悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第九話「その悪役令嬢、完璧執事に抵抗する」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇貴族の応接間
  朝。
  食事の席で私の話を黙って聞いていた
  お父様が開口一番、こう言った。
オータム公爵「セバス、ラビニアはどうも昨日の夢見が 悪かったようだね」
ラビニア・オータム「お父様、夢じゃないのよ! セバスが執事だって嘘っぱちなの!」
ラビニア・オータム「名前だって本当はダミアンと言って・・・」
オータム公爵「スフェーン王国の親衛隊隊長ダミアン・ スターリッジ侯爵で、おまえを貶める ために執事になった・・・」
オータム公爵「と、お前は言うが・・・ セバスがわざわざそんな事をする理由は?」
ラビニア・オータム「えっ! そ、それは・・・」
  【魔王因子】を私に引き継がせるため、
  とは言えない。
  言った方が良いのは分かってるけど・・・
  言葉を詰まらせた私にお父様は微笑んだ。
オータム公爵「さては・・・ セバスと喧嘩でもしたのかな?」
ラビニア・オータム「そんなんじゃ・・・」
  益々口ごもる私の隣から、
  セバスが口をはさむ。
セバスチャン・ガーフィールド「お嬢様に非はございません。むしろ、 私が出過ぎた真似をしてしまい・・・・」
  この話題を早期に解決したいのだろう。
  ここぞとばかりにしおらしい態度を取る
  セバス。
  こいつ、思っても無い事を
  いけしゃあしゃあと・・・!
オータム公爵「よし、では仲直りしよう。喧嘩をしても 仲違いをしても、最後は仲直り・・・ それがオータム家の家訓だろう」
オータム公爵夫人「そうね、セバスもラビニアもここは 全て水に流して仲直りしましょう。 私達は家族ですものね」
ルーク・オータム「うんっ! セバスとお姉さまは いつもの様に仲良くして欲しいな」
  いつものように?
  あれが仲良く見えているならば、
  ルークに再教育が必要かも。
  でも・・・家族って言われると・・・
ラビニア・オータム「はい・・・」
  弱いのよね、この言葉に。
ラビニア・オータム「・・・悪かったわ」
セバスチャン・ガーフィールド「私の方こそ、 大変申し訳ございませんでした」
  お互い心にも無い、寒々しい謝罪を交わす私達にお父様達は嬉しそうに拍手をする。
オータム公爵「ところで、 今日は髪をセットしないのかい?」
ラビニア・オータム「ええ・・・そういう気分じゃなかったので」
  セバスに触って欲しく無かったから、
  ヘアメイクは自分でしたのよね。
  でも、それがどうもお父様的には
  好みじゃなかったみたい。
オータム公爵「あの装い、私は好きなんだけどなぁ。 いかにも公爵令嬢らしくて良いじゃないか」
オータム公爵夫人「そうね、せめて外見だけでも 公爵令嬢に整えなくてはね」
オータム公爵夫人「それにあなたはあれくらいはっきりとした お化粧が似合うのよ」
ルーク・オータム「ぼく、お姉さまの縦ロール大好きだよ、 クロワッサンみたいで!」
  そして、ルーク。
  あなたは食欲に正直なのね・・・。
  満場一致の意見には逆らえなかった。
オータム公爵「今日もセバスに コーディネートして貰うんだよ」
ラビニア・オータム「・・・はい」
  きっと今、さぞかし勝ち誇った顔を
  しているんでしょうねセバスは。
  はぁ~・・・悔しいですっ!!!
  ――こうして私は冒頭の様に、馬車の中で縦ロールを潰し、メイクを拭い登校する日々を送る事になったのだった。

