元騎士の旅物語

にーな

6.従者の青年(脚本)

元騎士の旅物語

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〇農村
  乗り合いバスを降りた先。
湊 月冴「・・・・・・!」
  何処か見覚えのある場所だった。
  この場所・・・・・・

〇森の中の小屋
月冴「『君、名前は?』」

〇農村
  俺はハッとして椿桔に振り返る。
  微かに椿桔の瞳が揺れていた。
桔梗「月冴?」
湊 月冴「いや、行こう」
椿桔「!」
「?」
  帽子を椿桔の頭に乗せる。
  出来ればあの村は回避したい。
  俺が魔術師関連以外で嫌っている唯一の村。
桔梗「あ、彼処に村があるよ」
帷 翡翠「お、本当だ。今日は彼処に泊まるか?」
空 鈴芽「そうだね、バスで少し疲れちゃった」
皇 螢「ああ、そうだ・・・・・・月冴?どうした?」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・・・・・・・チッ」
(月冴が舌打ち!?)
湊 月冴「椿桔、無理するな」
椿桔「・・・・・・いえ、もうあの頃の私ではありませんから」
  という事で、俺達は近くの村に泊まる事にした。

〇村の広場
村人「ん?余所者か?」
帷 翡翠「あ、ああ。宿とかあるか?」
村人「あるにはある。向こうだ」
  俺達は指された方に向かう。
  その間、俺と椿桔は一言も話さなかった。

〇古風な和室(小物無し)
帷 翡翠「──で?」
「で?」
  宿に着いて直ぐ、俺達は同じ部屋に集まっている。
帷 翡翠「随分と機嫌が悪そうだな、月冴」
湊 月冴「ああ、嫌いだからな」
椿桔「・・・・・・・・・・・・」
  椿桔は視線を落としていた。
  そんな椿桔の頭を抱き寄せる。
湊 月冴「お前は休め。寝ていろ」
椿桔「・・・・・・はい、申し訳ありません」
  椿桔が目を閉じて少しすると・・・・・・彼の体から力が抜けた。
帷 翡翠「らしくないな、椿桔」
湊 月冴「椿桔も此処に来て、気を張り続けているんだろう・・・・・・・・・・・・この村は、俺と椿桔が出会った村だ」
桔梗「!」
帷 翡翠「椿桔は此処の生まれなのか」
湊 月冴「厳密な所は分からん。唯、気付いた時には母親とこの村に居たらしい。というか、村外れだな」
  暗くなった外を見る。
  遠くにある、小屋の様な物・・・・・・彼処で俺達は出会った。
湊 月冴「母親は椿桔が小さい頃に亡くなったらしい。其れからは、この村から迫害されていた」
「!」
湊 月冴「椿桔は両目の色が違う。其れは・・・・・・」
帷 翡翠「魔族の証」
  其れは所謂都市伝説的なものだ。
  闇の弟が生み出した人・・・・・・魔族。
  両目の色が違い、膨大な魔力を持っている言われる・・・・・・人間の敵とも言われている存在。
帷 翡翠「んなの、都市伝説だろ」
湊 月冴「そうだ。だが、この村の奴等は椿桔を迫害した」
湊 月冴「一日一回食事を出す代わりに村の仕事を押し付けたり、ストレス発散に使ったり・・・・・・」
湊 月冴「俺とそんなに変わらない筈なのに、ボロボロのガリガリだった」
皇 螢「っ・・・・・・」
湊 月冴「偶々父上の巡視に同行していた俺が見付けた」

〇森の中の小屋
月冴「『君、大丈夫か?』」
椿桔「『ぁ・・・・・・』」
月冴「『怪我してる。父上にお願いしよう・・・・・・おいで』」

〇古風な和室(小物無し)
湊 月冴「・・・・・・そう言えば、最初の我が儘って言われたな」

〇村の広場
  父上に傷を癒して貰った後、村人を見て表情を無くした椿桔を見て・・・・・・
月冴「『お前達がこの子を虐めたのか!そんな人達の所には置いておけない!この子は俺が貰う!』」
  そう村人に宣言して、父上にこの子を引き取りたいたいと駄々こねたんだったな。
月冴「『君、名前は?』」
椿桔「『・・・・・・・・・・・・』」
月冴「『無いのか?なら・・・・・・椿桔!椿桔はどうだ?』」
椿桔「『つ、ばき?』」
月冴「『そうだ。宜しく、椿桔』」
  其れから話す様になった椿桔は俺と兄弟になるのでなく、使用人になる事を選んだ。

