ブラック過ぎる温泉レジャー施設

郷羽 路

前半(脚本)

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郷羽 路

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〇畳敷きの大広間
信長「いいか、従業員共!」
信長「今日から、俺達がここのオーナーだ!」
信長「職を失いたくなけりゃ、しっかり俺達に 付いてくるんだな!」
木葉(なんで?なんでこんなことになったの?)
木葉(私たちは穏やかに過ごせれば、それでいいのに・・・)

〇旅館の受付
  ここはとある温泉旅館。
  戦国時代から『湯治屋』という形で、存在していた温泉を
  明治時代の折に、『温泉旅館』として立ち上げたのが『由来』である。
木葉「はあ・・・」
先輩「お仕事お疲れ様っ!」
先輩「今日はもう上がっていいよ」
先輩「温泉入ってきちゃってよ」
木葉「先輩、ありがとうございます!」

〇露天風呂
木葉「ふう・・・極楽、極楽・・・」
  私の名前は木葉(このは)。
  ここの温泉旅館で、住み込みの『仲居』をしています。
  仕事の後は、従業員も温泉に入っていいことになっている。
  お陰でお肌はいつも『ピカピカ』だ。

〇温泉街
  この温泉街は、色々な所で旅館があって、昔はかなり栄えていた。
  尤も昨今の不景気や、村の過疎化により、昔は大賑わいだった温泉街も、
  今では、たまに観光客が来るくらいで、少し淋しい状態となっていた。
  たくさんあった温泉旅館も、また一つ、また一つと姿を消していき・・・

〇温泉旅館
  今ではこの温泉旅館こそが、
  温泉街『最後の砦』であり
  地域住民は温泉街存続の為に、この旅館を中心に盛り立てているのだ。

〇露天風呂
  ここの温泉最高ねー!
  景色も良いし、心身共に癒やされるわ~
  なんだかんだで、こういう客は結構多いので、
  現在では、『老舗の秘湯温泉街』という
  キャッチフレーズでネットに売り込み、
  連休シーズンには、満室になるくらい
  繁盛はしていた。
  温泉の数も多いので、客室は『本館』と『分館』に分けられている。

〇旅館の受付
  この旅館の経営には、旅館当主の旦那様と
  奥さんの女将さんが筆頭である。
  悩みの種は『後継ぎ』がいないことでしょうか?
木葉「この旅館、旦那様も女将さんもいなくなったらどうなるのかな?」
先輩「そりゃやっぱり、3人の息子さんに相続させるでしょうね」
木葉「えー、私あの3人とは幼なじみだけど」
木葉「絶対旅館経営には、向かないですから!」
  そう、お二人には3人の息子がいるのだけれど
  3人全員、家出同然で都会へ行った為、
  ほぼ絶縁状態なのだ。

〇温泉旅館
  3人の息子は私と同い年で、この地域でも
  かなり珍しい三つ子の兄弟である。
  生まれた当初は旦那様方は大喜びで、
  3人の息子にそれぞれ英雄の名を付けた。
  長男は信長(のぶなが)、次男は秀吉(ひでよし)、三男は家康(いえやす)。
  旅館の繁盛祈願で付けられた戦国時代で
  有名な『三英傑』の名前。
  『名は体を表す』というが、正にその通りの性格に育った三つ子である。
  まず、長男の『信長』。
  『織田信長』は、国を統一させる為、各地で暴れ回っていたが、
  こっちの『信長』は、根っからの悪童だったのだ!
  地主である旅館の息子ということで、周りの大人が甘やかしたのも原因の一つだが、
  その結果、超ワガママで傲慢無礼を平気で行う『暴れん坊将軍』に育ってしまった。
  現在は、闇金融会社に務めているという噂だ。俗に言う『ヤクザ』である。
  いくらなんでも暴れ過ぎだろうと思う。
  次男の『秀吉』はお調子者で、
  長男『信長』の腰巾着。
  『豊臣秀吉』も元は『織田信長』の家臣で、かなりのお調子者だ。
  こっちの『秀吉』は兄が悪事をやっていると解っても、平気な顔で手を貸している。
  『信長がやったから、オレもやった。だからオレは悪くない』と言って
  自分の事を棚上げして、責任を丸投げするとんでもないヤツだった!
  そんな『秀吉』は、現在風俗店で
  『ホスト』をしているとの噂。
  『豊臣秀吉』も『女好き』であったが、コイツもかなりの『女たらし』だったのだ。
  最後に三男の『家康』。
  兄二人と比べると印象は地味めだが、実はかなり計算高いヤツ。
  常に『漁夫の利』を得ようと兄二人に付いてきている。
  そして兄二人を踏み台にして、自分はさりげなく良い子ぶるという世渡り上手。
  『徳川家康』も『漁夫の利』を用いて、
  最終的には江戸幕府初代将軍となった。
  現在の家康は『バーテンダー』をしているらしい。俗に言えば『水商売』。
  二人と比べるとまともな職だが、客を酔わせて言葉巧みに情報を聞き出すペテン師。
  聞き出した情報を元に相手を脅しているという噂もある、とんでもないヤツだった!

