第十話「その悪役令嬢、糾弾される」(脚本)
〇豪華な部屋
ベッキー・セントジョン「ええっ! 『ジョシュ王子主催のダンスパーティー』に招待された?! なんで?」
ラビニア・オータム「なんでって・・・こっちが聞きたいわよ」
ベッキーが飛びかからんばかりの勢いで
聞いてくるのには訳がある。
このダンスパーティーでは、
ジョシュ王子や攻略対象キャラが
ラビニアの悪事の数々を追求。
そしてジョシュ王子はラビニアへの
婚約解消を宣言する・・・
ゲームでの断罪イベントの舞台だからだ。
結果、ラビニアは嫉妬と憤怒、
王妃になれない事への絶望で
徐々に魔王化してしまうのよね。
いわばラビニアの破滅が確定する
カウントダウンシナリオ。
その招待状が何故か・・・
昨日我が家に届いてしまったのだ。
ラビニア・オータム「でもさ、招待は良いんだけど・・・ そもそも婚約もしていないのに、 何がしたくて呼ばれるのかしらね?」
ゲームでのダンスパーティーイベントの
目的は『ラビニアと婚約解消したという
フラグを立てる事』だ。
確かにゲーム上のラビニアは婚約者
だったが、今の私は婚約者候補。
しかも一番最初に脱落するんじゃない
かって言われてる位のダメ令嬢だ。
ベッキー・セントジョン「うーん、婚約破棄イベントってさ、 メインシナリオに組み込まれてたじゃない」
ラビニア・オータム「・・・つまりは必要不可欠なイベントなのね。じゃあ・・・出席するしかないかぁ」
ベッキー・セントジョン「大丈夫? 私も招待されてれば 良かったんだけど・・・」
ベッキー・セントジョン「モブでもちょっとは名の売れた モブだと思ってたのに~」
名が売れたらモブではないんじゃ・・・
ラビニア・オータム「心配しないで。幸い王子に絶望を感じる ほど好きでも無いし。 そもそも【魔王因子】は私の中に無いしね」
ベッキーにはセバスが私の執事に
なった理由は説明済みだ。
オスカー王子の【魔王因子】を私に
引き継がせるために、悪役令嬢に
仕立て上げようとしている。
そんな事情を話すと渋い顔をしてたっけ。
ベッキー・セントジョン「・・・もっと遅く登場するハズのキャラが序盤から登場してるのか」
ベッキー・セントジョン「――ラビニアが【魔王因子】を跳ね除けた瞬間から悪役令嬢にさせようとする 『強制力』が働いているのかもね」
私がセーラをいじめなくても、
セーラはシナリオ通りいじめられた。
と言ってもローズさん達ではない。
私とはまったく関係ない、
いわゆるモブの生徒達だ。
しかし、これらはなぜか『私が指示した』
と攻略対象キャラ達に思われてしまって
いる。
そしてゲームと内容が違えども、セーラは『オータム家のパーティー』に出席した。
しかもこのパーティーで私がセーラを
いじめたとの噂もされている。
そんなわけでどうやら私はジョシュ王子達には『セーラをいじめる敵』と認定されてしまっているようだ。
どうしても流れを変えたくない『強制力』があるとしたら、一度それに流されてみるのも悪くない。
〇城の客室
ラビニア・オータム「・・・というわけで、出席する事に したので返事をお願いするわね」
セバスチャン・ガーフィールド「・・・どういう風の吹き回しです? あんなに嫌がっていたパーティーに 自分から参加するとか」
ラビニア・オータム「まあ、一種のけじめかな」
セバスチャン・ガーフィールド「・・・けじめって、 ジョシュ王子に対する恋心のか?」
ラビニア・オータム「はあ??? 何言ってんの、第一恋心が 生まれるほど王子と会話した事も無いし」
まったく、
急になんてことを言うんだこの執事は。
私は否定するが、
セバスはいぶかし気に私を眺める。
セバスチャン・ガーフィールド「・・・その割には王子のプロフィールに 色々とお詳しい事で」
ラビニア・オータム「臣下として当然でしょ、 変な勘繰りしないでよねっ!」
セバスチャン・ガーフィールド「ま、そう言う事にしておくか。 でも、良いのか? おまえ、王子によく思われてないぞ」
ラビニア・オータム「あんたがそれを言うなっての! 王子どころか周りの生徒にも よく思われていないわよ」
ラビニア・オータム「私を陥れようとしている 有能な執事のせいでね・・・」
ラビニア・オータム「というか、 それってセバスの思惑通りじゃない」
セバスチャン・ガーフィールド「だな、おまえがパーティーで絶望して くれれば俺もお役目ごめんってところだ」
ラビニア・オータム「おあいにく様、絶望なんてしないわ」
ラビニア・オータム「あんたのお望み通り、 王子には派手に嫌われてくるつもりよ」
ラビニア・オータム「だから、 いつものどぎついヘアメイク頼んだわよ」
さあて、最初で最後の
『悪役令嬢』としての晴れ舞台。
張り切っていくわよ!
