〇黒背景
　　──いわく、魔法も物理現象の一つに過ぎない。
　　この世の物理学は自然の摂理である。理化学的な考えは、魔法学のそれと似てる。
　　魔法は魔力という空気中に存在する力を利用する。その力は呼吸により体内に取り込み、放出する事で術式が発動する。
　　おそらく魔力と呼ばれる微粒子が存在している。その微粒子は現実世界では確認されていなかったが、存在する可能性はある。
　　それに伴って考えれば、魔法も科学で証明できるものであり、不可思議とは呼べない。
　　魔法という幻惑に惑わされてはならない。まっすぐ現実を見据えることで真実を見ることができる。
　　・・・・・・・・・・・・嫌い。
　　嫌い、嫌い、嫌い！　嫌いっ!!
　　ほんっとうにイライラする！　冷静ぶって、ロマンスもカケラもない！　なんでもかんでも証明できるって、意味わかんない！
　　死んじゃえ！　死んじゃえ!!　死んじゃえ!!!
（そう・・・・・・思ってたはずだったんだ）

〇地下室（血の跡あり）
（それなのに・・・・・・実際にその死体を目の当たりにすると・・・・・・）
（目眩がして、嗚咽も我慢できず、涙が溢れ、心がズタズタに引き裂かれて──）
（目の前にいる犯人に殺意しか湧かなかった──）

〇貴族の応接間
コウタロウ「ねぇ──紅茶をくれないかい？」
アルト「──アンタさ・・・自分の立場わかってんの？」
コウタロウ「うーん。手足を縛られて動けない。俺もこんな仕打ちは受けたことないなぁ」
アルト（犯人は、捕まってるくせにひょうひょうとした顔で、笑みを浮かべていた）
アルト（コイツが・・・殺した・・・！）

〇黒背景
　　──俺が刺されたあと、気がついたら草むらに埋もれながら、嵐に打たれていた。
エインズ「大丈夫かね?!」
　　酷く寒い・・・刺されたはずの胸は痛みはない。というより、消えていた。うつ伏せに倒れ、寒さでもう一度死にそうだ。
エインズ「なぜこんなところに“日本人”が・・・・・・とにかく、屋敷に連れて行こう」
　　なぜ彼がすぐ俺を日本人とわかったのかはっきりしない。それも後で聞けばいいと・・・そう思っていた
　　しかし──彼とは二度と、話す事はなかった

〇貴族の応接間
　　──で・・・その人を殺した容疑者が俺ってわけだ。
アルト「──なに笑ってんのよ」
コウタロウ「・・・俺は」
　　そうだ・・・・・・まだ終われない。
　　あの事件で生まれた後悔と・・・・・・懺悔・・・・・・。
　　彼女を・・・・・・最も愛した女を殺した記憶。俺が甘かったせいで──っ。
　　だから・・・・・・笑おう。
　　堂々と・・・・・・探偵らしくなれるように。
アルト「もうすぐ警察がくるわ。そうすれば、アンタも死刑になる。仮に死刑にならなくてもアンタは私が殺してやる」
コウタロウ「子供がそんな怖い事言うもんじゃないよ」
サンダルフォン「テメェ──いい加減にしろよ」
アイシス「なんでエインズさんを殺したの?!」
フレア「どうせアンタ空き巣でしょ？　服も汚いし」
コウタロウ（この場には、アルトちゃんも入れて５人。疑われている原因は、俺がエインズさんに助けられたことが証明できないこと）
コウタロウ（しかし、仮にこれが異世界転生なら、エインズさんがの死んだ今、その証明は不可能だ）
コウタロウ（冷静になれ。今、冷静さを欠く行為は、直接死を意味する・・・この世界での量刑がどんなものかは判断できないが・・・）
コウタロウ（なら。証明できることはただ一つ）
コウタロウ「で？　警察はいつ来るんだい？」
アイシス「雨の影響で、馬車が遅れてるんでしょ？あと数時間はつかないわよ。下手すりゃ明日かも」
コウタロウ「なるほど・・・さすがにそれまで縛られっぱなしってのは辛いなぁ」
