仇よ花の錆となれ

咲良綾

第十一話、仇を散らして花が咲く(脚本)

仇よ花の錆となれ

咲良綾

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〇屋敷の一室
  晴景の背後に、
  弟のかざした刃が迫る──
虎千代「はっ!」
虎千代「ぐっ!」
長尾晴景「不意打ちがしたければもっと殺気を隠せ」
長尾晴景「なぜ、儂を狙う」
虎千代「父上が言ったんだ。 兄上がいなければ俺が跡を継げるって!」
長尾晴景「その父の言葉を鵜呑みにして儂を殺しに来たか」
長尾晴景「今儂が死ねば、お前に当主がつとまるか?」
虎千代「いや・・・でも父上がいれば」
長尾晴景「そうだ。お前が跡継ぎになるかもしれないが、まず父上が実権を握るだろうな」
虎千代「・・・」
長尾晴景「次に、お前が失敗した場合だが・・・ お前は謀反人だ」
虎千代「むほん・・・」
長尾晴景「死罪になっても仕方ない所業だ。 その覚悟はあったか」
虎千代「当たり前だろ! 男は命をかけるんだ!」
長尾晴景「では、お前に儂を狙わせる父上はどうだ」
長尾晴景「お前を庇って裁かれるか? シラを切るか? どちらだと思う」
虎千代「!」
長尾晴景「だから言ったろう。学問をせよと」
長尾晴景「知識だけではない、多面的に物事を見て考える力が身につく」
虎千代「兄上は俺を殺すのか。むほんにんだから」
長尾晴景「いや。 儂は、この家をお前に継がせたい」
虎千代「は? 猿千代はどうするんだよ!」
長尾晴景「猿千代はいずれ養子に出すつもりだ」
虎千代「嫡男なのに?嘘だろ!」
長尾晴景「儂にも色々と思うところがあってな」
長尾晴景「お前の戦の才と野心は尋常ではない。 お前に天下を狙わせてみたい」
長尾晴景「どうだ。儂の養子にならぬか」
虎千代「なんだよ・・・話が違う」
長尾晴景「直接話してみるものだろう?」
長尾晴景「夜も遅い。今日は部屋に戻れ。 また改めて話をしよう」
虎千代「わかった」
長尾晴景「・・・ふう」
長尾晴景「あの動き、もう少し手足が長ければやられていたやもしれぬ。末恐ろしい」
長尾晴景「しかし幼い虎千代をそそのかして このような真似をさせるとは・・・!」

〇屋敷の大広間
椎名康胤「お呼びでしょうか」
長尾晴景「康胤、戦だ。 昨夜儂は命を狙われた」
椎名康胤「賊は充分警戒していたはずですが」
長尾晴景「虎千代を使われた」
椎名康胤「!!」
長尾晴景「年端のいかぬ身内を暗殺に利用するなど、我が父とはいえ到底許し難い」
長尾晴景「これは当主への謀反でもある。 謀反人、長尾為景を討つ!」
椎名康胤「虎千代様は」
長尾晴景「虎千代は父上にそそのかされただけだ。 罪は不問とする」
椎名康胤「良かった・・・」
長尾晴景「昨夜の暗殺未遂が宣戦布告になることくらいは父上も予測済みだろう」
長尾晴景「失敗に備えて戦仕度を調えているはずだ。 こちらはどうか」
椎名康胤「柿崎はすぐに駆けつけられます。 阿賀北にも急ぎ使いを出します」
長尾晴景「頼んだぞ」
椎名康胤「は!」
長尾晴景「待て、康胤」
長尾晴景「これを持っていろ」
椎名康胤「・・・はい」
  晴景は御守袋を受け取った手を強く握って引き寄せ、頬を寄せた。
長尾晴景「必ず勝つぞ。 我らが共にあるためにも」
椎名康胤「はい」
  名残を惜しむように唇を合わせ、体を引く。
椎名康胤「参ります!」

