第十二話「その悪役令嬢、自覚する」(脚本)
〇不気味
その日は、
何が何だか分からない一日だった。
まず百貨店で買い物を楽しんでいたら、
急に見知らぬ男の子に声を掛けられた。
〇中世の街並み
???「なあ、おまえ、ソレなにを買ったんだ?」
ラビニア・オータム「なにをって・・・なんだって良いでしょ。 あなたに教える必要ある?」
リオ・エム「そうだよな、・・・ってあれ? ナンパって、声を掛けた後はどうすりゃいいんだ?」
ラビニア・オータム「はぁ? 私に聞かれても・・・」
ルドルフ・モルダー「――お嬢さん、連れの者が迷惑を お掛けして申し訳ない。リオ、帰るぞ」
リオ・エム「えっ! まだナンパは成功してねえけどっ・・・」
リオ・エム「ち、ちょっと待ってくれって、 ルドルフっ!」
長身の男性に文字通り
引きずられて消えていく青年。
そんな2人組を見送りながら聞き覚えの
ある名前に私はますます混乱した。
ラビニア・オータム(ルドルフとリオ、って確か・・・ 追加の攻略対象キャラよね?)
ラビニア・オータム(・・・しかし、 一体何がしたかったんだろう)
セバスにでも会いに来たのかな?
そう思って馬車に戻った時に、
セバスに聞こうとしたけど。
セバスチャン・ガーフィールド「・・・・・・」
セバスはなんだか深刻そうな顔で、
屋敷までの帰路はずっと黙り込んでいた。
ラビニア・オータム(私への悪巧みを考えてる、ってわけじゃ なさそうだし・・・どうしたんだろ?)
〇貴族の応接間
そして何が何だか分からない事は、
夕食後の家族団らんの時間にも起こった。
ラビニア・オータム「えっ? 私の・・・縁談?」
オータム公爵「そうだ、今朝国王陛下に呼ばれてね」
オータム公爵「・・・陛下は最近のジョシュ王子の行動や 言動に何かと思う事があるらしい」
オータム公爵「それで一旦王子の婚約候補者の件は 全員白紙に戻すと仰られた」
そりゃ元平民のセーラを正妃にしたいとか言い出したり、ところ構わずセーラに愛を囁いてるしね。
学園では公然の秘密扱いだけど
宮廷には筒抜けなんだろうな。
大変だなあ、王様も。
オータム公爵「それでな。 国王陛下は・・・おまえにシーザー殿下 との縁談をお勧め下さったんだ」
唖然とする私の代わりに
セバスが慌ててお父様に進言する。
セバスチャン・ガーフィールド「旦那様、シーザー王弟殿下は確かに 人望も厚く、実業家としてもご活躍 されておりますが・・・確か御年32歳」
オータム公爵「でもそれくらい年の離れて落ち着いた男性の方がラビニアの夫には良いかと思うんだ」
オータム公爵「それにシーザー様も実は以前から、 ラビニアの事を快活で朗らかな姫君だと 密かに見染めていたらしい」
オータム公爵「シーザー様は穏やかでお優しい方だ。 きっとラビニアの事を愛し、 大切にしてくれるだろう」
オータム公爵夫人「ラビニア、 女性は恋われ嫁ぐのが一番の幸せですよ」
ラビニア・オータム「・・・セバスはどう思う?」
私は思わずセバスに問い掛けた。
お嬢様には荷が重いですとか、
シーザー様に申し訳ないとか・・・
私がダメダメだから
まだまだ婚約なんて早いって。
そんな類の言葉を私は
期待していたのかもしれない。
でも、
セバスは柔和な笑顔を浮かべていた。
セバスチャン・ガーフィールド「そうですね・・・ 非常に良い縁談かと思われます」
ラビニア・オータム「!?」
セバスの言葉が冷たい氷の塊になって
頭を殴りつける。
そうよね・・・
私がどこにお嫁に行こうが、
セバスは興味も無いし困らないものね。
だって、セバスにとっての私は・・・
【魔王因子】の入れ物だもの。
ラビニア・オータム「お父様やお母様や・・・ セバスが良いと思うのなら・・・ その縁談、謹んでお受けします」
私は無理やり穏やかな笑顔を作って
そう答えた。
〇城の客室
ラビニア・オータム「ま、恋愛結婚なんて元から諦めてたしね。 年上の夫、良いじゃない。 きっと甘やかしてくれるわよ、うん」
貴族や王族と結婚するのがオータム家の
長女として生まれた私の役目だもの。
しかも国王陛下の弟よ?
