悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第十三話「その完璧執事、失踪する」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇暖炉のある小屋
  放課後の女の子達で賑わう、
  最近オープンした素敵なカフェ。
  そのカフェに私は
  ベッキーに連れられてやってきた。
  流行りのスポットでお茶をするため
  ではなく、お祝いをするためだ。
  そのお祝いとは・・・。
ベッキー・セントジョン「ラビニア、魔王化しなくておめでとーっ! これで死亡フラグをへし折ったわね」
ラビニア・オータム「・・・ありがとう」
  目の前に置かれている
  豪華なデコレーションケーキ。
  ベッキーがこの日のために
  特別にオーダーしてくれたのだと言う。
  昨日、セーラは学園のイベントで
  スクール・プリンセスに選ばれた。
  ゲームでは審査員を買収したり、他の
  候補者を失格させたりと、ラビニアは
  このイベントに心血注いで暗躍する。
  しかし、スクール・プリンセスに
  選ばれたのはセーラ。
  結果、ラビニアが魔王化し、セーラや
  攻略対象キャラ達に、殺されてしまう
  終盤の一大イベントだ。
  私も一応、参加した。観客として。
  そんなわけで審査員を買収する事も、
  他の候補者を失格させる事も無く。
  もちろん候補者として参加したわけでも
  なかったので、選ばれなくても
  魔王化する事も無くイベントは終わった。
  私が死ぬかもしれない、ラビニアが
  参加する最後の最大イベントが、
  無事に終了したのだ。
  しかし、そんな事実にもケーキにも
  陽気なベッキーにも・・・
  私の気持ちは晴れなかった。
ベッキー・セントジョン「まーだダミアンの事気にしてるの?」
ラビニア・オータム「・・・そりゃ気にしないわけ無いじゃない」

〇黒背景
  セバスがオータム家から出て行って
  一か月。
  それから今日まで、私は生ける屍だった。
  だって恋に気付いた途端、こっ酷く振られ
  挙句に相手は失踪。
  この衝撃はジョシュ王子への過ぎ去った
  初恋に気付いた時よりも重く、辛い。
  セバスの突然の辞職と失踪に
  当初はお父様達も戸惑っていた。
  しかし、辞表と共に添えられていた
  何やら長い手紙で、セバスの意思を
  受け入れた様だ。
  と言っても、
  セバスの部屋はそのままになっている。
  ――お父様曰く、
  いつ帰ってきても良いようにと。

〇英国風の部屋
ラビニア・オータム(・・・もう帰ってくることは 無いと思うけど)
  セバスはこの部屋から
  自分のいた痕跡を全て消した。
  立つ鳥後を濁さず、
  いなくなるセバスも痕跡残さず。
ラビニア・オータム「・・・そんなところまで 完璧じゃなくても良いのに」
  残り香すらも残さないセバスの完璧さに
  私は一人静かに部屋で泣くのだった。

〇暖炉のある小屋
ベッキー・セントジョン「でもさ、逆にダミアンがいなくなって 良かったのかもよ・・・」
ベッキー・セントジョン「スフェーン王国はラビニアには 鬼門だと思うから」
ラビニア・オータム「どういう意味?」
ベッキー・セントジョン「あんたには言わなかったけどさ、 テコ入れシナリオじゃあ・・・」
高貴そうな女子生徒「まあ、スフェーン王国に留学ですの!?」
  私がベッキーに問い返したのと、
  隣に座っている女学生が驚いた様な
  声を上げたのは同時だった。
勝気そうな女子生徒「ええ。 セーラ・スタンに骨抜きにされている この国の王子や男達には見切りをつけるわ」
勝気そうな女子生徒「いっそのこと、スフェーン王国へ留学して将来の結婚相手を探さすのも良いかなって」
高貴そうな女子生徒「名案だと思いますわ。 スフェーン王国にはオスカー王子以外にも 素敵な方が多いと聞きますし」
高貴そうな女子生徒「特に王族親衛隊の方達とか・・・ そうそう、隊長のダミアン・スターリッジ侯爵様なんてどうかしら」
ラビニア・オータム「!」
高貴そうな女子生徒「身分良し、剣の腕良し、顔良しと 3拍子揃った騎士様らしいですわよ」
ラビニア・オータム(・・・ふん、ダミアン・スターリッジには素行悪し、性格悪し、タチ悪しの3拍子も揃っていますけどね)
  心の中で彼女達の会話に毒付きながら、
  次の言葉に私は一瞬思考が止まった。
高貴そうな女子生徒「・・・それに、噂によると オスカー王子は不治の病で余命が 幾ばくも無いらしいですしね」
  え?
  オスカー王子って【魔王因子】を
  引き継いだ人よね?
  その人が・・・不治の病?
  困惑する私を見て、
  ベッキーは深く息を吐く。
ベッキー・セントジョン「・・・もう、噂は広がってるんだ」
ラビニア・オータム「ベッキー・・・知ってたの?」
ベッキー・セントジョン「うちは貿易商をしてるから、 その手の噂はひと通りね・・・」
ベッキー・セントジョン「あんたにテコ入れシナリオの詳細を 話してなかったわね」
ベッキー・セントジョン「魔王ラビニアが死んで平和が戻った学園は 魔法技術の向上のために、スフェーン王国 への短期留学生を募集するの」
ベッキー・セントジョン「そしてその留学生にセーラが選ばれる。 セーラはスフェーン王国でオスカー王子や ダミアン達と出会い・・・」
ベッキー・セントジョン「新たな恋の予感が生まれる―― ここまで公開されてサービスが 終了してしまったのよ」
ラビニア・オータム「ダミアン達と・・・新たな恋の予感・・・」
  セバスが攻略対象キャラだと
  知っていても・・・
  具体的に聞くとなんだかショックだ。
ベッキー・セントジョン「そうよ、でも・・・ オスカー王子は病弱ではなかった。 少なくとも、ゲームの上では」
ベッキー・セントジョン「・・・多分【魔王因子】が身体に 合わなかったんじゃないかって、 私は思っているんだ」
ラビニア・オータム「でも私は・・・ 小さい頃は【魔王因子】を持っていても 病気ひとつしない健康な子だったのよ?」
ベッキー・セントジョン「それはラビニアが生まれながらの 適合者だったからよ」
ベッキー・セントジョン「っていうか・・・ 正当な魔王の後継者だったから」
ベッキー・セントジョン「――だって、あんたは初めから、 この世界のラスボスとして 設定されていたキャラだもの」
ベッキー・セントジョン「逆に言うと【魔王因子】はあんた以外は この世界では適合しないのよ。 だから・・・」
ベッキー・セントジョン「引き継いでしまった人間は心身共に 蝕まれてしまうんだと思う。 オスカー王子の様に」
ラビニア・オータム「そんな・・・ でもそんな事、セバスは一言も・・・」
ベッキー・セントジョン「あいつはわざと教えなかったのよ、 きっと。 教えたらあんたの事だから・・・ってね」
ベッキー・セントジョン「だから私も賭けてみたの・・・ あんたと同じイレギュラーな存在の 完璧執事の感情の変化ってヤツに」
ベッキー・セントジョン「もしかしたら、このゲームの『強制力』に 対抗出来るのかもって」
ベッキー・セントジョン「・・・そうはうまくいかなかった みたいだけどね」
  寂しげに笑い、
  カップを口元に運ぶベッキー。
  彼女の言う意味は
  よく分からなかったけど・・・
  ひとつだけ、
  私がしなければいけない事は分かる。
ラビニア・オータム「私、 スフェーン王国に行かなくっちゃ・・・」
ラビニア・オータム「王国に行って、 オスカー王子を助けないと!」

