再編のおままごと

戸羽らい

#5 なかったことにしないでよ(脚本)

再編のおままごと

戸羽らい

今すぐ読む

再編のおままごと
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇山中の川
  崩れないように、石を積み上げる
  慎重に、丁寧に、石を積み上げる
  でも、ふとした拍子に崩れてしまう
  まるでそうなる運命かのように、何度積んでも崩れてしまう
  それでも私は石を積み上げる
  何度崩れても、元に戻す
  それが私の役目だから

〇荒廃したセンター街
加藤沙夜「・・・」
「悪趣味だね」
ジェシカ「これが沙夜ちゃんの愛の形?」
ジェシカ「あたしにはとても歪に見えるけれど」
加藤沙夜「アンタに愛は分からないよ」
加藤沙夜「人を人形としか思ってないアンタには」
ジェシカ「沙夜ちゃんにはこれが人間に見えるの?」
加藤沙夜「二人を誑かす存在は人間じゃない」
加藤沙夜「愛を守るためには仕方ないの」
ジェシカ「愛を守るために、これまでの生命の営みをなかったことにしちゃうんだ」
ジェシカ「人類が築き上げてきた歴史を無に・・・沙夜ちゃんは破壊神かな?」
加藤沙夜「壊れたら、また元に戻せばいい」
加藤沙夜「崩れたら、積み直す。私は今までそうやってきた」
加藤沙夜「二人が一秒でも長く一緒にいられる世界。それを作るのが私の役目」
ジェシカ「元に戻すって・・・両親をアダムとイブにでもするつもりなの?」
ジェシカ「新しく人類をやり直す・・・ちょっとスケールでかすぎ! きゃはっ!」
加藤沙夜「・・・」
ジェシカ「・・・たとえ人類史を何周しても、沙夜ちゃんの両親が結ばれることはないよ」
ジェシカ「だって、そういう運命だから」
加藤沙夜「・・・」
加藤沙夜「・・・うるさい」
ジェシカ「沙夜ちゃんだって分かってるんでしょ」
ジェシカ「お母さんの運命の人はお父さんじゃない。お父さんの運命の人はお母さんじゃない」
ジェシカ「どんな設定で、どんな関係で一緒になっても、いつか必ず終わりが来る」
加藤沙夜「うるさい!」
加藤沙夜「じゃあ何で私が生まれたっていうの!?」
加藤沙夜「お父さんとお母さんが愛し合ったから私はここにいるんでしょ!」
ジェシカ「そうだね。“ここ”にいるよ」

〇山中の川
ジェシカ「“冥土”に──」
加藤沙夜「・・・」
ジェシカ「あたしたちは死者。それも成仏できずに彷徨う魂の成れの果て」
ジェシカ「沙夜ちゃんの愛はね、呪いだよ」
ジェシカ「あたしの悪意が霞むほどの、強烈な呪い」
加藤沙夜「悪霊のアンタと一緒にしないで」
ジェシカ「・・・本当は憎んでるんでしょ」
ジェシカ「自分を愛さなかった二人を」
ジェシカ「自分をこ──」
加藤沙夜「黙れッ!」
加藤沙夜「何が呪いだ! 憎しみだ! 人の感情が分からないお前が知ったような口聞いてんじゃねえよ!」
加藤沙夜「人の感情が分からないから遊び相手が人形しかいないんだろ!」
ジェシカ「・・・」
加藤沙夜「人のフリして人を欺く、一人芝居の道化は一生、人形遊びでもしてな」
ジェシカ「・・・」
ジェシカ「確かにあたしは人の気持ちが分からない」
ジェシカ「愛が何なのかも分からないし、分からないからここでずっと彷徨ってる」
ジェシカ「でもそれは沙夜ちゃんだって同じだよね」
ジェシカ「・・・きゃはっ」

〇荒廃した教室
加藤輝明「・・・」
加藤輝明「・・・ついてくんなよ」
加藤麻里奈「だって、心配だから・・・」
加藤輝明「俺は一人でも平気だよ。たまには息抜きさせろっての」
加藤麻里奈「息抜きって・・・そんなに私といると息が詰まる?」
加藤輝明「あぁ。たまには俺も一人になりたいんだよ」
加藤麻里奈「どうして・・・? 一緒にいた方が落ち着くのに」
加藤輝明「俺はお前みたいに人懐っこくねえんだよ」
加藤麻里奈「一人は寂しいよ・・・」
加藤麻里奈「あなたが良くても、私が・・・」
加藤輝明「沙夜がいるだろ」
加藤麻里奈「沙夜・・・?」
加藤輝明「お前自分の子供も忘れたのか?」
加藤麻里奈「・・・あぁ、沙夜」
加藤輝明「一緒にいてやれよ。母親だろ」
加藤麻里奈「あなたも一緒にいてよ」
加藤麻里奈「家戻ろう。ここは寒いよ」
加藤輝明「一人で帰れ」
加藤麻里奈「怖いよ・・・。外にはゾンビがいるんだよ」
加藤輝明「武器くらい持ってるだろ」
加藤麻里奈「そういう問題じゃない・・・」
加藤輝明「はあ・・・」
加藤輝明「本当めんどくさい女だな」
加藤輝明「どうして唯一生き残った女がお前なんだろ」
加藤麻里奈「・・・」
加藤輝明「もっとまともな女と生き残りたかったわ」
加藤麻里奈「・・・待って」
加藤麻里奈「待ってよ・・・」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「ああああああああああああああっ!」
加藤麻里奈「なんで!? 私がおかしいの!?」
加藤麻里奈「私は間違ってない! 寂しいのは人間の本能だもん!」