〇古風な和室(小物無し)
桔梗「椿桔も僕と一緒なんだね」
湊 月冴「ん?」
桔梗「月冴に見付けてもらって、名前を貰って、月冴が大好きになった」
湊 月冴「桔梗・・・・・・」
帷 翡翠「そーいう事なら、明日にでも出るか」
「異議なし」
  ・・・・・・本当に優しい奴等だ。
椿桔「・・・・・・お願いが・・・・・・あります」
帷 翡翠「!」
湊 月冴「椿桔・・・・・・」
  椿桔が体を起こす。
椿桔「発つ前に・・・・・・見たい所があります」
帷 翡翠「?」
湊 月冴「・・・・・・ああ、分かった」

〇森の中の小屋
  翌朝、早朝。
  極力村人と関わらない様に、早い時間に宿を出て、あの小屋を訪れていた。
湊 月冴「桔梗、まだ寝てていいんだぞ?」
桔梗「むぅ・・・・・・やだぁ」
  眠そうな桔梗が、俺の服を掴んで船を漕いでいる。
  一先ず彼を抱き上げ、黙祷している椿桔を見詰めた。
老婆「其処で何をしておる」
「!」
  声に振り返ると、老婆が俺達を睨んでいる。
老婆「!まさか、其奴は・・・・・・!」
  あ、椿桔にキャスケット被せるの忘れてた。
  椿桔は俯いている。
湊 月冴「俺の家族に文句でもあるのか」
老婆「!そうか、あの子供か・・・・・・!」
湊 月冴「椿桔、お前は気にしなくていい」
椿桔「・・・・・・ありがとうございます」
椿桔「ですが、報告はもう終わりましたし、戻りましょう。翡翠様辺りがソワソワしていそうですし」
湊 月冴「ああ、そうだな。桔梗も二度寝させてやらないとな」
  桔梗を抱え直し、椿桔の腕を引いて歩き出した。
老婆「・・・・・・早々にこの村を出よ」
湊 月冴「そのつもりだ」
老婆「ならば良い・・・・・・村人には気を付けよ。皆、その子を恨んでおる」
湊 月冴「・・・・・・お前は?」
老婆「・・・・・・・・・・・・娘の忘れ形見でなければな」
「!」
  思わず椿桔と共に老婆に振り返る。
  老婆は悲しみが籠った瞳で小屋を見詰めていた。

〇ボロい家の玄関
帷 翡翠「月冴!」
湊 月冴「翡翠」
帷 翡翠「部屋に居ねぇから、探しに行こうかと思ってた」
  宿まで来ると、外に出ていた翡翠が俺達を待っており、姿を確認して安堵の息を吐く。
帷 翡翠「桔梗はダウンしてんのか?」
湊 月冴「ああ、ちょっと二度寝させてくる」
帷 翡翠「おう」
  その時、視線を感じて窓の方を見た。
  一瞬だったが、店主が俺達を見ていたのを確認する。
  ・・・・・・嫌な予感がするな。
湊 月冴「翡翠、悪いが鈴芽達を起こしてくれ」
帷 翡翠「!何があった」
湊 月冴「店主が俺達を見ていた・・・・・・もし、彼が椿桔の事に気付いたなら、厄介な事になる」
帷 翡翠「!直ぐ起こして連れて来るから、お前等は先に村の外に出ろ。荷物も料金も俺がやる」
湊 月冴「すまない」
  俺は椿桔の腕を引いて村の外に向かう。

