悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第十八話「その完璧執事、覚悟を決める」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇王宮の入口
  神殿に駆け付けた俺とセーラは
  ただ驚愕するしかなかった。
  神殿の入口は崩壊し、
  瓦礫の山と人だかりが出来ている。
兵士「いたぞ! きっとあの女が犯人だ!」
騎士「捕らえろっ!」
  その山を目掛けて、
  城内の兵士や騎士が次々と突撃するが。
兵士「ぐわっ!」
騎士「ぎゃあああ!!!」
  黒いオーラにあっけなく吹き飛ばされ、
  投げ捨てられる。
セーラ・スタン「あれは・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「――ラビニア?」
  瓦礫が方々に散らばる神殿。
  倒れた大きな光の神の像の上に妖艶な
  笑みを浮かべたラビニアが立っていた。
セーラ・スタン「・・・あれ? ラビニアさんって あんなにスタイル良かったでしたっけ?」
  ラビニアは体つきも顔つきも
  成熟した女性へと変貌し、
  その手には黒いオーラをまとっている。
ラビニア・オータム「・・・・・・」
  ラビニアはこちらに気付いたが、
  すぐに興味無さそうに視線を逸らし
  突然、空から降ってきたリオの一撃を
  難無く腕で受け止め、払い除けた。
リオ・エム「あははっ! やっぱりつえーな、魔王って!」
  後方まで飛ばされつつも、受け身を取り、
  体制をすぐに立て直すリオ。
  傷一つついていないラビニアの細い腕に
  心底楽しそうに笑う。
  リオの傍にルドルフが付き、
  援護の形を取る。
ルドルフ・モルダー「感心している場合か。 ・・・俺達は傷一つ、 付けさせて貰えないって言うのに」
  2人の騎士服は破れ、
  ところどころ血に染まっているのを見ると
  圧倒的に不利な状況のようだ。
リオ・エム「コッチは傷だらけだけどな・・・ やべえ、殺されるかも知れねーって 言うのに、俺・・・ゾクゾクする」
ルドルフ・モルダー「こんな状況で不謹慎だぞ、リオ。 口を慎め。それに・・・」
ルドルフ・モルダー「俺達は殺されない・・・絶対に死なない」
リオ・エム「俺は魔王と戦って死ねるなら コーカイしねえよ・・・」
リオ・エム「でも、一撃ぐらいは 食らわせてやりてーかもな」
  いつも以上に口数が少ないルドルフと、
  いつも以上に興奮しているリオ。
  数々の死線を潜って来た2人の、いつも
  よりも緊迫したやりとりに俺は悟った。
  ラビニアは【魔王因子】を継承したのだ。
  そして魔王化した。完璧なまでに。
セバスチャン・ガーフィールド(くっ・・・!)
ベッキー・セントジョン「ダミアン様、セーラっ! こっちよ!」
  瓦礫の山の陰からベッキーが顔を出し、
  手招きをする。
セバスチャン・ガーフィールド「オスカー様、ご無事でしたか!」
  崩れた柱にもたれたオスカー様はベッキー
  に支えられ、ラビニアとルドルフ達の攻防
  を見守っていた。
  【魔王因子】から解き放たれたオスカー様の頬は若干生気を取り戻している。
オスカー・スフェーン「・・・ごめん、 ラビニアに【魔王因子】を渡して・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「ご安心を。 ラビニアは、私が責任を持って・・・」
ベッキー・セントジョン「――責任を持って、どうするの?」
  厳しい声でベッキーが鋭く問う。
ベッキー・セントジョン「ラビニアが魔王化したのはあんたのせいよ ダミアン様・・・いいえセバス」
セバスチャン・ガーフィールド「俺のせいだと?」
ベッキー・セントジョン「そうよ、ラビニアはあんたに 嫌われたって思ってた・・・」
ベッキー・セントジョン「その気持ちを【魔王因子】が 絶望へと導いたんだと思う」
ベッキー・セントジョン「この展開はあんたが望んでいた展開よね?」
ベッキー・セントジョン「魔王化したラビニアは【魔王因子】に 取り込まれ、もう助かる手段は無いわ」
  そして未だにラビニアと戦う
  リオとルドルフに視線を投げる。
ベッキー・セントジョン「部下が魔王を倒したとなれば、 あなたの大好きなオスカー様の 王国での立場も良くなるわよね」
ベッキー・セントジョン「――良かったわね。 あんたの狙い通り、思い通りになって」
セバスチャン・ガーフィールド「!」
  オスカー様は【魔王因子】から解放され、
  悪辣な令嬢が魔王化する。
  そしてその魔王を亡ぼし、オスカー様の
  王国内での地位を確かなものにする。
  そうだ、この展開は・・・
  当初の俺が望んでいた、最高の展開だ。
  俺は思わず拳を握りしめる。
  だがその時・・・
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「大丈夫かっ! セーラっ!」
マコ―マック「大きな音がしたと思ったら・・・ ケガは無いかい、セーラ?」
  城の方からわらわらと走って来る
  見覚えのある男達。
セーラ・スタン「あっ! みなさん、なぜここにっ?」
  驚くセーラの声に思い出す。
  そうだ、こいつら全員・・・
  王国でセーラが陥落した男たちだ!
