仇よ花の錆となれ

咲良綾

第十二話、歴史を紡ぐ花【最終話】(脚本)

仇よ花の錆となれ

咲良綾

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〇日本庭園
  仇を討ち果たし、
  全てが収まったかに見えた
  康胤と晴景のもとに、
  新たな陰謀が迫っていた──
美織「佐澄様、本当に行く気ですか!」
佐澄「だってこれだけ焦らされて おあずけされたんですよ??」
佐澄「お二人がむつみあう姿を 見たいじゃないですか!」
佐澄「できることなら私は部屋の襖になりたい・・・」
佐澄「でもこっそり覗くのはさすがにいけません」
佐澄「だからお二人でいるのを知らなかったふりをして、堂々と覗くのです!」
美織「佐澄様、冷静になってください!」
佐澄「大丈夫です、さすがに大佳境に差し掛かっていたらお邪魔はいたしません」
美織「そうではなくて」
美織「誰かに乱入されたら、くっついていても驚いて離れてしまいますよ!」
佐澄「では、礼儀正しく直談判をして襖として待機させてもら」
一兎「佐澄様」
佐澄「・・・・・・」
一兎「・・・・・・」
佐澄「あら一兎、ご機嫌いかが?」
一兎「・・・丸聞こえでしたよ」
佐澄「・・・・・・」
一兎「・・・・・・」
佐澄「ほほほ」
一兎「お引き取りください」

〇屋敷の寝室
椎名康胤「晴景様、待って」
長尾晴景「だめか?」
椎名康胤「だめではありませんが」
椎名康胤「あっ、ちょっと、」
椎名康胤「くすぐったいです!鼻を擦り付けないで!」
椎名康胤「犬じゃないんですから!」
長尾晴景「すまぬ。儂は朱の匂いが好きで・・・ おかしいか?」
椎名康胤「おかしいかどうかはわかりませんけど」
椎名康胤「私も晴景様の匂いは好きです」
長尾晴景「まことか? 佐澄には臭いと言われるが」
椎名康胤「私は好きです」
長尾晴景「・・・そうか」
長尾晴景「儂に好きだなどと言うてくれるのは、 朱が初めてだ」
椎名康胤「お母上は?」
長尾晴景「母は記憶にない」
椎名康胤「褒めてもらったりは?」
長尾晴景「父に褒められたのは・・・ 敵の首を取ったときだけだな」
椎名康胤「・・・見た目のことは?」
長尾晴景「見た目?」
長尾晴景「ああ・・・父からはいつも、 猛々しさがなく女のようだと」
椎名康胤「美しいです」
長尾晴景「え?」
椎名康胤「晴景様は見目が良すぎるんです! 自覚はなかったのですか?」
長尾晴景「そうなのか?」
椎名康胤「そうですよ!私が一目で心奪われるほど」
長尾晴景「でも、朱もそんなことは一度も言わなかった」
椎名康胤「だって・・・」
椎名康胤「わかりました、今度からたくさん言います!」
椎名康胤「晴景様が好きです。 見目も中身もこの世で一番素敵です!」
長尾晴景「朱・・・」
長尾晴景「そなたも美しい。儂もそなたが好きだ」
長尾晴景「・・・・・・」
長尾晴景「しばし離れることになるが、虎千代を元服させ家督を譲った暁には越中へ移る」
椎名康胤「お待ちしています。 隙あらば馬に乗って会いにきます」
椎名康胤「忘れないで全部覚えていてくださいね。 私の・・・匂いも、手触りも」
長尾晴景「・・・忘れたことなどないが、 もう一度確認しよう」

〇屋敷の大広間
佐澄「・・・むむっ」
佐澄「なんだか、めちゃくちゃいちゃいちゃしている波動を感じますわ・・・!」
美織「佐澄様、もう諦めてください」
松葉「ただ見張っているのも暇だから、 かるたでもやるか!」
佐澄「むううっ・・・おなごの園は善き哉ですが、むむうっ・・・!」

