第十五話「その悪役令嬢、完璧執事の生い立ちを知る」(脚本)
〇兵舎
王城から程なく離れた住宅地に
スフェーン王国王宮騎士団の宿舎がある。
フィニー公爵に聞いたところ、ここに
ルドルフとリオは住んでいるらしい。
その宿舎の様子を私とベッキーは近くの
壁に隠れながらこっそり伺っていた。
セーラは説明が面倒なのでお留守番だ。
リオ・エム「――ありゃ? なんでキンパツがここにいるんだ?」
「リオ!?」
私達の背後にはいつのまにか
大きな紙袋を抱えたリオがいた。
ラビニア・オータム「あの・・・ ちょっとルドルフ様に会いたくて・・・」
リオ・エム「あいつならもうすぐ帰ってくると思う けど・・・なんなら部屋で待ってるか?」
ラビニア・オータム「えっ? 良いの? でもこういう場所って 関係者以外立ち入り禁止じゃ・・・」
リオ・エム「ヘーキヘーキ、魔王はいつか俺の カンケーシャになるかもしんねーし」
ラビニア・オータム「・・・私、まだ魔王でも無いし、 なるつもりも無いんですけど」
リオ・エム「そんなん、 いつ気が変わるかわかんねーだろ?」
リオ・エム「そっちのおさげも魔王の手下なら おまえもカンケーシャだ」
ベッキー・セントジョン「は、はい!」
おさげと呼ばれたベッキーは
勢い良く返事をして・・・
苦しそうに心臓の辺りを抑え込む。
ラビニア・オータム「だ、大丈夫?!」
ベッキー・セントジョン「・・・大丈夫じゃないわよ・・・ キャラビジュじゃ美少女と見まごうほどの 儚い系美少年だったのに」
ベッキー・セントジョン「なんで声はイケボでしゃべり方はヤンチャなの??? なんという意外性萌え・・・」
ラビニア・オータム「・・・なんだ、いつもの発作ね」
リオ・エム「きゃらびじゅ?」
ラビニア・オータム「なんでもないわ。彼女、ときどき 理解出来ない言語を話すのよ。 じゃあ案内してくれる?」
〇荒れた小屋
ラビニア・オータム「これは・・・」
主のいない部屋に通された私達は
思わず息を呑んだ。
部屋自体は1人用の部屋にしては広い。
大きなベッドも机も椅子もある・・・
物が溢れて見えないが。
ルドルフの部屋は足の踏み場も無いほどに
衣服や本、作りかけの日曜大工の道具や
馬具、武器などが散乱していた。
ベッキー・セントジョン「――前世ぶりに見たわ、 こういう部屋・・・」
ラビニア・オータム「なんというか・・・その・・・」
リオ・エム「ゴミ屋敷だろ?」
ズバリ言いにくい事を
言ってくれるじゃない、リオ。
ラビニア・オータム「で、でもっ! ゴ、ゴミって言っても、 ゴミらしいゴミは無いしっ!」
ラビニア・オータム「本とか服とか家具とかが積み重なってる だけだしねっ! 足元見えないけど」
ベッキー・セントジョン「・・・冷酷堅物がプライベートでは 片づけられない系ダメ男子とか・・・ ギャップしか勝たんわ・・・」
リオはベッドの上の衣服を雑に払い
落とすと、その上にどっかりと座った。
そして抱えていた紙袋から丸ごと一本の
ハムを取り出し豪快に噛み千切る。
リオ・エム「ま、テキトーに座ってくれ」
ベッキー・セントジョン「綺麗系美少年なのに このワイルドさ・・・!」
ラビニア・オータム「ベッキー、大丈夫? 心臓持つ?」
ラビニア・オータム「っていうか、リオ。 ルドルフ様の部屋に勝手に入って良いの?」
リオ・エム「ああ、最近まで俺もこの部屋に住んでたし」
「え? ルドルフ様と2人で???」
リオ・エム「俺、戦災孤児なんだよな」
リオはあっけらかんと話しながら
ハムを食べ進める。
リオ・エム「記憶もなーんも無いところを 戦場でルドルフに拾われてさ。 名前もルドルフに付けて貰ったんだよ」
リオ・エム「孤児院に行くのが嫌だって言ったら 一緒に住むかって言ってくれて・・・ で、ここで育ったってワケだ」
ああ・・・
ベッキーが頭を抱え込んでいる。
ベッキー・セントジョン「・・・戦場での出会い、疑似親子・・・ 同居・・・物凄い好みの設定の嵐で・・・ 死ぬ・・・」
ベッキー・セントジョン「手厚過ぎるだろ・・・なんで運営は もっと早くこれをやらなかったの? 馬鹿なの?」
リオ・エム「・・・なあ、そっちのおさげ大丈夫か? さっきから、ブツブツうるせーんだけど」
ラビニア・オータム「気にしないで、彼女は感情の起伏が ちょっと激しいだけだから」
ルドルフ・モルダー「リオ、勝手に部屋に入るなと 何度言ったら・・・ ん? 君達は・・・」
開いたドアから現れたルドルフは、
私達を一瞥すると固り・・・沈黙した。
そりゃそうでしょうね、招いてもいない
令嬢が2人もいるんだもの。
