た家族の誰かが、気を効かせて二人席に座ったの思ったんだろうな」
凪カイト「だから星に向かって、感謝の意を示したってとこだろう」
浅田星「はー、それは納得だわ。全く意識してなかったけれど」
凪カイト「だが、なんでわざわざ二人席に座ったんだ?一人なんだから、一人席に座るだろう?普通」
浅田星「いやー、だって二人席に座ったら、他の人が隣に座ってくれるじゃん?そういう旅での出会いってのも一人旅の醍醐味だからよ」
凪カイト「お前は生粋の旅人だよ。面白い話をありがとう」
  キーンコーンカーンコーン
浅田星「そろそろ五限目だな、行こうぜ」
凪カイト「だな」

次のエピソード:心当たり無きありがとう(side A)

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