1-2(脚本)
〇大衆居酒屋
場所を移して、馴染みの酒屋。
あの後、定時になると双子に腕を掴まれて連れ出された。
俺を逃がす気はないらしい。
「隊長ー」
湊 月冴「何だ、寿兄弟」
「今はオフでしょう」
湊 月冴「お前達が隊長呼びしたんだろ」
もう酔っ払っているのか、この双子は。
この国では17歳に成人の儀式を済ませる事で、成人として飲酒が許可されており、
成人の証の装飾品を身に付けていれば、何処でも成人扱いされる。
俺の部隊で、俺を含めて成人していないのは紫苑だけだ。
橘 恵哉「月冴さーん」
湊 月冴「はいはい、どうした?恵哉」
直ぐに酔っ払ってしまう恵哉が俺に抱き付いてきた。
何時もの事なのでスルー。
恵哉の次に弱いのが双子、それから多分俺、そして・・・・・・
要 彰久「ありゃ、相変わらず酔うの早いねぇ」
柊 真優「見ている方は楽しいから良いのでは?」
要 彰久「そうだねぇ」
彰久と真優は上戸所かザルだ。
この二人が酔った所なんて見た事が無い。
俺はセーブしながら飲んでいるつもりだ。
酔いが回ったら水を飲むの繰り返しをしている。
もし俺が泥酔して他所に迷惑なんて・・・・・・笑えない。
騎士団長の息子と剣の隊長の甥という意味でも。
要 彰久「たまには月冴殿の酔った姿も見てみたいもんですがな」
湊 月冴「勘弁してくれ。お前達に付き合ったら、泥酔所か潰されるわ」
筧 紫苑「・・・・・・月冴さん」
湊 月冴「どうした?匂いで酔ったか?」
寄って来た紫苑の頭を撫でた。
目を細めているから、喜んではいるみたいだ。
椿桔「失礼致します」
湊 月冴「お」
「来た来た」
ソッと俺の背後に現れた銀髪の青年・・・・・・椿桔。
彼は湊家の使用人で、何故か俺に異様に忠誠心を持ってくれている。
そして、恵哉並みに過保護だ。
椿桔「月冴様、果実酒を店主より頂きました」
湊 月冴「ん、ああ・・・・・・」
橘 恵哉「月冴さん、此方のも甘いですよー」
湊 月冴「あ、ああ・・・・・・」
「始まった」
確かに俺は甘いのが好きだが・・・・・・左右から勧められても・・・・・・
湊 月冴「椿桔も飲んだらどうだ?」
椿桔「いえ、私は結構です・・・・・・月冴様、旦那様より伝令が。本日は騎士団本部にお泊まりになられるそうです」
湊 月冴「そうか・・・・・・分かった、ありがとう」
父さん・・・・・・忙しいのか?
誕生祭の事もあるし・・・・・・幾ら明日は暫く振りの休みとはいえ、俺が飲んでてもいいものか・・・・・・。
要 彰久「恐らく月夜殿は月冴殿にゆっくり飲むようにと泊まられるのだろう。お気になさらず、ゆっくり飲みなされ」
湊 月冴「・・・・・・前から思っていたが、彰久は読心術でも心得ているのか?」
要 彰久「はっはっはっ」
柊 真優「読心術っていうより・・・・・・月冴さん大好きという感じよね?」
要 彰久「うむ!」
湊 月冴「?読心術ではなく、俺が?」
椿桔「月冴様は素晴らしい方ですから」
要 彰久「全くその通り」
・・・・・・コイツ等は何を言っているんだ?
湊 月冴「素晴らしいのはお前達だろう。俺に力を貸してくれる。お前達が居るから、俺は刀を振るえるのだから」
湊 月冴「お前達は俺の誇りだ。俺の元に来てくれて、本当に感謝している」
・・・・・・?
