悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第十九話「その悪役令嬢、観念する」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇黒背景
  【魔王因子】の最初の記憶は
  勇者と魔王の最期の決戦だった。
魔王「ふ、ふふ・・・っ。見事よ」
勇者「・・・お前もな」
  魔王は驚くほど素直に死を受け入れ・・・
  むしろ満足したように死んだ。
  その時【魔王因子】は
  魔王の魂から切り離される。
  そして魔王の魂は――
  勇者の魂と共に時空に消えていった。
  『────』
  残された【魔王因子】は異空間に
  放り出され、悠久の時を漂い。
  ・・・いつしか感情が芽生える。
  『・・・サビシイ』
  こうして【魔王因子】のパートナーを求め
  幾多の人間を宿り歩く永い旅が始まった。
  しかし、皆【魔王因子】の力に
  耐えられずに死んでしまった。
  耐えられた者も【魔王因子】の
  与える絶望に勝てなかった。
  【魔王因子】は考えた。
  魔王は生まれ落ちた時から絶望していた。
  それならば・・・
  『もっと絶望を与えれば・・・』
  だが絶望を与える程に
  宿主の力は暴走した。
  そして宿主の心身は壊れ【魔王因子】は
  寂しさを埋められないまま孤独になる。
  そんな事を幾度も繰り返した果てに
  【魔王因子】は出会う。
  長い間待ち焦がれていた、やっと己に
  適合した人間、ラビニア・オータムと。
  魔王以来の、
  自分を受け入れてくれる生き物。
  しかし、ラビニアは自分を拒絶した。
  『悔しい、悲しい、寂しい・・・』
  その気持ちは自分を引き継いでくれた
  オスカーの中で大きくなり・・・。
  再び受け入れてくれたラビニアの中で、
  ラビニアの絶望と融合し。
  【魔王因子】は数千年ぶりに覚醒し、
  魔王を生み出した。
  そう、魔王ラビニアを。

〇不気味
ラビニア・オータム(これは・・・【魔王因子】の記憶?)
  それは【魔王因子】と言うよりも、
  まるで寂しがり屋の子供のような記憶。
ラビニア・オータム(なんだ・・・本当は寂しかったんだね)
  でも、絶望以外の感情を、その寂しさを
  どうして良いかわからなかったんだよね。
  その幼子のような姿に
  私の前世の姿が重なる。
転生前のラビニア(私もあなたと同じだ・・・ ひとりで抱え込んで、悲しんで)
転生前のラビニア(もしかしたら・・・ちゃんと言葉にして 誰かに助けを求めたら・・・ 少しは変わっていたかもしれないね)
ラビニア・オータム(ごめんね、あなたを拒絶して・・・ いらないなんて言って)
ラビニア・オータム(あなたは・・・【魔王因子】は必要だよ、 そばにいるよ・・・ そう思って欲しかったんだよね)
ラビニア・オータム(だったら・・・ 私がそばにいてあげるから・・・)
ラビニア・オータム(もう寂しがらなくても、 悲しまなく良いんだよ)
  ふわりと体中を包む込む温かさ。
  私の中の【魔王因子】は
  驚いた様に反応する。
  その温度に私は微笑んだ。
  あなたは・・・こんなぬくもりが
  欲しかったんだよね・・・。
  私もそうだった。こんな風に
  誰かに抱きしめて欲しかった・・・。
ラビニア・オータム(ん? 抱きしめる?)
  そうだ、セバスは私を庇って、
  セーラに刺されて・・・
ラビニア・オータム(セバスはッ!?)
  私は一気に現実に引き戻された。

