第六話「その悪役令嬢、お茶会を主催する」(脚本)
〇華やかな裏庭
青く澄み渡る空の下、
手入れの行き届いたお父様ご自慢の庭で
咲き誇る薔薇を眺めながら紅茶を啜る。
うーん、なんて最高で贅沢な
アフタヌーンティー。
・・・セバスが私の為でなく、
取り巻き令嬢達を招く為だけに
企画した会だとしても。
セバスチャン・ガーフィールド「皆さま、 本日はようこそいらっしゃいました」
セバスチャン・ガーフィールド「オータム家自慢の薔薇園で、香り高い薔薇と紅茶のマリアージュをお楽しみください」
ローズ・ルマンド「はいっ! セバス様の仰るままに」
高貴な令嬢「ああ・・・ 紅茶を淹れる仕草もお美しいセバス様っ! お代わりを頂いてよろしいでしょうか?」
セクシーな令嬢「ねえ、セバス様ぁ~、私には サンドウィッチを取り分けて頂けません?」
令嬢達は主催者の私どころか
薔薇にも目もくれず。
てきぱきとサーブするセバスの
立ち振る舞いをうっとりと眺めている。
ラビニア・オータム(あれ・・・?)
端に座る2人の令嬢の様子が・・・
なんだかおかしい。
賢そうな令嬢「・・・マリアさん、 元気をお出しになって」
賢そうな令嬢「このビクトリアケーキ、 私が取りわけて差し上げますわ」
マリア「いいえ・・・結構です」
マリアと呼ばれた令嬢はゆっくりと
首を振り、ため息をついて俯く。
ラビニア・オータム「あの・・・大丈夫?」
マリア「ラ、ラビニア様っ!」
恐る恐る声を掛けると、
マリア嬢は驚いたように目を見開いた。
マリア「申し訳ありません、せっかくのお茶会に お招きいただいておりますのに・・・ お許しくださいっ!」
浮かない顔をしている事で私の不評を
買ったと勘違いしたのだろう。
彼女は慌てて椅子から立ち上がり
深々と頭を下げる。
ラビニア・オータム「いえいえっ! 全然っ、 これっぽっちも怒っていないわよ!」
私も釣られて慌てて立ち上がり、
椅子を盛大にひっくり返してしまった。
セバスチャン・ガーフィールド「――・・・」
やっちゃった・・・こちらに注目し
奇異の目を向ける令嬢達よりも・・・
セバスの視線の方が痛いし怖い。
ラビニア・オータム「ご、ごめんなさいっ! みんなを驚かせちゃったわね」
ラビニア・オータム「ただマリアさんが元気がなさそう だったから心配で・・・」
隣にいた令嬢が気まずそうに、
そっと私の耳に囁いた。
賢そうな令嬢「ラビニア様、マリアさんは・・・ 最近婚約を破棄されたばかりなので・・・」
ラビニア・オータム「こんやく、はき?」
ローズ・ルマンド「マリアさんっ! いつまでも くよくよしていてはいけませんわっ!」
テーブルを叩いて怒りを露わにする
ローズさん。
ローズ・ルマンド「マリアさんは悪くありませんわ! セーラ・スタンがキース様を 誘惑なんてするからっ!」
マリア「いいえ、私がいたらないから・・・」
婚約者のいるキース・・・私は納得した。
キース・クラウド、
セーラの攻略対象キャラの1人だ。
彼には仲睦まじい婚約者がいたけど、
セーラに一目惚れし彼女を振るんだっけ。
なるほどその婚約者が彼女
マリアさんだったんだ。
セバスチャン・ガーフィールド「セーラ・スタン嬢ですか?」
ローズ・ルマンド「セバス様はご存じですの?」
セバスチャン・ガーフィールド「ええ・・・お嬢様をお迎えに上がった際に 何度かお声を掛けて頂きまして・・・」
にこやかに言葉を返しているセバスに
ローズ嬢は悲鳴をあげる。
ローズ・ルマンド「んまぁーっ! あの方ったらセバス様にも コナかけてらしゃるのっ!」
ラビニア・オータム「まあまあローズさん、落ち着いて」
ローズ・ルマンド「いいえ、これが落ち着いてられますかっ! キース様だけじゃないですわ、 ジョシュ殿下にまで取り入って!」
セバスチャン・ガーフィールド「ほう、ジョシュ殿下もあの方に 夢中になられているのですか。 確かに可愛らしい方ですものね」
セバスチャン・ガーフィールド「可愛らしくて、生命力に溢れて・・・ カタバミの花に似ていらっしゃる」
えっ? あのセバスが・・・ほめている!?