急に静かになった事を不思議に思い、視線を上げると全員が顔を押さえて違う方を向いていた。
湊 月冴「どうした?」
要 彰久「本当に・・・・・・」
柊 真優「そういう所ですぅ・・・・・・」
「月冴さんのタラシぃ」
湊 月冴「はぁ?」
〇華やかな裏庭
翌日。
今日は俺の部隊は非番な為、私服で騎士団本部にやって来る。
俺の背後には椿桔がついて来ていた。
森 喜介「あれ、月冴隊長?」
湊 月冴「ああ、喜介殿」
玄関を通ると、手に書類の山を抱えた三番隊の副隊長、森喜介(もりきすけ)殿と遭遇する。
森 喜介「今日は非番だったよね?」
湊 月冴「はい。父さんが泊まり込んでいるみたいなので・・・・・・」
森 喜介「ああ、何時もの差し入れだね。うちの子に見習わせたい程の本当にいい子だね・・・・・・うちの隊長と違って」
湊 月冴「また書類放棄ですか?」
森 喜介「まただよ!・・・・・・もし、あの熊を見掛けたら縛っておいて」
湊 月冴「保証はしませんが、承りました」
大和殿は体が大きいから、熊だと言ってるんだと思う。
彼に会釈し、執務室へ向かった。
〇おしゃれな廊下
「!」
廊下を進んでいると、演奏が聴こえて思わず足を止める。
音の発信源は・・・・・・一番広い会議室である第三会議室。
湊 月冴「そういえば、奏多殿が誕生祭の時に演奏するって言ってたな」
椿桔「では、その練習でしょうか」
関 陽音「そーいう事っす」
湊 月冴「おっと」
会議室からひょっこり顔を出す第五部隊の副隊長、関陽音(せきはると)。
関 陽音「ほんと、隊長とデュエットとか勘弁して欲しいっす」
湊 月冴「陽音、ピアノ得意じゃないか」
因みに陽音は紫苑と同期だ。
関 陽音「あの人上手過ぎるんすよ。合わせるの大変なんすから」
辻 奏多「ほーれ、文句言っとらんで練習すんでー」
関 陽音「はぁ・・・・・・っす。じゃあ、また」
湊 月冴「ああ。練習中にすまなかったな」
彼と別れ、また廊下を進み・・・・・・執務室に着いた。
梵 麗奈「おや、こんにちは」
湊 月冴「こんにちは」
梵 麗奈「何時もの、かな?」
湊 月冴「はい」
執務室の前で第一部隊の副隊長の梵麗奈(れいな)さんと出会い、挨拶する。
姓で分かると思うが・・・・・・彼女は叔父さんの奥さんに当たり、俺の叔母に当たる人だ。
湊 月冴「父は・・・・・・」
梵 麗奈「中に、居るよ。君の叔父さんも、ね」
湊 月冴「分かりました。ありがとうございます」
コンコンコン
麗奈さんに会釈し、扉をノックした。
湊 月冴「月冴です。入ってもよろしいでしょうか」
湊 月夜「ああ」
〇上官の部屋
返答を貰い、執務室の扉を開ける。
中には座っている父さんと、机を挟んで立つ叔父さんが居た。
湊 月冴「すみません、忙しそう・・・・・・」
梵 劔「月冴、おいで」
扉を閉めようとしたら、叔父さんに手招きされる。
それに恐る恐る入った。
梵 劔「小さい頃から出入りしているんだ。今更遠慮しなくていいんだぞ?」
湊 月夜「・・・・・・月冴、何かあったのか?」
湊 月冴「あ、いえ・・・・・・泊まり込みをしてると聞いたので、差し入れを・・・・・・」
湊 月夜「ああ・・・・・・すまんな。ありがとう」
梵 劔「月冴の差し入れには本当に助かっている。ああ、この後暇か?」
湊 月冴「特に予定はありませんが・・・・・・」
梵 劔「じゃあ、家に寄ってくれないか?会いたがっていたからな」
湊 月冴「きぃ君ですか?分かりました」
梵 劔「ありがとう」
それから少し雑談をして、執務室を出る。
〇おしゃれな廊下
椿桔を供に来た道を戻る途中・・・・・・
「?」
曲がり角から何かを覗いている二人を発見した。
湊 月冴「何をされているんですか?」
