悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

第三話「その悪役令嬢、濡れ衣を着せられる」(脚本)

悪役令嬢は平和に暮らしたいのに完璧執事が邪魔をする

イトウアユム

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〇黒背景
  【魔王因子】が発現しなかったラビニア
  こと私は、なんのとりえもない平凡な
  公爵令嬢だった。
  成績もスポーツも並みの下。
  容姿もゲームのラビニアと違い、
  大人びてもいないしグラマラスでもない。
  ゲームではこの国のジョシュ王子の
  唯一無二の婚約者だったが、今は
  並み居る婚約者候補の1人に過ぎない。
  いや、ぶっちゃけ婚約者候補も末席過ぎてそろそろ落第するのも時間の問題だろう。
  それでも私は幸せにのびのびと
  暮らしていた・・・一年前までは。

〇貴族の応接間
オータム公爵「うんうん、ラビニアはいつまでも 私の可愛い娘のままでいておくれ」
オータム公爵夫人「・・・あなた、いつまでもと言っても 限度がありますわ」
ルーク・オータム「ぼくは今のままのお姉さまが良いな。 いっしょに泥だらけになって遊んでくれて 木登りや虫取りを教えてくれるし」
ラビニア・オータム「る、ルークっ! それ以上はこの場では・・・」
オータム公爵夫人「泥だらけ? 16歳の、社交界デビューも 果たした淑女が泥だらけになって 子供と遊んでいる・・・ですって?」
ラビニア・オータム「・・・いや、その、 お母様これには理由が・・・」
オータム公爵夫人「・・・その理由とやらを じっくり聞かせて頂くわ」
オータム公爵夫人「ラビニア、ちょっとこちらにいらっしゃい」
オータム公爵「ははは・・・流石に貴族令嬢として・・・ 木登りはちょっと、な・・・」

〇黒背景
  あまりにものびのびし過ぎ、貴族子女
  らしからぬ振る舞いに心配した両親が
  私に専属執事を雇ったのが一年前だ。

〇貴族の応接間
セバスチャン・ガーフィールド「お初にお目にかかります。 私、セバスチャン・ガーフィールドと 申します。どうぞセバスとお呼び下さい」
  その執事がセバスだった。
  最初は私の行儀見習い指導として、
  補佐としての仕事だけだった。
  だがセバスは勉強に関しても家庭教師や
  学園の教師よりも教え方は上手かった。
  そしてなによりも完璧な執事だった。

〇華やかな裏庭
セバスチャン・ガーフィールド「本日のアフタヌーンティーの紅茶は アールグレイをご用意させて頂きました」
  ピカピカに磨き上げられた銀食器。
  華やかなティーカップに注がれる
  美しい琥珀の液体。
  鳥かごをモチーフにしたケーキスタンド
  には宝石の様なお菓子の数々。
セバスチャン・ガーフィールド「こちらから海老ときゅうりの カクテルソースのオープンサンド、 ミンスパイ」
セバスチャン・ガーフィールド「アップルクランブルはグラス仕立てに。 スコーンはクロテッドクリームと 自家製マーマレードでお楽しみください」
  現代日本では英国上流階級の文化として
  女子憧れのアフタヌーンティーという
  お茶の時間。
  女子が主なターゲットの乙女ゲームのこの
  世界でも重要な位置にある事は確かで。
  この世界でも富と権力の象徴として
  貴族文化に馴染んでいた。
オータム公爵夫人「素晴らしいわ、セバス! こんなに洗練されたアフタヌーンティー、 王都でも見た事が無いわ!」
セバスチャン・ガーフィールド「お褒めに預かり光栄でございます」
オータム公爵「アフタヌーンティーの格は執事の格。 そしてその家の格」
オータム公爵「セバス、君はオータム家の格を 背負う事の出来る完璧な執事だ。 この調子でラビニアの事を頼むよ」
セバスチャン・ガーフィールド「お任せください、旦那様」
  眉目秀麗、謹厳実直、博識多才・・・。
  私の少ない語彙力では表せないほど、
  セバスチャン・ガーフィールドは
  全てにおいて完璧な執事。
  だけど。
  私はセバスに対してひとつの
  大きな不満を持っていた。

〇ファンタジーの学園
セバスチャン・ガーフィールド「学園に到着しましたよ、お嬢様」
セバスチャン・ガーフィールド「しかし送迎は校門前まで、王族でも 使用人を伴ってはならないとの校則、 非常に残念です」
ラビニア・オータム「・・・私は助かってるけどね」
セバスチャン・ガーフィールド「なにかおっしゃいました?」
???「ラビニアさまっ!」
  1人の女生徒が私の前に仁王立ちをして
  行く手を阻んだ。
ラビニア・オータム(えっ? 誰、この子?)
  服装からして、学園の生徒の貴族令嬢で
  ある事は間違いが無さそうなのだが・・・
  まったく覚えが無い。
???「あんまりですわ! あんな仕打ち・・・ひど過ぎますっ!」
ラビニア・オータム「――セバス、知ってる?」
セバスチャン・ガーフィールド「さあ、存じ上げません」
???「勇気を振り絞ってパーティーに ご招待したのに・・・」
???「あんな断り方をするなんて あんまりですわっ!」
ラビニア・オータム「断り方?」
???「『カード選びと文章のセンスが無い方の お誘いはお断りしております』って断り方 酷過ぎますっ!」
ラビニア・オータム「ええっ!? 私がそんな断り方を?!」
???「まあっ! しらばっくれるおつもりです? 封蝋の印は間違いなくオータム家の紋章 でしたけどっ!」
  オータム家の紋章の使用許可を得ていて
  ・・・そんな底意地の悪い断り方をする
  のは――。
  私が知る限り、1人いる。
ラビニア・オータム「――セバス、もしかして・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「ああ、なるほど。こちらのお嬢様が リラン・クラナド嬢ですか」
ラビニア・オータム「なに納得してんのよ、 ってもしかして・・・」
セバスチャン・ガーフィールド「ええ、欠席の旨のお返事を させて頂きましたよ」
  やっぱりおまえかーっ!!
  涼しい顔で肯定するセバスに
  私は目を剥く。
セバスチャン・ガーフィールド「だってお嬢様は日頃から、 パーティーは極力行きたくないと、 おっしゃっていたじゃないですか」
  た、確かに言ってたけどっ!
  とりあえず公爵家の令嬢に声を掛けとけ~
  みたいなパーティーばかりで
  うんざりしてるって愚痴ってたけどっ!
ラビニア・オータム「で、でも、こういうのは別で・・・ せめてそういう招待状が届いていた 事くらいは教えてよっ!」
セバスチャン・ガーフィールド「でも・・・教えていたところで 欠席は変わりませんよね?」
ラビニア・オータム「ぐぐっ」
セバスチャン・ガーフィールド「それに、名前どころか顔も存じ上げない ご令嬢の誕生パーティーに、 お嬢様は行かれませんでしょう?」
ラビニア・オータム「うぐぐっ」
  どうしよう、まったく否定出来ない。

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