仇よ花の錆となれ 番外編

咲良綾

晴景の物語(脚本)

仇よ花の錆となれ 番外編

咲良綾

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〇日本庭園
  これは、長尾晴景の物語。
  物心ついたときには、母は側にいなかった。
  嫡男に甘えを許さない父の方針により、乳母に厳しく育てられた。
  母は手を離れた息子より、自分で育てた妹に夢中で、ほとんど会うこともなかった。
  そのまま、早くに亡くなった。
  だから、母の記憶というものは、妹を慈しむ姿を、別世界のように見ていた記憶しかない。

〇日本庭園
  父はいつも偉大で尊大だった。
長尾為景「道一丸!また本を読んでいるのか。 お前はどうしてそう、なよなよしているのだ」
長尾為景「目鼻立ちも儂に似れば良かったのに、そのように頼りない風貌では家臣に侮られるぞ!」
道一丸「鍛練ならしています。 今日は指南役から一本取りました」
長尾為景「それでいい気になっているのか。 稽古と実戦は違うぞ。その程度で満足するな!」
道一丸「・・・」

〇原っぱ
  十四になると、元服して名を定景と改め、
  いよいよ実戦に身を投じた。
長尾定景「うっ・・・!」
長尾定景「怯むな。男は敵の首を上げてこそ。 儂は父上の認める、強い武人に・・・!」

〇草原
長尾定景「父上、敵将の首でございます」
長尾為景「定景、よくやった!」
長尾為景「皆の者、我が嫡男が首を取ったぞ! 長尾の行く末は磐石だ!」
  敵を殺せば、父が喜んだ。
  首を取れば、誉めてくれた。

〇屋敷の大広間
長尾為景「お前の名に、将軍様から一字賜った。 お前は今日から晴景だ!」
長尾定景「将軍・・・足利義晴様から?」
長尾為景「栄誉なことだぞ。 これからも長尾のために励め」
長尾定景「は」
長尾為景「それから、お前に妻を迎えることになった」
長尾定景「お相手は?」
長尾為景「守護、上杉定実様の娘だ。 これで長尾はますます強くなるぞ」

〇屋敷の大広間
佐澄「佐澄と申します。 よろしくお願いいたします」
長尾晴景「よくぞ参られた。末永くよろしく頼む」

〇屋敷の寝室
佐澄「うっ・・・」
  触れるたびに、佐澄の顔は不快そうに歪む。
長尾晴景「気分が悪いか?」
佐澄「いえ・・・どうぞ続けてください」
長尾晴景「・・・どうすれば負担が少ない?」
佐澄「なるべく、体を離して・・・ 汗をかかないようにしていただければ」
長尾晴景「・・・・・・」
  むつみあう、とは程遠い交わり。
  子を成さねばと必死に気持ちを奮い立たせたが、次第に足が遠のいた。

〇日本庭園
  このままでは世継ぎができない。
  疎まれるのは、守護である父を食い物にする
  長尾の嫡子だからだろうか。
  どうすれば、気を許してもらえるのだろう。
  何か喜ぶものを持っていけば良いだろうか。

〇菜の花畑
  おなごは花を喜ぶと聞いたことがあるが・・・
美織「最近、晴景様のお渡りがないですね」
長尾晴景「!?」
佐澄「正直ほっとしているわ。 臭くて骨張っていて、男って本当に嫌」
佐澄「美織、お前はいい匂いね。 もう少し近くに来て?」
美織「・・・はい」
佐澄「凛々しくてきれいな目。 美織が側にいてくれて良かった」
佐澄「私もう、男の相手なんて耐えられない。 きれいで柔らかいものに触れていたいの」
美織「佐澄様・・・」
佐澄「助けて、美織」
長尾晴景「・・・・・・」

〇畳敷きの大広間
  そして出会ったのが、朱だった。
  なんだ?
  その
  燃えるような瞳は
  怯えないのか?
  
  睨まないのか?
  
  蔑まないのか?
  ただ見開いて真っ直ぐに注がれる視線。
  
  まるで突き刺してくるようだ。
  手に入れたい
  
  焼かれたい
  
  殺したくない
長尾晴景「そなた、名は」
朱「椎名慶胤が娘、朱」
  やはり、今殺した男の娘なのか。
長尾晴景「儂は長尾為景が嫡男、長尾晴景」
  止まっていた息を少し吐く。
  と同時に、
  驚くほど躊躇のない欲が口をついて出た。
長尾晴景「朱姫。儂の側室となれ。 さすれば女子供の安全は約束しよう」

〇古民家の蔵
  彼女を生かそうと思ったら、
  側室として強い立場が必要だ。
  ・・・いや、それはただの言い訳だ。
  己の欲望を正当化するための。
  どうしようもないチリチリとした
  嗜虐性の欲が渦巻いている。
  我ながら、なんと残酷なのだろう。
  疎まれてもいいから、彼女が欲しい。

〇屋敷の寝室
  朱を迎えて初めての夜。
  疎まれる覚悟を決めて彼女の体に手をかけたが、朱はいとも簡単に腕の中で横たわった。

〇屋敷の寝室
  帯を解いて肌に指を沿わせるとびくりと震えたが、さしたる抵抗はない。
  諦めているのだろうか。
  抗うのが恐ろしいのだろうか。
朱「・・・あ」
  ため息のような声が耳をくすぐり、驚いた。
  見ると、朱はじっと目を閉じて、
  頬を上気させている。
  何故だ。
  儂が憎いはずではないのか。
  こんなこと、彼女にとっては
  屈辱以外の何物でもないはずだ。
  何なのだ?これは
朱「・・・・・・」
  手を止めると、
  切なそうに潤んだ目で見上げてくる。
  彼女の浅く短い息がどんどん早くなり、
  唇が震えた。
  その柔らかそうな膨らみを、
  摘み取らずにはいられない。

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コメント

  • うううう・・・(´;ω;`)✨なんと素晴らしいお話なのでしょうか!!!!!!!!番外編の存在を知ることができて良かったです!!!!!!(´;ω;`)✨

    晴景のことがもっと好きになりました✨☺️いつも一兎一兎言ってますが、晴景も好きです✨推しは一兎ですが、朱と晴景にはずっと幸せでいてほしいです・・・

  • もう一回キャラクターを生成し直すことを厭わずに別で外伝を組むという力の入れ具合に頭が下がります。
    内容も面白いです。本編が面白くて外伝が面白くないわけがない。
    終了後に再び幸せな二人を見ることが出来たのは眼福でした。
    ありがとうございます。

  • 晴景もこうして見ると等身大の悩める男子ですね🥲
    泣きました😭良かったねぇ😭

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