「しぃーっ」
声を掛けたら同時に振り返られて、静かにする様に言われる。
湊 月冴「え・・・・・・っと?」
叶 練太郎「あ、ごめんね?」
叶 愛良「実は隊長達が・・・・・・」
二人が指差した先には華絵さんと晴彦殿が居た。
華絵さんが晴彦殿に何か差し出し、それを晴彦殿が照れながら受け取っている。
椿桔「・・・・・・彼も強情ですね。さっさと付き合えばいいのに」
叶 練太郎「椿桔君もそう思いますよね?」
叶 愛良「我々としても、早よくっ付けって思ってるんです」
椿桔の言葉にうんうん頷くのは第四部隊の副隊長、叶愛良(かのうあいら)と第六部隊の副隊長、叶練太郎(れんたろう)。
この二人は兄妹で、隊長達を結ばせようとしていた。
ふと、彼等から華絵さんに視線を向けると、薔薇の髪飾りを晴彦殿に付けられ、顔を真っ赤にしていた。
「早よくっ付け・・・・・・!!」
椿桔「月冴様、ほっといて行きましょう」
湊 月冴「そうだな」
彼等の邪魔をする気はないので、彼等を避ける様に遠回りする。
轟 犀利「ありゃ、ツッキーだぁ」
椿桔「月冴様を変なあだ名で呼ばないで下さい!」
湊 月冴「椿桔、落ち着け」
轟 犀利「そうだよ、ツーキ」
椿桔「私はツ バ キ です!」
今にも噛み付きそうな椿桔を押さえつつ、ふにゃふにゃ笑っている第二部隊の副隊長、轟犀利(とどろきさいり)に苦笑した。
轟 犀利「今から帰るのー?」
湊 月冴「はい」
轟 犀利「そっか・・・・・・あの件はちゃぁんと人が動いたからねぇ。気にしちゃダメだよぉ」
犀利殿はポンと俺の肩を叩いて、そのまま何処かに向かう。
湊 月冴「・・・・・・村に行くつもりだったのバレたか」
椿桔「皆、月冴様の優しさはご存知ですから」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・?」
よく分からないが、取り敢えず用は済んだので本部を出る事にした。
〇古い洋館
そのまま叔父さんの家に向かう。
湊 月冴「こんにちは」
???「あら、月冴様!」
湊 月冴「きぃ君は居ますか?」
???「ええ、いらっしゃいます。中でお待ちください」
外で掃き掃除をしていた使用人に頷き、応接室に案内された。
〇おしゃれな居間
梵 紀斗「月冴兄様!」
湊 月冴「久しいな、きぃ君」
少しして入って来た、梵紀斗(きいと)。
彼はまだ8歳で、騎士学校には入れないので騎士ではないが、将来は俺達の様な騎士になると言ってくれてる。
彼の様に目標にしてくれている人が居る限り、俺は騎士であるべきだ。
梵 紀斗「月冴兄様、手合わせして下さい!」
湊 月冴「いや、叔父さん・・・・・・君の父親から止められている」
梵 紀斗「えー」
頬を膨らませるきぃ君の頬をつついた。
途端に変な音がして、揃って笑う。
それから暫く穏やかな時間を過ごし・・・・・・俺はあの村へと訪れた。
〇荒廃した街
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
椿桔「月冴様・・・・・・」
村人は既に全員移ったのだろう、誰も居ない。
放置された建物だけが遺されている。
椿桔「・・・・・・月冴様がお気にする事では・・・・・・」
湊 月冴「騎士とは、弱き者を護る剣となる事。俺はそれを果たせなかった。だから、目を逸らしてはいけないんだ・・・・・・椿桔」
椿桔「はい」
湊 月冴「分からないんだ。俺はこの村の為に何が出来る?」
椿桔「・・・・・・月冴様個人で出来る事は・・・・・・」
湊 月冴「だよな・・・・・・どうして、俺には魔術師の才が無いのだろうか」
幼い頃に亡くなった母は、魔術師だったらしい。
それも、治癒系統に特化した魔術師。