〇村の広場
椿桔「月冴様、私の所為で・・・・・・」
湊 月冴「お前の所為じゃない。其れに、家族なんだから当然だろう」
椿桔「・・・・・・本当に貴方は・・・・・・」
湊 月冴「?」
  椿桔の呟きに振り返ろうとした時、俺達の足は止まった。
  村の出口を村人達が塞いでいたからだ。
湊 月冴「チッ、遅かったか」
村人「貴様、あの異人だな!」
  異人。
  其れは魔族の証を持った人を差別する時に使われる言葉。
  其れに椿桔の腕を掴む力が強くなってしまう。
湊 月冴「俺の家族を変な名で呼ぶな!」
村人「あの時のガキか!」
村人「お前達の所為で俺達は苦労したんだ!!」
村人「野菜が育たなくなった!」
村人「騎士団の巡視が来なくなって、食べ物が届かない!」
村人「その異人が生まれた所為だ!!」
村人「お前達の所為だ!!」
  次々に叫び出す村人の言葉に思わずカッとなった。
湊 月冴「ふざけるな!」
湊 月冴「元々この地は野菜が育て辛い土地だった!それこそ椿桔が生まれるずっと昔からだ!」
湊 月冴「騎士団の巡視が来ないのはこの地では魔物の襲撃が無いと判断されたからだ!食料も他にも困っている土地に回しているだけだ!」
湊 月冴「この地は野菜は育て辛くても絶対に育たない訳では無いし、直ぐ其処の森で十分に食料が調達出来ると分かっている!」
湊 月冴「全てお前達の言い掛かりだ!」
桔梗「月冴・・・・・・?」
  思わず怒鳴り返した際に桔梗が目覚めたらしい。
  俺の服を強く握っていた。
湊 月冴「桔梗、俺の後ろに居ろ」
桔梗「う、うん」
  桔梗を降ろし、椿桔と共に後ろに庇う。
村人「煩い煩い!!お前に何が分かる!!」
村人「異人なんぞを庇うお前なんかに!」
村人「そもそもお前が、不幸を呼び寄せているんじゃないか!!」
「そうだ!そうだ!」
村人「お前が不幸そのものだ!」
  俺を指差して言う村人達。
湊 月冴「俺が・・・・・・」

〇黒
「《そう。お前が生まれたから母親が死んだ》」
湊 月冴「!?」
  誰かの声が・・・・・・
「《お前が父親から最愛の人を奪った》」
「《お前が、仲間を苦しめる》」
  頭の中で誰かの声が響いた。
「《お前が消えれれば、彼が・・・・・・》」

〇村の広場
村人「お前が悪いんだ!」
湊 月冴「!」
椿桔「月冴様!!」
  頭の声に動揺し、村人が投げた石に気付くのが遅れてしまう。
  目の前に石が迫ると同時に、体が引っ張られ傾いた。
椿桔「っ!!」
湊 月冴「椿桔!!」
  石は俺を引っ張り庇った椿桔の顔に当たる。
  倒れた椿桔の右目上辺りから血が出ていた。
湊 月冴「・・・・・・ッ・・・・・・!」
  椿桔が・・・・・・俺の大事な家族が・・・・・・
  俺の意識が黒く染まる。
湊 月冴「“・・・・・・愚かな。其れがお前達の首を絞めるというのに”」
椿桔「!?」
桔梗「月冴・・・・・・?」
湊 月冴「”・・・・・・ごめんな。もう、止められそうにない”」
桔梗(どうして・・・・・・そんな悲しそうな顔をしているの?)
椿桔「つ、月冴様」
  手を掴まれると同時にハッとなった。
  俺の手を掴んでいたのは椿桔だった。
  彼は傷口を抑えながら、もう片方の手で俺の手を掴んでいる。
  今、また、意識が・・・・・・
店主「大人しくしろ!」
「!」
空 鈴芽「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
皇 螢「っ・・・・・・卑怯な」
  振り返ると、気絶した翡翠の蟀谷に店主が銃を向けていた。
  他にも鈴芽と螢が後ろ手で縛られた状態で女将に捕まっている。
店主「抵抗したら此奴を殺すぞ!!」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」

