悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第七話「その完璧執事、策略をする」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇城の客室
セバスチャン・ガーフィールド「ラビニア様、こちらの出席者リストを チェックして頂けますか?」
  お茶を飲んで寛いでいる私に
  セバスは1枚のリストを差し出した。
ラビニア・オータム「あー、はいはい。 今朝お父様が言ってたやつね」
  来月、弟のルークの12歳の
  バースデーパーティーがある。
  ルークは有力貴族オータム家の後継者。
  パーティーは盛大に催すようにと
  今朝、朝食の席でお父様が言ってたっけ。
セバスチャン・ガーフィールド「ルーク様の社交界デビュー前の 顔見世の様なものですからね」
セバスチャン・ガーフィールド「出来るだけ顔が繋がるような方をとの事 ですので、ラビニア様のご友人も是非 ご招待頂けたらと」
ラビニア・オータム「ルークの可愛い顔と名前を売る 絶好の機会だもんね」
  私はリストと羽ペンを受け取り、
  セバスがまとめてくれた私の分の
  出席者を眺め、チェックを入れる。
ラビニア・オータム「ふむふむ・・・ローズさん達は一応 皆さんこの国の有力貴族一派の子女 でもあるしなぁ・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「ラビニア派の方々ですものね」
ラビニア・オータム「勝手に派閥化しないでよ・・・丸、と。 あ、ベッキーの名前がある」
セバスチャン・ガーフィールド「ベッキー様は大店と名高いセントジョン 商会の次期当主とお伺いしております」
セバスチャン・ガーフィールド「この機会にルーク様をお見知りおき 頂くのにちょうど良いかと」
ラビニア・オータム「うーん。パーティーなんて面倒くさがりの ベッキーは嫌がりそうだけど・・・ 一応招待っと」
  少し考え、私はベッキーの名前に
  大きく丸を付けた。
セバスチャン・ガーフィールド「それに私もお嬢様と懇意にされている ベッキー様には是非一度ご挨拶をさせて 頂きたいですね」
ラビニア・オータム「・・・それもベッキーは嫌がりそうだと 思うよ」
  スパダリは趣味じゃないって言ってたし。
  ・・・いや、実際に会ってみたら逆に
  妄想の幅が広がると喜ぶかも。
ラビニア・オータム「さてと、私の方で招待するのは こんなところね・・・ はい、これで招待状を作ってちょうだい」
セバスチャン・ガーフィールド「かしこまりました・・・おや? こちらの 方にチェックが入っていないようですが」
  セバスは目ざとく、
  丸のついていない名前を指差す。
ラビニア・オータム「セーラは呼ばないわよ。 ローズさん達が嫌がるだろうし。 第一・・・セバスは苦手でしょう」
セバスチャン・ガーフィールド「業務に私情は挟みませんのでご心配なく」
ラビニア・オータム「まあ、とにかく呼ぶのはお互い 得策じゃないと思うんだよね。 あの子、令嬢教育がされてないみたいだし」
セバスチャン・ガーフィールド「ほう」
  令嬢教育をされていないセーラを
  パーティーに招待し、
  その無作法ぶりを卑下し嘲笑う。
  これはゲームにあったラビニアの
  いじめのイベントだ。
  あの時はもちろんルークの
  誕生パーティーではなかったけど。
  出来るだけゲームの内容に
  似る事は避けたい。
  そんな私の気持ちを汲んでくれたのか、
  セバスはそれ以上問う事は無かった。

〇華やかな裏庭
セーラ・スタン「ラビニアさんっ! 本日はお招きいただき ありがとうございますっ!」
  ルークのバースデーパーティー当日。
  パーティー会場の我が家、オータム家に
  何故か招待した覚えの全くないセーラが
  いた。
ラビニア・オータム「セーラ・・・なんでこんなところに?」
セーラ・スタン「ふふっ、ラビニア様がご招待 下さったんじゃないですかぁ~」
  私が? そんなはずはない。
  あの時私はセバスに念を押して・・・
  って、おまえかっ! セバスチャンッ!
  私は横にいる執事の顔を
  ちらりと見上げる。
  セバスは涼しい表情のままセーラに
  聞こえない声でこっそりと囁いた。
セバスチャン・ガーフィールド「申し訳ありません、どうやら誤って 招待してしまったようですね」
  しれっと答えるセバス。
  いや違う、絶対わざとだ。
  動機は・・・
  元庶民のセーラを貴族のローズさん達と
  私が虐めるように仕向けたいんだっ!