〇王妃謁見の間
セバスチャン・ガーフィールド「これはなかなかの 居心地の悪さですね・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「文句があるなら直接こちらに 仰ったらよろしいのに」
ラビニア・オータム「直接言ったら滅多切りにされると 思ってるんじゃない? 秘密の騎士様は言葉の剣もお達者ですから」
王子主催のパーティーはゲームと同じく、
学園の生徒だけを集めた、
ごく内輪のパーティーだった。
王子を始め、攻略対象キャラの悪意に
満ちた視線がビシビシと体中に刺さる
のを感じる。
そしてそんな空気の中で私に話しかけようとする猛者はいるはずもなく・・・
セーラ・スタン「こんばんは、ラビニアさ~ん。 今日も一段と綺麗ですねっ! セバスさんもカッコイイですっ!」
訂正。
セーラがふわふわした笑顔でこっちに
手を振りながら駆けつけてくる。
関わりたくないと私は常日頃セーラを
避けていたのに、何故か彼女は私に
懐いていた。
それも攻略対象キャラ達が面白くない
原因のひとつらしいけど、
当の本人は知らない。
ラビニア・オータム(セーラがよくある、実は性悪なヒロインだった方が気持ち的にも良かったんだけどな)
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「・・・セーラ、 そんなところじゃなくて向こうに行こう」
セーラ・スタン「え?? 待ってください、 私、今ラビニアさんと・・・」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「みんなが君を待っているよ」
ラビニア・オータム「・・・またあとでね、セーラ」
王子は冷たく私を一瞥すると、戸惑う
セーラをぐいぐい引っ張って消えていく。
セーラ・スタン「あ、はい・・・ラビニアさん、 またあとでおしゃべりしましょう!」
セバスチャン・ガーフィールド「挨拶する事すらも拒否、ですか。 なんて狭量な・・・」
ラビニア・オータム「――セバス、それ以上は不敬罪よ」
王子は私と話したくないだけでなく、
セーラとも話をさせたくないらしい。
ラビニア・オータム(しかし・・・覚悟はしていたと言え、 こんなに敵意をむき出しにされると辛いな)
〇黒背景
セバスチャン・ガーフィールド「・・・王子に対する恋心のか?」
セバスの言葉が脳裏によみがえる。
〇ゆめかわ
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「君は誰よりも頑張り屋さんで素敵な人 だよ。だから、ほら・・・胸を張って」
プレイ中、
彼は事あるごとにそう言ってくれた。
ゲームのセリフだとしても
私は嬉しかった。
・・・彼は前世で初めて私を肯定して
くれた人【キャラ】だったから。
そして・・・幼い頃の・・・
まだ【魔王因子】を持っていた
ラビニアにとっても。
突然お父様に連れていかれた王宮。
人見知りをして庭の片隅で俯いていた私に優しく微笑みかけてくれた男の子。
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「そんな悲しそうな顔をしないで 僕と遊ぼうよ」
本当、この男は目ざといわね。
そうよ、少しは・・・ジョシュ王子に
恋をしていたかもね、『私達』は。
〇王妃謁見の間
セバスチャン・ガーフィールド「・・・ラビニア様、 なにかお飲み物をお持ち致しますね」
セバスはお辞儀をし、私の傍を離れる。
もしかして・・・ひとりになりたい私の
気持ちを汲んでくれたとか?
楽しそうなセーラとジョシュ王子。
そしてキャラ達を眺めながら、
私は1人、壁の花として佇んでいた。
〇王妃謁見の間
パーティーも盛り上がり、
佳境に入ってきたその時だ。
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「皆の者、静粛に!」
王子がフロアの真ん中に進み出る。
ラビニア・オータム(来た・・・!)
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「このパーティーを企画したのは、 言うまでもない」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「セーラ・スタンを言われの無い 誹謗中傷で侮辱した挙句・・・」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「日々陰湿ないじめを繰り返していた 稀代の悪女、ラビニア・オータムに 婚約者候補破棄を言い渡すためだ!!」
は???
婚約者候補破棄?
なんなのそのふわっとした単語は?
・・・っていうか、
断罪するならもっと別の言い方とか、
やり方とかあったでしょっ!?
そもそも候補だってお父様や国王が、
その場のノリで決めた、口約束みたいな
ものだって知ってるわよね?
それをこんなに人を集めて、
さも重大そうに言い渡すなんて・・・
王子ってこんなに頭が弱かったっけ?
もうちょっと仕事しろよ、『強制力』っ!
ぽかんとする参加者とセーラ。
してやったりという表情のジョシュ王子。
私は呆れ、己を呪う。
ラビニア・オータム(恥ずかしい・・・こんな王子を少しでも 好ましいと思った自分が恥ずかしいっ!)
まあ、良いわ。
私はここで優雅にドレスをつまんで「かしこまりました、謹んでお受けします」
と返し、言われるままに退場しましょう。
うん、なんかカッコいい系の
悪役令嬢みたいで悪くないわね。
ラビニア・オータム「かしこまりまし・・・」
その時。誰かが王子の前に歩み出た。
セバスチャン・ガーフィールド「恐れ入りますが殿下、それは国王陛下 からのご下命なのでしょうか?」
ラビニア・オータム(えっ? セバス?)
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「父上は関係無い。全て私の独断で行った」
セバスチャン・ガーフィールド「さようでございますか・・・ それは安心しました」
セバスチャン・ガーフィールド「――こんな三文芝居以下の頭の悪い 糾弾劇に、敬愛する国王陛下が 関わっておられなくて」
セバスは心底安堵したように息を吐き、
観衆は息を呑む。
ラビニア・オータム(この男、遠回しに 一国の王子を馬鹿だと言ったー!!!)
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「なんっ、だとっ!?」
セバスチャン・ガーフィールド「そもそも、婚約者候補破棄とは? 候補者候補には何かしら契約や覚書が あるものではございません」
セバスチャン・ガーフィールド「また殿下はラビニア様が セーラ・スタン嬢を侮辱した、 いじめたと仰いましたが・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「その物的証拠はございますでしょうか?」
ジョシュ・ヘンリー・ウィザース「しょ、証拠など無くても一目瞭然だろう!」
セーラ・スタン「あ、あのっ! 私、ラビニア様にいじめられたとか全然 そんなの思ったことがないんですが・・・」
おずおずと手を上げるセーラ。
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