10話. 白紙(脚本)
〇女性の部屋
鏑木芹那(つみきせりな)「はい。はい・・・。 ・・・・・・ 分かりました。すぐに修正します」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい。はい・・・。 ────失礼します」
ピッ
鏑木芹那(つみきせりな)「フーッ・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「やっぱり細かいニュアンスはメールだけだと分かりにくいな・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「リモートって 服は適当でいいし化粧もしなくていいから楽だけど」
鏑木芹那(つみきせりな)「やっぱり気持ちもダラけるなぁ」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんだかデザインの質も下がったような気がする・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「よしっ! この修正が終わったら 気分転換に散歩でもしようかな!」
〇大樹の下
鏑木芹那(つみきせりな)「んー! 気持ちいい―!」
鏑木芹那(つみきせりな)「こんなにものんびりした気持ち・・・ いつぐらいぶりだろう・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太と会わなくなってちょうど一週間・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「年末年始でも仕事の連絡してたのに。 こんなこと、初めてかも」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
〇飲み屋街
鏑木芹那(つみきせりな)「きゃははーっ! 社内コンペ、取ったどー!」
金原康太「うぉー!初めて取れたぜ!」
金原康太「やべー! めちゃくちゃ嬉しいー!」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太! 私たちって最っ高のコンビじゃない!?」
金原康太「だよなー!! 俺、芹那と組むようになってずっと調子いいんだよ!!」
金原康太「芹那! お前、俺以外の男とは絶対に組むなよー!」
金原康太「デザイナー鏑木は俺のものだからな!!」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太・・・」
金原康太「わっ!!」
金原康太「せ、芹那!? 急に抱きついて来て ど、どうしたんだよ!?」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「私はずっと康太のものだもん。 絶対に離れないよ・・・」
金原康太「え・・・?」
金原康太「芹那・・・?」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「きゃははー! なーんてね。なに焦ってんのよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太!もう一軒いこーよ!」
ぐいっ!
鏑木芹那(つみきせりな)「キャッ!」
鏑木芹那(つみきせりな)「こ、康太??」
金原康太「芹那・・・」
ギューーッ
鏑木芹那(つみきせりな)「康太・・・ 苦しいよ・・・」
金原康太「なぁ芹那・・・」
金原康太「・・・」
金原康太「今からさ ホテル、行かない?」
鏑木芹那(つみきせりな)「康太・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「行く・・・」
〇大樹の下
鏑木芹那(つみきせりな)「康太はあの時、 デザイナー鏑木は俺のものだって言ったんだよね」
鏑木芹那(つみきせりな)「私自身を求めてるんじゃないって 分かってたはずなのに・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「私・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「今まで仕事を頑張ってきたのは 康太に必要とされたかっただけ。 なのかな・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんでデザイナーになったんだっけ」
鏑木芹那(つみきせりな)「もう分かんないよ・・・」
〇空
翌日──
〇車内
鏑木芹那(つみきせりな)「ごめんね。迎えに来てもらっちゃって」
沢田亨「ユニバーシティホールディングスへの通り道だから、全然大丈夫っすよ」
沢田亨「それにしても、朝一で呼び出しとか一体なんなんすかね・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・」
〇ビジネス街
〇応接スペース
取引先A「やあ。 朝早くから呼び出して悪かったね」
沢田亨「いえいえ! フットワークの軽さが取りえなので全然大丈夫ですよ!」
沢田亨「ところで、今日の要件とは・・・」
