ハニーブレッド

入江恵衣

9話. 追憶(脚本)

ハニーブレッド

入江恵衣

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〇病室
鏑木芹那(つみきせりな)「おーい、夕日さーん」
夕日奈江「すー、すー・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「ねえ起きてよー」
夕日奈江「すー、すー・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「おい」
鏑木芹那(つみきせりな)「起きろっつってんだろ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「なに優雅に寝てるんだよ! あんたのせいでこっちは大変なんだよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・あんたのせいで」
鏑木芹那(つみきせりな)「私が会社を追い出されたじゃない!」
鏑木芹那(つみきせりな)「どうしてくれるのよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「あんたが会社を出て行けよ! なんで私なんだよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「あんたさえいなければ・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「あんたさえいなければ・・・!」
鏑木芹那(つみきせりな)「こんなことにならなかったのに!!」
夕日奈江「ウッ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「あんたさえ・・・!!」
  ガラッ!
近藤りん(こんどうりん)「お!芹那?」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん!?」
近藤りん(こんどうりん)「仕事はもう終わったの?」
近藤りん(こんどうりん)「・・・ちょっとあんた!」
近藤りん(こんどうりん)「夕日さんに何してるのよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん!ち、違うの!」
近藤りん(こんどうりん)「首から手を離しなさい!」
「はぁ、はぁ」
鏑木芹那(つみきせりな)「り、りんちゃん・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「あたし・・・」
  チラッ
夕日奈江「ん~・・・」
夕日奈江「・・・」
夕日奈江「すー、すー・・・」
近藤りん(こんどうりん)「・・・ふぅーっ」
鏑木芹那(つみきせりな)「違うの。お願い、話を・・・」
近藤りん(こんどうりん)「話は待合室で聞くから」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「ほら、行くよ」

〇病院の待合室
近藤りん(こんどうりん)「これ飲んで、少し落ち着きな」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん・・・」
近藤りん(こんどうりん)「ふぅっ」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん・・・ どうしよう、わたし・・・」
近藤りん(こんどうりん)「芹那・・・」
近藤りん(こんどうりん)「大丈夫だから・・・ あんたも夕日さんも、 それに赤ちゃんも・・・」
近藤りん(こんどうりん)「ゆっくりでいいから。 これ飲んで、少し落ち着こう」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・」

〇病院の待合室
「・・・」
「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「夕日さん、大丈夫かな・・・」
近藤りん(こんどうりん)「大丈夫だと思うよ。 顔色も悪くなかったし」
近藤りん(こんどうりん)「ち、ちょっと!」
近藤りん(こんどうりん)「まさか長時間首を絞めてたんじゃないでしょうね!?」
鏑木芹那(つみきせりな)「ま、まさか!!」
鏑木芹那(つみきせりな)「首に手を回してすぐ、りんちゃんが病室に入ってきたから・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「一瞬だけ・・・ 力、入れちゃったけど・・・」
近藤りん(こんどうりん)「・・・まじか」
近藤りん(こんどうりん)「芹那」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「自分がやったこと分かってる? 一歩間違えてたら殺人だよ、これ」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・ わかってる」
鏑木芹那(つみきせりな)「自分でも、信じられない・・・」
近藤りん(こんどうりん)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「私、夕日さんになんてことを・・・」
近藤りん(こんどうりん)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「あっ!」
近藤りん(こんどうりん)「伏せて!!」
鏑木芹那(つみきせりな)「え?」
近藤りん(こんどうりん)「いいから! 早く!」
鏑木芹那(つみきせりな)「う、うん!」

〇病院の待合室
近藤りん(こんどうりん)「金原!」
金原康太「りん!まだ病院にいたのか!」
近藤りん(こんどうりん)「夕日さんが目が覚めた時に誰かいた方がいいと思ってさ」
金原康太「ありがとうな。 本当に助かるよ」
近藤りん(こんどうりん)「お隣の方ってもしかして・・・」
金原康太「ああ。こちらは・・・」
夕日の母「奈江の母です。 いつも娘がお世話になっております」
近藤りん(こんどうりん)「始めまして。近藤りんです。 夕日さんとは同じ会社で働いています」
夕日の母「康太さんから話は聞いております。 この度は、娘と孫を助けていただき本当にありがとうございました」
夕日の母「お仕事中なのに、 救急車にも同乗していただいたとか・・・」
近藤りん(こんどうりん)「いえいえ! 当然のことなのでお気になさらないでください!」
近藤りん(こんどうりん)「それより早く夕日さんのところへ行ってあげてください。お母さんが側にいれば安心すると思います」
夕日の母「ありがとうございます」
金原康太「りん。ありがとな。 本当に助かったよ」
近藤りん(こんどうりん)「いいっていいって。 それより早く行ってあげて」
金原康太「ああ。それじゃあ、またな」