〇王宮の入口
セバスチャン・ガーフィールド「ぐっ・・・はぁっ、は・・・!」
  ――気が付くと。
  苦しげに肩で息をするセバスに
  抱きしめられていた。
  それを背後から見守るセーラの手には
  聖剣が握りしめられている。
  そうだ、セバスは・・・
  私を庇ってセーラに刺されたんだ。
ラビニア・オータム「いや・・・セバス・・・ 嘘よ、そんなの・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「・・・元に戻った・・・ようだな」
ラビニア・オータム「セバス、しっかりして・・・! なんで私なんかを庇ったのよ!」
  私は自分を抱きしめるセバスに
  しがみつき必死で呼びかける。
  セバスはそんな私の頬を
  ゆっくりと撫でてくれて。
  私は自分の頬が涙で
  濡れている事に気付いた。
ラビニア・オータム「セバス・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「私は、ラビニア様の執事ですから・・・」
ラビニア・オータム「もう、良いから・・・そんなの・・・ 執事なんて演じなくて良いから・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「いいえ・・・このままですと旦那様や 奥様に執事として申し訳ございません」
セバスチャン・ガーフィールド「奇行が多くて、学業も振るわず、 挙句には魔王になる・・・」
  本当に、口が悪くて性格が悪い
  執事なんだから。
  でも、こんな時まで憎まれ口を
  叩くなんて・・・セバスらしい。
  だけど・・・。
セバスチャン・ガーフィールド「こんな破天荒なじゃじゃ馬娘では、 きっと新たな婚約者のシーザー様も 困惑されるでしょう・・・」
  ねえセバス。
  あんた・・・さっきからちょっと、
  言い過ぎじゃない???
セバスチャン・ガーフィールド「・・・だから――喜べよ、 俺がおまえを貰ってやる」
  は?
  は??
  はぁーっ???
  セバスの傲慢な言葉に・・・
  私の感情は爆発した。
  今までのセーラに対する卑屈な想いとか、
  全人類に対する憎悪とか、そんなのが
  一気に吹っ飛んだ。
  っていうか・・・え?
  私そんな難しい事考えてたの?
  一気に目が覚めたような・・・
  頭の中のもやが綺麗になったような・・・
  でも、そんなのは後!
  今は目の前のふてぶてしくて厚かましい
  こいつにひと言物申してやるっ!
ラビニア・オータム「はあああああ??? なんなの、貰ってやるって? 同情? それとも嫌がらせ?」
ラビニア・オータム「わけがわかんないんですけど!」
セバスチャン・ガーフィールド「同情で嫁にしてやるなんて言えるか。 この阿呆」
ラビニア・オータム「じゃあなんなのよっ!」
セバスチャン・ガーフィールド「好きだからに決まってるだろ」
  え? 好き?
ラビニア・オータム「す、好きって・・・誰が、誰をよ」
セバスチャン・ガーフィールド「俺がおまえをだ」
ラビニア・オータム「う、嘘・・・そんなの・・・、 だ、だいたい上から目線で貰ってやるって 言われても・・・って言うか・・・」
ラビニア・オータム「今はそんな場合じゃないでしょっ! まずは手当てをっ! ・・・ってあれ?」
  私は抱きしめたセバスの背中を何度か
  擦って、その違和感に首を傾げた。
  背中は血で濡れていないどころか、
  切り裂かれてもいない。
ラビニア・オータム「???」
  思わずセバスを押しのけ、
  改めて彼の体を確認する。
ラビニア・オータム「どこも血が出てないし・・・ 傷も無い・・・なんで?」
セバスチャン・ガーフィールド「無事で悪いような言い方だな」
ラビニア・オータム「いや、違う! すごく嬉しいけど・・・ だってセーラに刺されてたんじゃ・・・」
セーラ・スタン「刺しましたよ、ちゃんと。 手ごたえも感じましたし・・・」
  セーラも先ほどまでの殺気立った雰囲気は
  完全に消え、夢から覚めたような顔で
  手にした聖剣を見つめている。
セーラ・スタン「あの・・・もしかして、 セバスさんは光の魔法属性をお持ちでは?」
ラビニア・オータム「そうだけど・・・?」
セーラ・スタン「でしたら、この剣でセバスさんを 殺すことはできません」
  殺すことは出来ないって・・・
  現に刺されているのにどういう事?
セーラ・スタン「同じ属性の魔法同士は、反発し合うんです」
セーラ・スタン「・・・特に、この光の剣バルムンクは 光の輝きを持つ魂を斬る事は躊躇うと 言われています」
  そういえば、さっき、似たような事
  オスカーが言っていたような・・・。
ラビニア・オータム「じ、じゃあ! もしかして・・・」
  セバスは死なないって分かってたから
  ・・・セーラに刺されたのっ!?
  恐る恐る、私はセバスを見上げると・・・
  彼はニヤリと笑った。
セバスチャン・ガーフィールド「俺が勝算の無い行動を取ると思うか?」
セバスチャン・ガーフィールド「俺が死んだ、というショックを与えれば おまえ達は正気に戻るかと思ったんだが、 こうもうまくいくとはな」
セバスチャン・ガーフィールド「・・・本当に今回ばかりはお嬢様があまり 勉強がお得意では無くて助かりました」
ラビニア・オータム「つ、つまりは・・・ 私を騙したって事ねっ!」
  全部、セバスに仕組まれてたんだ・・・。
  なのに私ったら、あんなに心配して
  泣いて・・・。
  あーくやしいっ!!!
セバスチャン・ガーフィールド「そう怒るなよ・・・ま、痛みが そのままだったのは計算外だったがな」
ラビニア・オータム「やっぱりあんたって最低最悪・・・ 馬鹿馬鹿馬鹿っ! 心配なんてするんじゃなかったっ!」
  痛そうに背中を擦るセバスの胸元を
  私は両手の拳で叩いた。
  悔しさで涙が滲んでくる。
ラビニア・オータム「あんたなんて・・・大嫌い・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「そうか、残念。俺は好きなんだけどな」
ラビニア・オータム「そういう言い方・・・ずるい・・・」
  どうしよう、私・・・
  セバスが憎たらしくて仕方ないのに・・・
  すごく嬉しい。
  ドクドクドク・・・。
  心臓の音? それとも【魔王因子】?
  分からないけど、体の中で脈打つたびに
  頬が熱くなる。
  だって・・・
  好きな人に好きって言われて、
  嬉しくないはずないじゃないっ!
ラビニア・オータム「私も・・・セバスが・・・ 性格悪くても意地悪でも嘘吐きでも・・・」
ラビニア・オータム「いつも私を怒らせたり 困らせたりしても・・・」
  改めて言葉にしてみると、
  なかなか酷い男よね。
  でも・・・観念しなさい、ラビニア。
  ちゃんと彼に想いを伝えるのよ。
ラビニア・オータム「・・・好き。・・・わたしも、 セバスが、ダミアンが好き」
リオ・エム「――ちょっと待てよっ!」
  甘い雰囲気が漂い始める私たちの空気に
  リオが割り込んできた。
  セバスが私に伸ばそうとした手を止めて、
  舌打ちする。
セバスチャン・ガーフィールド「・・・リオ、おまえはそろそろ 空気を読む事を学習しろ」
リオ・エム「おいキンパツ! ・・・どうしたんだよ、 おまえの中の魔王は? すっかり気配がねーんだけどっ!」
ラビニア・オータム「そういえば・・・」
  私の中の【魔王因子】の気配が
  感じられない。

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