〇城の客室
セバスチャン・ガーフィールド「信頼と信用は積み重ねで 価値が決まるものです」
ラビニア・オータム「・・・えらそうに」
セバスチャン・ガーフィールド「両親の信用をたがが一年勤め上げただけの執事に奪われたくせに」
ラビニア・オータム「王家の騎士がこんなところで落ちこぼれ 令嬢の専属執事やってるだなんて、 普通信じないわよ!」
セバスチャン・ガーフィールド「落ちこぼれ令嬢・・・ 自分で言ってて虚しくないか?」
ラビニア・オータム「虚しいに決まってるでしょっ!」
セバスチャン・ガーフィールド「しかし、なんで【魔王因子】の話を しなかったんだ?」
セバスチャン・ガーフィールド「あの話をすれば少しは 説得力があったと思うが」
ラビニア・オータム「出来るわけないでしょ・・・ 魔王になるかも知れない得体のしれない 因子が娘の中にあったなんて話」
  ルークが階段から落ちた時、
  お母様はルークをきちんと見ていなかったと自分を責めた。
  お父様は階段を大きく設計した
  自分が原因だと己を責めた。
  私が【魔王因子】を持って生まれた事を
  話したら、きっとあの優しい人達は
  自分を責めてしまう。
  だから私は言わなかった。
セバスチャン・ガーフィールド「・・・まあ、言ったところであの2人の 俺への信頼は変わらないだろうけどな」
ラビニア・オータム「・・・あなた、 本当に今まで猫被っていたのね」
  私に正体を知られたセバスは、誰もいないところでは素の人格で私に接してきた。
  ダミアンは、セバスと大違いで
  尊大な態度で口が悪い。
  ・・・ん?
  大違い、ではないわね。セバスも毒舌的な意味で口が悪かったし、私を主人と思って いないような態度を取っていたし。
  まあとにかく、不遜な振る舞いで
  私を見下し、こき下ろす。
  だから私も今まで我慢していた事は
  全部吐き出す事にした。
ラビニア・オータム「そもそもね、なんで一年もこんなところで 執事なんてやってんのよ。 早く国に帰って王子の護衛しなさいよ」
セバスチャン・ガーフィールド「そう思ってるならさっさと【魔王因子】を引き継げよ。 俺はおまえが思っている以上に忙しいんだ」
ラビニア・オータム「ふんっ! だったら絶望させてみなさいよっ」
  こんな言い合いは日常茶飯事になり。
  素の状態で接していくにつれ、
  なんとなく・・・。
  セバスとの距離が前よりも
  縮まっていくような気がした。

〇城の客室
ラビニア・オータム「ふぁぁ・・・良く寝た・・・ あれ? セバスがいない・・・」
  その日はいつもと変わらない朝だった。
  なのにベッドの傍らにはセバスがいない。
  時計を見ると、とっくにセバスが
  起こしに来ている時間だ。
セバスチャン・ガーフィールド「失礼します・・・ ん? 珍しくもう起きてるのか」
  セバスが部屋に来たのは、ベッドから降りて身支度を整えようとしていた時だった。
  心なしかセバスの服装や髪型が
  乱れているような気がする。
  ははーん、セバスのヤツ・・・
  さては寝坊したのね。
ラビニア・オータム「もうとっくに起きてるわよ。あんたこそ、 いつもよりも遅いご到着じゃない?」
  いひひと笑う私にセバスは
  何も言い返さない。
  ・・・あれ? なんか様子がおかしい?
ラビニア・オータム「大丈夫、セバス?」
  なんだか顔が少し赤いような・・・
セバスチャン・ガーフィールド「気にするな、なんでもない・・・」
  そして少し掠れた声で否定するセバスに
  私はピンときた。
ラビニア・オータム「――ちょっと失礼しするわよ・・・ って、凄い熱! だめよ、今日は一日安静に過ごさなきゃ」
セバスチャン・ガーフィールド「そんなおおげさな・・・ただの風邪だ」
ラビニア・オータム「大げさじゃないっ!」
  思わず怒鳴ってしまった私に
  セバスは驚いた様に目を見開く。
  そうよね、たがが風邪になんでそんなに
  必死なんだって感じよね。
  でも・・・私は見過ごせないのよ。
ラビニア・オータム「風邪だって・・・死んじゃう人もいるの」
  そう、たかが風邪って侮って
  死んでしまった人。
  そんな人を・・・私は知っているから。
ラビニア・オータム「とにかく、 そんなフラフラしてたんじゃ困るわっ!」
ラビニア・オータム「すぐに自分の部屋に下がって寝なさいっ! これは命令よっ!」
  そう言うと私は自分の着替えも後にし
  セバスを引きずる様に部屋へと連れて
  行った。

〇貴族の応接間
ラビニア・オータム「ただいま、お母様! セバスの容体はどう?」
  部室にも寄らず、学校からまっすぐに
  帰宅した私は広間に向かった。
オータム公爵夫人「お帰りなさい、ラビニア。お医者さんの 話では疲労からの熱じゃないかって」
ラビニア・オータム「お母様、 ・・・セバスの過労はきっと私のせいよ」
ラビニア・オータム「だから・・・せめてお詫びに私セバスの 看病をしたい。ダメかしら?」
  頼み込む私にお母様は小さく微笑む。
オータム公爵夫人「そうね・・・本当なら使用人の看病なんて 令嬢のする事ではないわね・・・」
オータム公爵夫人「でもセバスは家族ですものね。 良いわ、看病してらっしゃい」

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