悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第八話「その完璧執事、正体を暴かれる」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇ファンタジーの教室
  ルークのバースデーパーティーの翌日。
  私は昨晩の疲れで朝からぐったりと
  教室の机につっぷしていた。
  誰かが私の頭をぽんと叩く。
ベッキー・セントジョン「ラビニア、ちょっと良いかしら」
ラビニア・オータム「あ、おはようベッキー」
ラビニア・オータム「珍しいわね、上級生のあなたが私の教室に 来るなんて。あ、昨日はごめんね。 途中でいなくなっちゃって・・・」
ベッキー・セントジョン「そんなの後回しよ。・・・思い出したのよ アンタの執事の正体」

〇豪華な部屋
ラビニア・オータム「セバスの正体って・・・どういう事?」
ベッキー・セントジョン「前に、ラブデにはテコ入れとして シナリオの大幅な改変と追加キャラの 加入があったって言ったの覚えてる?」
ラビニア・オータム「うん、ゲームのラビニアが死んだ後によね」
ベッキー・セントジョン「その内容なんだけど、まずは舞台をこの 学園から隣国、スフェーン王国に移したの」
ラビニア・オータム「スフェーン王国・・・聞いた事があるわ。 確か、魔法を主エネルギーとして 使っている国よね」
ベッキー・セントジョン「そう。スフェーン王国は王家が光の勇者の末裔と言われ、この国よりも魔法技術が 高度な魔術大国」
ベッキー・セントジョン「追加キャラは全員、 その王国に関係しているのよ」
ベッキー・セントジョン「まずは『漆黒の王子』 オスカー・スフェーン」
ベッキー・セントジョン「『完璧なる守護騎士』 ダミアン・スターリッジ」
ベッキー・セントジョン「『冷徹堅物』ルドルフ・モルダー 『無垢な狂犬』リオ・エム」
ラビニア・オータム「すごい二つ名のオンパレードね」
ベッキー・セントジョン「二つ名の由来は分からないんだけどね。 実際、彼らはメインシナリオにちらっと 登場しただけだから」
  こんな二つ名まで用意されて
  まったく活躍する事無くサービス終了。
  改めて言うと、物凄い不幸感が半端ない。
ベッキー・セントジョン「前にちらっと見た時から 誰かに似てるなって思ってたのよ」
ベッキー・セントジョン「でも、あんたが水をぶっかけてくれた おかげで確証したわ」
ベッキー・セントジョン「まさか眼鏡とオールバックで ああも雰囲気が変わるなんて・・・ 眼鏡属性も侮れないわね」
ラビニア・オータム「??? 何の話してるの?」
ベッキー・セントジョン「何のって・・・ あんたの執事セバスチャンの事よ」
  ん? スフェーン王国と攻略対象キャラの
  話をした辺りはわかるんだけど・・・
  なんでここにセバスの話?
ベッキー・セントジョン「彼・・・そっくりなんだわ。『完璧なる 守護騎士』ダミアン・スターリッジに」
ラビニア・オータム「ええっ! でも、おかしいじゃない! 攻略対象キャラだったらなんでセバスは セーラにあんなに塩対応なのよ!」
ラビニア・オータム「昨日だってセーラがワサビを大量に食べようとしたところを笑顔で見守っていたのよ」
  塩対応って言葉を濁したけど・・・
  かなり嫌ってるわよ、アレ。
  仮にセバスが攻略対象キャラだとしても、
  あそこから好感度をあげるのはかなりの
  無理ゲーなんじゃない?
ベッキー・セントジョン「さっき言ったでしょう、追加のキャラの 個人シナリオがリリースされてないって」
ベッキー・セントジョン「ラブデはメインシナリオはあくまでも キャラの顔見世」
ベッキー・セントジョン「キャラの好感度を高めるのに重要なのは 個人シナリオよ」
ベッキー・セントジョン「でもそれが無いって事は、セーラのチートが通用しない、セバスの好感度も上げる事が出来ないって事なのかもよ」
  はー、そういう解釈の仕方もあるのね。
  確かに好感度が上がるような展開は
  有償ガチャのプライベート感満載の
  シナリオばっかりだったものね。
  でも・・・それだとしても腑に落ちない。
ベッキー・セントジョン「まさかゲーム開始から追加キャラの 伏線があったなんて・・・ ちょっとだけ運営を見直したわ」
  逢えるはずの無い攻略対象キャラとの
  逢える可能性に舞い上がってるベッキーは
  大切な事を忘れている。
  違うのよ、ベッキー。
  この世界が本当にゲーム通りなら・・・
  令嬢らしくない落ちこぼれの
  ラビニアなんていないのよ。
  だから、ラビニアのために『専属執事』が雇われる事なんて絶対ない。
  ダミアンは・・・いやセバスチャンは
  シナリオの展開から逸脱しているの。
  ――私と同じく。
  ダミアンはなぜセバスチャンと名を変え、
  私の執事になったのか。
  私専属の執事の謎に包まれた過去。
  主人の私が知らない執事の思惑。
  そこに深い闇を見た思いがした。