〇小さな小屋
  其れから俺達は縛られ、あの小屋に放り込まれた。
湊 月冴「翡翠!螢、何があった」
皇 螢「翡翠に起こされて、荷物をまとめた後、料金を支払おうとした時、僕が店主に後ろから殴られそうになったんだ」
空 鈴芽「其れをお兄ちゃんが庇って、店主さんがお兄ちゃんの武器を盗ったの」
湊 月冴「っ本当にこの村は・・・・・・」
  どうしてこうも簡単に人を傷付けられるんだ。
皇 螢「僕達を捕まえて、どうする気なんだ」
湊 月冴「分からない。だが、いい事では無さそうだろ」
  縄抜けくらいなら俺や椿桔、螢くらいは出来る。
  桔梗と鈴芽なら魔術で縄を外れるだろう。
  問題は翡翠。
  頭を殴られて気絶した、となると心配だ。
  桔梗と鈴芽が魔術で治せるだろうが、もし記憶の方に異常が起きれば魔術では治せない。
「・・・・・・お前さん等」
湊 月冴「!」
  小屋の外から声が聞こえた。
  俺は壁に頭を付けて声を拾う。
湊 月冴「小屋の前で会った人か」
「そうじゃ。夜までに逃げるんじゃ。今はお前さんに皆慄いているから手は出さんじゃろう」
「じゃが、明日になれば魔術師が来る」
湊 月冴「!」
「村人の一人が近くの街に向かった。どんなに急いでも明日になろうが、夜までに逃げるんじゃ」
「森の奥の大きな根っこの洞窟を通れば撒けるじゃろう」
  その言葉を最後に気配が遠退いた。
  森の奥の大きな根っこの洞窟・・・・・・
  俺は縄抜けをし、周囲の気配に集中する。
  入口に二人。
  老婆が来たのは彼等とは真逆の裏。
  窓は無いから、出入りは入口の扉だけ。
  小屋から少し離れた所に複数の気配。
湊 月冴「・・・・・・翡翠の様子は?」
桔梗「傷は治したから、直ぐに目を覚ますと思う」
  ・・・・・・入口の奴等が俺達の様子を伺っているな。
湊 月冴「椿桔、紙とペン」
椿桔「!」
  口パクで指示を出せば、彼は直ぐに出してくれた。
  桔梗のお陰で傷は残らずに済みそうだな。
湊 月冴「『見張りが俺達の様子を伺っている』」
桔梗「!」
  俺の書いた字を読んだ皆が入口に一度視線を向ける。
湊 月冴「『翡翠が目覚め次第、小屋を脱出する。小屋の外、森まで転移出来るか?』」
空 鈴芽「『森までなら、目視してるから出来る』」
湊 月冴「『螢、煙は持ってるか?』」
  書いた言葉に螢は荷物から一つの缶を出した。
  此れは騎士団が時間稼ぎや撤退の際に使用する物で、ピンを抜く事で大量の煙を出す。
湊 月冴「『邪魔されそうになったら、螢を呼ぶ。そうしたら、遠慮無く放て』」
皇 螢「『了解』」
椿桔「『例の洞窟へ?』」
湊 月冴「『一か八かだ。もし、何かあったら俺が全て斬る』」
  俺の言葉に、皆が少し笑った。
  頭の中に響いた声の言葉は、正直俺の心を揺さぶる。
  だが、今は皆と共に逃げる方が先だ。

〇小さな小屋
  数分後。
  目覚めた翡翠に軽く説明し、完全に復活した辺りで俺達は脱出の準備をする。
  念の為、俺が桔梗を抱え、椿桔が鈴芽を背負い、翡翠が螢の手を掴む事にした。
湊 月冴「『もしバラけても、件の洞窟前で落ち合うぞ』」
  俺の言葉に皆が頷く。
  そして、鈴芽を見れば発動準備に取り掛かった。
  その時
村人「何をしている!!」
湊 月冴「螢!」
皇 螢「ああ!」
  村人が飛び込んで来る。
  其れに俺が呼んだ事で、螢が煙を放った。
村人「うわっ!」
村人「何だこれ!?」
  その煙に村人が怯んだ隙に鈴芽が魔術を発動させる。

〇けもの道
  直ぐに景色が森へと変わり、俺達は駆け出した。
老婆「此方じゃ」
湊 月冴「!」
  途中、あの老婆と出会う。
老婆「この小道を進めば、あの洞窟に出る」
湊 月冴「・・・・・・いいのか。俺達に協力して」
老婆「・・・・・・お前にその子を託して良かった」
「!」
老婆「どんなに言われても、あの子はその子を産み、慈しむと決めた」
老婆「だが、あの子は無念のままその子を残して逝った。私に出来るのは此くらいじゃ」
  この村の人間だからと警戒していたが・・・・・・この老婆も複雑な立場に居たんだな。
老婆「この村で魔術を使えるのは私くらいじゃ。下手な事はせんじゃろ」
湊 月冴「・・・・・・そうか。感謝する」