〇旅館の受付
先輩「聞けば聞くほど、ものすごい御子息たちね」
木葉「成人式の時に見かけたけど」
木葉「ものすごい変貌ぶりに周りが騒然としてました・・・」
木葉「子供の頃とは別人過ぎて」
木葉「地域住民にバレてないのが不幸中の幸いですね・・・」
先輩「あ、でも確か 甥の信繁(のぶしげ)くんがいたよね?」
信繁「呼びましたか?」
木葉「シゲちゃん!」
信繁「なんだよ木葉、先輩に俺の悪口でも言ってるのか?」
先輩「あー、違うのよ信繁くん」
先輩「ただ、旅館の跡継ぎって、信繁くんになるのかなって話してて・・・」
信繁「旦那様が元気なのに、そんな話したらダメですよ?」
信繁「そもそも俺は甥っ子だし、ただの 『料理人』ですよ?」
先輩「万が一の話よ?色々気になって・・・」
木葉「まあ、お二人も健在だし、余程の事が無い限りは・・・」
  従業員の皆様、至急大広間に集合してください
  繰り返します、従業員の皆様は至急大広間に集合してください
木葉「全員集合って・・・」
先輩「先、行ってるわね!」
木葉「全員集合ってことは、『余程の事』よね?」
信繁「行くぞ、木葉!」
木葉「うん」

〇畳敷きの大広間
女将「皆様、全員揃いましたか?」
女将「皆様にお集まりいただいたのは」
女将「緊急を要することなのでお呼びいたしました」
  ・・・・・・・・・・・・
女将「実は主人が、交通事故に遭いました」
  !?
女将「・・・命に別状はございません」
女将「しかし意識不明の重体ではあるので」
女将「仕事の復帰は望めそうにありません」
女将「本来なら私が主人に変わり、旅館を取り仕切るのですが」
女将「私のほうも主人の付き添い等があるので」
女将「女将の仕事の両立は難しいと思います」
女将「なので、しばらくの間は」
女将「甥の信繁を仮の『若旦那』とします!」
信繁「お、俺が若旦那!?」
女将「ええ、あなたしかいません」
信繁「でもおばさん・・・いえ、女将!」
信繁「俺はただの『料理人』だし、『旅館経営』なんてとても・・・」
女将「それは、追々覚えていくといいでしょう」
女将「主人と同期の従業員も数人いるので、協力してくれる筈です」
女将「以前主人と、話していたのです」
女将「『信繁には素質がある、信用に足る男』 だと」
女将「それに、あくまで『仮』です」
女将「しばらく続けて難しいようなら、別の者に引き継がせますから・・・」
女将「どうか、今だけはこの旅館の『若旦那』でいてください」
信繁「承知しました、女将さん!」
女将「良い返事です」
女将「それでは、私はしばらく留守にします」
女将「後のことは頼みましたよ、『若旦那』!」
信繁「はい!!」
先輩「なんか唐突な展開ね・・・」
木葉「そうですね・・・」
  おい!新『若旦那』!
  みんなに挨拶したらどうだ!?
信繁「えっ?は・・・はい!」
木葉「ガンバレ~、シゲちゃん」

〇温泉旅館
  ──こうして、シゲちゃんもとい若旦那に
  旅館経営の引継ぎをした。
  最初は、大慌てな若旦那ではあったが、
  私を含む、大半の従業員は昔からの温泉街の住人。
  みんな心良く協力してくれました。
  それから1ヶ月後・・・

