〇豪華なリビングダイニング
克彦（七海先生のほうが、よっぽど・・・）
七海「そろそろ、お昼にしよっか？」
芽依「うん！」
芽依「ななみの作ったご飯、だーい好き！」
克彦「こらこら、あんまり七海先生を困らせちゃダメだぞ？」
七海「いいのよ、芽依ちゃん」
七海「私のこと、お母さんみたいに思ってくれて構わないから」
芽依「・・・うん！」
芽依「ご飯、お手伝いするー！」
七海「わあ、嬉しいな♪」
克彦（ほら、七海先生の方が芽依だって──）

〇イルミネーションのある通り
　　玲未とは──
　　一目惚れだった。
克彦「あ、あの・・・っ！」
　　だから──

〇病院の入口
　　どんな時も──
克彦「玲未っ！」
玲未「赤ちゃん・・・できたの・・・」
玲未「どうしよ・・・」
克彦「結婚、しよっか」
玲未「うん」
　　──彼女を優先してきた。

〇ダイニング（食事なし）
　　そうやって生きるのが、僕の宿命なんだと──
克彦「仕事、行ってくるな」
玲未「うん・・・」
克彦「調子悪いか？」
玲未「ちょっと、つわりが・・・」
克彦「・・・仕事、休むよ」
玲未「でも・・・」
克彦「ううん、そばにいる。 玲未を一人で、不安にさせないから」
　　──そう思って、生きていた。

〇ダイニング（食事なし）
　　けれど──
克彦「ただいまー」
玲未「うん・・・」
克彦「どうした？　つわり、酷いか？」
玲未「ポテト、食べたい」
克彦「ポテト、な！」
克彦「ほらっ！」
玲未「油の匂い・・・」
玲未「うっ・・・」
克彦（んだよ 食いたいって言ったくせに・・・）
克彦（いや・・・ こうなったのも、俺の責任だからな）
克彦「玲未、悪かったな 何なら食べれそう・・・？」
玲未「いらない」
克彦「でも何か食べないと、 玲未もお腹の子も──」
玲未「そんなこと分かってる！ ほっといてよ！」
克彦（精神的に不安定なのも妊娠中だからなのか？ 子供が生まれたら、きっと──）
克彦（今だけの辛抱か。 会社でも家でも取り繕って笑って、か・・・仕方ない、な）

〇ダイニング（食事なし）
　　やがて、子供が生まれて──
克彦「行ってきます」
玲未「いってらっしゃ・・・」
玲未「あ、お皿洗ってない」
克彦「悪い、時間なくて。 やっといてくれるか？」
玲未「んだよ・・・」
克彦「ゴミは出しておくから──」
玲未「遅刻するんでしょ、早く行けばっ!?」
克彦「・・・ごめん」

〇黒
「ねえ、自分の洗濯物くらい畳んでよ！」
「ねえ、またお皿洗ってなかったでしょ！」
「私は子供の面倒見てて忙しいの パパは家で暇でしょ？　やってよ！」
「何で家事も育児も手伝ってくれないの？ 私ばっかりじゃん」
克彦（全部僕の責任だ あの日玲未を抱いてしまった僕の──）
克彦（僕が我慢すれば── 僕がちゃんとやれば──）
克彦（きっと君は 笑っていてくれるよね？）
　　だから、いつだって
　　笑える家族でいようって──

〇一戸建て
　　──覚悟して、家を買った。
克彦「行ってきます」
芽依「いてらっちゃーい！」
克彦「はぁ・・・」
？？？「どうかしましたか？」
克彦「え？」
七海「顔色悪かったので、気になって──」
　　僕は、七海先生と──
　　──色々なことを話したんだ。

〇住宅街
　　だから、あの日は──
克彦（今日で最期だ せいぜい苦しめよ、玲未──）
　　雨でスリップした車に轢かれて、僕が死ぬ。
玲未「パパっ！」
　　『パパがいない』という現実を見せて、
　　玲未を絶望に陥れる。
　　けれど、現実からは逃げられない。
　　玲未は狂っておかしくなっていく──
克彦（玲未の狂った顔が見れないのは、 少し惜しいけど──）
克彦（でも 会社でも家でも縮こまって 取り繕って生きるのはゴメンだ・・・）
　　──そういう筋書きだったよね、
　　七海先生。
克彦（せいぜい苦しめよ、玲未）
七海「大丈夫ですか!?」
七海「意識なし、脈あり・・・」
七海「あなた、救急車を！」
七海「早くっ！」

〇綺麗な病室
七海「こんにちは、一条さん」
克彦「あなたは・・・」
七海「お元気になられたそうで、安心しました」
克彦「驚いたよ。ここの女医さんだったとは」
七海「脳外科医なんです。感覚と脳の仕組みについて調べていて──」
七海「──その発表で、昨日までアメリカに行ってたんですよ」
七海「学会がなければ、一条さんの手術も私がしていたかもしれませんね」
克彦「そうだったら良かったのに。 筋書き通りには、死ねなかったよ・・・」
七海「・・・死にたかったですか？」
克彦「え？　あ、まあ あんな生活が続くんじゃねぇ」
克彦「正直生きていても 仕方ないって思うでしょ。 それでアイツが王様気取りなら尚更、ね」