エピソード6 死体の謎(脚本)
〇病院の廊下
―検死室前―
桐ケ谷 沙都希「・・・由衣香。・・・由衣香」
沙都希が椅子に座り、祈るように両手を握り合わせている。
安曇 巌「・・・・・・」
八神 暁「・・・いわさん、どう思います? あの死体・・・」
安曇 巌「胡散臭いな」
八神 暁「っすよね」
安曇 巌「手がかかり過ぎてる」
八神 暁「顔を潰した上に、火を付けてるっすからね」
安曇 巌「あれじゃ、パッと見、誰だかわからん」
八神 暁「ここまでやる理由は一つっすよね?」
安曇 巌「・・・死体のすり替え」
八神 暁「あの死体は由衣香さんじゃない・・・」
安曇 巌「十中八九な」
八神 暁「誰なんすかね?」
安曇 巌「さあな。それを今、調べてるんだ。俺達は検死結果を待てばいい」
八神 暁「犯人は、あの死体を俺達に見つけさせるために連絡してきたってことっすよね?」
安曇 巌「・・・そうなるな。娘を誘拐した後、あの死体を用意し、あそこに吊るす」
安曇 巌「そう考えれば、連絡が来たのが、あのタイミングになったのも、時間的に頷ける」
八神 暁「けど、これで犯人の手掛かりはなくなった・・・。振り出しっすね」
八神 暁「スマホもあそこに置いてあったということは、もう、こっちに連絡する気はないってことっすからね」
八神 暁「もう、あっちの出方を待つって手は使えないっすよね」
安曇 巌「・・・逆に、これで犯人がある程度絞れたがな」
八神 暁「え? マジっすか?」
安曇 巌「あの死体が娘じゃないってことは、母親への怨恨って線は消えた」
八神 暁「あっ! 確かに。恨んでるなら、由衣香さんを実際に殺害するはずっすからね」
安曇 巌「それと、わざわざ、ああして、手間をかけて、偽の死体を用意した。この意味がわかるか?」
八神 暁「えーっと・・・。犯人は、由衣香さんが死んだと思わせたかったんすよね?」
安曇 巌「ああ」
八神 暁「けど、あの死体が偽物ってことは、由衣香さんは生きている」
安曇 巌「犯人は娘を殺せない、生かしておきたいという人物だ」
八神 暁「・・・あっ! パパ活の相手!」
安曇 巌「そうだ。そう考えれば辻褄が合う」
八神 暁「まず、由衣香さんを誘拐し、桐ケ谷さんに恨みがあることを仄めかす・・・」
安曇 巌「で、偽の死体を見せて、娘が死んだと思わせる」
八神 暁「警察は怨恨の方向で捜査するから・・・」
安曇 巌「パパ活の相手は、一旦、捜査線上から外れる」
八神 暁「で、捜査が行き詰っている間に、由衣香さんを、用意した場所に監禁する」
安曇 巌「あとは、事件が迷宮入りするのを待つだけだな」
八神 暁「事件の全貌が見えてきたっすね」
安曇 巌「あとは、あの死体が誰かってところだな。それも大きな手掛かりになるはずだ」
八神 暁「・・・それにしても、犯人は、あんな方法で警察を騙せると思ったんすかね? 今の科学捜査を舐めすぎっす」
安曇 巌「一般人なら、その辺はわからんだろ」
八神 暁「そうっすかね? 今の、この手の作品って、結構、リアルに描かれてるんすけどね。科学捜査がどの辺まで進んでるとか」
安曇 巌「全員が全員、お前みたいに創作物が好きってわけじゃねーだろ」
安曇 巌「俺だって、この仕事してなきゃ、あれで誤魔化せると思うはずだ」
八神 暁「パパ活の相手は40代らしいっすからね。そういうことを知らない可能性はありそうっす」
安曇 巌「ここまでわかってるなら、すぐに捕まえられそうだな」
安曇 巌「これで、阿比留の方に集中できそうだ」
八神 暁「そういえば、そっちの方の捜査は進んでるんっすか?」
安曇 巌「今は聞き込みが中心だな。なんせ、容疑者が山ほどいる」
安曇 巌「阿比留の方がよっぽど、難儀しそうだ」
八神 暁「・・・ご愁傷さまっす」
安曇 巌「・・・まだ、こっちの方が解決してねーからな。俺も、しばらくはこっちにつくか」
八神 暁「・・・いわさん、それ、楽したいからっすよね? ズルいっすよ」
安曇 巌「合理的って言え」
八神 暁「とはいえ、一刻も早く、由衣香さんを見つけてあげないといけないっすね」
安曇 巌「ああ。・・・そう考えると、どっちもどっちか・・・」