これも主人公効果なのか・・・
恐るべしセーラ。
高貴な令嬢「確かカタバミの花言葉は輝く心。 光の魔法属性をもっていらっしゃるセーラ さんを彷彿させるかもしれませんわね」
セクシーな令嬢「あの方は確かお母様が男爵様と再婚された 事と、光の魔法を使える事で特別に編入が 許されたのよね」
ローズ・ルマンド「ふん、魔法なんて使い勝手の悪い。 資源が無い国の代用エネルギーでは ありませんかっ!」
賢そうな令嬢「そもそも魔法自体、 わが国では必要ないものですからね」
皆が魔法に関心が無いのには理由がある。
我が国は鉄鉱石や石油をはじめとする
エネルギー資源が豊富だ。
だから他国に比べると
産業の成長が著しい。
そして、エネルギー資源は誰でも扱える。
一方魔法は、一部の人間しか使えず、
使えたとしても学ばないと
コントロール出来ない。
つまり、魔法はこの国ではコスパの悪い
エネルギー扱いなのである。
賢そうな令嬢「そう言えば、ラビニア様は魔法の属性を お持ちでしたわよね」
セバスチャン・ガーフィールド「はい、お嬢様は光をも飲み込む暗黒を司る黒き属性、闇の属性をお持ちです」
ラビニア・オータム「セバス、言い方・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「余計な事かとは思いますが・・・ 失礼ながら今は男爵令嬢といえども、 元庶民のセーラ様」
セバスチャン・ガーフィールド「対して王家と歴史を連ねる オータム公爵家直系のラビニア様は 生まれながらの高貴な方」
は? 何いきなり言い出すの、この執事。
セバスチャン・ガーフィールド「セーラ様の様な町娘風情など至高の存在 であるラビニア様の足元には及びません」
・・・この流れ、
なんだかイヤ過ぎるんですけどっ!
セバスチャン・ガーフィールド「なのに、そんな貴族子女の頂点とも言える ラビニア様を差し置いて 殿下に懸想するなど・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「なんと嘆かわしい事でしょうかっ! 貴族社会の秩序を乱しかねない、 大変由々しき問題です」
セバスチャン・ガーフィールド「・・・と、 ラビニア様が昨日おっしゃっていました」
ラビニア・オータム「ちょ、ちょっと! 何言って・・・」
予感的中!
セバスの『俺の理想の公爵令嬢育成計画』
暴走モードだーっ!
ローズ・ルマンド「やはりラビニア様もそう思って いらっしゃったのですねっ!」
歓喜の声を上げ、
ローズは再び立ちあがる。
高貴な令嬢「私もセーラさんは学園にはふさわしくないと思っておりましたのっ!」
セクシーな令嬢「私もっ!」
ローズ・ルマンド「セーラさんをとっちめてやりましょうっ!」
そして我も我もと、唾を飛ばし、
顔を真っ赤にしてセーラを糾弾する
淑やかな令嬢たち。
セバスの誘導により、セーラを虐める事に
ラビニアの許可が下りたと令嬢たちは
思ったのだろう。
セバスが「公爵令嬢の私が元庶民の
セーラを快く思っていない」という
印象操作を行ったせいで。
冗談じゃない、
このままだとセーラに何かあったら
全部私のせいになっちゃうじゃないっ!
ラビニア・オータム「ちょ、ちょっと落ち着いてみんなっ!」
セバスチャン・ガーフィールド「皆様のおっしゃる通り、ああいった ご令嬢は学園から追放すべきだと」
ローズ・ルマンド「さすがですわ、セバス様!」
セバスチャン・ガーフィールド「いえいえ、私は偉大なる主人ラビニア様のお考えを代弁したにすぎません」
ラビニア・オータム「いやだからね、 それはちょっと違うし・・・」
妙に盛り上がっていく令嬢たちとセバスは
私の話なんて聞きやしない。
結局、私は右往左往して、
なかなか事態を収集できないまま
お茶会の時間は過ぎていった。
〇城の客室
ラビニア・オータム「もー、セバスが余計なこと言うから 変な雰囲気になっちゃったじゃないの」
セバスが引っ掻き回した、
昼間の散々なお茶会。
主催者の私が皆を「虐めなんて令嬢のする事じゃない」と説得し、解散宣言をして
なんとか終わる事が出来た。
・・・私の真意が伝わっているか
疑問だけど。
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