〇畳敷きの大広間
  そして、康胤は椎名の家督を継ぐため、
  越中の松倉城へ入る──
椎名康胤「皆に言っておきたいことがある」
椎名康胤「私は、女だ。 我が家老となる鮎川松葉も、女である」
椎名康胤「私が家督を継ぐことに異論のある者は、 止めはせぬ。出て行くが良い」
松葉「ここに、 椎名長常より当主を任じる書状がある」
松葉「長尾より 越中守新川郡守護代代行も任じられた」
一兎「この御方は椎名慶胤のご息女で、 正統に椎名の血を継承している」
一兎「我が命をかけてお仕えしてきたが、その価値のある方だ。必ずこの領地を繁栄させる」
松葉「今は長尾で養育されているが、 後継の嫡男もいらっしゃる」
椎名康胤「皆の家と領地を守る。 ついてきてくれる者は、ここに残れ!」
  桜丸を殺める動機となった長常の嫡男は
  夭逝しており、対抗する継承者はいない。
  出ていく者は、誰もいなかった。
  椎名康胤は、椎名家の家督を継いだ。

〇屋敷の大広間
  それから、月日は流れ──
  成長した虎千代が長尾景虎として
  長尾の家督を継ぐ。
長尾景虎「皆、儂の家督就任の宴によくぞ集ってくださった!存分に楽しんでくれ!」
猿千代「兄上、おめでとうございます!」
長尾景虎「おーっ、猿千代! どうだ、儂は立派か?」
猿千代「はい!」
花緒「あにうえ、このたびはおめでとうございます」
長尾景虎「おっ。花緒(はなお)、美人に育っているじゃないか。儂の嫁になるか?」
花緒「だめです。花緒にはもう、こころにきめたひとがいるのです」
長尾景虎「何ぃ?相手はどこのガキだ」
花緒「ガキじゃありません!」
一兎「花緒様、御挨拶はできましたか」
花緒「できました!ねぇ一兎、花緒はえらい?」
一兎「偉いですね。 ご褒美に菓子をお持ちしました」
花緒「ありがとう、一兎だいすき!」
椎名康胤「景虎様、この度はおめでとうございます」
長尾景虎「康胤どの。本日は一段とお美しいな」
椎名康胤「このような装いは久しぶりです」
一兎「康胤様、足元にお気をつけください」
花緒「一兎!ははうえはおとなだからだいじょうぶよ!花緒をだっこして!」
長尾晴景「花緒、父が抱っこしよう」
花緒「いや!一兎がいいの!」
椎名康胤「晴景様、今まで離れて暮らしていたのだから、仕方がないですよ」
椎名康胤「これから共に暮らせば、きっと花緒も晴景様が大好きになります」
長尾晴景「良いのだ。儂には朱がいれば良い」
椎名康胤「晴景様、拗ねないで」
佐澄「行け!そこ!絡んで!もっと甘々に!」
椎名康胤「・・・何やら圧を感じますね」
長尾晴景「また佐澄か・・・」
長尾晴景「仕方ないな」
椎名康胤「人前ではダメです!」
佐澄「晴景様~!押して、もっと強引にーっ!」
長尾晴景「髪を触るくらいなら良いか?」
椎名康胤「もう・・・ あまり目立たないようにしてくださいね」
佐澄「キャー!いい!こういうのも!いい!」
佐澄「人目のある場所で隠れて髪を! なんてこと!晴景様、天才ですわ!」
美織「佐澄様、楽しそうですね」
佐澄「最高ですわ・・・!これから頻繁に見られると思うと鼻息で笛が吹けそうです!」
美織「本当に私たちも越中に移っていいのですか?」
佐澄「私は正妻です。 夫についていくのは当然です」
松葉「藤丸、またでかくなったな!」
鮎川盛長「姉上。 いい加減幼名はやめてくれよ、盛長だよ」

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コメント

  • まさに大河ドラマ!堪能しました🦁
    過酷な運命と切り結ぶ。一人の女武者の生き様を垣間見、心が震えました🦁
    そして佐澄さまー😂

  • 凄く素敵なお話でしたー!!!!!途中ハラハラしたり切なかったり、泣いたり、笑ったり、感動したりで本当に素晴らしかったですー!!!!!正に一気読みさせていただきました!!!!ありがとうございました!!!!

    登場人物みんながみんな、それぞれに生きていて、、、物語の中で生きている感じがありました!!!

    あと、個人的に一兎がっ!!推しに!!なってますー!!!!!!!

  • どう考えても僕の中のトップです。ありがとうございました。
    『諦めずに歴史を紡ぐ力を』っていうエール、「二世」を読んでいる僕からすると、含む意味が深すぎます。よくこんな純粋な心を持つ人が無事に生きてこれたなと、二世で読んだ運命と人の巡り合わせに感謝しています。
    全然違う話だし、繊細さも桁外れに仇花が上なのですが、『憎しみと愛』の解釈が自分と近いなと。仇、取りたいです。
    長編連載、お疲れ様でした。

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