  セーラの存在は貴族社会の秩序を乱すとか言ってたもんね。絶対そうに決まってる。
  ホント、セバスったら日本にいたら
  差別主義者のレッテルを貼られるわよ。
ラビニア・オータム「そのドレス・・・凄い、わね・・・」
セーラ・スタン「ありがとうございますっ! お気に入りのドレスなんですっ!」
セーラ・スタン「君の美しい脚は隠すべきではないって ジェイク君がデザインしてくれたんです!」
  そうね、攻略対象キャラの一人。
  デザイナー志望のジェイク君はセーラの
  為にドレスを作ってくれるのよね。
  でも、そのドレスって文化祭の
  ファッションショーに参加する
  ために作ったドレスなのよね。
  知ってた?
  こういうフォーマルな場所で淑女が
  足を出す事はマナー違反なんだよ?
  ほら、周りの人たちがこっちを見て
  ひそひそし始めたじゃない・・・。
セーラ・スタン「本当にセバスさんに ご相談して良かったっ!」
ラビニア・オータム「セバスに相談?」
セバスチャン・ガーフィールド「ご自分に一番似合うドレスをと アドバイスしただけですよ」
  こらーっ! 気に入らないからって
  余計な事吹き込むのはやめなさいっ!
セーラ・スタン「ラビニア様、 これはどういうお料理ですか?」
  そんな私の思惑など知る由もなく、
  天真爛漫なセーラはテーブルの上の
  数々のご馳走を指さした。
ラビニア・オータム「ああ・・・これはね、和の国の料理よ」
セーラ・スタン「まあ、これが噂に聞く 和の国のお料理なんですねっ! この緑のクリームはなんでしょうか?」
  和の国って、お察しの通り日本食の事。
  しかしセーラが興味を持ったのは
  テンプラやスシやサシミではなく。
  こんもりと盛られた、
  緑色の物体のようだ。
ラビニア・オータム「ああ、それね。それは・・・」
セーラ・スタン「あっ! わかりましたっ! これはピスタチオアイスですねっ? そうですよね、セバスさん?」
  セバスは極上の笑顔で答える。
セバスチャン・ガーフィールド「召し上がってみればわかりますよ」
  なんでそんな返答するのよ~!
  否定しなさいよ、セバスっ!
  あんた知ってるでしょ、
  これが甘いピスタチオアイスじゃなくて、
  からーいワサビだって!
ラビニア・オータム「ちょっ、セーラそれは・・・」
セーラ・スタン「私、ピスタチオアイス大好きなんですっ! 早速いただいちゃおーっと!」
  そう言ってワサビをお皿によそるセーラ。
ラビニア・オータム「あーっ! ダメ、食べちゃっ!」
セーラ・スタン「駄目ですよう! ラビニアさんも 食べたかったら自分でよそってください」
  何この子、めちゃくちゃ握力が強いっ!
  お皿もスプーンも奪えないじゃないのっ!
  さすが主人公、いつのまにかステータスが高くなってて・・・じゃなくてっ!
ラビニア・オータム「そうじゃないの、ダメっ! こんなのを大量に食べたら・・・」
  セーラは泣き出し、私がセーラに
  食べさせたと思われるに決まってる。
  私は咄嗟に水の入ったピッチャーを
  ワサビのボールとセーラの手元に
  勢い良くぶちまけた。
  水浸しになるテーブルの上の料理と
  セーラの手元。
  これでセーラはワサビを食べずに済んだ。
セーラ・スタン「ら、ラビニアさん? いったいどうしたんですかっ?」
セバスチャン・ガーフィールド「・・・ラビニア様」
  しかし、勢い余ってしまったのか・・・。
  ピッチャーの水はセバスの顔面にも
  かかったらしい。
  水もしたたる良い男ならぬ、セバスチャン
  に辺りの空気は一瞬凍り付く。
  遠巻きに眺める招待客達の
  ひそひそ声が聞こえてくる。
貴婦人の招待客「ラビニア様が執事に水を掛けた様ですわ」
紳士の招待客「何か気に障る事でもしたのか?」
淑女の招待客「ほらさっき、なにやらあの藍色の髪の 少女と揉めていたじゃない・・・」

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