サンダルフォン「安心しな！テメェは死刑になるまで縛られっぱなしだよ！」
コウタロウ（──馬車がある時代であること。殺人の量刑が死刑であることの確認終了。・・・とすると、“あれ”はないよな）
コウタロウ（現場は俺が意識を取り戻した時に軽く確認した。・・・・・・それで十分だ）
サンダルフォン「おい！聞いてんのか!!このクズ野郎！」
コウタロウ「クズ野郎ねぇ・・・じゃあ、いい加減君達のガバガバ推理の穴をつくとしよう」
サンダルフォン「なんだと?!」
アルト「いい加減にしなさいよ！あの部屋にはパパとアンタしかいなかった。それで十分でしょ？」
コウタロウ「ああ、そうだね。だが、俺には犯行が不可能だったことは、現場状況だけで十分証明できる」
アルト「な、なんですって！」
コウタロウ「・・・アルトちゃんだっけ？感情は真実を隠すまやかしだよ。真犯人を見つけたいならまず冷静に現場を観察したまえ」
アルト「は？現場を観察？」
サンダルフォン「観察っつっても、部屋が荒らされ、エインズさんの死体とアンタが座り込んでた。どう考えてもテメェが犯人だ」
コウタロウ「そうだね。そして俺は泥だらけ。そりゃそうだ。雨の中道端で倒れてたんだから。はい、証明終了」
サンダルフォン「ぜんぜんわかんねぇよ！テメェが汚物まみれだとなにが・・・変わるって・・・あ──」
コウタロウ「そう。もし俺が犯人なら「部屋が荒らされて」ではなく「部屋が汚されて」だろ？泥まみれの男が暴れて人を殺したんだとしたらな」
アルト「部屋・・・汚れてなかった。本が散らばってただけだった」
コウタロウ「うん。そうだったね。俺が倒れてた場所はともかく、それ以外は汚れてなかった。それと現場には他にも特徴があったよね」
サンダルフォン「部屋は鍵がかかっていて、窓が全て割れていた」
フレア「完全に空き巣の手口じゃない。こいつは、窓から家に侵入し、そこをエインズさんに見つかったのよ！」
サンダルフォン「いや、それはねーよ。さっきも言ったろ？部屋は汚れてなかったって」
コウタロウ「そうだね。仮に本が先に散らばっていて、その後空き巣が入ったとしても、扉側にいた俺の場所までに、泥の足跡がなければいけない」
コウタロウ「さらにもう一つ。窓はどうやって割れたのかな？」
フレア「い・・・・石でも投げて割ったんじゃないの？」
コウタロウ「だったら、現場に窓を割った石がなければいけない。付け加えて、もう一つ」
アルト「・・・窓ガラス」
コウタロウ「お、気づいたね。子供の彼女の方がよほど優秀だ」
サンダルフォン「そうか・・・石で叩いて窓を割り、侵入したとしても・・・」
コウタロウ「そう。部屋には窓ガラスが散乱してなければいけない」
アイシス「だったら、本当にこいつが犯人じゃないっての？誰も知らない、見るからに怪しいこいつが?!」
アイシス「だいたい、なんでアンタこの家にいたのよ」
コウタロウ「それは俺にもわからないんだ。道端で倒れて、気がついたらこの家にいた。・・・目が覚めたのも、アルトちゃんの悲鳴が原因だしな」
サンダルフォン「・・・まだ完全に信用するわけにはいかねー。部屋には２人だけだったって事実は動かせねーしな」
コウタロウ「それでいいよ。だけど、縛ってるロープは外してくれるかい？」
サンダルフォン「そいつはできねぇ・・・と言いたいところだが・・・。そうだな。条件付きなら外してやる」
コウタロウ「条件？」
サンダルフォン「俺がお前を監視する。妙な動きをしたら迷わずお前を斬る。そして・・・警察が来たら迷わずお前を犯人として突き出す」
コウタロウ「構わないよ。俺が君の立場でも同じことを条件にするだろうし」
サンダルフォン「ち・・・いけすかねーやろうだ」
コウタロウ「ありがとう」
