曼珠沙華は知っている(脚本)
〇超高層ビル
曼珠沙華(まんじゅしゃげ)は知っている。
森羅万象を知り尽くしている。
たとえば――、
曼珠沙華「お会社のお金を横領していらっしゃいますね?」
悪徳会社員「か、勘弁してくれ! それだけは秘密に!」
〇広い改札
曼珠沙華「会社のお上司とお浮気されていますね?」
ダブル不倫OL「ちょ、ちょっと何を言うんですか!」
〇住宅街の道
曼珠沙華「血のつながらないお子さんをお虐待しましたね?」
DV男「あ、あれは教育だ! しつけだ!!」
曼殊沙華は秘密を手に入れ、そして暴く。
だが、それだけではない。
〇レストランの個室
不正政治家「ワイロの件は、これでどうか・・・!」
曼珠沙華「ありがたくお頂戴いたします」
曼珠沙華「お代といたしまして、お秘密お黙り申し上げます」
曼殊沙華は秘密の口止め料をもらっている。
刑法249条。人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
世直しのつもりかもしれないが、秘密の代償にお金を得れば恐喝罪だ。
〇開けた交差点
毒島刑事「――ってことだ」
毒島刑事「曼殊沙華、恐喝罪で逮捕する」
曼珠沙華「お勘違いされてます」
曼珠沙華「私がお恐喝したお証拠でも?」
毒島刑事「証拠は・・・まだない」
毒島刑事「ずっと尾行していたがお前と被害者に接点は一つもない」
毒島刑事「どうやって人々の秘密を暴いたのか教えれば許す」
曼珠沙華「お逮捕せずに?」
毒島刑事「秘密の情報源を教えれば見逃してやる」
毒島刑事「その代わり今後は俺専属の情報屋になれ」
曼珠沙華「ふふふ。面白いご提案です」
曼珠沙華「やはり刑事さんは悪党さんなのですね」
毒島刑事「仕事熱心なだけさ。 悪党はお前だ」
毒島刑事「言え。 どうやって情報を集めている」
曼珠沙華「刑事さん、まず貴方のお秘密をお教えしましょう」
毒島刑事「俺に秘密なんてない。 お前がカモった犯罪者と一緒にするな」
曼珠沙華「お秘密のない人間などおりません」
曼珠沙華「『あなたは私の子ではなくて盗んできた子なの』」
曼珠沙華「『さっき食べてもらったのは人肉ハンバーガーなの』」
曼珠沙華「などなど、ときに本人すら気づかぬお秘密があるものです」
曼珠沙華「たとえば、そう」
曼珠沙華「『刑事さんはすでにお亡くなりになられています』」
曼珠沙華「なんてお秘密はおいかが?」
毒島刑事「は? 何て?」
曼珠沙華「貴方はすでにお死になられています」
曼珠沙華「だからこそ私のお犯罪にお気づきになられたのかと」
毒島刑事「自分の行為が犯罪と認めるんだな?」
毒島刑事「ちゃんと秘密を教えないと、現行犯で逮捕するぞ──」
毒島刑事「何だこれは・・・ありえない・・・!」
毒島刑事は手錠を取ろうと懐に手を伸ばすが、手は何にも触れられず、透き通った肉体を通過するだけだった。
毒島刑事「まさか本当に・・・死んでいるのか・・・?」
曼珠沙華「お忘れのようですね。 私、こういうものです」
名刺には「霊媒師 曼殊沙華」とある。
毒島刑事「霊媒師? 霊媒師ってあのイタコみたいな?」
曼珠沙華「はい。幽霊さんとお話できます」
曼珠沙華「主にご依頼人様を霊的トラブルからお助けしております」
曼珠沙華「あと幽霊さんから聞いたお情報を元にお副業を少々」
毒島刑事「まさか・・・お前は幽霊から情報を?」
毒島刑事「幽霊と話せる・・・それがお前の秘密か!」
曼珠沙華「霊媒師ですからそれは公開情報です」
曼珠沙華「ほとんど誰もお信じくださいませんが」
