悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第四話「その端役令嬢、壁になりたい系腐女子」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇豪華な部屋
ベッキー・セントジョン「はっはっはー! 学園中の噂だねえ、ラビニア嬢が礼儀 知らずの格下子爵家の娘を一蹴したって」
  学園内の外れにある古ぼけた旧校舎に
  私の所属する『乙女の読書同好会』の
  部室がある。
  同好会と言っても、部員は私とこの大口を
  開けて笑うおさげの彼女だけだ。
ラビニア・オータム「・・・笑い事じゃないわよ、ベッキー。 あの後大変だったんだから」
ベッキー・セントジョン「まあ、ラビニアが本当に礼儀に うるさかったらさ、こんなに 気さくに話したり出来ないけどね」
ベッキー・セントジョン「――『ゲームのままのラビニア』だったら 分からないけど」
  彼女、ベッキー・セントジョンも
  私と同じ転生者だった。
ベッキー・セントジョン「まさかスチルにちょくちょく見切れてた 背景の女子生徒に転生するとはね。 まっ、いわゆるモブキャラってやつよ」
ベッキー・セントジョン「前世の私ってさ、 壁になりたい系な腐女子だったのよ」
ベッキー・セントジョン「だからマジ適役に転生したって 思うんだよね~」
  『壁になりたい』と言う言葉は
  好みのキャラ達のあれやこれやを
  ずっと見守っていたい時に使うらしい。
ベッキー・セントジョン「つまりは、アレよ。 壁の穴から隣のカップルの営みを こっそり覗いていたい、みたいな」
ラビニア・オータム「言い方っ!」
  ともかく、嗜好と趣味は未だに理解出来ないが彼女は私の良き理解者で相談相手だ。
  ベッキーとの出会いは1年前。
  私が16歳の時で、学園の入学式が
  終わった直後だった――。

〇ファンタジーの教室
  一年前。
ベッキー・セントジョン「あなたがラビニア・オータム・・・?」
  1つ年上の上級生のベッキーは
  初対面の私に驚いて目をまんまるくした。
ラビニア・オータム「そうですけど・・・なにか? えっ!?」
  なんとベッキーは・・・
  初対面の私の胸をむんずと掴み、
  遠慮なく揉んできたのだ。
ラビニア・オータム「ちょっ、ちょっと! あっ・・・、どこ触ってるのよっ!」
ベッキー・セントジョン「あの零れ落ちそうなたわわなおっぱいは? むっちりとしたふとももは? 発禁スレスレだったプリケツは?」
ベッキー・セントジョン「どこに? どこに消えたのよ~っ!」
ラビニア・オータム「やっ、やめてっっ! やめてってば~っ!」
  私の体をまさぐりながら食い入るように
  詰め寄る彼女はどうみても
  『ゲームを知っている転生者』
  ・・・というよりは『痴女』だった。

〇豪華な部屋
ベッキー・セントジョン「どすけべボディじゃないラビニアに 衝撃を受けてちゃって・・・ 思わず取り乱しちゃったんだよね~」
  全然悪びれる素振りも無く謝るベッキーを私は軽く睨む。
ラビニア・オータム「・・・公爵令嬢にあんな事するなんて 本当は懲罰ものなんだからねっ!」
ベッキー・セントジョン「ま、どすけべボディには程遠いけど出会った頃よりはすこーしは成長したもんね。 【魔王因子】が発現してなくても」
ラビニア・オータム「どすけべ連呼するなっ!」
  ラビニアのチートスタイルはチートスキルと同じく【魔王因子】の作用だと
  ベッキーは睨んでいるらしい。
ベッキー・セントジョン「考え過ぎかも知れないけどね―― なんせ適当が十八番だったからね、 あの運営は」
  そう忌々しく吐き捨てるベッキーも
  生前はラブデイズのユーザーだった。
ベッキー・セントジョン「ラブデはね、 運営には愛されなかったけど・・・ ファンには愛されたゲームだったのよ」
  ゲームに詳しくない私は知らなかったが
  ラブデイズはリリース当初は話題になっていたそうだ。
ベッキー・セントジョン「ラビニアは魔王になった辺りで 死んじゃったんだっけ。 あのあたりが一番盛り上がってたかなぁ」
ベッキー・セントジョン「でも、その後・・・ ラブデは酷い末路を辿ったのよ」
  ガチャ課金は天井知らずになり、
  地獄のランキングイベントを乱発、
  そして既存絵の高額グッズ・・・。
  あまりにも非情で非常な拝金主義の
  運営に、ユーザーは次々とラブデから
  離れていった。
ベッキー・セントジョン「で、さすがの運営もまずいと 思ったんじゃない?」
ベッキー・セントジョン「テコ入れのためのシナリオ改変に 新規キャラを追加したの」
ラビニア・オータム「それって良い事じゃない?」
ベッキー・セントジョン「――キャラの見せ場があればね。 公式が新キャラ実装を発表したのは良いけど個別ガチャもイベントも無いまま・・・」
ベッキー・セントジョン「突然サービス終了しちゃったから」
ラビニア・オータム「ええっ!? そんな事って・・・」
ベッキー・セントジョン「・・・まあ乙女系アプリゲームなんて 寿命は短いからね」
ベッキー・セントジョン「常にサービス終了を意識しては いたんだけど」
ベッキー・セントジョン「あの時は正直、参ったわ。 でも夢女子に比べればマシかもね」
ベッキー・セントジョン「ある日突然、 恋人がいなくなるようなものだもん」
ラビニア・オータム「夢女子?」
ベッキー・セントジョン「攻略キャラと自分の恋愛を妄想する女子の事よ。いわゆる推し×自分、みたいな」
ベッキー・セントジョン「ラビニアもジョシュ王子の夢女子でしょ? プロフに詳しいし、隠しストーリーを 知ってたりしてるじゃない」
ラビニア・オータム「それはチュートリアルのまま王子を サポートキャラにしてたからよ。 そういうの抜きでラブデが好きなんだよね」
ラビニア・オータム「夢女子とか腐女子とか・・・ そんなのは考えた事が無かったけど」
ラビニア・オータム「・・・強いて言うならセーラになれるからラブデを好きになったのかな」