〇洞窟の深部
  森の小道を進むと、件の洞窟らしき物を見付けた。どうやら、洞窟の入口を覆うように大きな木の根を張っている状態らしい。
湊 月冴「・・・・・・行こう」
  俺達はその洞窟を進む。
椿桔「この洞窟・・・・・・人工物ですね」
湊 月冴「そうみたいだな」
  壁は土で覆われてはいるが、触れれば固い壁の感触がした。
  遺跡・・・・・・とは、また違う・・・・・・
湊 月冴「・・・・・・椿桔」
椿桔「!はい」
湊 月冴「お前は椿桔だ。俺の大事な家族の」
椿桔「・・・・・・はい」
  やっと見れた椿桔の微笑みに、俺も微笑み返す。
桔梗「月冴、僕歩ける」
湊 月冴「ああ、そうだな」
  桔梗を下ろし、手を繋いで洞窟を進んだ。
皇 螢「・・・・・・翡翠」
帷 翡翠「ん?何だよ」
皇 螢「その・・・・・・ありがとう」
帷 翡翠「え、ああ・・・・・・おう。どういたしまして?」
  螢の言葉に少し戸惑いながらも、翡翠は笑顔で頷く。
  何処か照れた様な笑顔に鈴芽がハッとした様な顔をした。
空 鈴芽「お兄ちゃん・・・・・・」
帷 翡翠「ん?どうした?疲れたか?」
空 鈴芽「・・・・・・ううん。何でもない」
帷 翡翠「そうか?疲れたら言えよ」
空 鈴芽「うん」
  そのまま彼女は首を横に振った事で、俺は視線を前に戻す。

〇岩山
湊 月冴「!」
  軈て、彼等は広い空間に出た。
桔梗「・・・・・・綺麗・・・・・・」
湊 月冴「此れは・・・・・・結晶?」
  中央に置かれている大きな結晶が置かれている。
湊 月冴「桔梗?」
  その結晶に桔梗が手を伸ばした。
湊 月冴「?」
  が、何も起きない。
  其れに首を傾げ、俺も手を伸ばす。

〇黒
母「『駄目よ』」
最高魔術師「《さあ、触れてごらん》」
湊 月冴「!」
母「『此れに触れれば戻れなくなる』」
最高魔術師「《本来の──を思い出せ》」
  頭の中を二つの声が響いた。
母「『本当なら目覚めないで欲しかった』」
最高魔術師「《さあ、目覚めるんだ》」
  響く声に頭を抱えた時・・・・・・

〇岩山
桔梗「月冴!」
湊 月冴「!」
  桔梗に腕を引かれた事でハッとなる。
桔梗「どうしたの?頭、痛い?」
湊 月冴「ぁ・・・・・・いや、大丈夫だ」
  心配そうな顔をする桔梗に微笑んで頭を撫でた。
  あの声は聞こえない。
  一人は・・・・・・母さん?
  だが、もう一人は・・・・・・
湊 月冴「・・・・・・そうだ」
桔梗「?」
  最高魔術師の声だ。
  だが、雰囲気が大分違う様に感じた。
  一体何なんだ?
椿桔「月冴様、あまり無理をなされない方が・・・・・・」
湊 月冴「・・・・・・いや、取り敢えず進もう」
  俺は頭を軽く振ってから前へ進む。
  結局、俺は結晶に触らなかった。

