悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第十七話「その悪役令嬢、覚醒する」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇貴族の部屋
  唇へ伝わる、オスカーの温度と感触。
  そして、それとは別の・・・冷たくて熱い
  不思議な感覚が私の体に入って来る。
  それはとても懐かしく・・・
  自分の中の失った何かがぴったりと
  合わさったような気がする、そんな感覚。
ラビニア・オータム(・・・私、ちゃんと【魔王因子】を 引き継げたのね・・・)
オスカー・スフェーン「ラビ、ニア・・・」
  ゆっくりと唇を離すと、
  オスカーはベッドに倒れた。
  【魔王因子】が出て行ったオスカーの
  弱った体は、回復のための休息を
  取ろうとしているのだろう。
  一方【魔王因子】を引き継いだ私の体調は
  ・・・やはりなにも変わらない。
  むしろ、気力が体中にみなぎって
  いくような、高まるような・・・
  そんな気分さえする。
ラビニア・オータム(やっぱり、早く受け継げば良かった)
  私の思惑を肯定するように体の中の
  【魔王因子】が反応する。
ラビニア・オータム(・・・そう、これで満足?)
  でも・・・ごめんね、私は絶望しない。
  私は魔王にならないの・・・
  だってこれから、あなたと私は・・・
  一緒に消滅するから。
  私は覚悟を決めて、
  祭壇に祈りを捧げるために扉に向かう。
  しかし。
ラビニア・オータム(なに・・・?)
  また【魔王因子】が反応し・・・
  目の前が急に暗くなる。

〇教室
  再び明るくなると・・・
  目の前には遠い昔の、懐かしい場所・・・
  高校の教室があった。
黒髪の女子高生「・・・さん、風邪を拗らせて 死んじゃったんだって」
茶髪の女子高生「えっ? マジ?」
黒髪の女子高生「マジマジ。でさ、なんか家族が いないらしくてさ・・・ 死んだ事、誰も気付かなかったんだって」
茶髪の女子高生「げえ、悲惨。 でもさぁ、可哀そうだけど・・・ それ以上の感情は無いって言うかさ」
黒髪の女子高生「まあね。絡みあった人いるの? ってカンジ。ねえねえそれよりもさ、 このコスメめちゃ可愛じゃな~い・・・」
  これは多分【魔王因子】が見せている、
  前世の私が死んだ後の世界。
  こんな光景を見せて、どういうつもり?
  ・・・ああ、なるほど。
  私は死んでも死ななくても変わらないって教えてくれているのね。
  だから、絶望して魔王になった方が
  良いんじゃないかって。
  大きなお世話よ。
  そんな事教えてくれなくても知ってるわ。
  私はあの世界に居場所が無かったって。
  でも、この世界は・・・
  私の居場所はある。ちゃんと
  私を愛してくれる家族がいるもの。
  彼らのために、私は絶望出来ない。
  私が魔王になったら・・・
  私は私で無くなるし、
  世界はきっと滅んでしまう。
  観念したのか【魔王因子】は
  この光景を消し、別の光景を見せる。

〇黒背景
  どんなに酷く辛く悲しいものを
  見せられても動揺するものか、
  そう心に決めていたのに。
  ――それを見た途端、心が揺らいだ。

〇貴族の応接間
  それは見慣れたオータム家の風景だった。
  私の生まれ育った大好きなお屋敷。
  広間ではお父様やお母様、ルークが
  私に笑いかける。
  そして・・・
  そこに現れるのは執事姿のセバス。
  きっちりと髪をオールバックにして、
  銀縁の眼鏡を掛けている・・・。
  私の良く知る、
  私の専属執事だった、セバス。
  もう二度と逢うことはない、その人を
  見ると、私は泣き出しそうな気分になる。
  私はセバスに恨まれても仕方ない。
  好きになってもらえなくても仕方ない。
  だって私は・・・セバスの大切な、
  たったひとりの家族のオスカーを知らないとはいえ、殺そうとしていたんだものね。
  大丈夫だよ、セバス。
  あなたの心を曇らせた私は、
  もう少しでいなくなるから。
  『――いなくなって良いの?』
  私に問いかける声は聞き覚えがあった。
  あの時、ルークが階段から落ちそうに
  なった時に私に囁いた声。

〇不気味
ラビニア・オータム「・・・あなたは【魔王因子】ね?」
  声は私の問いかけには答えず、
  続いて問い掛けた。
  『あなたがいなくなったら
  彼はあなたを忘れるわよ・・・
  そして・・・』
  『いつか、誰かを愛する。
  あなた以外の人を。
  あなたがいない世界で幸せになる』
ラビニア・オータム「セバスが・・・誰かを愛する・・・」
  セバスが誰かを抱きしめて、
  キスして、愛を囁く・・・。
  そんなの、嫌だ。
  ざわり、と心臓が何かに包まれる。
  黒くて、重くて、冷たくて・・・
  でも熱い感情。
  これは・・・絶望。
ラビニア・オータム(だめよ、絶望しちゃ! 【魔王因子】にそそのかされちゃダメっ! 祭壇まで、頑張るのよ、ラビニア・・・)
  セバスが幸せになるなら良いじゃない。
  【魔王因子】も、執事だった事も、
  私の事も忘れて幸せに暮らして・・・
  え? ・・・忘れる?
ラビニア・オータム「私の事を・・・忘れちゃう、の?」
  『あなたは身をもって
  知っているでしょう?』
  『好きの反対は嫌いではなく
  無関心だって』
  『【魔王因子】が無ければ
  あなたは平凡で地味なお嬢様』
  『元々彼はあなたの【魔王因子】
  にしか興味が無いのよ』
ラビニア・オータム(そうだ、私と彼の絆は【魔王因子】を 通じての憎しみと怒りのみ)
ラビニア・オータム(その絆が無くなったら・・・ セバスは私を・・・)
  不安に侵食された世界は
  次第に色が無くなり・・・
  やがて黒一色の世界になる。