〇城の客室
セバスチャン・ガーフィールド「今日は元気がありませんね。お食事も 珍しく召し上がっていなかったようですし」
ラビニア・オータム「・・・ちゃんと全部食べたけど」
セバスチャン・ガーフィールド「まあ深くは追及しませんが、また夜にお腹が空いたと騒がれてはたまりませんからね」
  そう言ってテーブルに置かれたのは小さな
  クッキーが乗ったお皿とティーセット。
セバスチャン・ガーフィールド「大麦のクッキーですから 少量でしたら問題ないかと」
セバスチャン・ガーフィールド「紅茶はバニラのフレーバードティーを ご用意致しました」
セバスチャン・ガーフィールド「甘い香りで食欲を抑えると言うのも 一つの手ですよ」
  ティーポットからカップに注がれる紅茶を眺めながら私はぽつりと呟く。
ラビニア・オータム「セバスは・・・執事として本当に優秀よね」
セバスチャン・ガーフィールド「恐れ入ります」
ラビニア・オータム「ほんと、スフェーン王国の親衛隊隊長だと 思えないくらいよ、セバス・・・ ううん、ダミアン・スターリッジ卿」
セバスチャン・ガーフィールド「・・・・・・」
  セバスは何も答えない。
  琥珀色の液体で満たされたカップを
  私の前に優雅に差し出す。
ラビニア・オータム「さすが、オスカー王子の完璧なる守護騎士様。動揺する素振りを何一つみせないわね」
セバスチャン・ガーフィールド「お褒め頂き光栄です。しかし、 残念ながら動揺は多少しておりますよ」
セバスチャン・ガーフィールド「まさかラビニア様だけには気付かれないと 思っておりましたので」
  ゆっくりと立ち上がったセバス。
  控えめだった雰囲気が途端
  威圧的なものへと変わっていく。
セバスチャン・ガーフィールド「――・・・なぜ分かった?」
  やっぱりそうなんだ。
  セバスは、ダミアン・スターリッジ・・・
  追加の攻略対象キャラなんだ。
ラビニア・オータム「私を見くびらないでよね」
  なんて、余裕綽々で言ってみたけど・・・
  ベッキーから仕入れた情報をそのまんま
  言っただけなんだけどさ。
ラビニア・オータム「ねえ、・・・ なぜあなたは私の執事になったの? もしかしたら・・・」
  あなたも私と同じく、転生者なの?
  そう続けようとした言葉は
  侮蔑交じりの冷笑で遮られた。
セバスチャン・ガーフィールド「なぜ? ははっ。俺がここに来た理由・・・ おまえが【魔王因子】をオスカー様に 押し付けたからだろ」
  柔和な笑顔が冷酷そうな笑みへ、
  礼儀正しい口調が傲慢そうな物言いに。
  なるほど。これが本来の
  『ダミアン・スターリッジ』なのね。
ラビニア・オータム「【魔王因子】を押し付けた? そんなはずは、だって【魔王因子】は 私の中に・・・!」
セバスチャン・ガーフィールド「しかし、ますます驚いたな、 【魔王因子】をおまえが知っているとは」
セバスチャン・ガーフィールド「俺はどうやら万年赤点の落第お嬢様に まんまと騙されたようだ」
  驚きながらあざけるセバスの言葉に
  むっとしつつもひとつだけ分かった
  事がある。
ラビニア・オータム(・・・転生者だから・・・【魔王因子】を 知ってるんじゃなかったのね)
セバスチャン・ガーフィールド「この国は魔法への理解レベルが低過ぎて、 ほとんどの人間は【魔王因子】の 意味すらも分からないのにな」
ラビニア・オータム「悪かったわね、そもそも私の国では 今までは魔法は必要ないものだったのよ」
  だから貴族の子女の私達がまずは国民の
  手本として王立学園で魔法を学んでいる。
  これがゲームの基本設定だ。
セバスチャン・ガーフィールド「だから我々は安心していた。隣国のおまえが【魔王因子】を持って生まれた事に」
セバスチャン・ガーフィールド「【魔王因子】を生まれ持った人間は 【魔王因子】を持ったまま死ぬ・・・ それが今までの定説だった」
セバスチャン・ガーフィールド「それなのに10年前、 【魔王因子】はオスカー様に突然現れた」
セバスチャン・ガーフィールド「おまえが【魔王因子】を 跳ね除けたせいでな!」
ラビニア・オータム「跳ね除けた? そんな、知らないわよ・・・ って10年前?」
  10年前・・・
  それは私がルークを助けた日だ。

〇黒背景
  『なぜだ! なぜ弟を見殺しにしない?!
  ラビニア・オータムっ!』

〇城の客室

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