悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第十四話「その悪役令嬢、反撃をする」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

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〇暖炉のある小屋
ラビニア・オータム「私、 スフェーン王国に行かなくっちゃ・・・」
ラビニア・オータム「王国に行って、 オスカー王子を助けないと!」
  【魔王因子】がオスカー王子の命を
  削っている事実を知り、私は決心した。
  しかし。
ベッキー・セントジョン「だめよ! あんたは絶対 スフェーン王国に行っちゃだめ!」
ラビニア・オータム「どうして? そう言えば・・・ さっきもスフェーン王国は私の 鬼門とか言ってたけど・・・」
  私の問い掛けにベッキーは一瞬、
  言葉に詰まり・・・
  しかし、観念したように口を開く。
ベッキー・セントジョン「あんたには言わなかったけど・・・ ゲームだと・・・王国には、いたのよ ――実は生き延びていた、魔王ラビニアが」
ラビニア・オータム「えっ! 魔王ラビニアが・・・生きていたの?」
ベッキー・セントジョン「ええ。 そしてオスカー達を洗脳して操っていた」
ベッキー・セントジョン「新たな攻略対象キャラは全員 ラビニアの配下だった──」
ベッキー・セントジョン「って判明したところで ラブデはサービスが終了したの」
ラビニア・オータム「じ、じゃあ・・・ 私が死ぬ事無く、スクールプリンセスの イベントが無事に終了したのは・・・」
ベッキー・セントジョン「・・・ごめん。あんたが不安になるだろうから、今まで黙っていたんだけど・・・ ある意味シナリオ通りなの」
ベッキー・セントジョン「そしてあんたがスフェーン王国に 行くって事は──」
ベッキー・セントジョン「詳細は違っているとはいえ、 メインストーリーに沿う事になるわ」
ベッキー・セントジョン「今までは、私が重課金厨でストーリーや キャラの性格を網羅していたから、 事態を予測出来たし把握も出来た」
ベッキー・セントジョン「でもこれからは違う。 あんたも私もあらすじどころかキャラの パーソナルストーリーも知らないのよ」
ベッキー・セントジョン「――だって、その後のストーリーや情報が 配信されていないんだから。 そんな中に飛び込むのは・・・危険過ぎる」
  いつになく真面目な表情のベッキー。
  ベッキーの心配も痛いほど分かるし・・・
  嬉しい。けれども・・・。
ベッキー・セントジョン「無表情系憂い顔の美少女と見紛う 美少年リオ・エムに会えないのは 断腸の思いだけど・・・」
ラビニア・オータム「へっ?」
ベッキー・セントジョン「リオと誰とを掛け合わせようかって 楽しみが無くなるのは胃が千切れそうな くらい辛いけど・・・」
  無表情系憂い顔???
  百貨店で会ったリオは確かに美少女系
  美少年ではあったけど・・・???
ベッキー・セントジョン「――でも、それとこれと萌えは別。 私は友達として、あんたを命の危険に さらしたくないのよ」
ベッキー・セントジョン「だからお願い。 スフェーン王国には行かないで」
  真顔のままで心配そうに私を見つめる
  ベッキー。
ラビニア・オータム「・・・ありがとう、ベッキー。でもさ、 逃げるのはもう止めようと思うんだ」
ラビニア・オータム「『強制力』が・・・世界がどーしても私を悪役令嬢にして魔王にしたいって言うなら」
ラビニア・オータム「いつまで逃げてても変わらないもの」
ベッキー・セントジョン「ラビニア・・・」
ラビニア・オータム「だから一度、オスカー王子と・・・ 【魔王因子】と会ってみる。 それで何か変わるかも知れないじゃない」
  セバスだって、オスカー王子を助けるために身分を偽って執事になったんだもの。
  何も知らないキャラクターがそこまで
  運命に抗おうとしてるんだ。
  私だって負けてられないよね。
ラビニア・オータム「それにさ・・・ 私はもう一度セバスに会いたいのよ」
ラビニア・オータム「もう一度会って・・・ セバスをブン殴りたい」
ベッキー・セントジョン「は?」
ラビニア・オータム「だって許せないじゃない。私を弄んで散々いたぶった挙句、勝手にいなくなるなんて」
ベッキー・セントジョン「・・・あんたって・・・ ふふっ、ホント最高ね」
ベッキー・セントジョン「よっしゃ! そこまで覚悟があるならこの ベッキーさんが協力してやらないとね! ただし私も一緒に行くわ」
ベッキー・セントジョン「父上がスフェーン王国貴族の 慈善パーティーに招待されてるの」
ベッキー・セントジョン「多めに寄付しとけば同行者が増えても 問題無いでしょ」
???「私もスフェーン王国に 連れて行ってくださいっ!」
  隣のテーブルから、
  藍色の髪の少女がこちらに向かってきた。
ラビニア・オータム「えっ? セーラ? ・・・もしかして、今の話聞いてた?」
セーラ・スタン「はいっ! スフェーン王国貴族の 慈善パーティーに行かれると・・・ 私、一度外国に行ってみたかったんです」
  良かった。この様子だと肝心な【魔王
  因子】の部分は聞かれていないわね。
ベッキー・セントジョン「おや? スクールプリンセス様は今、 忙しいのでは・・・」
セーラ・スタン「そうなんですけど・・・ ちょっと気分転換をしたくて・・・」
ラビニア・オータム「気分転換、って?」
  言われてみれば、セーラの周りにいつも
  誰かしらいる攻略対象キャラが、
  今日はいない。
  そしてセーラ本人は思いつめたような、
  悲しげな表情を浮かべている。
  ・・・何かあったのかな?
セーラ・スタン「・・・みなさんが私に言うんです」
セーラ・スタン「僕だけのセーラになって欲しい、 俺だけじゃだめなのか? 私だけを愛してくれ・・・って」
ベッキー・セントジョン「なるほど・・・ 優秀にイベントをこなしていた弊害ね」
ベッキー・セントジョン「攻略対象キャラ全員の 好感度を上げてしまったと」
ラビニア・オータム「――要は恋人を1人だけ選べと 迫られてるのね」
セーラ・スタン「ええ、それも全員に・・・ でも、私はみんなが大好きなんですっ!」
「え???」
セーラ・スタン「誰か1人だけを恋人に選ぶ事なんて 出来ないっ!」
セーラ・スタン「それにずっと自由でいたい。 もっともっと恋もしたいんですっ!」
セーラ・スタン「っていうか、私は私でいるために自由に いたい! 誰か1人に縛られたくないのっ!」
  セーラの赤裸々な告白に
  私もベッキーも目が点になる。
ベッキー・セントジョン「・・・うわぁ。人様が聞いたらドン引き するエグい発言を、こうもどうどうと 言い切るなんて・・・さすが主人公」
ラビニア・オータム「確かに。でも・・・ふふっ、 こういうのセーラらしいよね」
ラビニア・オータム「私たちのプレイしたゲームのセーラ そのまんま」
  呆れるベッキーの言葉に私は同意しつつ、
  思わず笑ってしまった。
  たおやかな少女に見えて誰が何と言おうと
  信念を決して曲げないセーラ。
  自分の気持ちに真摯に向き合える芯の
  強さには、どんなシナリオでもブレは
  無かった。
  そうよ、
  私はこんなセーラに憧れていたんだ。
  私もこんな風に強くなりたかった。
  ・・・まあ、逆ハーレムは
  どうかと思うけどね。
  誰になんて思われようとも・・・
  私たちは自分の生き方は
  自分で決めるんだ。
ラビニア・オータム「うん、セーラも一緒に行こう」
セーラ・スタン「はいっ! ありがとうございます、ラビニアさんっ!」
ラビニア・オータム「でも・・・お願いがあるんだけど、 王国でセバスに会っても詮索しないでね。 それと・・・」
ラビニア・オータム「――頼むから、 セバスに手を出さないでちょうだい」
セーラ・スタン「えっ?」
ベッキー・セントジョン「うーん、恋する女子よな~」
  私の真顔のお願いに
  きょとんとするセーラ。
  ベッキーが茶化すけど仕方ないじゃない。
  何と言ってもセーラはヒロイン。
  いつ好感度が上がるか分からないしね。