〇病院の待合室
近藤りん(こんどうりん)「ふーっ」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん・・・」
近藤りん(こんどうりん)「夕日さんが倒れた現場に芹那がいたことは金原の耳にも入ってるからね」
近藤りん(こんどうりん)「今顔は合わせない方がいいよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さん。夕日さんのお母さんを呼びに行ってたんだ」
近藤りん(こんどうりん)「金原ね」
近藤りん(こんどうりん)「夕日さんが運ばれたことを知って、打ち合わせを切り上げて病院に駆けつけてきたんだよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「夕日さんのお母さん、お花の先生らしくてさ」
近藤りん(こんどうりん)「教室が終わる時間帯を見計らって、お母さんを迎えに行ってたの」
近藤りん(こんどうりん)「今は、夕日さんが心から甘えられる存在が必要だって言ってね」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「そっか・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さん、夕日さんのことを本当に大事に思ってるんだね・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「ねえ、芹那」
近藤りん(こんどうりん)「あんた、金原のことが好きなんでしょ」
鏑木芹那(つみきせりな)「え!」
鏑木芹那(つみきせりな)「好きじゃないよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「私は!金原さんのことは仕事の踏み台にしか思ってない!」
近藤りん(こんどうりん)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「芹那」
近藤りん(こんどうりん)「それを言うことで、理性を保とうとしてるだけじゃないの?」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・え」
近藤りん(こんどうりん)「あんた見てるとさ。 金原との関係は仕事上、仕方のないことなんだって」
近藤りん(こんどうりん)「自分に言い聞かせてるように見えるんだよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「そんなこと・・・」
近藤りん(こんどうりん)「芹那が前の会社を辞めた理由も知ってるし」
近藤りん(こんどうりん)「あんな目に遭って男を利用したいっていう気持ちもよく分るよ」
近藤りん(こんどうりん)「でもそれを盾にして、金原への気持ちに蓋してない?」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「本命がいる男と関係を持つとさ」
近藤りん(こんどうりん)「最初は平気でも、寂しさや罪悪感が徐々に増してきたりするじゃん」
近藤りん(こんどうりん)「芹那見てるとさ、そういう感情を必死に押し殺してるように見えるんだよね」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
近藤りん(こんどうりん)「もっと素直になってもいいんじゃないの?」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん・・・」

〇大企業のオフィスビル

〇オフィスのフロア
部長「今日からわが社に新たなデザイナーが加わったぞ」
鏑木芹那(つみきせりな)「鏑木芹那です。 よろしくお願いいたします」
部長「金原!」
金原康太「はい!」
部長「ディレクターの金原だ。 鏑木さんは金原のチームの配属となるから。 金原!頼むぞ!」
金原康太「金原康太です! これからよろしく!」
鏑木芹那(つみきせりな)「よろしくお願いいたします」

〇オフィスのフロア
金原康太「んー。なんか違うんだよね。 これだと少し弱くないか?」
鏑木芹那(つみきせりな)「ん~。 じゃあ、これはどうですか??」
金原康太「あ!」
金原康太「いいね!これいいよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「ありがとうございます!」

〇車内
金原康太「そんなに落ち込むなって」
鏑木芹那(つみきせりな)「でも、またリテイクになるなんて・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「私のせいでスケジュールも推してるし・・・」
金原康太「鏑木のせいじゃない。上手くディレクションできてない俺のせいだ」
金原康太「スケジュールはなんとかするからさ。 もう一度、一緒にデザイン組み直そうぜ」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい!」