桐ケ谷 沙都希「・・・由衣香。・・・由衣香」
八神 暁「・・・・・・」
暁が沙都希の隣に座る。
八神 暁「大丈夫っすよ。あれは由衣香さんじゃないっす」
桐ケ谷 沙都希「・・・は、はい。そう・・・信じてます」
八神 暁「由衣香さんは、必ず、俺が見つけてみせるっすから」
桐ケ谷 沙都希「ありがとうございます・・・」
そのとき、検死室のドアが開く。
検死官「よお、結果が出たぞ」
安曇 巌「お疲れ。・・・で? どこの誰だったんだ? やっこさんは?」
検死官「・・・・・・」
安曇 巌「どうした?」
検死官「あの死体を、桐ケ谷由衣香だと断定した」
桐ケ谷 沙都希「っ!?」
沙都希の体から力が抜けて、ふらつく。
八神 暁「桐ケ谷さん!」
安曇 巌「・・・どういうことだ?」
検死官「どうもこうもねぇ。言ったままの意味だ」
安曇 巌「疑うわけじゃないが、決め手はなんだ? 顔を潰されてるから、歯からの鑑定も難しいだろ」
検死官「死体も燃やされているから、指紋も取れねーしな」
安曇 巌「なのに、断定した理由はなんだ?」
検死官「バリバリ疑ってんじゃねーか」
検死官「が、よく考えろ。もっと簡単な方法があるだろーか」
安曇 巌「あん?」
検死官「・・・この場に母親がいるんだぞ?」
安曇 巌「・・・DNA鑑定か」
検死官「ああ。ほぼ間違いなく、あの死体は、桐ケ谷沙都希の娘だ」
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・っ!」
桐ケ谷 沙都希「・・・そんな・・・まさか」
八神 暁「桐ケ谷さん?」
桐ケ谷 沙都希「あああああああああ!」
八神 暁「落ち着いてくださいっす!」
安曇 巌「八神! 医務室に連れて行ってやれ」
八神 暁「はいっす」
八神 暁「さあ、桐ケ谷さん、立てますか? 医務室で休みましょう」
桐ケ谷 沙都希「・・・・・・いえ」
ふらりと沙都希が立ち上がる。
八神 暁「・・・桐ケ谷さん?」
沙都希の顔からは生気が失われて、青白くなっている。
桐ケ谷 沙都希「・・・帰っていいでしょうか?」
八神 暁「え?」
桐ケ谷 沙都希「帰って、家でゆっくり休みたいんです」
八神 暁「・・・・・・」
安曇 巌「何人かで、家の周りを見張らせますので、安心して休んでください」
桐ケ谷 沙都希「結構です。誰も、家に近づけないでください」
安曇 巌「・・・・・・」
スタスタと歩き去っていく沙都希。
八神 暁「ちょ、いいんすか?」
安曇 巌「しゃーねーだろ。あの人は被疑者でも容疑者でもねーんだ。強制はできないだろ」
八神 暁「・・・けど」
安曇 巌「ああ。下手すりゃ、後を追うなんてことも考えられるな」
安曇 巌「現に、あれだけ可愛がっていた娘の死体を放置して帰ったくらいだからな」
八神 暁「俺、桐ケ谷さん家に行ってきます!」
安曇 巌「やめろ! 本人が拒否したんだぞ」
八神 暁「・・・」
安曇 巌「俺達にできることは、犯人を見つけることだけだ」
八神 暁「俺、聞き込み行ってきます」
安曇 巌「お前は、少し休め。どうせ、昨日だって、ほとんど寝てねーんだろ?」
八神 暁「けど・・・」
安曇 巌「これから、この事件は誘拐事件から殺人事件に切り替わる」
安曇 巌「明日からはもっと人員も増える。焦って無理するより、今はしっかり休んで、明日から本格的に捜査しろ」
八神 暁「・・・仮眠室行ってきます」
暁が歩き出す。
安曇 巌「ったく」
〇洋館の一室
仮眠室のドアが開く。
安曇 巌「八神、起きろ」
暁が目を覚ます。
八神 暁「・・・もう、朝っすか?」
安曇 巌「もう昼に近けぇよ」
八神 暁「マジっすか!?」
安曇 巌「それより、八神」
八神 暁「なんすか?」
安曇 巌「失踪した」
八神 暁「・・・へ? 誰がっすか?」
安曇 巌「桐ケ谷沙都希が失踪した」
八神 暁「・・・・・・えっ!?」
終わり。



衝撃とともに大きく動く物語、そしてミステリー展開へとシフトしていきそうですね。これまで断片的に提示された情報という”点”たちがどのように結びついていくのか楽しみです!