〇神社の石段
  ──温泉街近くの神社前。
信繁「悪いな、木葉、色々連れ回して・・・」
木葉「お安い御用ですよ、『若旦那』!」
  今日は休みを利用して、温泉街を視察していました。
  シゲちゃんは元々『料理人』なので、よく街へ仕入れに来ていた。
  おかげで、シゲちゃんへのご近所の評判は
  かなり良い。
信繁「おいおい、二人きりの時は名前で 呼んでくれよ」
木葉「はい、シゲちゃん」
信繁「実はな、番頭さんや料理長に 『たまには休め』と言われたんだ」
木葉「シゲちゃん、最近働き詰めだもの」
木葉「丸一日休める日が、あったっていいんじゃない?」
信繁「今日が終われば、いつ休みになるかは断言できない」
信繁「だから・・・今日のうちに・・・ 木葉に伝えたいことがある」
木葉「・・・シゲちゃん?」
信繁「木葉・・・!」
「あれ~?シゲに木葉じゃん」
信長「仕事さぼって、二人でデートかよ? いい御身分だねぇ?」
「信長っ!?」
信長「ほう?久しぶりに会ったのに、『俺』だとわかるのか?」
信繁「成人式でお前ら三つ子の姿は見てるからな!」
木葉「おまけに、3人で成人式で大暴れ! 一生に一度のことなのに、酷い思い出よ!」
信長「おいおい、つれないこと言うなよ木葉」
信長「『思い出』なら、一緒に俺と作ればいい」
木葉「誰がヤクザなんかと!」
信長「『ヤクザ』だぁ?」
信長「随分な言い草だなぁ、 『ご主人様』に向かって・・・」
木葉「ハァ?」
信繁「どういうことだよ?」
信長「今日から『旅館経営者』になるって事だよ」
信長「聞いたぜ? 親父が『死んで』、お袋が『隠居』」
信長「おまけに、分家筋のシゲが『当主』ヅラしているってこともな」
信繁「おじさんは『意識不明』なだけだ! 勝手に殺すな!」
木葉「女将さんは、病院の付き添いで不在が多いだけで、まだ『現役』だよ!」
信繁「俺は、女将であるおばさんに直々に頼まれたんだ!」
信繁「たとえ本家でも、『家出』したお前らに 旅館を任せられる訳ないだろ!?」
信長「どちらにせよ、結果は同じだ」
信長「両親がいない以上、『本家』の俺たちが継ぐのが『筋』だ」
信長「こっちには、弁護士が付いている」
信長「お袋の『口約束』程度じゃ、覆すのは 難しいだろうよ」
信繁「ぐ・・・!」
木葉「でも、従業員全員がそれを許さないわ」
木葉「ポッと出のあんたたちじゃ、信頼だって されないわよ!」
「!?」
信長「・・・満足か?」
信長「『信頼』なぞ、『金』がありゃナンとでもなる!」
信長「従業員全員の目の前で宣言してやる」
信長「その金は一種の手切れ金だ・・・ ありがたく受け取っておくんだな」
木葉「なんなのよ、アイツ!?」
木葉「神社の前でお金ばらまくなんて、 罰当たりな!」
信繁「だが、アイツの意見も一理ある・・・」
信繁「『本家』がいる以上、『分家』の俺が 口出しする訳にはいかない・・・」
木葉「シゲちゃん・・・」
信繁「・・・今日はもう帰るか」

〇畳敷きの大広間
  その翌日。
  ──冒頭のシーンに戻る。
信長「俺が旅館直系の長男、『信長』だ!」
秀吉「同じく、次男の『秀吉』だ」
家康「三男の『家康』です」
家康「『信長』は金融会社の営業マン、 『秀吉』は接客サービスのスペシャリスト」
家康「僕『家康』は飲食店経営の実績があります」
秀吉「オレたち三人でも、充分に旅館経営の素質がある筈だぜ?」
信長「これからは、俺達の方針に従ってもらう」
信長「逆らう奴は、この温泉街にいられないと 思うんだな!」
(・・・・・・・・・)
  ああ・・・これからどうなってしまうのだろう・・・
  悪い夢なら醒めてほしい・・・

次のエピソード:中半

コメント

  • これが夢!?設定がすごくユニークで面白かったです😆旅館が舞台のドラマ、意外と好みかもしれません🌟

  • 舞台やキャラクターの設定が楽しすぎますね!このアクの強い三兄弟が旅館運営に携わった結果、果たしてどうなるのか予想すらできませんね。次話が楽しみになります

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