そして気まずそうにしているのは・・・。
少しはこの部屋が恥ずかしいという
正常な感覚はあるみたいね。
ルドルフ・モルダー「――年頃のご令嬢を勝手に 宿舎に入れるな、リオ」
ベッキー・セントジョン「いえ、私達が無理やりお願いしたんです」
ラビニア・オータム「お邪魔してます。 私、ルドルフ様に・・・お願いしたい事が あって、ここに来たんです」
〇荒れた小屋
ベッキー・セントジョン「そもそも、完璧元執事・・・ もといダミアン様はなぜ【魔王因子】や オスカー様に固執するんです?」
なんとか平静を取り戻したベッキーが
単刀直入に問うと、ルドルフは小さく
息を吐いた。
ルドルフ・モルダー「・・・君達には正直に話した方が賢明だな」
ルドルフ・モルダー「――ダミアンは国王陛下が メイドに産ませた子供だ」
ルドルフ・モルダー「オスカー様の異母兄に当たる」
ラビニア・オータム「ええっ! それって、ダミアンは 王子ってこと・・・ですか?」
ベッキー・セントジョン「騎士で侯爵で執事で王子・・・ 設定盛り過ぎだろ・・・」
ルドルフ・モルダー「妊娠を知ったメイドは城を辞め、 故郷に帰りダミアンを産んで死んだ」
ルドルフ・モルダー「孤児となったダミアンは 俺のいる孤児院に預けられ・・・ 俺達は王宮に引き取られた」
ルドルフ・モルダー「オスカー様の侍従見習いとして」
ラビニア・オータム「侍従見習いとして? ・・・国王陛下はダミアンを実の子として 引き取ったんじゃないんですか?」
ベッキー・セントジョン「そりゃ無理でしょ。スフェーン王国は 男女共に貞節を大切にするからね」
ベッキー・セントジョン「配偶者以外に身や心を許さないし、 許してはいけない」
ベッキー・セントジョン「そんな国の国王が不義の子を引き取ったら 体面が悪いでしょ?」
ルドルフ・モルダー「ベッキー嬢の言う通りだ。 だから俺も一緒に引き取られたのさ」
ルドルフ・モルダー「孤児院の哀れな子供を王宮で引き取り 育て上げるって言う都合の良い外聞を 作るためにな」
ラビニア・オータム「なんか・・・酷い」
ルドルフ・モルダー「しかし、この手の噂は隠しても漏れ伝わる」
ルドルフ・モルダー「王宮内でダミアンが国王の子だと 知れ渡るにはそう時間は掛からなかった」
ルドルフ・モルダー「けれどもオスカー様は ダミアンの存在に喜んでいたよ。 ダミアンが嗜めてもお兄様と呼んで・・・」
ルドルフ・モルダー「だがそれを王妃は良く思わなかった。 王が平民に産ませたという事もあったが」
ルドルフ・モルダー「――ダミアンは光の魔法属性を 持っていたから」
〇黒背景
大臣「光の魔法属性をお持ちと言う事は、 ダミアン様こそ王家の正統な後継者 という証なのでは?」
官僚「母親が庶民でも・・・闇の魔法属性を 持つオスカー様よりもダミアン様の方が 少なくともお世継ぎに相応しいかと」
王妃「黙れ黙れ黙れーッ! おまえ達、口を慎みなさいッ!」
王妃「スフェーン王国の王子は オスカーだけです!」
幼いオスカー「お母さま・・・ ぼくよりもきっと、ダミアンお兄さまの 方が王様にふさわし・・・」
王妃「お黙りなさい、オスカーッ! ああおぞましい、 あの忌み子を兄と呼ぶなんて!」
王妃「ダミアンめ、 呪われた卑しい子のくせに・・・」
王妃「わたくしやオスカーから すべて奪っていこうとする」
王妃「奪う? ・・・そうよ・・・奪われる前に 奪ってやれば良いんだわ・・・ ふふ、ふふふ・・・」
幼いオスカー「・・・お母さま? まさか、ダミアンお兄さまを・・・」
王妃「――私の可愛いオスカー。 あなたのためにあのにっくきダミアンを 血祭りにあげてやるわ・・・ふふふ」
王妃「あはは、あーはっはっはっ!!!」
〇荒れた小屋
ルドルフ・モルダー「そして10年前、 王妃はダミアンの暗殺を企てた」
ルドルフ・モルダー「――未遂に終わったのは、それを 7歳のオスカー様が告発したからだ」
ルドルフ・モルダー「悪事が明るみに出てしまった王妃は、 ダミアンやオスカーへの恨み辛みの 言葉を投げ付けて――自ら命を断った」
ラビニア・オータム「!」
ルドルフ・モルダー「その時にオスカー様に【魔王因子】が 引き継がれたんだ」
オスカー王子は『絶望』して
しまったんだ。
実の母が自分の愛する兄を憎み、
そして殺害しようとまでした。
それを知ったオスカー王子は
さぞ苦しんだだろう。
しかし、彼は正義を貫いて王妃を訴えた。
そしてそれが母の死のきっかけになって
しまった事を悔い。
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