落ちこぼれ令嬢の私にしては
逆転サヨナラホームランみたいなもんよ。
私は髪をブラッシングしながら
ドレッサーの鏡に映る自分に言い聞かせ、
就寝前の身支度をしていた。
コンコン
セバスチャン・ガーフィールド「・・・お嬢様、 おやすみのお支度に伺いました」
ラビニア・オータム「あ、もうそんな時間か・・・ 入って良いわよ」
ドアが開くと、そこには思いつめたような表情のセバスチャンが立っている。
ラビニア・オータム「ん?? どうしたの、なんかあった?」
セバスチャン・ガーフィールド「――ラビニア様は本当に、シーザー殿下 との縁談をお受けになられるのですか?」
ラビニア・オータム「!」
セバスの唐突の問いかけに言葉が詰まる。
セバスチャン・ガーフィールド「結婚すると言う事は寝所を共にし、 子を為すと言う事でもあります。 家同士の結びつきは大切ですが・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「ラビニア様、あなたのお気持ちは?」
ラビニア・オータム「・・・さっきは良い縁談 とか言ってたくせに」
ラビニア・オータム「そもそも私は貴族なのよ、 恋愛結婚なんて無理に決まってるじゃない」
私はドレッサーから立ち上がり、
セバスを睨みつける。
何故このタイミングでそんな事言うの?
ラビニア・オータム「そりゃ私だって、本当は・・・ 普通の女の子みたいに恋愛して・・・ 好きな人と結婚したいわよ」
ラビニア・オータム「でも私は貴族の娘だもの・・・オータム家のために結婚しなきゃならないじゃない」
私はいたたまれなくなって
セバスに背を向けた。
セバスチャン・ガーフィールド「・・・ラビニア様」
刹那とでも言うのだろう。
気付くと背中へ温もりが重ねられ・・・
肩が抱き竦められていた。
予期せぬ刺激に体が一瞬、
ぴくんと震える。
ラビニア・オータム「セバ、ス?」
セバスは私を背後から
抱きしめていたのだ。
期待と不安が入り混じったような感情が
一気に体中に流れ込んで来る。
ラビニア・オータム(もしかしたら、同情してくれた? それとも・・・やきもちをやいてくれた、 とか?)
じんわりと胸に染みる甘く切ない気落ちに
私は泣きだしそうになり、うるさいくらい
鼓動の速度が早まっていく。
セバスチャン・ガーフィールド「意にそぐわない男に抱かれるのも、 オータム家の為なら訳の無い事と いうのですね・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「やはり、お嬢さまは自己犠牲が強過ぎる」
吐息混じりに耳奥へ零される囁きに、
全身が溶けてしてしまいそうになる。
だから私は気付くのが遅かった。
セバスチャン・ガーフィールド「――だったら」
今までの心配そうな声色が、ぞくりと
するような冷たい声に代わる瞬間を。
セバスチャン・ガーフィールド「今までオータム家に、 あなたの為に尽くしてきた私に・・・ ご褒美を下くれても良いのでは?」
ラビニア・オータム「えっ?」
抱きしめる逞しい腕が突如解かれ・・・
私をベッドに突き飛ばした。
ラビニア・オータム「セ、バス?」
私の上に覆いかぶさったセバスは
ゾッとするような妖しい笑みを浮かべる。
そして躊躇いのない、無駄のない動作で
私のネグリジェの胸元を引き下ろした。
ラビニア・オータム「・・・ッ!? あ、・・・ダメ―ッ!」
セバスの眼下に私の胸が晒され、
あまりの恥かしさに慌てて胸を隠し、
ぎゅっと目を瞑る。
だがセバスは私の羞恥を煽る
辛らつな言葉で追い詰めていく。
セバスチャン・ガーフィールド「今更恥ずかしがる事は無いだろ? それにどうせ結婚すれば毎晩、 シーザーにその胸を晒すんだ」
予想だにしなかった言葉と行動に
呆然と目を見開く。
何が? どうして?
全てが理解が出来ない。
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