#9 スナック沙夜②(脚本)
〇シックなバー
女性「・・・」
女性「ぷはー・・・死に返る・・・」
沙夜「死に返る・・・?」
沙夜「生き返るじゃなくて・・・?」
女性「酔っ払うのって、疑似的な死なんでしゅ」
女性「私は自殺する勇気がないので、こうやって酔っ払うことで疑似的な死を体験しているんでしゅ」
沙夜「疑似的な死?」
女性「人生は・・・考えたくないことや考えるのも億劫なことばかりでしゅ」
女性「何も考えたくない。何も考えず生きていたいのに、社会がそれをさせてくれない」
女性「楽になりたい。無になりたいのに、恐怖がそれをさせてくれない」
女性「考えれば考えるほど死にたくなるのに、考えれば考えるほど死ぬのが怖くなる」
沙夜「・・・」
女性「だから、赤ちゃんになるんでしゅ」
女性「思考も自我も恥も外聞も全部捨てて、素っ裸の赤ちゃんになるんでしゅ」
女性「それが私にとっての、疑似的な死」
沙夜「・・・赤ちゃんって、死とは遠いイメージあるけど」
女性「一番死に近い存在が赤ちゃんなんでしゅ!」
女性「大人になればなるほど、嫌でも生を実感させられてしまうんでしゅ!」
女性「社会のしがらみがぁ、過去のトラウマや未来への不安が・・・」
沙夜「・・・」
沙夜「よしよし」
女性「・・・」
女性「・・・ママ♡」
沙夜「おかわり飲む?」
女性「飲むぅ♡」
女性「ねぇ、ママってさ、死にたいと思ったことある?」
沙夜「うーん・・・」
〇ラブホテルの受付
〇ラブホテルの部屋
男性「ママ・・・」
沙夜「沙夜って呼んで」
男性「・・・」
男性「沙夜っ・・・!」
「シャワー、浴びないの?」
「沙夜・・・沙夜っ・・・」
「あらら・・・」
〇黒
「沙夜っ・・・! イク!」
「いいよ」
「あぁっ・・・!」
「・・・」
〇シックなバー
沙夜「「イク」のも疑似的な死なのかな?」
女性「い・・・イク・・・?」
沙夜「ほら、気持ちよくなって、頭が真っ白になってさ・・・」
沙夜「あれも文字通り、逝くってことなのかな」
女性「・・・勿論でしゅ」
女性「それこそが、最上級の死でしゅ」
沙夜「なら、私もイッてみたいかも」
女性「ママにもイキたい時はあるんでしゅね」
女性「なら、一緒にイキませんか?」
沙夜「イッちゃう?」
女性「イッちゃううううう!」
「乾杯〜」
〇シックなバー
女性「ねぇ、ママ」
沙夜「ん?」
女性「ママってさ、ホームドラマとか見る?」
沙夜「見ないかな」
女性「私も見ない」
女性「ほっこりしたり、しみじみしたり、人間ドラマに美しさを感じたり・・・」
女性「・・・そういう口当たりの良いおつまみじゃ、お酒は進まないから」
沙夜「お酒の席でも、「良い話」よりも「悪い話」の方が耳を傾けたくなるものね」
女性「SNSでも、ほっこりする話より胸糞悪い話の方がバズるし」
沙夜「ほっこり・・・がよく分からないけど、話題性があるのは刺激的な話だね」
女性「それでさ・・・」
女性「長年続いてる国民的アニメにはさ、得体の知れない「安心感」があるじゃん」
沙夜「うん」
女性「でも、「安心感」じゃ腹は膨れないと思うんだ」
沙夜「安心を求めてる人もいるけどね」
沙夜「「悪い話」は聞きたくない。感情を揺さぶられたくないから、なるべく遠ざけて暮らす人たちだっている」
女性「そうだね。そういう人たちがホームドラマを見るのかもしれないね」
女性「ほら、「家族」って安心感の象徴じゃん?」
沙夜「家庭にもよるけど、世間一般のイメージ的にはそうだね」
女性「「家族が欲しい」と言う人は、安心が欲しいだけなのかも」
女性「私は・・・中途半端な安心は脳を腐らせるだけだと思ってるから」
沙夜「脳を?」
女性「脳は適度に壊さないと、腐っちゃうんだよ」
沙夜「・・・」
女性「ほら、NTRで脳が壊れるって言うじゃん」
女性「脳が壊れるくらい、感情を揺さぶられたい。その欲求が、私を私たらしめる」
沙夜「・・・なんか、分かるかも」
女性「正常位じゃ誰もイケない」
女性「品行方正で信心深く、お行儀の良い安心安全なセックスじゃあ、心の底からイクことはできない」
女性「疑似的な死を迎えられない」
女性「バズりという名のオーガズムには到達できねーんだ」
沙夜「・・・」
沙夜「バズりたいの?」
女性「バズりた〜い」
女性「私、Vtuberだからさ〜」
沙夜「そうなんだ。道理で良い声してると思った」
女性「固定ファン獲得のために親しみやすいキャラクターを演じたりしてるけど」
女性「それもまた、「安心感」を売ってるんだよね」
女性「視聴者のことを家族なんて呼んだりしてさぁ。はぁ・・・死にたいなぁ」
女性「私の配信見てるやつはきっと、ホームドラマでも見てる気分なんだろーよ」
沙夜「良いじゃん。ホームドラマのように、ゆるやかに活動を続けなよ」
女性「私にはなぁ、寿命があるんだよ」
女性「某国民的アニメは永遠に続くけどなぁ、私には賞味期限という名の明確な寿命がある」
女性「確実に終わりは来るんだ。安心なんて一過性のものでしかない」
女性「確かに視聴者は安心かもしれない。でもな、私は常に不安に怯えてるんだよ」
沙夜「安心が欲しいなら、家族でも作ったら?」
沙夜「ネットの世界ではなく、現実世界で」
女性「キエエエエエエエエエエエ!!!!」
女性「作るかぁ!? 彼氏!!」
女性「視聴者の脳をぶっ壊してやるかぁ!?」
沙夜「壊しましょう」
沙夜「だってそれが、一番のエンターテイメントですから」
女性「はっはっは。こりゃ、バズるで」
👍
ずっと笑いっぱなしでした。この二人の会話面白いです。アノべへの思いもぶちまけられていて、笑いました😂
こんなふうにだらだらと外でお酒飲むチャンスのない人生だったので、この雰囲気は羨ましいですね。
沙夜ちゃんの子供時代を見てるので、ちょい見ちゃいけないものを見てしまった感もありました。
死に近いものは「暇」ですかね?
楽しい事だろうが辛い事だろうが、感情の絶対値が発生する場合はそれは生きていることの証明であり、特権でもある。