EP.2「ゴブリン退治」前編(脚本)
〇病院の廊下
あの子を思い切り
叩いたことが
一度だけある
勇子「ひぃっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
勇子「ひぃっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!」
気が遠のく程の痛み
潰れた悲鳴を上げ続ける、私の喉
助産師「まだ、まだよ! 吸って、息!」
振吾は難産だった
『僕にできる事はなさそうだ』
そう言うと、あの人は分娩室から出ていった
〇手術室
勇子「ひぃっ! ぎぃいいいいいいっ!!」
もう間隔もなにもない激痛
あの人と、家族になるためなら
耐えられる。どんなことでも
そう、思っていた、のに──
頭の片隅で別の私が
呪うように繰り返す
終われ終われ終われ終われ終われ終われ終われ終われ終われ終われ
早く早く早く早く早く
出てこいよ!
助産師「いきんで! 今!」
勇子「ぐっ! ううぅうううううッッッ!」
ずるり、と異物が抜け出ていく
痛みは嘘のように消え、身体が力尽きたように弛緩する
しかし、私は気付く
助産師「・・・」
取り出されたものが
ウンともスンとも言わない
息をしていないのだ
助産師「あっ!」
どこにそんな力が残っていたのか
蛇のようにそれを奪い返すと
勇子「・・・っこのッ」
思い切り引っ叩いた
腕の中のぶよぶよした肉は、一度大きく脈打って──
──ほぎゃっ・・・
ほぎゃ──ぁぁ
ようやく「我が子」は
産声をあげたのだ
〇大きいマンション
〇テレビスタジオ
キャスター「続いて──地方の天気です」
キャスター「晴々とした天気は明日まで」
キャスター「週末には大型の台風22号が上陸します」
キャスター「大雨による土砂災害や水害に充分ご注意ください・・」
〇ダイニング
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「おはよう、振吾」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「今朝は、振吾の好きなパン食だよ」
山下 勇子(やました ゆうこ)「さ、お上がりなさい」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 振吾(やました しんご)「いただきます」
山下 勇子(やました ゆうこ)「お弁当、用意しておいたからね」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ああ、お義母さん、お義父さん」
山下 勇子(やました ゆうこ)「お二人にはいつも通り──」
山下 辰江(やました たつえ)「勇子さん」
山下 辰江(やました たつえ)「あなた、昨日の夜中にでかけてなかった?」
山下 辰江(やました たつえ)「いったい──」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ちょっとコンビニに」
山下 辰江(やました たつえ)「え?」
山下 勇子(やました ゆうこ)「振吾のお弁当と・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「あとなんか、下着が駄目になっちゃって」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ね、お義父さん?」
山下 太蔵(やました たいぞう)「エッ!?」
山下 太蔵(やました たいぞう)「いやあ、なんの事かな ははは・・・」
〇汚い一人部屋
山下 勇子(やました ゆうこ)「レベリング・・・?」
魔法使い「そう」
魔法使い「雑魚を倒してレベルアップ!」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「具体的には?」
魔法使い「えっ、なんか反応が冷たい」
魔法使い「もっとノリノリで聞いて欲しい」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「腕力は私の方が強いのよね」
魔法使い「ヤベッ」
魔法使い「また犯されちゃうよ〜」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
魔法使い「ギャン!?」
山下 勇子(やました ゆうこ)「殴るよ?」
魔法使い「もう殴ったよ! ゴリラパワーで!」
〇汚い一人部屋
魔法使い「俺らの目的は「家族全員殺す」だよね」
山下 勇子(やました ゆうこ)「うん」
魔法使い「一人ずつバレないように殺るには 順番もちゃんと考えないとだよ」
山下 勇子(やました ゆうこ)「そうかな」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・そうかも」
魔法使い「そうそう」
魔法使い「それで、やっぱ最初に殺るなら」
魔法使い「ステータスの低い、子供でしょ」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・あんなに」
山下 勇子(やました ゆうこ)「あんなに痛い思いして産んだのにな~」
魔法使い「・・・」
魔法使い「まあそういうこともあるよね」
魔法使い「殺すの、嫌になっちゃった?」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ううん、そういうんじゃなくて」
山下 勇子(やました ゆうこ)「こんな簡単に要らなくなるなんて」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ちょっと、びっくり」
魔法使い「・・・」
魔法使い「あはは」
〇ダイニング(食事なし)
山下 勇子(やました ゆうこ)「さて」
山下 勇子(やました ゆうこ)「今日は振吾の運動会だっけ」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「さ〜てと・・」
