RiversideBaron~最終章~

山本律磨

さまよえる青白い鈍刀(3)(脚本)

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山本律磨

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〇西洋風の部屋
  『うつくし黒髪輝くティアラ~♪』
  『どうか夕日が落ちぬ間に~♪』
  『この恋続けとルルル~願いましょう♪』
未来子「どうもありがとうございました!」
ダリア「どういたしまして」
ダリア「凄いわね~ジュン君。国民的歌手と知り合いだったなんてね~」
燕「昔の話だよ」
未来子「え~もう過去にしちゃうんだ~。まだ五年しか経ってないのに」
未来子「私達の熱い夜から」
ダリア「ア゛ア゛ン゛!?」
燕「みょ、妙な言い回しはやめろ!」
燕「ただの同好会だよ。本を読んだりゲームをしたり」
未来子「なんのゲームでどんなプレイだっけ?」
ダリア「ア゛ア゛ア゛ン゛!?」
義孝「おい!話がある!」
燕「だからただの同好会だ!憲兵に詮索されるような真似など!」
義孝「握手して頂きたい!」
燕「・・・は?」
義孝「『女桃太郎』『歌劇マーガレット』『王妃ガートルード』『新説金色夜叉』何もかも最高でした!」
義孝「レコードも全部持ってます!」
義孝「軽薄な芸能芸術活動が跋扈する昨今、大和撫子を思わせるあなたの力強くも繊細なる演技は実に宜しい!」
義孝「特に帝劇での『絶対王女クレオパトラ』のラストシーン。毒蛇に自らを噛ませて命を絶つ場面は不覚にも滂沱の涙に溺れてしまうかと」
未来子「熱い応援ありがとうございま~す」
未来子「サインしましょうか?」
義孝「よ、よいのですか?ではこのポッケの辺りに『クルちゃんへ』と」
ダリア「クルちゃん!皿洗い途中なんだけど!」
義孝「で、ではまた後程舞台のお話などお聞かせ頂ければ・・・」
ダリア「来栖川っ!」
義孝「はいはい。分かりました」
義孝「チッ・・・」
ダリア「チッ、つったか?今チッ、つったか?」
未来子「来栖川・・・どこかで聞いた名前ね」
ダリア「で、アンタら夫婦の痴話喧嘩にどうして私達が巻き込まれないといけないわけ?」
未来子「私の主人、とっても天才なんです」
燕「・・・」
未来子「ただ天才すぎて周りが放っとかないんです」
未来子「生活の方はいいんですよ。実家が華族ですので一生食べるには困りません」
未来子「でも彼、いつまでも子供っていうか。夢追いかけ過ぎっていうか」
未来子「それってマズくないですか~?嫁の実家に頼って定職につかないなんて常識なさすぎじゃないですか~?」
未来子「ま、そこが可愛いんですけど」
ダリア「どっちだよ」
未来子「というわけで~。離婚届け攻撃でちょっと反省してもらってる間だけここに置いてくださ~い」
未来子「お金なら後から幾らでも払いまーす」
燕「何で僕の居場所が分かったんだ?」
未来子「そっちこそ、何で私の家の前をうろついてたの?」
ダリア「え?」
燕「た、たまたまだよ」
未来子「たまたま?何度も?下町から山の手まで?」
未来子「私の事、心配してくれてたんじゃないの?」
ダリア「・・・」
燕「出ていけ!ダリアに迷惑だ!」
義孝「え~っ?もう~?」
燕「お前は皿を洗ってろ!」
ダリア「いいよ。置いてあげるわ」
燕「ダリア!」
ダリア「・・・」
未来子「・・・」
ダリア「ただし、ここ私の家だから」
ダリア「ちょっと今から二人で大きな声出しちゃうと思うけど我慢してね」
ダリア「じゃ、部屋で待ってるね。ジュン」
燕「・・・だから出ていけと言ってる」
未来子「私をつけ回してた事、通報しよっかな~」
燕「勝手にしろ!ワルプルギスの魔女!」
未来子「・・・ワルプルギス。懐かしいな」
義孝「松音さんこういう時はですね。我々は一時間ほど辺りを散歩して」
未来子「分かってるからお皿洗ってて~」