〇黒背景
  そこに現れたのは、もう一人の私。
  魔王として覚醒した、ゲームで見た
  魔王ラビニアの姿。
  【魔王因子】は魔王ラビニアの姿で
  私に語り掛ける。
  『ここであなたが死んだら・・・
  彼は忘れるわ。
  ラビニア・オータムという存在を』
ラビニア・オータム「セバスに・・・忘れられる・・・」
  セバスには嫌われても、憎まれても、
  恨まれても疎まれても、良い。
  そうしてあなたの心の中に私の存在を
  刻み付けられるのならばむしろ嬉しい。
  けれども・・・忘れられるのは嫌。
  私の瞳から涙が溢れた。
  私は貴方の傍にいたのよ、一緒に過ごした時間は私の大切な宝物なのよ。
  なのにあなたはそれを興味が無いものだと
  必要ないものだと、切り捨てて・・・
  忘れてしまうの?
  そんなの、耐えられない・・・!
  嫌だ、嫌だ、イヤダ・・・!
ラビニア・オータム(それならば・・・負の記憶であっても、 あなたの中に永久に刻み付けられる方が ・・・私は・・・)
  嘲り笑う【魔王因子】の声を、
  私の声を聴きながら・・・。
  私の意識はゆっくりと
  【魔王因子】と混ざり合っていった。

〇白
  ・・・遠くで誰かの声が聞こえる。

〇神殿の広間
リオ・エム「まだ終わんねーのかな、 キンパツとオージの話って」
ベッキー・セントジョン「・・・思ったよりも 時間が掛かっているわね」
リオ・エム「ななっ! ただ待ってるのも暇だから、 手合わせしよーぜっ、ルドルフ」
ルドルフ・モルダー「断る」
リオ・エム「なーんだ、つまんねーのっ」
  これは・・・扉の前で待っている
  ベッキーとルドルフとリオの声ね。
  そう、3人とも私を待っているのね。
  だったら・・・
リオ・エム「!!!」
ルドルフ・モルダー「どうした、リオ?」
リオ・エム「――さっきの言葉、撤回するわ。 手合わせなんてしてる場合じゃないってな」
ベッキー・セントジョン「それって、どういう意味・・・?」
リオ・エム「俺にはサイコーでおまえらにはサイテーって意味さ。・・・来るぞ、やっと会える」
  リオの嬉しそうな呟きに私は嗤う。
  さすが、リオ。
  【私】の気配が分かるのね・・・。
  そうよ、あなたは・・・【私】の力に
  一番焦がれていたものね・・・!
ルドルフ・モルダー「ベッキー嬢! 伏せろっ!」
  私が軽く手を挙げ・・・
  わずかに発動した闇の魔力。
  それは爆音とともに
  扉を粉々に吹き飛ばす。
ベッキー・セントジョン「ごほっ、ごほっ・・・ ラビニア・・・あんた・・・」
ルドルフ・モルダー「ラビニア、嬢?」
  粉砕した扉の向こう側。
  驚いた顔を向ける彼らに私は微笑む。
  そうよね、驚いちゃうわよね。
ベッキー・セントジョン「・・・嘘よ。 その姿・・・あんたまさか・・・」
  だって・・・
  3人の前には【魔王ラビニア】として
  覚醒した私が立っていたのだから。
ベッキー・セントジョン「駄目だって言ったじゃない・・・」
  ごめんね、ベッキー。
  あなたとの約束を守れなくて。
リオ・エム「随分と待ちくたびれたぜ・・・ でも、今のあんたなら大歓迎だ」
リオ・エム「早くヤろうぜ・・・殺し合いをさッ!」
  そう叫び、さっそく挑んでくるリオに
  私は微笑む。
  私も大歓迎よ。
  だって、あなたのまっすぐな殺気、
  とても心地良いんだもの。
  だからあなたとたくさん遊んであげる。
  あなたの命が尽きるまで・・・ずっとね。

〇洋館の廊下
  城内を歩く俺に能天気な声が掛かる。
???「セバスさん・・・ じゃなくてダミアンさんっ!」
  そこには本来、
  この場所にいるべきではない女がいた。
セバスチャン・ガーフィールド「・・・なぜここにいるんだ? セーラ・スタン。 部外者は立ち入り禁止のはずだが」
セーラ・スタン「ふふっ、衛兵さんにダミアンさんの知り 合いですって言ったら通して貰えました」
セバスチャン・ガーフィールド(――今日の衛兵は全員首だな)
セーラ・スタン「私、ダミアンさんに話したいことがあってきたんですっ!」

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コメント

  • ついに 悪役令嬢 覚醒!!!!!!!!!!
    チケットがないので これ以上先はまた今度 読みますが...... ダミアン には頑張ってほしいです!!!!

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