〇大衆居酒屋
「納品お疲れ様!」
金原康太(かねはらこうた)「仕事終わりのビールは最高だな!」
鏑木芹那(つみきせりな)「今回は難しい案件だったから余計に美味しく感じますね!」
金原康太(かねはらこうた)「だな! 俺、こんなに充実した気持ちは初めてだわ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「私も!こんなに充実したのは初めてです!」
金原康太(かねはらこうた)「・・・」
金原康太(かねはらこうた)「鏑木がチームに入った頃は、オドオドしていつも俺の顔色伺ってたけど」
金原康太(かねはらこうた)「最近は自分の意見も言えるようになったし。ほんと、お前は成長してるよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「それはきっと、金原さんのおかげです」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さんと組むようになってから、アイデアが泉のように湧いてくるんです」
鏑木芹那(つみきせりな)「だから最近は仕事が楽しくて。 すべて金原さんのおかげです。ありがとうございます!」
金原康太(かねはらこうた)「んー・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「わ、私、 なにか変なこと言いました??」
金原康太(かねはらこうた)「これからはさ、敬語なしにしよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「え!」
金原康太(かねはらこうた)「固っくるしいし、年も大して離れてないしさ」
金原康太(かねはらこうた)「2人の時は、敬語なしでいいよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「い、いいんですか?」
金原康太(かねはらこうた)「もちろん!距離が縮まった方が良い作品は作れるしな」
金原康太(かねはらこうた)「俺のことも金原さんじゃなく、康太でいいよ」
金原康太(かねはらこうた)「俺も二人の時は芹那って呼ぶし」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん!」

〇ビルの屋上
金原康太(かねはらこうた)「またまた新規契約ゲット! やったなー!!」
鏑木芹那(つみきせりな)「かんぱーい!!」
金原康太(かねはらこうた)「まさか門倉グループと契約できるとはな!」
鏑木芹那(つみきせりな)「だね! 私、興奮しちゃった!」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太、今日はどうする? いつもの居酒屋でお祝いでもする?」
金原康太(かねはらこうた)「あ!今日はダメなんだよ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「あ、そうなの? 用事??」
金原康太(かねはらこうた)「実は今日、彼女の誕生日でさ」
鏑木芹那(つみきせりな)「え!彼女いたの!?」
金原康太(かねはらこうた)「へへー。まあな。 付き合って3年目だよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「それなら仕方ないね。 しっかりお誕生日お祝いしてきてね~」
金原康太(かねはらこうた)「おー!サンキュー!」

〇オフィスの廊下
総務2「絶対そうだよね~」
総務1「うんうん! 前から噂、あったもんね!」
鏑木芹那(つみきせりな)「なになに? 何の話してるの~?」
「鏑木さん!」
総務1「総務の夕日さんとディレクターの金原さん。お揃いの指輪してるんですよ~」
鏑木芹那(つみきせりな)「え!指輪!?」
総務2「あの2人が付き合ってるって噂は前々からあったんですけど」
総務1「お揃いの指輪だなんて、付き合ってることは確実ですよね!」
鏑木芹那(つみきせりな)「へ、へー!知らなかった! 教えてくれてありがとう~」

〇ビルの屋上
鏑木芹那(つみきせりな)「ほんとだ・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「2人とも、お揃いの指輪してた・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「やだ。なんで私が落ち込まなきゃいけないのよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太は仕事のパートナーでしょ」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太と組むようになって作品のクオリティも上がってきたんだから」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太を上手く利用して、仕事で結果を残してやる・・・!」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太だけは絶対に手放しちゃダメよ。 私──」

〇病院の待合室
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん・・・」
近藤りん(こんどうりん)「うん・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「私」
鏑木芹那(つみきせりな)「金原さんのことが・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太のことが・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「すっごく好きみたい・・・」
近藤りん(こんどうりん)「・・・うん」
近藤りん(こんどうりん)「大丈夫。 時間が解決してくれるから・・・」
近藤りん(こんどうりん)「今はしっかりと現実を受け入れてさ。 明日から、目の前のことを一つずつがんばってこなしていこう」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「りんちゃん。 ありがとう・・・」
近藤りん(こんどうりん)「・・・うん」

次のエピソード:10話. 白紙

コメント

  • りんさん、素敵すぎです!!
    彼女のおかげで事なきを得て、さらには自己の感情を客観視できた芹那さん、立ち直ってほしいですね!

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