〇大広間
  そして今。
  この瞬間に至る。
  目の前のドレス姿の私に目を疑うセバス。
  そうよ、その顔が見たかったのよ。
ラビニア・オータム(――やっとあんたを 出し抜いてやれたわねっ!)
  しかし・・・それは一瞬だった。
セバスチャン・ガーフィールド「おひさしぶりとは? さて、私はあなたと お会いするのは初めてですが」
  セバスは瞬時に、にこやかな笑みを浮かべ
  私の言葉を柔らかく否定する。
  ふーん知らぬフリを貫き通すのね。
  まあ、良いわ。ならば・・・。
ラビニア・オータム「まあ酷いっ! 私にあんなに熱烈な 口づけを与えてくださったのに?」
  私は大げさに驚き、
  辺りに聞こえる様な大声を上げた。
ルドルフ・モルダー「く、口づけ?!」
  セバスの後ろに控えていたルドルフが
  明らかに狼狽えているが、
  当のセバスは表情を崩さない。
  そして私の声を聞き付け、何事かとテラスに集まって来るパーティーの出席者達。
ラビニア・オータム「ダミアン様は仰って下さったじゃ ありませんか、ご褒美が欲しいって。 ですから・・・」
ラビニア・オータム「こうしてお伺いしたのですよ。 私というご褒美をお持ちして」
  そう言って、セバスの唇に指を当て
  シナを作って上目遣いに見つめる。
  【魔王因子】なんて無くても、
  どスケベボディじゃなくても、艶っぽい
  雰囲気くらいは出せるんだからね!
フィニー公爵「え? お二人は、いやその・・・ そう言ったご関係、なのでしょうか?」

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