再編のおままごと

戸羽らい

#8 スナック沙夜(脚本)

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〇シックなバー
男性「もうダメだ・・・俺なんて・・・」
男性「そんなことないですって」
男性「人にはモテ期があるって言うじゃないですか。堀江さんにはまだそのモテ期が・・・」
男性「一生こねぇよォ! そんなもん!」
男性「俺はなぁ、このまま誰からも愛されず、童貞のまま死ぬんだァ!」
男性「・・・」
男性「俺がなんて呼ばれてるか知ってるか?」
男性「魔法使いだよ! 30越えて未だに童貞の俺に相応しいあだ名だよなァ?」
男性「・・・なんて言葉をかけたらいいか」
男性「魔法が使えたら・・・魔法が使えたらとっくに恋人作ってるわボケェ・・・」
沙夜「魔法かぁ」
男性「ママ・・・俺、このまま一生童貞なのかな・・・」
男性「大人の男に・・・なれないのかな・・・」
沙夜「大人・・・ね」
沙夜「そんなもの、無理してならなくて良いと思うけど」
男性「沙夜さん、良い人紹介してくれませんか?」
男性「この人見ていると可哀想で・・・」
男性「哀れむなよ・・・哀れむな・・・」
沙夜「うーん・・・堀江さんって、どんな女性がタイプなの?」
男性「ママみたいな人」
男性「・・・」
沙夜「私のどんなところが好き?」
男性「え、えーと、スタイル良くて顔が可愛くて、それから・・・」
男性「ダメだこりゃ・・・」
沙夜「ありがとう。堀江さんって、素直な人だね」
男性「素直・・・? 欲望に素直ってことですか?」
沙夜「悪い言い方をするとそうだね。でも、それって変に飾らないことでもあるから」
男性「自分、素直な人間っす!」
沙夜「大抵、この質問をすると「優しいところ」とか「思慮深いところ」って返ってくるんだけど・・・」
沙夜「そんなふうに無理に内面を見つめようとするより、堀江さんのように目の前の事実のみを語ってくれる方が」
沙夜「言葉を信用できるし、この人は素直に人と向き合ってるんだなあって伝わる」
男性「目の前の事実・・・それって沙夜さんは自分がスタイル良くて美人だって自覚してるってことですか」
沙夜「勿論♪」
男性「ナルシストなママも可愛いなぁ・・・」
沙夜「でもね、堀江さんは一つだけ勘違いをしている」
男性「ふぁ!」
沙夜「素直に、目の前の事実を見つめているようで、あなたは自分のことを勘違いしている」
沙夜「堀江さんの中で、堀江さんってどんな人?」
男性「チビでブサイクで何の取り柄もない、非モテの弱者男性34歳ですが・・・」
男性(事実だな・・・)
沙夜「弱者・・・ね。自分の弱さを認められるのは強さだよ」
沙夜「世の中にはね、自分の弱さを認められず、プライドだけが肥大化して他人を傷付ける人間もいる」
男性「・・・」
沙夜「モテない人なんていくらでもいる。でも、堀江さんはそれを他人のせいにはしないでしょ」
男性「・・・俺に、魅力がないのが悪い」
沙夜「魅力ならあるよ。それに誰も、堀江さん自身も気付いていないだけ」
沙夜「人に好かれるにはまず自分を好きになること」
沙夜「あなたが自分のことを好きになれば、きっとその「好き」を共有する人物が現れると思うな」
男性「・・・なんか、深いっすね」
男性「自分を好きになる・・・か」
男性「そうだ、俺はかっこいい! 見ろ、このスーツの着こなし! 三十路なのに引き締まった身体! 知的なマスク!」
男性「まるで敏腕弁護士のようなオーラをしてるぜ!」
沙夜「いいね! そんな感じで、ちょっとナルシストなくらいが丁度いいよ!」
男性「なんだか、堀江さんが一流の弁護士に見えてきました」
男性「峯田くん、次の案件だが・・・」
男性「はい、先生」

〇シックなバー
女性「はあ・・・」
沙夜「飲み過ぎでは?」
女性「飲まないとやってられにゃい」
女性「この酩酊感だけが私を醜い現実から解放してくれるの」
沙夜「何かありました?」
女性「・・・婚活なんて行くもんじゃないにゃ」
女性「あんなとこ・・・」
女性「うぃ〜」
沙夜「・・・」
女性「でも、結婚したいなあ・・・」
女性「おぇっ」
沙夜「・・・何故、結婚したいんですか?」
女性「みんなしてるから・・・」
沙夜「私は結婚してませんよ」
女性「ママはあえてしないんでしょ」
女性「いつでも良い男を捕まえられるママと、そうじゃない私とじゃ危機感が違うの」
沙夜「もし結婚している人が少数派だったら、それでも焦りますか?」
女性「多分・・・生物学的な焦りがあると思う」
女性「なんとかその少数派に入ろうとするだろうなあ」
沙夜「私には分からない感性ですね」
女性「ママには子供を産みたい、子孫を残したいって感覚はないの?」
女性「家庭を築いて、お母さんになって、お婆ちゃんになって、家族に囲まれて暮らしたいとか」
沙夜「・・・ないですね」
沙夜「この時代、家族だけが繋がりじゃないですし」
沙夜「夫婦とか親子とか、そういう役割に縛られた関係よりも、対等な友人の方が心を開けると思います」
女性「・・・」
沙夜「まあ、シンプルに大変そうだからって理由が大きいです」
沙夜「私は私の人生で精一杯ですから、結婚して家庭を作るなんて面倒なことはしたくないんですよ」
女性「・・・そう、割り切れたら楽なんだろうなぁ」
女性「一人が楽、自由とは思ってはいても、ふと周りと比べた時に「私って孤独だな」と感じる」
女性「このままじゃダメなのでは・・・って焦っちゃう」
女性「それに・・・」
沙夜「・・・」
女性「養われたいッ!」
沙夜「おぉ・・・」
女性「金持ちの男と結婚して、その金で悠々自適な生活を送りたい!」
女性「包容力のある男性の胸の中で包まれたい!」
女性「私の不安を全部かき消してくれるような、そんな男と出会いたい!」
沙夜「・・・良いですね」
女性「だから私は婚活に行くのだ! 魑魅魍魎が跳梁跋扈するあの百鬼夜行に僅かな希望を求めて参列するのだ!」
女性「たとえそこが地獄でも、地獄にも花は咲くと信じて・・・!」
沙夜「応援してます」
女性「ミイラ取りがミイラになる。私もいずれ、モンスターの仲間入りを果たすのだろう」
女性「婚活に来る男にろくな男はいない。そう、分かっていても、このダンジョンを攻略してくれる勇者様の登場を待ち望んでいる」
女性「私は哀れなメスのスライム・・・」
女性「はぁ・・・ダンジョンに出会いを求めるのは間違って・・・」
女性「・・・すぅ」
沙夜「ちょ、ちょっと・・・!」

次のエピソード:#9 スナック沙夜②

コメント

  • 私はこういうシーン移動なしのひたすら会話劇作品がなんだかんだ1番好きです

  • 婚活女性のセリフが面白すぎます。戸羽さんのシナリオはすごくリズムがきれいで、歌のようにすんなりと沁みいります。

  • 大人の階段何段飛ばしで昇ったのでしょう…😇
    堀江さんはなぜか探偵業が似合いそう🤣
    大人になったさやママは…もはや家庭を望まなくなった…!?

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