取引先A「・・・」
取引先A「大変申し訳ないが、今回の契約は いったん白紙に戻してほしいんだ」
「えっ!!!!」
沢田亨「ど、どうしてでしょうか!?」
沢田亨「企画書を提出した時は、あんなに喜んでいただけたのに・・・!」
取引先A「うーん・・・ それがねぇ・・・」
取引先A「うちの社内でね、 御社について妙な噂が広まってるんだよ」
「うわさ??」
鏑木芹那(つみきせりな)「噂って言うのは・・・」
取引先A「・・・」
取引先A「鏑木さん。 君のことだよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「え! わたし!?」
鏑木芹那(つみきせりな)「なんで私が噂に・・・」
沢田亨「その噂って、 いったいどんな噂なんですか?」
取引先A「・・・それが」
取引先A「君が妊娠している女性に暴力を振るい」
取引先A「それが原因で会社から謹慎処分を受けているという話なんだ」
鏑木芹那(つみきせりな)「そ、それは・・・!」
鏑木芹那(つみきせりな)「そんなこと・・・! 一体だれが・・・!」
沢田亨「その話は嘘です! 鏑木さんが暴力なんて振るうはずない!!」
沢田亨「鏑木さんは、妊婦の女性が倒れている現場にたまたま居合わせただけです!」
鏑木芹那(つみきせりな)「沢田君・・・」
取引先A「・・・」
取引先A「沢田君。 鏑木さん」
取引先A「私はね、噂が本当かどうかなんて、正直興味はないんだよ」
取引先A「噂の発端が誰かも興味がない」
取引先A「それよりも、不穏な噂の立つ人間と仕事をすることで社内にどのような影響が出るのか」
取引先A「そっちの方が気になるし、 私はそれを考えないといけない立場だ」
「・・・」
取引先A「もしこの話が事実無根なら、鏑木さんにはとても辛い結果になってしまったと思う」
取引先A「それは申し訳ない」
取引先A「しかし、この噂がもし 他の会社にまで広まっているとしたら」
取引先A「今、鏑木さんと組むことは 我が社にとってはリスクでしかないんだよ」
取引先A「わかってほしい」
「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい」
鏑木芹那(つみきせりな)「契約の件、承知いたしました」
沢田亨「鏑木さん・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「沢田君。ごめんね・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「この度は、私のことで御社に混乱を招いてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
沢田亨「私も感情的になってしまい 大変申し訳ありませんでした」
取引先A「いや、いいんだよ」
取引先A「決まったことを覆したのは 我が社の方だからね」
取引先A「・・・」
取引先A「鏑木さん」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい」
取引先A「私はね、鏑木さんのデザインには本当に期待していたんだよ」
取引先A「前評判も良かったし、拝見させてもらったデザインもとても良かった」
取引先A「このテイストで自社のサービスを表現するとどんな広告になるのか、想像するだけでワクワクしたよ」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい・・・」
取引先A「君の身に何が起きているのかは私にはわからない」
取引先A「けど、またいつの日か、一緒に仕事ができると信じているよ」
取引先A「今は辛いだろうけど、必ず乗り越えて さらに良い広告をこの世界に生み出してほしい」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい・・・!」
鏑木芹那(つみきせりな)「ありがとうございます・・・!」
取引先A「いつか必ず、一緒に仕事をしよう!」
鏑木芹那(つみきせりな)「はい!」
沢田亨「その時は僕もセットなんで! よろしくお願いします!」
「・・・」
取引先A「沢田君はホントにいいキャラしてるな! また頼むぞ!!」
沢田亨「はい!」
〇車内
鏑木芹那(つみきせりな)「沢田君。 私のせいで契約がなくなっちゃって、本当にごめんなさい」
沢田亨「鏑木さんが謝ることじゃないっすよ! 今回はちょっと運が悪かっただけっす!」
鏑木芹那(つみきせりな)「さっきも私のこと庇ってくれたよね。 すごく救われたよ。ありがとう」
沢田亨「当然っすよ! だって鏑木さんは悪くないんすから!」
鏑木芹那(つみきせりな)「・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「沢田君・・・ あ、あのね・・・」
沢田亨「それより、契約が白紙になったこと 早く会社に報告しなきゃっすね」
沢田亨「めちゃくちゃ憂鬱だなー・・・」
鏑木芹那(つみきせりな)「うん・・・ そうだね・・・」
うわっ、契約白紙……、これはダメージが大きい💦
この機に芹那さんは色んな感情やら何やらをリセットできるといいですね。でないと…