〇マンションの共用廊下
魔法使い「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ゲームやらして」
魔法使い「・・・いや」
魔法使い「めっちゃ堂々と来るじゃん」
〇汚い一人部屋
魔法使い「あぅちッ!」
山下 勇子(やました ゆうこ)「そこまで気にしなくていいかなって」
山下 勇子(やました ゆうこ)「どうせ殺すし・・・」
魔法使い「あっ、まあそうだわ」
山下 勇子(やました ゆうこ)「そんなことより ズブラ2しようぜ」
魔法使い「ええ〜勇子弱いからなァ〜」
山下 勇子(やました ゆうこ)「まあまあまあまあ」
魔法使い「アッ! 勝手に触んないで!」
〇汚い一人部屋
魔法使い「よっ・・・ほっ・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
魔法使い「・・・そういや、さあ」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・なに」
魔法使い「振吾くん、今週末発売のズブラ3欲しがってたよね」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ん〜〜? そうだっけ」
魔法使い「そうだよ! 勇子がいってたんだよ!」
魔法使い「『私もやりたいのにお義母さんの目があるからできない』って!」
山下 勇子(やました ゆうこ)「そうだっけ〜〜」
山下 勇子(やました ゆうこ)「忘れた」
魔法使い「真面目に聞けって! 今度さあ・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「あ、そっち!」
山下 勇子(やました ゆうこ)「敵に攻められてる! 防いで!」
魔法使い「あ!」
魔法使い「ヤベ!」
魔法使い「あっ! あっあっあっ・・・」
LOSE...
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「マジメにゲームしろ」
魔法使い「あ! やめて!」
魔法使い「コントローラーの角で叩かないで!」
〇汚い一人部屋
魔法使い「・・・」
魔法使い「はえーよ、ガチ勢になるのが」
魔法使い「ゲームは楽しくやろうよ・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「負けたら楽しくないでしょ」
魔法使い「楽しもうよ! 過程を!」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「で・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ズブラ3がどうしたの?」
魔法使い「あ、ああ──」
魔法使い「ふたり、殺すのにさ」
魔法使い「ズブラ3を餌に おびき寄せられないかって、さ」
山下 勇子(やました ゆうこ)「──」
〇大きいマンション
〇おしゃれなリビング
山下 勇子(やました ゆうこ)(──ゲームを餌にお義母さんと振吾をおびき出す・・・ね)
山下 勇子(やました ゆうこ)(そんなうまくいくのかしら)
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「あら」
山下 勇子(やました ゆうこ)「おかえり、振吾」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「どうかしたの?」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 振吾(やました しんご)「なんで」
山下 振吾(やました しんご)「今日、来なかったの?」
山下 振吾(やました しんご)「俺、運動会って言ったよね」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「っあ〜」
山下 勇子(やました ゆうこ)「だって振吾」
山下 勇子(やました ゆうこ)「私のこと、嫌いみたいだから」
山下 勇子(やました ゆうこ)「悪いと思って?」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「お弁当には」
山下 勇子(やました ゆうこ)「振吾の好きなパンを入れてあげたでしょ?」
山下 振吾(やました しんご)「そういう、ことじゃ──」
山下 勇子(やました ゆうこ)「え?」
山下 振吾(やました しんご)「・・・」
山下 振吾(やました しんご)「もういい!」
山下 勇子(やました ゆうこ)「・・・」
〇大きいマンション
──週末
〇ダイニング(食事なし)
山下 辰江(やました たつえ)「──」
山下 勇子(やました ゆうこ)「お義母さん」
山下 勇子(やました ゆうこ)「ちょっと、お願いがあるんですが」
山下 辰江(やました たつえ)「・・・」
山下 勇子(やました ゆうこ)「明日、振吾とふたりで買い物に行ってもらえませんか?」
山下 辰江(やました たつえ)「・・・」
山下 辰江(やました たつえ)「シンちゃんと?」
山下 勇子(やました ゆうこ)「はい」
山下 勇子(やました ゆうこ)「明日、振吾の楽しみにしてたゲームの発売日なんです」
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ほんとう に やってしまうのか ?
▷はい
いいえ
まったく先が読めない……!! どうなる?
大切な物は、いつだって失ってから真の価値に気付くものだと思うのです。奪う側でも、失う側でも関係なく、人間は後悔する生き物だから、喪失を忌避する。
現実世界とゲームの大きな違いは、リセット出来るか出来ないか。人生はやり直しのきかない選択肢の連続。だから『人生の選択肢を誰かに委ねる』という行為は、冒涜以外の何物でもない。失う物の価値が分からなくなるから。ブレーキの壊れた勇子には、もう届かないのかな…
魔法使い使えない🤣
勇子がゴリラパワーを得て強くなったような気がします