〇神殿の広間
  スフェーン王国の首都を見下ろす、
  国王陛下が住まう広大な宮殿の庭園。
  その一角にひっそりと小さな神殿がある。
  光の神を祀るその神殿は、俺が不在して
  いた1年の間に、オスカー王子の病気平癒
  祈願のために建設されたらしい。
  そしてこの神殿にはオスカー王子が
  静養のために移り住んでいた。

〇貴族の部屋
  王子の部屋は緑に溢れているだけではなく
  人口の滝も流れ、一種の温室のような作り
  になっている。
  その部屋で俺はオータム家にいた頃と
  変わらず、お茶を淹れていた。
  変わった事は身に纏っているのが執事服
  ではなく騎士服で、相手がラビニアでは
  なく、オスカー様だという事だ。
セバスチャン・ガーフィールド「どうぞ、オスカー様。 お熱いのでお気を付けください」
オスカー・スフェーン「ありがとう。ダミアンが淹れる お茶が飲めるなんて嬉しいよ」
  すっかりとやせ細り、
  頬がこけてしまったオスカー様は、
  微笑むとカップに口を付けた。
オスカー・スフェーン「・・・うん、美味しい。ふふ、すっかり お茶を淹れる姿も様になって」
セバスチャン・ガーフィールド「元々、練習はしていたのですよ。 将来オスカー様にお仕え出来るようにと、 執事を目指しておりましたから」
オスカー・スフェーン「執事だなんて・・・ 本当に出世欲が無いね、ダミアンは」
セバスチャン・ガーフィールド「俺は今のままで十分ですよ、オスカー様。 むしろ何か処罰を与えて頂きたいくらい です」
オスカー・スフェーン「勝手に休職願を出して、 一年間も他の国で執事をやってたこと?」
セバスチャン・ガーフィールド「はい。そして・・・ オスカー様の【魔王因子】を取り除く 手段を得られなかった事を」
  オスカー様はカップを置くと、
  緩やかに首を振った。
オスカー・スフェーン「違うよ、ダミアン。僕はね、ラビニアが 無事で良かったって思っているんだ。 【魔王因子】はこのままで良い」
セバスチャン・ガーフィールド「何をおっしゃるんですか、オスカー様」
オスカー・スフェーン「ルドルフに聞いたんだ。ラビニアの話」
オスカー・スフェーン「上級貴族の娘なのに優しくて、人への 分け隔ても無く、意地悪してくる執事に ひるむことなく果敢に立ち向かう・・・」
オスカー・スフェーン「あの堅物が誉めてたよ。 だからそんな子に【魔王因子】なんて 押し付けちゃ駄目なんだ」
オスカー・スフェーン「それに、ダミアンの雰囲気が ちょっと変わったのは・・・」
オスカー・スフェーン「きっとその子に影響されたから じゃないかな?」
セバスチャン・ガーフィールド「まさかそんな事・・・」
オスカー・スフェーン「――ねえダミアン。『あの事』は 起こるべきにして起きた事なんだ」
オスカー・スフェーン「そして、お母様を止められなかった 僕と父上の罪だ」
オスカー・スフェーン「だからダミアンがいつまでも 気に病む事では無いんだよ」
  オスカー様の全てを悟ったような物言いに
  俺は戸惑い、慌てる。
セバスチャン・ガーフィールド「しかし、オスカー様・・・」

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