父さんだって、ちょっとしたサポートなら使えると言っていたのに・・・・・・
湊 月冴「俺だけ、才が無いんだ」
椿桔「月冴様・・・・・・」
俺の一族は皆、騎士になる騎士一家だ。
同時に、魔術師の才が多少なりともあるというのに・・・・・・俺だけ空っ切りだ。
無い物ねだりしても仕方無いのは分かっているが・・・・・・。
湊 月冴「もっと力が欲しいと思ってしまう」
椿桔「月冴様・・・・・・焦りは禁物です」
湊 月冴「・・・・・・ああ、分かっている」
分かってはいるんだ・・・・・・焦った所でどうしようもない。
寧ろ、悪い結果を呼びかねないのは。
湊 月冴「・・・・・・椿桔、今見聞きした事は忘れてくれ」
椿桔「・・・・・・承知しました」
湊 月冴「さて、帰るか。あまり遅くなってしまうと、皆に余計な心配を掛けてしまう」
何人かには俺の行動が読まれていた。
早々に戻らないと、捜索隊が出かねない。
椿桔「ああ、そう言えばありましたね。なかなか戻らない月冴様を雲と春が捜しに出た事件」
椿桔「あの日は怪我した野良猫親子に付き添っていて遅くなったと・・・・・・」
湊 月冴「・・・・・・アレは遅くなる事を連絡しなかった俺も悪いが、二部隊に発見された時凄い複雑だった」
椿桔「心中お察しします」
因みにその野良猫親子は梵家の家族となっている。
〇ヨーロッパの街並み
それから暫くし・・・・・・
誕生日祭当日になった。
〇洋館のバルコニー
飾り付けられた大通りを人々が楽しそうに行き来している。
屋台を出している人も居るし、隣人と談笑したり踊ったりしている人も居た。
此が・・・・・・俺の見たかった景色だ。
俺も、例年通り其処に混ざって楽しんでいたが・・・・・・
魔術師「ふん。此の程度で喜ぶとは。単純だな」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
此の目の前の魔術師さえ居なければ。
文句言うなら参加しなければいいものを・・・・・・。
それから魔術師が何か言うが、殆んどスルーして賑やかな風景を見る。
他の隊長達から無視していいと言われているし。
梨杏「此処に居たか」
湊 月冴「・・・・・・?」
梨杏「私は最高魔術師補佐、梨杏(りな)という者だ」
最高魔術師補佐・・・・・・魔術師界のNo.2が何の用だ?
梨杏という女性はジーっと俺を見てきた。
梨杏「何故最高魔術師は・・・・・・」
きゃああぁぁああ!!
湊 月冴「!!」
悲鳴に急いで下を見る。
まだ此処から遠いが・・・・・・魔物の軍勢が居た。
魔術師「なっ・・・・・・何故魔物が・・・・・・!?」
王都には結界が張られている筈・・・・・・誕生祭は特に厳重に・・・・・・
湊 月冴「魔術師殿、此は一体どういう事か!」
梨杏「・・・・・・その様な事よりも、制圧に行かれたらどうか」
湊 月冴「・・・・・・失礼する」
様子を見ていたバルコニーから近くの屋根に飛び降りる。
〇市場
早く制圧しなければ・・・・・・今日は殆んどの騎士が帯刀していない。
それに、家族や友人達と楽しむ筈の日だ。
それを・・・・・・悲劇に変えたくない。
椿桔「月冴様!」
湊 月冴「!」
屋根伝いに駆ける俺の元に椿桔がやって来た。
湊 月冴「避難誘導は!」
椿桔「既に春が動いております!ですが、帯刀しているのは・・・・・・」
湊 月冴「隊長格のみか」
椿桔「はい!」
梵 劔「《ガガ・・・・・・緊急伝達!!》」
念の為という事で、騎士全員が着けている通信機から叔父の声がする。
梵 劔「《魔物の襲撃あり!帯刀している騎士は現場に急行せよ!帯刀していない者は避難誘導に当たれ!避難場所は・・・・・・》」
椿桔「!月冴様・・・・・・!?」