毒島刑事「じゃあ他に何がある! 曼殊沙華、お前の秘密は何だ!」
曼珠沙華「私のお秘密はお殺人です」
毒島刑事「人を殺した? いったい誰を?」
曼珠沙華「貴方です」
毒島刑事「何だと・・・!?」
曼珠沙華「貴方はおクズな刑事さんでした――」
〇マンションの共用階段
毒島刑事「お前の前科を知ったら婚約者はどう思うかな?」
女性「止めて! それだけは彼には秘密に・・・!」
毒島刑事「だったら、分かるよな?」
女性「は、はい・・・何でも言うことを聞きます・・・」
〇ネオン街
散々利用された挙句、秘密を暴かれて苦しんだ彼女はお命をお絶ちになり――、
女性霊「私の声が・・・聞こえるのですか・・・?」
曼珠沙華「はい。何なりとお申し付けください」
――私にお情報をご提供くださいました。
〇開けた交差点
そして昨年の夏──
曼珠沙華「毒島刑事。 ようこそお出でくださいました」
曼珠沙華「さっそくお罪をお償いください」
毒島刑事「何の話だ? 俺はあの女に何も・・・」
曼珠沙華「おクレームは私ではなくこの御方にどうぞ」
女性霊「死んで・・・死んで償ってぇえ・・・!」
毒島刑事「何だ、この声・・・まさか・・・っ!」
女性霊「死んで・・・死んで償いなさいよぉお・・・!」
毒島刑事「そうだ・・・俺は罪人・・・死んで罪を償うんだ・・・」
毒島刑事「わーっ!」
道路に飛びこんだおクズな刑事さんは、高級車の下でぺしゃんこになりました。
〇開けた交差点
「お前が!」
毒島刑事「お前があの女をそそのかして、俺を自殺させたのか!」
曼珠沙華「私の秘密は、幽霊さんのお殺人のお手伝いをしていること」
曼珠沙華「でも、これってお罪になります?」
毒島刑事「どうして殺した!」
毒島刑事「金で済んだ話だろう!」
曼珠沙華「お金にはお金。お命にはお命がおモットー」
曼珠沙華「貴方はお少々やりすぎました」
毒島刑事「ふざけるな! ぶっ殺してやる!」
曼珠沙華「まさかお成仏せずに地縛霊化しているとは驚きでした」
曼珠沙華「でも、お残念。死者さんに生者さんは触れません」
毒島刑事「くそっ! 拳が当たらない!」
毒島刑事「どうすれば――ぺっ、何だ、何をかけた・・・!」
曼珠沙華「お塩です」
毒島刑事「え、溶けてる!? おい、溶けてるぞ!?」
曼珠沙華「お塩は幽霊さんをお溶解させます」
曼珠沙華「だいたいの幽霊さんはイチコロです」
毒島刑事「やめろ! この人殺し、いや幽霊殺し!」
毒島刑事「待て! 頼む! 何でもするから!」
曼珠沙華「悪党さんのお力は借りません」
曼珠沙華「なにとぞお成仏ください」
毒島刑事「し、死んだら・・・どうなるんだ?」
毒島刑事「この状態で・・・死んだら・・・どうなる!?」
曼珠沙華「ふふふ」
毒島刑事「笑ってないで答えてくれ・・・!」
毒島刑事「俺は・・・どうなるん・・・だ・・・!」
私、曼殊沙華は知っている
森羅万象を知り尽くしている
〇手
ただし、あの世のことは、何も知らない
そんな恐ろしいお秘密は知りたくない
最初から最後まで、凄い集中して読ませていただきました!!どうなっていくの!?と惹きつけられていき、あっという間に読み切った感覚です!!とっても面白かったです!!ありがとうございました!!
さすが、大賞!レベルが違います!
私最近、キュンコンテストのためにタップノベルに投稿を始めた初心者ですが、こちらの作品を知らずに、似たような恋愛幽霊ネタを投稿してしまいました~!
もっと視界広く書いていこうと思いました。
面白かったし、勉強になりました!
オリジナリティ溢れてすごい良かったです。またみたいです。