〇美しい草原
  洞窟を抜けた先は、何処かの小道に繋がった場所だった。
椿桔「月冴様、少し休みませんか?」
湊 月冴「そう、だな。少し疲れた。翡翠達もいいか?」
帷 翡翠「おう。構わねぇよ」
空 鈴芽「うん」
皇 螢「ああ」
  という事で俺達は少し休む事に。
  テキトーな所に座れば、桔梗が俺の隣に座る。
  トン、トンと一定の速さで彼の背を撫でれば、うとうとし始め・・・・・・
湊 月冴「!」
  そのまま俺の膝の上に頭を置いて眠ってしまった。
  まあ、朝早い上にゴタゴタで二度寝も満足にさせてやれなかったしな。
  翡翠も疲れたらしく、ゴロンと横になっている。
  そんな翡翠の側に座った鈴芽と螢が談笑していた。
椿桔「月冴様、何かありましたか」
湊 月冴「ん、ああ・・・・・・」
  俺の側に腰を下ろした椿桔が心配そうな瞳で俺に問い掛けて来る。
湊 月冴「・・・・・・頭の中で声がするんだ」
椿桔「声、ですか?」
  翡翠達に聞こえない程の声で話した。
湊 月冴「一人は母さんだ・・・・・・もう一人、恐らく最高魔術師の声が頭の中で響いた」
椿桔「奥様と最高魔術師の声・・・・・・奥様は既に」
湊 月冴「ああ。椿桔と出会う前に・・・・・・」
椿桔「其れに引き換え、最高魔術師は未だにトップに君臨している・・・・・・一体どういう事なんでしょう」
湊 月冴「分からない。母さんの声は神殿で結晶に触れた時。最高魔術師はあの村で村人と対立した時」
湊 月冴「そして、先程の結晶に触れようとした時に同時に聞こえ、反対の事を言っていた」
  俺がそう言うと、椿桔は何か考える仕草をする。
湊 月冴「どうした?」
椿桔「いえ・・・・・・あの村に居た頃、ある話を聞いた様な・・・・・・」
椿桔「確か、近くに神聖な場所があって、其処にある輝石にある者が触れると本来の力を取り戻し、世界があるべき姿になると・・・・・・」
湊 月冴「言い伝えの様なものか」
椿桔「恐らく・・・・・・」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  桔梗が触れた時は何も起きらず、俺が触れようとした際に響いた声。
  其れに、言い伝え・・・・・・

〇黒
母「『まだ私達の子供で居て』」

〇美しい草原
  一体どういう意味なんだ、母さん・・・・・・!
椿桔「・・・・・・申し訳ありません。私がもう少し詳しく覚えておりましたら」
湊 月冴「あの頃を忘れろと言ったのは俺だ。お前が気にする必要は無い」
椿桔「ありがとうございます」
  それにしても、正直不快だな。
  まるで監視され、誘導されている様な・・・・・・
椿桔「・・・・・・月冴様、螢様ですが・・・・・・」
湊 月冴「多分凛音の・・・・・・いや、王族の差し金だろうな」
椿桔「やはり気付いておいででしたか」
湊 月冴「これでも、元隊長だからな」
  それも少数精鋭の。
  ある程度察知する能力と観る能力がないとな。
  まぁ、分かり易く警戒する椿桔のお陰で、ゆっくり観察出来たんだが。
湊 月冴「螢に関しては放置して構わない。問題は最高魔術師がどうやって俺を監視してるかだ」
椿桔「いかに媒体無しでこの距離を覗けるとは思いませんしね」
湊 月冴「・・・・・・考えたくは無いが」
  翡翠達の方を見た。
  彼等は其々リラックスしている。
  そして、眠る桔梗を見た。
湊 月冴「俺達の中に“目”がいるかもしれない」