足を止め、現場とは逆を向いた。
湊 月冴「・・・・・・此方湊月冴!応答願う!」
梵 劔「《どうした?確かお前は魔術師の・・・・・・》」
湊 月冴「魔術師には『制圧に行かれたらどうか』と言われ、現場に急行中・・・・・・ですが、反対方向より何か感じました」
梵 劔「《反対方向?》」
湊 月夜「《北エリア・・・・・・それは本当か?》」
父さんの声が混ざる。
湊 月冴「確証はありません・・・・・・が、北エリアの下から何かを感じます」
柾 雲雀「《・・・・・・此方既に隊長格が集結している》」
東 大和「《おう、此方は十分足りてるぜ》」
環 春彦「《既に応戦しています》」
鏡 華絵「《避難も間に合っていますわ》」
湊 月夜「《湊月冴・・・・・・お前はその方に向かえ》」
湊 月冴「はっ!」
橘 恵哉「《隊長!》」
恵哉の声が割り込んできた。
橘 恵哉「《“月”帯刀しています!》」
寿瑠威&瑠嘉「《《俺等も行けますよー!》》」
要 彰久「《直ぐに向かえますぞ》」
筧 紫苑「《・・・・・・行けます》」
湊 月冴「・・・・・・月部隊、北エリアに急行せよ!」
月部隊「《《《《《了解!!》》》》》」
湊 月冴「椿桔はどうする?」
椿桔「お供します」
湊 月冴「じゃあ、付いて来い」
椿桔「御意」
椿桔と共に嫌な気配のする方向へと向かう。
〇噴水広場
タンッ
北エリアの中にある公園の一つに降り立った。
噴水の側・・・・・・その下から何かを感じる。
橘 恵哉「隊長!」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
椿桔「この下から・・・・・・?」
湊 月冴「!構えろ!」
俺の言葉に全員が抜刀した時・・・・・・
・・・ボンッ
「蟻かー!?」
湊 月冴「殲滅する!」
「了解!」
椿桔「参戦します」
地中から蟻の様な魔物が出現した。
それに俺達は散開して迎撃する。
強さは其処まででは無いな・・・・・・強靭な顎にさえ気を付ければ、普通に叩き斬れ・・・・・・
???「うわっ・・・・・・」
湊 月冴「!此処は任せる!」
椿桔「月冴様!?」
橘 恵哉「隊長!?」
確かに声が聞こえた。
聞こえた方向に駆け出すと・・・・・・フードを被った子供が座り込んでいる。
その前には魔物。
湊 月冴「・・・・・・“止めろ”!」
子供に襲い掛かろうとする魔物に叫んだ。
すると、魔物がビクリと動きを止める。
それにより間に合い、子供に届く前に魔物を斬った。
湊 月冴「大丈夫か?」
子供に振り返ると、コクコクと頷く。
フードの下から覗く色違いの瞳。
そうか、この子・・・・・・
子供はハッとした様にフードを更に深く被った。
湊 月冴「大丈夫だ。任せておけ」
そんな子供の頭を撫でる。
左右で異なる瞳・・・・・・それは人型の魔物、魔族と呼ばれる者達の共通点だと言われている。
その為、生まれ付き・・・・・・椿桔の様に左右で色違いの瞳を持つ者は迫害対象となる事が多い。
この子もその内の一人なのかもしれない。
湊 月冴「!」
子供「・・・・・・!」
背後の気配に振り返った。
其処には新たな魔物。
それも結構な数・・・・・・子供を庇いながらではキツいか。
どうする・・・・・・か・・・・・・
湊 月冴「・・・・・・“退け。彼の者の配下よ”」
クイッ
湊 月冴「!は・・・・・・?」
袖が引かれた事でハッとなる。
目の前に居た魔物はいつの間にか居なくなっていた。
何だ・・・・・・今、一瞬意識が・・・・・・
子供「だ・・・・・・い、じょうぶ?」
湊 月冴「・・・・・・優しい子だな。大丈夫だ」
裾を引いてくれた子供の頭をもう一度撫でる。
湊 月冴「此処は危ない。移動するぞ」