  ・・・って何人いるんだ?
  この女は何股を掛けてたんだ?
マコ―マック「俺達はセーラの後を追って、 ここまで来たんだっ!」
タロン「セーラお姉さまに謝りたくて、 許して欲しくて・・・」
ロルフ・バリー「・・・悪かったな、セーラ」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「僕たちは気持ちを押し付けてばかりで、 セーラの本当の気持ちを汲むことが 出来なかった、そして忘れていた」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「――セーラはみんなのセーラだという事を」
  うっとりと告げるジョシュの言葉に
  周囲の男たちは大きく頷く。
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「きみが望むならこのままで良い」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「いっそ全員で結婚してもかまわない! 法律だって僕が全部変えて見せるっ!」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「だから頼む・・・ 僕たちの元に帰ってきてくれ」
  ・・・聞いているだけで頭が痛い。
セバスチャン・ガーフィールド「・・・おまえら、頭大丈夫か?」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「分かってる、どうかしてるって! でも好きなんだから仕方ないだろう!」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「彼女の笑顔が見たいんだ。 道徳がなんだ、法律がなんだ! 愛の力以上に強い力なんて無い!」
  ・・・なんて酷い自己陶酔、
  いや、これは明らかに集団洗脳の域だ。
  こんな気持ちの悪い愛の告白に
  喜ぶ女なんて・・・いた。
セーラ・スタン「皆さん・・・私の気持ちを やっと分かってくれたんですね」
  当のセーラは感激のあまり涙ぐんでいる。
セーラ・スタン「・・・ありがとう。でも、今はまだ その気持ちには堪えられない」
セーラ・スタン「私には・・・やるべきことがあるから」
  そう言うと、セーラは
  ラビニアの方に身体を向けた。
  ラビニアもリオ達の攻撃を受けながらも
  セーラをじっと見つめる。
セーラ・スタン「【魔王因子】とか、 そう言うのは分かりませんが・・・」
セーラ・スタン「ラビニアさんが苦しんでいるのは 分かります」
セーラ・スタン「私は・・・ラビニアさんを助けたい・・・ でも・・・もう元のラビニアさんに 戻らないなら・・・」
  セーラは悲しげに呟くと、
  手のひらを上にする。
  その手は一瞬眩しい光を放つと・・・
  輝く剣を手にしていた。
ベッキー・セントジョン「あれは光の剣バルムンク・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「なんだと? 国宝級の、しかも行方が 知れない伝説の勇者の剣じゃないか!」
ベッキー・セントジョン「闇を持つ者を払い、光を持つ者を決して 傷付ける事が無いという伝説の聖剣・・・」
ベッキー・セントジョン「ジョシュとキスをすると手に入れられる アイテムだから、セーラが持っていても 不思議じゃないわ」
ベッキー・セントジョン「ああっ! ラビニアも魔剣ダーインスレイヴを出した・・・」
ベッキー・セントジョン「まずいわ、この2つが相まみえるのって、 それは・・・」
  呻くように意味の分からない事を
  矢継ぎ早に呟くベッキー。
  そして当たり前の様になんなくこちらも
  伝説級の魔剣を召喚させるラビニア。
  ・・・何かがおかしい。
セーラ・スタン「ラビニアさん・・・ 私はあなたとは友達になりたかった」
  剣を構えたセーラの言葉に
  ラビニアは嗤う。
ラビニア・オータム「私はごめんだわ。 あなたはいつも私の場所を奪っていった」
ラビニア・オータム「羨ましいわね、あなたは愛される事が 存在理由なんだから」
  突如始まった違和感だらけの
  芝居がかったやりとり。
  なのに2人の空気の圧に押され、誰一人
  言葉を発する事も動く事も出来ない。
  ・・・ただひとりを除いて。
リオ・エム「・・・おい下がれよ、ゆるふわ女! 今は俺達がラビニアと・・・」
セーラ・スタン「――私とラビニアさんの戦いを 邪魔しないでください」
  食ってかかるリオにセーラは表情一つ
  変えず、鳩尾を拳で抉った。
リオ・エム「ぐほっ!」
ルドルフ・モルダー「リオッ! 貴様、リオに・・・」
ラビニア・オータム「――うるさいわね、 あなた達はお呼びではないのよ」
  吹き飛ばされたリオに
  駆け寄ったルドルフの背後。
  ラビニアが一瞬で移動し、
  その首に手刀を叩きこむ。
  さっきまでリオ達と互角に戦っていたとは思えないほどの、圧倒的な強さ。

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