〇ゆめかわ
  主人公セーラはプレイヤーの分身。
  お着換え機能でお洒落で可愛い洋服も
  着れるし、クエストでキャラ達と
  学園や街で遊ぶ事が出来る。
  友達、お金、家族に愛。
  セーラは前世の私が手に入れられない
  モノをたくさん持っていた。
  だから生前の私は一日の終わりに
  布団の中で寝るまでプレイするのが
  楽しみだった。
  そうすれば、現実の事なんて全て忘れて
  穏やかな気持ちで眠れるから。

〇豪華な部屋
ラビニア・オータム「そんなハマったゲームの世界に 転生したなんて・・・ 今でも夢みたいで・・・」
ベッキー・セントジョン「そうね、私も夢みたいよ」
ベッキー・セントジョン「前世のストレスと社会の圧力から解放され キャラデザだけは秀逸なこの世界に どっぷり浸れるなんて・・・」
ベッキー・セントジョン「ああ、今日はウィルとシキのケンカップルぷりを十分拝めて幸せだった・・・ この幸せよ! 永久に永遠にっ!」
  私は家族や愛する人たちを悲しませず
  【魔王因子】を発現させる事も無く、
  平和に暮らしたい。
  ベッキーは愛する攻略キャラ同士の恋愛を
  妄想して、壁のように眺めて暮らしたい。
  互いに原理は違えど、結論は同じ。
  この世界で慎ましく穏やかに暮らしたい
  こんな感じで私達の利害は一致していた。
  けれども・・・私は不安だった。
ベッキー・セントジョン「そう言えば・・・ 噂のラビニア専属の完璧執事さん、 このあいだチラッと見かけたわよ」
  私の不安をよそにベッキーが
  唐突に話題を変えてくる。
ベッキー・セントジョン「噂通りのイケメンだけど私、ああいう スキの無い男って食指が動かないのよね~ スパダリには興味無いって言うか」
ラビニア・オータム「スパダリ?」
ベッキー・セントジョン「完全無欠のスーパーパーフェクト ダーリン様。完璧な総攻め様よ」
ラビニア・オータム「確かに、完全無欠の完璧執事ではあるわね ・・・総攻めかは知らないけど」
ローズ・ルマンド「決まってますわ! セバスチャン様はバリ攻めですわっ!」
  部室の扉が大きく放たれ、
  一人の女生徒が声高らかに宣言する。
ラビニア・オータム「ローズさん・・・っ!」
  伯爵令嬢ローズ・ルマンド嬢に続いてわらわらと狭い部室に入ってくる女生徒たち。
  しかもただの女生徒ではない。彼女達は
  全員王国が誇る、名門貴族の子女様方だ。
  ローズさんは私をじろりと睨みつける。
ローズ・ルマンド「やっぱりこんなところにいらしゃったのね ラビニア様」
ローズ・ルマンド「セバス様が正門前で お待ちになっておりますわ」
ラビニア・オータム「え、もうそんな時間? って・・・セバスったらローズさん達を 顎で使っているの?」
ローズ・ルマンド「まあ、お口の悪い事っ! ラビニア様じゃあるまいし!」

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