アイシス「サンダルフォン・・・いいの？」
サンダルフォン「さっき言った通りだ。あそこまで証明されたんじゃ、仕方ない」
コウタロウ「ま、犯人を捕まえるまで、安心できないけどね。タイムリミットは警察が来るまで。それまでに、真犯人を捕まえなきゃ」
サンダルフォン「・・・ん？そういえばお前、さっきの説明だと、アルトちゃんの悲鳴で目が覚めたんだよな」
コウタロウ「そうだけど？」
サンダルフォン「アルトちゃんが悲鳴をあげてものの数秒で俺たちが駆けつけたわけだが・・・」
サンダルフォン「まさかその短時間で見た光景だけで、自分を弁護したのか？」
コウタロウ「まぁ、そうだな」
サンダルフォン「はは・・・マジかよ・・・」

〇地下室（血の跡あり）
コウタロウ「で、ここが現場か」
サンダルフォン「ああ。物置だな」
コウタロウ「・・・というか拷問部屋だなこりゃ」
サンダルフォン「昔はそういう目的でも使ってたそうだ。だが、それも昔の話だ。ほら、見ろよ」
コウタロウ「扉？・・・なんか、素人目でもわかるくらい後付けでつけた扉だな。鍵も簡単な角ラッチ錠だ」
サンダルフォン「角ラッチ？・・・その横にスライドする鍵の名前か？」
コウタロウ「ああ。・・・てことは、内側から鍵をかけることは可能・・・そして外からは・・・鍵があれば閉められるようになってるのか」
サンダルフォン「拷問部屋時代は、ただの鉄格子だけだったみたいだな。南京錠で閉めていた簡単なものだ」
コウタロウ「・・・おそらくエインズさんは、俺が泥だらけだったから、ここに連れて来たんだろう。部屋を汚してしまうしな」
コウタロウ「そこにある毛布は、俺の体を冷やさないために持って来たんだろうな。それなら・・・」
コウタロウ「やっぱり。箱の中身はティーセット。・・・しかし火元がないな」
サンダルフォン「ああ、エインズさんは火の魔法を使えるからな」
コウタロウ「え？魔法だって?!」
サンダルフォン「まさか・・・知らないわけじゃないだろ？」
コウタロウ「悪いが知らない。俺はおそらく異世界から転生して来たからな」
コウタロウ（──信じられないが、さっきから感じてる違和感を説明するにはこれしかない）
コウタロウ（今、俺はサンダルフォンと日本語で話している──が、本に書かれてる文字は見たことがない）
コウタロウ（それに俺は間違いなく現実世界で死んだ──。この状況を説明するにはこの推論にすがるしかない）
サンダルフォン「転生者か・・・なるほどな。まぁこの世界じゃ珍しくもないし、エインズさんも転生者だ。前の世界で死んでここに来た」
コウタロウ「そうなのか!?」
サンダルフォン「ああ、本人が言ってたから間違いねぇ。イギリスってとこから来たらしい」
コウタロウ（・・・ということは、やはり薄れる意識の中で見た人はやはりエインズさんだったのか）
コウタロウ「サンダルフォン。魔法についてもう少し詳しく聞いていいか？」
サンダルフォン「それは構わないが・・・お前図々しいな。一応まだお前が第一容疑者であることは変わりないんだぜ」
コウタロウ「そうならないためには、俺が犯人じゃないって証明しなきゃだろ。頼むよ」
サンダルフォン「しゃあねぇなぁ」
サンダルフォン「魔法には生まれつき適正があってな。基本的に適正にあった魔法しか使えない。俺なら雷だな。ま、あんまり使えねーけど」
コウタロウ「へぇ。他の子達は？」
サンダルフォン「アイシスは氷。フレアは火。アルトちゃんはまだちゃんと魔道学勉強できてないけど、闇魔法だな」
コウタロウ「へぇ。アルトちゃんは闇魔法・・・意外だな。てっきり光かなんかかと」
サンダルフォン「やっぱ異世界人らしいな。向こうじゃ闇はどちらかというと悪ってイメージなんだろ？」
コウタロウ「違うのか？」