〇日本庭園
椎名康胤「佐澄様、虎千代様をよろしくお願いします」
佐澄「わかりました」
虎千代「なあ、俺はむほんを働いたんだぞ。 危険とは思わないのか?」
佐澄「貴方はそこまで愚かな子ではありません」
佐澄「経験の少なさゆえにそそのかされただけです」
虎千代「俺が猿千代を殺すとか思わないのか」
佐澄「そうすれば貴方は晴景様の後ろ楯を失う」
佐澄「そのくらいの損得はわかるでしょう」
佐澄「晴景様に話は聞いています。 貴方を養子にする件は、私も賛成です」
虎千代「本当に、俺を跡継ぎに?」
椎名康胤「それはどういうことですか? 猿千代君は?」
佐澄「康胤様。私たちは、長尾を虎千代に任せたいと思っています」
佐澄「虎千代なら天下も狙える」
佐澄「猿千代は、養子に出すつもりです」
椎名康胤「そんな、どこへ」
佐澄「椎名です」
椎名康胤「!」
佐澄「椎名康胤の嫡男として、 猿千代には椎名を継がせたい」
椎名康胤「私、の・・・」
佐澄「それが一番良いと思うのですよ。 どうでしょう」
椎名康胤「・・・っ。 ありがとうございます・・・!」
佐澄「まずは、速やかに長尾と椎名を手に入れてきてください。ご武運をお祈りします」
椎名康胤「はい!」

〇草原
長尾晴景「父、長尾為景は当主に対し謀反を働いた! 為景を討て!」
柿崎景家「行くぞ!康胤!」
椎名康胤「ああ景家、武運を祈る!」
松葉「康胤、援護するからそのまま走れ!」
椎名康胤「任せたぞ、松葉!」
一兎「康胤様!右方向が手薄です!」
椎名康胤「よし一兎、回り込め!」

〇草原
鮎川清長「康胤、無事か!」
椎名康胤「清長どの!早かったですね」
鮎川清長「ははは、驚いたか!」
鮎川清長「知らせを聞いて騎馬隊だけ先行した。 歩兵は本庄と共に為景の援軍を足止めしている」
椎名康胤「ありがたい!」

〇草原
長尾為景「ぐっ・・・! 中条はどうした!」
椎名長常「鮎川軍に阻まれているようです! 宇佐美もあちら側に参戦しました!」
椎名長常「為景様! ここはもう危険です、陣を引いて山中へ!」

〇草原
長尾晴景「為景は山に逃げた!」
長尾晴景「馬を降りて追うぞ!」

〇山の中
椎名康胤「どこだ、為景・・・」
一兎「先を見てきます」
松葉「康胤!」
柿崎景家「よっしゃー!! 初陣の汚名返上!」
椎名康胤「景家!」
柿崎景家「大丈夫か?」
椎名康胤「助かった!」
長尾晴景「景家、褒美を取らす!」
椎名康胤「晴景様!」
柿崎景家「おぉ?相思相愛かよ」
一兎「康胤様、為景がいました!」
長尾晴景「! 行くぞ!」
椎名康胤「はい!」

〇けもの道
長尾為景「・・・ふっ。 お前に追い詰められるとはな」
長尾晴景「父上。 貴方は何を守っているのですか」
長尾晴景「権力を抱き込み、儂を侮り、虎千代を利用し」
長尾晴景「儂は悲しいのです。 大きかった貴方が、己を守って縮むのが」
長尾為景「儂が小さい男だと言いたいのか」
長尾晴景「国外に知れて長尾が軽んじられる前に、 成敗致します」
長尾為景「儂を長尾の恥と申すか!? 誰のお陰で長尾がここまで来たと思っている」
長尾為景「恥知らずはお前だ!」
  晴景の刀が為景の刀を撥ね飛ばした。
長尾晴景「康胤、行け!」
椎名康胤「はあっ!」
長尾為景「ぐは!」
椎名康胤「家の仇、桜丸の仇!」
長尾為景「! お前はやはり、朱・・・っ!」
長尾晴景「父上、お覚悟!」
椎名康胤「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
長尾晴景「・・・・・・」
一兎「康胤様!」
松葉「康胤!」
柿崎景家「やったか!」
椎名康胤「一兎・・・松葉・・・景家・・・」
長尾晴景「景家、全軍に伝えろ。 長尾為景の首を取った!」
椎名康胤「は!」
長尾晴景「一兎、松葉。 康胤を援護し、長常を追え!」

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コメント

  • またまた感動して泣いてますー!!!!!(´;ω;`)凄いお話ですー!!!!!!!
    もう言葉の一つ一つが染み渡ってくるお話です!!!!!!(´;ω;`)

  • 昔の主従関係というのは思った以上に重いのでしょうね。愛情の型もあるとおもいますし、主従関係がある以上、恋愛対象としては最初から外れる。今でいう血の繋がった姉弟のような。そのことに本話で納得が出来た気がします。
    今回も見所目白押しでした。
    どこに養子を出すのかと心配したらそこかよ!泣くでしょ。朱姫もトドメさせるのか!とか。ひた隠しにしているはずの晴景の心を理解する愛の深さとか!
    食べログ星5です。

  • 晴景とも景家とも共闘して真の仇を討つという激アツ展開😭
    ついに終わったのか…!?最終回、読ませていただきます!!

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