第十六話「その悪役令嬢、再び決意する」(脚本)
〇神殿の広間
スフェーン王国の宮殿の奥にある
真っ白な神殿。
光の神を祀る神殿というだけあって、
神殿の中も自然光がたくさん入るような
設計で明るい。
〇貴族の部屋
その神殿の奥にオスカー王子はいた。
おそらく、攻略対象キャラ達の中でも
上位に入るであろう美丈夫っぷりが
推測出来る、そんな青年だった。
――健康であったのならば。
ベッドに横たわるオスカー王子は
痛々しいほどにやせ細り、頬はこけ、
眼球は落ちくぼんでいる。
それでも優しげな笑みを絶やす事なく、
私を嬉しそうに迎え入れてくれた。
オスカー・スフェーン「はじめまして、ラビニア。 やっと君に会えた」
ラビニア・オータム「はじめまして、 ラビニア・オータムと申します」
ラビニア・オータム「お目に掛かれて光栄ですわ、オスカー殿下」
両手でスカートの裾を軽く持ち上げて
お辞儀をすると、オスカー王子は
おかしそうに笑った。
ラビニア・オータム「あの・・・なにかおかしかったですか?」
オスカー・スフェーン「はは、ごめんね。 ダミアンの言う程、無作法で礼儀知らずな 令嬢ではないなって思ってさ」
あいつ、なんて事を報告しているのよ。
マジで絶対に殴ってやる。
オスカー・スフェーン「そんなにかしこまらないで 楽にして良いよ。 ここには僕と君、2人しかいないんだし」
オスカー・スフェーン「呼び方も敬称なんて付けないで オスカーって呼んで欲しいな、 僕も君の事をラビニアって呼んでるしね」
ベッキーとルドルフ達は部屋の外で
待機している。
オスカー王子たっての願いで
2人だけの面会となったのだ。
そして、思ったよりも気さくで明るく
朗らかなオスカー王子は、セバスと
比べると明らかに『光』という感じだ。
ラビニア・オータム(2つ名の『漆黒の王子』は 闇の魔法属性から来てるのかな・・・)
ラビニア・オータム(これもベッキーの言う ギャップ萌えってやつ?)
などとどうでも良い事を考えてしまい、
私は我に返る。
ラビニア・オータム(違う、そんな事を考察するために 来たんじゃないんだ)
ラビニア・オータム「・・・今日はあなたに謝りに来たの。 【魔王因子】を押し付けてしまって・・・ 本当にごめんなさい」
ラビニア・オータム「知らなかったとは言え・・・ 私は10年もの間、あなたの命を おびやかし、苦しめてしまった」
オスカー・スフェーン「ラビニアが謝る事は無いよ。それに・・・ これは僕が責任もって『破壊』するから、 君は何も気にしなくて良いんだ」
ラビニア・オータム「え? ・・・破壊するって、どういう意味?」
オスカー・スフェーン「そのままの意味さ。 ラビニアも知っているだろ?」
オスカー・スフェーン「魔法の基本は相対する属性は反発し、 同じ属性は相殺される」
ラビニア・オータム「えっ、あっ・・・はい」
オスカーの話に私は慌てて相槌を打つ。
けど、正直理解はあまりしていない。
・・・魔法論って実は苦手なのよね。
そもそも学校では実践ばかりだったし。
オスカー・スフェーン「火は水と、土は風と、そして闇は光と 反発し、拒絶し、消滅する・・・」
オスカー・スフェーン「つまり闇の属性の【魔王因子】は継承者を光の魔力で殺害すれば破壊されるんだ」
オスカー・スフェーン「だからこの神殿は王国中の光の魔力を 集める装置として設計した」
オスカー・スフェーン「継承者が祭壇に祈りを捧げると 光の魔力が発動し、継承者ごと 【魔王因子】は破壊される様になっている」
オスカー・スフェーン「・・・後はそれを発動するだけなんだ」
ラビニア・オータム「継承者ごと破壊って・・・ それってオスカーが死ぬ、って事よね? セバスは・・・ダミアンは知ってるの?」
オスカー・スフェーン「もちろんダミアンは知らない。 彼はこの神殿は僕の病気平癒祈願のために建てられたと思ってる・・・」
ラビニア・オータム「だったらなおさら、 一度ダミアンと話し合わないと!」
オスカー・スフェーン「本当はそうするべきなんだろうね・・・ でもダミアンには余計な事で 悲しませたくないんだ」
ラビニア・オータム「それはダミアンが・・・オスカーの お兄さんで今まで苦しんでいたから?」
オスカー・スフェーン「それもあるけど・・・ほら、君もさ。 好きな人の悲しむ顔って見たくないだろ?」
ラビニア・オータム「そうだけど・・・ でも、それとこれとは話が別だわ!」
オスカー・スフェーン「――ダミアンはさ、執事になってから 僕にこまめに手紙を書いてくれてたんだ。 その手紙には君の事が書かれていた」
オスカー・スフェーン「どうしようもないお嬢様だ、なんて文句を書きながらも、楽しそうで・・・ そんなダミアンって本当に珍しいんだよ」
オスカー・スフェーン「ねえ、ラビニア。 僕がいなくなったら・・・ どうか彼を支えてあげて欲しい」
オスカー・スフェーン「出来れば・・・ 君にはダミアンの家族になって欲しいな」
ラビニア・オータム「家族?」
オスカー・スフェーン「・・・僕達はダミアンから いろんなものを取り上げてしまった」
オスカー・スフェーン「自由、身分、友人・・・ でも一番は――家族だと思う」
オスカー・スフェーン「だからダミアンには・・・君と言う家族と一緒に幸せになって欲しいんだ」
オスカー・スフェーン「それをラビニアに直接伝えたくて・・・ それだけが心残りで死ねなかった」
『家族』
オスカーの発するこの言葉に
憧れと諦めの感情が含まれていた。
オスカーにとって深い意味の
あるものなのだろう。
そして私にとっても、
『家族』は特別な言葉だった。
だって私は知っているから。
家族への憧れと――
家族を失う事の辛さを。
家族のいない事の苦しさを。
〇不気味
転生前の私は一言で言うと孤独だった。
両親が交通事故で死んでしまった後、
親戚中の家をたらいまわしにされた。
施設に入れなかったのは
外聞があったからだろう。
だから、高校入学と同時に
ひとり暮らしが許された。
と言っても「わがままを言って自分から
出て行った娘」なので、学費はおろか
生活費も自身で稼がなければならない。
バイトと勉強に追われ遊ぶ暇も友達を作る
暇もなかった、そんな孤独な女子高生の
最期の記憶は・・・。
転生前のラビニア「ごほっ、ごほっ・・・」
転生前のラビニア(やだな、このままバイトを休み続けると 生活費がヤバいんだよね)
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