子供「・・・・・・うん」
一度しゃがんで子供を抱き上げた。
そして、皆の元へと戻る。
椿桔「あ、月冴様!」
橘 恵哉「隊長!ご無事でしたか」
「その子は?」
湊 月冴「保護した一般人だ。此方の状況は?」
要 彰久「下から何体かずつ出て来たのですが」
筧 紫苑「・・・・・・何か、逃げた」
湊 月冴「逃げた?」
橘 恵哉「それで、隊長と合流しようと・・・・・・」
湊 月冴「そうか・・・・・・ちょっと変わってくれ」
橘 恵哉「はい」
子供を橘に預け、地面に手を着いた。
何の気配も感じない・・・・・・何故・・・・・・
梵 劔「《此方“剣”。“月”応答せよ》」
湊 月冴「此方“月”」
梵 劔「《そちらの様子は?》」
湊 月冴「魔物の襲撃あり、直ぐに対応しました・・・・・・が、殲滅前に逃走した模様です」
東 大和「《そっちもか?》」
湊 月冴「もしかして、そちらも?」
環 春彦「《うん》」
辻 奏多「《もうちょいで殲滅や言うとこで逃げおったわ》」
湊 月夜「《既に“雲”が動いている・・・・・・隊長格は警戒を続けろ。湊月冴も警護はもういい》」
湊 月冴「え、もう・・・・・・」
青年「マリー!」
子供「あ、おとうさん!」
その時、フードを被った・・・・・・恐らく青年が駆け寄ってくる。
橘に目で合図すれば、子供は青年の手に渡された。
湊 月夜「《・・・・・・何かあったか?》」
湊 月冴「いえ、一般の子供を保護しており、その身内が迎えに来たので」
湊 月夜「《そうか・・・・・・警護には私と梵が出る。お前はもういい》」
湊 月冴「承知しました」
通信を切り、兄妹?親子?に向き直る。
湊 月冴「お兄さん・・・・・・いや、お父さんか?」
青年「あ、はい。娘が世話になりました」
湊 月冴「いや、怪我がなくて良かったです。今日は人も多いので、目を離さない様にして下さい」
青年「ありがとうございます」
湊 月冴「お嬢も。もうお父さんの手を放すんじゃないぞ?」
子供「・・・・・・うん、ありがと」
湊 月冴「どう致しまして・・・・・・表までお送りしますか?」
青年「いえ、仲間も居るので。失礼します」
青年は会釈し、子供の手を引いて去って行った。
見えなくなるまで手を振る子供に振り返し、皆に振り返る。
湊 月冴「悪いな、折角の誕生祭なのに」
橘 恵哉「悪いのは魔物ですから」
「そうそう」
要 彰久「それよりも、結界はどうしたのだろうか」
筧 紫苑「結界は魔術師の管轄・・・・・・手、抜いたとか」
湊 月冴「なら、魔術師の責任だな。俺も解放されたし、今から行くか」
「はーい!」
幸いにも被害は公園の下から出て来た際の穴ボコ位で、直ぐに誕生祭は再開された
〇上官の部屋
そんな事件が起きて数日後・・・・・・。
湊 月冴「俺に・・・・・・騎士を辞めろと」
湊 月夜「・・・・・・そうなるな」
騎士団長の執務室に呼び出され、そう宣告される。
湊 月冴「・・・・・・魔術師の警護放棄の件ですか」
湊 月夜「表向きはな」
湊 月冴「表向き・・・・・・?」
梵 劔「魔術師がお前の身柄を・・・・・・欲しがっている」
湊 月冴「俺の?」
湊 月夜「とは言え、我々としては月冴を渡す必要は無い」
警護放棄は魔物の襲撃というハプニングに因るもので、
そもそも魔術師の結界に不備があった上に、No.2から行く様に言われたからだ。
それを父さんと叔父、叔母で正論で論破し、凛音も加勢した事で咎めとして引き渡す必要は無いと判断された。
だが、魔術師がしつこかった上、最高魔術師でさえも詫びとしての誘いがあったらしい。
湊 月冴「・・・・・・つまり、異様に俺を魔術師側に置こうとしていると?」
湊 月夜「奴等の考えは分からん・・・・・・故に、お前を騎士から解雇し」