〇暖炉のある小屋
ヒナ「誰?」
「トラだ。夜分失礼する」
ヒナ「何気取ってんだよ。他人行儀だな」
「じゃあ開けてくれ」
ヒナ「何の用だ?」
「他人行儀だな」
ヒナ「他人だからな」
「・・・」
ヒナ「・・・」
ヒナ「入れば」
トラ「メガネが逃げて来なかったか?」
ヒナ「蓬莱合唱団の?」
ヒナ「知らねえ」
トラ「そうか・・・」
トラ「逃がしてやろうと思ってんだ。見つけたらすぐ連絡してくれ」
ヒナ「何かあったのか?」
トラ「革命運動に嫌気が差して街を出ようとしたみたいだ」
ヒナ「・・・」
トラ「根室先生は力ずくでも捕まえようとしてるみたいだが、俺は逃げてもいいって思っている」
トラ「根性無しに居座られても迷惑だし、昔なじみのよしみもある」
トラ「今夜中にでも街の外に出してやりたい」
  『ほ、本当に?』
ヒナ「お、おい。待てよ」
バリトン豊「本当に逃がしてくれるの?トラ・・・」
トラ「・・・」
トラ「見つけました。先生」
「・・・!」
ヒナ「トラ!てめえ!」
根室「捕まえろ」
バリトン豊「や、やめろ!来るな!」
烏兄「おいおいおい」
烏弟「大人しくしろよ。豚が」
バリトン豊「うう・・・もう嫌だ」
バリトン豊「僕は自由に歌いたくてこの街に来たんだ!戦いなんかしたくない!」
根室「まあまあ落ち着きたまえ。そう取り乱しては何も始まらないよ」
根室「本部でゆっくり話し合おうじゃないか」
根室「さあ、帰ろう」
バリトン豊「嫌だ!戻りたくない!助けて!」
根室「迷惑かけたね」
ヒナ「今の連中。街では見ない顔だな」
根室「それが何か?来る者拒まずの蓬莱街だろう」
ヒナ「去る者追わずの蓬莱街だ」
根室「それでは街が廃れてしまうよ」
根室「折角新たな時代を作る革命の同志が集まってきたんだ。僕達はもっと分かり合わないといけない」
根室「それが絆というものさ」
ヒナ「気色悪いこと言ってんじゃねえよ」
ヒナ「お前も同じ意見か。トラ」
ヒナ「根室の影にコソコソ隠れやがって。何とか言ったらどうだ卑怯者!」
トラ「クソ!言わせておけば!」
根室「言わせておけ。子供にはまだ理解できんさ」
トラ「・・・」
根室「ヒナ君。代わりに僕が答えよう」
根室「他の者はともかく、トラとデンキは君の為に戦っているのだ」
ヒナ「え?」
根室「君が大人になるまでに、もっと世界を良くしたい。君がヤクザ者と関わらなくて済むような世の中にしたい」
根室「彼らは君の為に戦っているんだ。それだけは心に留めておきたまえ」
ヒナ「・・・」
根室「大きなお世話と跳ねつけないなら、少しは君も大人になってきたようだね」
トラ「先生。失礼ながらひとついいですか」
根室「何だね」
トラ「大きなお世話です」
根室「子供はトラの方だったか・・・」
根室「蓬莱街は『掃き溜め』から『家族』になるんだよ。家族を捨てて逃げちゃいけない。家族の為に戦わなきゃいけない」
根室「トラとデンキの想いを、気持ち悪いなどと言うんじゃない!」
ヒナ「・・・」
根室「分かったね」
ヒナ「悪い」
根室「それでいい」
ヒナ「悪いな。全然分かんねえや」
根室「なに?」
ヒナ「オイラ達は他人だ。ここは掃き溜めだ」
ヒナ「だから楽しいんだ。だから自由なんだ」
ヒナ「ようやく分かったぜ。アンタの気色悪さの正体が」
ヒナ「何でバロンがオイラに父ちゃんと呼ばせなかったのか!」
根室「悪餓鬼めが・・・」
根室「お前達その日暮らしの河原乞食が帝都を、この国を発展途上国に引きずり落とそうとしていると何故自覚しない!」
根室「私はお前達を導いてやっているのだ!愚にもつかぬ道端芸を、教養によって世界を変革する芸能芸術へ昇華させてやろうというのだ!」
ヒナ「大きなお世話だ鼠野郎!」
根室「ね、鼠だと?」
ヒナ「歌ひとつ歌えねえ、踊りひとつ踊れねえ、舞台の隅に隠れてコソコソ動くだけの鼠が偉そうに芸事を語るんじゃねえや!」
ヒナ「ド素人はすっこんでろ!」
根室「・・・」
根室「ナンセンス・・・ナンセンスナンセンスナンセンス」
根室「毛唐め。汚らしいジプシーめ。今の暴言、必ず後悔させてやる・・・」
根室「後悔させてやるぞ糞餓鬼!」
ヒナ「・・・くっそ」
ヒナ「塩どこだ塩」
ヒナ「おりゃあ!おととい来やがれ!」
ヒナ「やってやらあ・・・」

〇花模様
ヒナ「このヒナ様が~蓬莱街を~」
ヒナ「あ!掃き溜めに~戻してやらあ~~~~!」
  つづく

次のエピソード:さまよえる青白い鈍刀(4)

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