サンダルフォン「まぁ、そういう見方もあると言えばあるがな。闇魔法は確かに悪用されやすい」
サンダルフォン「だが、こっちじゃ魔法に善悪はない。闇魔法は弱者を強者の牙から守る影。むしろ光魔法は滅びを与える光とされている」
コウタロウ「なるほど・・・言われてみれば確かにそう考えることもできるな」
サンダルフォン「理解が早くて助かる。闇魔法を悪としたら怒る人もいるんだ。エインズさんも、昔、結構言われてたみたいでな」
コウタロウ「はは、エインズさんの気持ちもわかるよ。こっちの世界じゃ魔法はないが、おとぎ話に出てくる闇魔法は、基本悪役だったからな」
サンダルフォン「らしいな。・・・話が少し脱線したな。どこまで話したっけ？」
コウタロウ「魔法適正の話だな」
サンダルフォン「そうそう。原則人間は自分の適正にあった魔法しか使えない。例外として、分類しがたい特殊技能を持つものもいる」
コウタロウ「特殊技能？」
サンダルフォン「ああ。魔法が使えない代わりに魔法でも実現が難しい能力を持っていたり、特例として全ての魔法が使える人もいる」
サンダルフォン「エインズさんの場合はマルチスキル。全ての魔法が使える」
コウタロウ「・・・チートスキルってやつか」
サンダルフォン「チートって言ってやんな。そもそも魔法適正は異世界転生前から所持している必要がある。生まれつきの才能だ」
コウタロウ「え、でも俺たちの世界では・・・」
サンダルフォン「これはエインズさんの見解だが、お前らの世界は魔法が秘匿されているだけで、魔法自体は存在する可能性が高いらしい」
サンダルフォン「まぁ、俺もエインズさんの死者転生術式理論って本から学んだことだから、そこまで詳しくないけどな」
コウタロウ「いや、面白い話を聞いた。ありがとう。今度また詳しく教えてくれ」
コウタロウ（もしかしたら、エインズさんは、現実世界に帰る方法を研究してたのかもな・・・。一応あとで文献に目を通しておくか）
コウタロウ「サンダルフォン。試しに何か魔法を使ってくれないか？できれば物を壊さない程度の」
サンダルフォン「え？なんでだ？」
コウタロウ「いや、実際に魔法を見てみたいんだよ。なんか都合悪いのか？」
サンダルフォン「いや、いいんだけどよ・・・魔法痕が残るからな」
コウタロウ「魔法痕？」
サンダルフォン「ああ。普通は見えないが、魔法を使った後、魔法を使った痕跡が残るんだ。薬品を使わなきゃ視認できないけどな」
サンダルフォン「ちゃんと調べれば、誰がどんな魔法を使ったのかわかるんだよ。それで疑われても困るだろ？」
コウタロウ「ああ、そういうことか」
サンダルフォン「わかってくれたならいいよ。念の為、事件とは関係ない所に向けてやってもいいか？」
コウタロウ「構わないよ」
サンダルフォン「じゃあ・・・そこの壁に・・・壊さない程度に加減して・・・エレクト！」
サンダルフォン「とまぁ、こんな感じだ」
コウタロウ「・・・・・・・・・・・・」
サンダルフォン「ははっ、やっぱ異世界人は見るの初めてだからびっくりしたか？本気だともっとすげぇぜ」
コウタロウ「いや・・・というより・・・なんだ？この光」
サンダルフォン「光？電流流れたら光るだろフツー」
コウタロウ「そっちじゃなくて、この光だよ！」
サンダルフォン「は？お前のいう通り加減したから光どころか傷もねぇぞ？」
コウタロウ「・・・見えないのか？お前には、黄色い火みたいな灯り」
サンダルフォン「見えないぞ？」
コウタロウ「俺だけが・・・見えてるのか？」
サンダルフォン「──裁判の眼」
コウタロウ「裁判の眼？」
サンダルフォン「ああ、特殊技能のうちの一つに、裁判の眼ってのがある。魔法痕を観測することができる能力──」
コウタロウ「・・・裁判の眼」