〇草原の道
  暫く休憩を取ってから、俺達は先へ進む。
桔梗「あのね、月冴」
湊 月冴「ん?」
桔梗「夢を見たんだ」
湊 月冴「夢?」
桔梗「うん。凄く辛そうな人が居て、誰かがその人にもう止めていいって言ってるんだ」
湊 月冴「でも、その人は首を横に振って・・・・・・黒い光で何も見えなくなるの」
湊 月冴「其れは・・・・・・不思議な夢だな」
桔梗「うん」
  黒い光・・・・・・か。
  確か闇の弟も黒い光を纏っていたという文献があったっけ。
湊 月冴「・・・・・・もしかしたら、桔梗の前世だったりしてな」
桔梗「そうかな?」
桔梗(あの人、月冴に似てた。じゃあ、僕は前世から月冴と一緒だったのかな)
  嬉しそうな顔をする桔梗。
  そんな彼と手を繋いで先に進んだ。
  と、視線を感じて振り返る。
湊 月冴「どうした?」
帷 翡翠「いや、仲良しだなって思ってよ」
空 鈴芽「うん・・・・・・本当に兄弟みたい」
皇 螢「姉妹にしか・・・・・・」
湊 月冴「螢?」
  微笑みながら螢を見れば、彼女は顔ごと目を逸らした。
桔梗「・・・・・・僕、月冴の家族になれるかな」
湊 月冴「ああ、勿論・・・・・・椿桔」
椿桔「はい」
  最後尾の椿桔を呼び寄せる。
湊 月冴「椿桔は俺にとって大切な家族だ」
桔梗「じゃあ、椿桔も家族になってくれる・・・・・・?」
椿桔「・・・・・・私で良ければ喜んで」
  その言葉に桔梗は嬉しそうに笑った。
  其の笑みに目を瞠った後、椿桔も少し困った様に微笑む。
  ・・・・・・椿桔も、桔梗も俺の大切な家族だ。だから──
帷 翡翠「月冴?どうした?」
湊 月冴「・・・・・・ん?ああ、いや・・・・・・何でもない」
  翡翠の言葉に首を横に振った。

〇豪華なベッドルーム
???「・・・・・・今尚邪魔してくるか」
  何処かの部屋。
  其処に居るのは・・・・・・
???「命と引き換えに──を封じた・・・・・・本当に惜しかったな。私の元に来れば早死にしなかったろうに」
  彼の前に置かれた鏡に写し出されているのは、月冴の後ろ姿。
???「だが、もう止まる事は出来ない・・・・・・もう直ぐ目覚める」
  その後ろ姿を彼の指が撫でる。
???「今度こそ・・・・・・今度こそ、人の──を・・・・・・叶えよう」
  コンコンコン
「最高魔術師様、お時間です」
???「ええ、分かっています」
  そう返した彼の目が一度閉じられると・・・・・・
漣 慎理「・・・・・・・・・・・・?」

〇ダブルベッドの部屋
  軈て、俺達は何とか近隣の街へと辿り着く。
湊 月冴「流石に疲れたな」
  宿に着いた頃にはすっかり暗くなっていた。
  全員疲れてるという事で、俺達は直ぐに部屋で横になる。
  因みに編成は男部屋と女部屋だ。
  俺がベッドに横になれば、桔梗がモゾモゾと入って来た。
桔梗「一緒に寝てもいい?」
湊 月冴「入る前に言おうな?構わないが」
桔梗「えへへ」
  嬉しそうに笑う桔梗。
  そんな桔梗の頭を撫でていると、椿桔が布団を掛けて来る。
湊 月冴「・・・・・・椿桔とも、出会った頃はこうして一緒に寝たな」
椿桔「お恥ずかしながら、月冴様と共に眠る事で安心し、先に寝てしまいましたね」
湊 月冴「ふふ、そんな顔を見ながら寝ると俺も安心出来たな」
  二人で布団に入れば、その温かさが眠気を誘った。
  桔梗を抱き寄せれば、彼も擦り寄って来る。
  そのまま目を閉じれば、俺達は深い眠りに就いた。
帷 翡翠「・・・・・・本当に兄弟みてぇだ」
椿桔「ええ、本当に・・・・・・翡翠様もお休みになられては?治したとはいえ、お怪我されていますし」
帷 翡翠「ん?ああ、そうさせて貰うわ。椿桔も休めよ」
椿桔「はい」

〇シックなリビング
  『月の皆様へ
   今回皆様には今回、お願いがあって一筆致しました』
  『不確定ではありますが、最高魔術師が月冴様を監視している可能性があります。』
  『月の皆様には、どうか魔術師側を探って欲しいと思っています。
   月冴様は、私が命を懸けて御守りいたします』
橘 恵哉「最高魔術師が、か・・・・・・」
「一体何を考えているんだ?」
筧 紫苑「・・・・・・これ以上、あの人に迷惑は掛けさせない」
要 彰久「うむ・・・・・・我等もそろそろ動かねばならんかもな」

次のエピソード:7.異変

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