〇荒廃したショッピングモールの中
加藤輝明「・・・」
加藤輝明「おわっ」
加藤麻里奈「ううううううううううっ!」
加藤輝明「おまっ・・・何やってんだよ!」
加藤輝明「危ねえッ!」
加藤麻里奈「うううううううっ! うううう!」
加藤輝明「落ち着けって!」
加藤麻里奈「うううううううっ!」
加藤麻里奈「うっ・・・!」
加藤麻里奈「いったぁ! 怪我したらどうするの!? もうここにはお医者さんもいないんだよ!」
加藤麻里奈「骨が折れたらどうするの!? 曲がったままくっついちゃうよォ!」
加藤輝明「ちょっと小突いただけだろ・・・」
加藤麻里奈「あなたは何も考えてない! 私の恐怖の百万分の一も理解してなぃぃ!」
加藤輝明「とりあえず銃下ろせ・・・な?」
加藤麻里奈「怖いよ怖いよ怖いよ怖いよ! 私の恐怖を分かってよ! 同じ気持ちを共有してよ!」
加藤麻里奈「抱きしめてよ! 身を寄せ合ってよ! 私を不安にさせないでよおおおお!」
加藤輝明「ぐはっ」
加藤麻里奈「ううううううううううううッ!」
加藤輝明「わけ・・・わかんねぇ・・・」
加藤麻里奈「うううう、うう、うううううぅ!」
「・・・」
加藤麻里奈「ううう、うう・・・」
加藤麻里奈「うっ、ううう・・・」
加藤麻里奈「うっうっ、ううううっ・・・」
加藤麻里奈「うっ・・・」
「・・・」

〇黒
  衝動のままに生きて
  衝動のまま死ぬ
  大脳に撃ち込まれた弾丸が
  過去も未来もぐちゃぐちゃに掻き回す
  私はようやく、楽になれ──

〇山中の川
  コツン
加藤沙夜「また」
  コツン
加藤沙夜「積み直さないと」
  コツン
加藤沙夜「お母さんは」
  コツン
加藤沙夜「ずっと」
  コツン
加藤沙夜「私のお母さんだよ」
  コツン

〇黒
  私は死んだ
  死んだはずなのに
  死なせてくれない
  あの日からずっと
  呪われたまま
  何を間違えた?
  全て間違えた
  どうすれば良かった?
  ・・・
  ・・・そうか
  私は・・・

〇荒廃したショッピングモールの中

〇車内

〇アパートのダイニング

〇二階建てアパート

〇一人部屋
加藤輝明「それでさー、隆之のやつなんて言ったと思う?」
加藤麻里奈「子供ができた」
加藤輝明「えっ?」
加藤麻里奈「子供ができた」
加藤輝明「いや、隆之は婚約者どころか彼女もいないし、そんなこと言わないって」
加藤麻里奈「私に・・・子供ができた」
加藤麻里奈「妊娠してた」
加藤輝明「え・・・」

〇山中の川
加藤沙夜「・・・」
加藤沙夜「『そうか・・・俺もパパになるのか』」
加藤沙夜「『・・・って、気が早いよな』」
加藤沙夜「『まずは、そうだな。結婚しよう、麻里奈』」

〇一人部屋
加藤輝明「・・・」
加藤輝明「そうか・・・俺もパパになるのか」
加藤輝明「・・・って、気が早いよな」
加藤輝明「まずは、そうだな。結婚しよう、麻里奈」
加藤麻里奈「・・・違う」
加藤麻里奈「それは・・・偽物の歴史」

〇山中の川
加藤沙夜「・・・!」

〇一人部屋
加藤麻里奈「本当の私たちは──」
加藤輝明「・・・」
加藤輝明「・・・なんてな」
加藤輝明「妊娠って・・・冗談だろ?」
加藤輝明「仮にそうだとして、本当に俺の子か?」
加藤麻里奈「・・・」
加藤輝明「・・・はっ」
加藤輝明「こういう時は責任取るべきなんだろうな。責任がどうとかよく分かんねーが」
加藤輝明「そもそも「べき」ってなんだろうな。俺、そういう感情論分からねーんだわ」
加藤輝明「まず今の俺たちに子供を養えるだけの財力はない。仮に産んだとしても、貧しい思いをさせるだけだ」
加藤輝明「言わば堕胎は合理的な選択肢。対して出産は一時の感情に任せた選択と言える」
加藤輝明「さて、お前はどっちを選ぶ?」
加藤麻里奈「・・・」
加藤麻里奈「あは・・・」
加藤輝明「なぁ、全部なかったことにしようぜ」
加藤輝明「俺とお前の関係も全部、赤子と一緒に水に流してさ・・・ははっ」
加藤麻里奈「なかったこと・・・」
加藤麻里奈「・・・そうだね。なかったことにしよう」
加藤麻里奈「間違いは、正さなくちゃいけないから」

〇黒
  呪いを断ち切るには、不安の種を摘んでしまえばいい
加藤沙夜「やめてよ・・・」
  最初からそうするべきだった
加藤沙夜「やだよ・・・何で・・・」
  どこか別の世界に本物の私がいる
  冷静な私がいる
加藤沙夜「お母さんはお母さんだよ・・・」
  あの感覚は、間違っていなかった
  私は、あなたとの出会いを──
加藤沙夜「やめて!」

次のエピソード:#6 再編のおままごと

コメント

  • 深いです、とても。切なさのリアルが勉強になります。感謝。

  • 無かったことにされた、彼女の物語だったんですね。なんと…!
    想像もしてなかった展開で驚きました。

  • 「なかったことに」されてたのは。慄きながらも符号が合う美しさを味わわせていただきました。「一つ積んでは〜」のフレーズを思い出すと、悲しくも切なくもありますね。「再編」に気づいた麻里奈がどうでるのか…ワクワクします。

コメントをもっと見る(4件)

成分キーワード

ページTOPへ