梵 劔「この王都から逃がそう、という事にしたんだ」
騎士、しかも隊長である以上、王都に居なければならない。
例え左遷という形で僻地に飛ばしても、その地に留まっている以上いつ魔術師の魔の手が迫るとも限らない。
とは言え、隊長格ならば実力がある為騎士団が護り続けるには限度がある。
湊 月夜「王都以外の魔術師ならば・・・・・・お前の自由にしても構うまい」
梵 劔「少し不味そうな空気でね。月冴には悪いと思っている」
湊 月冴「・・・・・・いえ、仕方ない判断だと思います」
どの道、魔術師から目を付けられていたからな。
イチャモンを付けられても可笑しくない。
湊 月夜「必ず・・・・・・この件の真相が掴め次第、迎えに行く」
梵 劔「それまで、逃げ延びてくれ」
湊 月冴「・・・・・・はい」
湊 月夜「それと、此を殿下と友人より預かっている」
置かれた箱を受け取った。
俺の動きが制約される前に出なければいけない。
そうなると、二人に会っている暇はない。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
俺は騎士として預かっている刀を置く。
湊 月冴「お世話になりました。今日にでも出ます」
湊 月夜「・・・・・・ああ」
梵 劔「気を付けるんだぞ」
湊 月冴「はい」
湊 月夜「・・・・・・月冴、屋敷に寄れ。既に手配させてある」
湊 月冴「はい・・・・・・椿桔は?」
湊 月夜「椿桔なら、丁度使いで出ていると言っていた。戻り次第・・・・・・」
湊 月冴「椿桔には言わないで下さい」
「?」
湊 月冴「彼奴の事だから、俺に同行すると言い兼ねません」
湊 月冴「これ以上、俺の事情に振り回す気もありませんし、彼奴が仕えるのはあくまで湊家です」
湊 月夜「・・・・・・分かった」
湊 月冴「ありがとうございます」
二人に深く会釈し、執務室を出て隊室に向かった。
〇シックなリビング
隊員に説明し、取り敢えず俺が戻るまでは“春”が面倒を見る事も説明する。
橘 恵哉「絶対に戻って来て下さい」
「俺達の隊長は月冴さんだけですからね!」
要 彰久「いつまでも待ってますからな」
筧 紫苑「・・・・・・必ず」
柊 真優「むしろ、私達が迎えに行っちゃいますよ!」
湊 月冴「ありがとう・・・・・・頼んだぞ」
「承知しました」
そのまま騎士団本部を出た。
〇おしゃれな居間
外に出れば執事長の冨ひさ友成ともなりが居て、屋敷では無く叔父の家に案内される。
椿桔の事を配慮してくれたらしい。
叔父の家の者も伝わっているらしく、支度を手伝ってくれた。
冨 友成「この後、隣町へ向かう車を予約しております。冨の名をお使い下さい」
湊 月冴「何から何まですまない」
冨 友成「いえ・・・・・・お体にお気をつけて。それと、此方をお持ちください」
湊 月冴「?」
渡されたのは・・・・・・真っ黒な刀。
冨 友成「旦那様が昔お使いになっていた物です」
湊 月冴「父さんが・・・・・・ありがとう。行って来る」
「行ってらっしゃいませ」
〇トラックの荷台
車は所謂乗り合いバスで、冨の名前を使えば直ぐに乗せてくれた。
間も無く、車が動き出す。
湊 月冴「・・・・・・さて」
勢いで来てしまった為、録に荷物を確認する暇すら無かったな。
落ち着いた所で中身を確認した。
湊 月冴「・・・・・・何だ此?」
箱の中身はウエストポーチ。
鞄ならあるのに、何故態々・・・・・・
湊 月冴「手紙?・・・・・・〝此は、俺と慎理の合作だ。使ってみろ〟・・・・・・?」
いや、使い方書けよ。
暫く四苦八苦して、何でも入る鞄だと判明する。
・・・・・・帰ったら覚えておけよ。
こうして、俺は騎士で無くなった。